倉子城物語
瀬戸の夕凪
3
次の日、嘉平は仕事の合間を縫って、四十瀬へと向かった。
村の西の外れにある色町を通り抜け、農家が点在し綿畑が続く一本の道を松山川の土手へ向かって行く。以外と道幅は広く、行き来する人の数もまた多い。下津井、玉島、連島から倉子城への道なのだ。嘉平は辺りの景色を眺め乍ら、歩いていた。
この辺りは少しも変わらねぇ、と、嘉平は呟いた。
「あら、珍しいじゃありせんか」と田地を耕しながら声をかける百姓のかかあ。
「床屋の旦那、今日は何か用で」と荷駄を引く作男。
道筋には銀杏が天を突く勢いで伸びている。
遥か向うにこんもりと茂った林が見えた。松山川の土手道の下に高瀬舟の船着き場である、そこが四十瀬。人が集まりぁそれ相応の店が開く。めし屋に、茶店、小間物屋と言う具合に。荷車が通よやぁ鍛冶屋もいる。舟が通うやぁ大工もいる。数は少ないが、小さな村だった。
「この辺りに、半年くらい前から越して来た者がいるかい」
と、顔馴染みの茶店のお鹿ばあさんに尋ねた。
「あら、嘉平さんいつ見たっていい男だねぇー」とお鹿は世辞を言った。
「お鹿さん、あんたも年はくわねえな」
「なんだい、年寄をかからつてはいけないょ」
「そんなことはいい、聞いてなかったのかい・・・」
「聞いてたよ。なにか訳ありの男のことだろう」
「そうだ、なにか心当たりがあるのかい」
お鹿が言うには半年くらい前、ふらりと茶店にやって来て、
「この辺りに、砂鉄が出ると聞いたのだが何処か分かるかい」
と尋ね、
「少しの間、身を置ける場所はないだろうか」と言ったという。
お鹿は、その男が背負っている哀しみを感じたので、うちを手伝っていた飯盛り女が嫁いだ鶴形の東の早瀬の長屋を世話したと言った。
「それで、ここで作兵衛と逢ったのか・・・。よく此処へは来るのかい」
「あの人が何かしたのかい」
「いや、少し尋ねたいことがあってな」
「今年も銀杏がまた一段と元気がいいな」と続けた。
「ああ、はい」お鹿は嘉平の視線に習った。
早瀬か、とんだところに落し穴。あそこは分かりにくいと嘉平は思った。
「ここに立ち寄ったら、嘉平が尋ねて来たと言ってくれ」
と言い残して、その足で倉子城へ引き返した。
皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・
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