倉子城物語
太鼓橋(たいこばし)
5
和紙を貼るより古着の布を下地として使い表装する事が粋な江戸の人々には評判になっていった。嘉平はどぶ板長屋から表通りに店を持ち丁稚を二人雇う身になったのはそんなに時がかからなかった。
「これも無垢なおぼこを助けたご褒美か・・・いいことはしておくものだ」
嘉平は時にそう思った。
黒船が水と食べ物が欲しいと下田に現れて幕府を驚かせたのはそんなときだったか・・・。
御家人の勝小吉の子に生まれた勝麟太郎が海舟と名乗る頃のことである。江戸の町も勤王だ佐幕だと騒がしくなり八百屋町の往来も物騒になっていた。
嘉平は相変わらず仕事に勤しんでいた。
嘉平があのときの娘にあったのは・・・。
夏の夜、嘉平が古着屋から買い込んだ古着を背負いながら帰っていると大店の裏口から娘が着ていた物をはだけて飛び出して来た。嘉平を見るとはだけた胸を破れた着物で隠した。
「どうしたんだ」
嘉平は叫んだ。そのときその娘があのときの娘だとは思っても見なかった。
娘を追って男が現れた。男は腰に大小を差していた。この頃の商人は名字帯刀を許された者もいたから酔っぱらいの商人かと思った。
「言うことを聞け、悪いようにはしない」
男の声音は少し御神酒が入っているのか言葉が濁っていた。
娘はうずくまりふるえていた。
「言うことを聞けばこれから一生不自由はしないで済むのだぞ」
娘は首を激しく振った。
「娘さんが嫌だと言っているんだ、いい加減にしたらどうだ」
嘉平が中に入った。
「黙れ、おまえには関係ねえ」
「おまえさんは大店の主ではないのだな・・・野党か」
「喧しい邪魔をするな」
「この人達が押し込んできてみんなを・・・」
娘はちいさく言った。
「正義のため悪徳商人に天誅を下したまでのこと」
男はそう言いはなった。
その頃天誅組が大店を襲い金品をせしめる事件が頻繁に起こっていた。
「天誅だと笑わかしちゃぁいけねえ・・・正義のためだといやあ何でも出来る世の中になったのかい・・・おめえがやっていることは押し込み、人殺しと言うんだよ・・・そうと聞きゃあ黙ってはおれねえ」
「やるというのか、儂は強いぞ」
「天誅組がこの娘を・・・どぅしょうと言うんだい」
「いい目を見させてやろうというのだ」
男はすごんだ。そして、太刀を嘉平に向けて振り下ろした。
嘉平はひょいと体をかわして逃げた。
「おまえは町人ではあるめえ」
男は嘉平めがけて太刀を横に払った。嘉平は体をかわし身構えた。
「言ってわかる奴では無いらしい・・・」
嘉平は懐の匕首に手を掛けた。
「目を瞑っていなよ」
嘉平は娘に声を掛けた
「何をこしゃくな」
男が上段から振り下ろしたとき嘉平は男の懐に入っていた。
男はその場に崩れおちた。
「済んだよ」
嘉平はなにもなかったように娘に声を掛けた。
娘が目を開いたときにはなにもかも終わっていた。
嘉平はその娘があの夕立の中で会った娘だと気づく前に娘が、
「あのときの・・・」
と言った。
嘉平はなぜか悲しかった。こんな出会いはしたくないと思った。
「天誅組は何人いた」
「三人・・・店の者はみんな殺されて・・・」
「見られたか」
「はい」娘は肯いた。
「あぶねえな・・・生き証人はおまえさんだけと言うことになる」
「私はどうすれば・・・」
「帰る所はあるのかい」
娘は頭を横に振った。
皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・
恵 香乙著 「奏でる時に」
あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。
山口小夜著 「ワンダフル ワールド」文庫本化決定します・・・。
1982年、まだ美しかった横浜―風変わりなおんぼろ塾で、あたしたちは出会った。ロケット花火で不良どもに戦いを挑み、路地裏を全力疾走で駆け抜ける!それぞれが悩みや秘密を抱えながらも、あの頃、世界は輝いていた。大人へと押しあげられてしまったすべての人へ捧げる、あなたも知っている“あの頃”の物語。
山口小夜著「青木学院物語」「ワンダフル ワールド」の文庫本・・・。
作者のブログです・・・出版したあとも精力的に書き進めています・・・一度覗いてみてはと・・・。
恵 香乙さん
山口小夜子さん
環境問題・環境保護を考えよう~このサイトについて~
別の角度から環境問題を・・・。
らくちんランプ
K.t1579の雑記帳さん
ちぎれ雲さん