yuuの夢物語

夢の数々をここに語り綴りたい

ごぜさの子守歌・・・8

2007-11-30 14:21:25 | 創作の小部屋
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ごぜさの子守歌


 お菊の父は時折ごぜ屋敷に来て、玄関戸の隙き間から様子を伺つていました。お菊の事が心配だったのでしょう。ですが、母は、辛い修業の様子を見る事の出来るほど強い人ではありませんでした。家で一日も早く一人前になってくれと祈っていました。

「お菊は三味も唄も上手になるのが早いわの」

「お菊は、色白で、べっぴんで大きゆう成ったら男がほっとかんじゃろうて」

「お菊は、明るうて、素直でええ子じゃのう」

 と、ごぜの仲間から言われるのでした。

 歳月が過ぎました。お菊が初旅にでたのは十一歳の時でした。少し目の見えるごぜを先頭にして、饅頭笠を被り、背荷物を負い、左手に三味抱え、右手を前の人の荷物にかけて、一行四人が連なって旅をするのです。 

「ごぜんぼ!ごぜんぼ!」

 そう呼ぶ者達はごぜを蔑んだ者達でした。ごぜさと呼ぶ人達は、ごぜを暖かく見守ってくれる人達でした。

ごぜ達一行は、家の前に並んで三味を弾き短い歌を唄って、門付けをして回りました。家の人が、お金か、米か、家にある物を、ごぜの首に掛けた袋に志として入れてくれるのでした。そして、次の家へと移って行くのでした。
 陽が暮れると、名主とか庄屋の家に泊まりました。そこがごぜ宿となり、村の人達がみんな集まり、楽しい一夜になるのでした。何一つ楽しみのない村の人達は、ごぜの三味と唄、語りを聞きに来るのでした。ごぜ達は三味を弾き、唄い、語り披露するのです。村の人達は三味の音に酔い、唄に笑い、語りに泣きました。そうした旅を続けながら、修業を積んでいくのでした。

「ご飯は一杯だけ。おかわりをしてはいかん。魚や汁が付いても決して手をつけては行かん。漬物だけ頂くこと、どんなにすすめられても断るんだよ」

 親方にそう言われていました。目が見えないからと言って同情されたり、哀れみをうけてはいけない。ごぜは芸を売って生きるのだと言う規律でした。

「男を好きになったらいかん。愛したら地獄に落ちる。ごぜの規律を破るものは、腕を切り落とし、ごぜ屋敷から追放するからね。離れごぜは地獄への道ぞ」

 男を好きになつてはいけないというのも、ごぜの規律でした。親方から男を好きになり、離れごぜになつた人達の悲惨な運命を聞かされて、お菊は育ちました。

 ごぜは旅をしていても、春と夏の祭りと盆と正月にはごぜ屋敷に帰ります。ごぜが親元に帰る事が許されるのは、藪入りと言う日で決まっていました。親元に帰って、旅の疲れ、修業の厳しさを癒すのです。

 お菊にとっては初めての里帰りでした。心が浮き立ち、足も軽く里へと向かいました。旅の疲れなどありませんでした。心の中にはお父やお母に、兄ちゃんや、姉ちゃんに会えるという嬉しさで一杯でした。 

「辛かったろう。淋しかったろう。うちはお菊のなんの力にもなってやれなんだが・・・こんなに立派になって、大きゅうなつて・・・」

 母は両手で顔を覆い泣きました。お菊も母の胸に飛び込んで思い切り泣きました。お父やお母に会うたら、あれも言おう、これも言おうと思っていた事が、どこかえ消えてしまい、出るのは涙だけでした。

「お菊、よう頑張ってくれた。ほんに大きゅうなつて。親方さんはおまえのこと褒めとったぞ。辛抱強い頭のええ子じゃとな。三味も上手じゃし、唄もうまいと」

 父の声は涙に濡れていました。

「お菊、よう頑張ったの」

「お菊ちゃん」

 兄も姉も目をうるませていました。

「お父、お母、兄ちゃん、姉ちゃん、うちは定めと諦めとるんよ。その中で力一杯に生きようと・・・。この三味も唄も、お父やお母にほんとうは一番に聞かせたかったんよ。そのために一生懸命に習うたんじゃもんね」

 お菊はそう言って、三味を出して弾き始めました。お菊の両眼からは新しい涙が溢れ、頬を伝っていました。

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皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・

恵 香乙著 「奏でる時に」
あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。

山口小夜著 「ワンダフル ワールド」文庫本化決定します・・・。
1982年、まだ美しかった横浜―風変わりなおんぼろ塾で、あたしたちは出会った。ロケット花火で不良どもに戦いを挑み、路地裏を全力疾走で駆け抜ける!それぞれが悩みや秘密を抱えながらも、あの頃、世界は輝いていた。大人へと押しあげられてしまったすべての人へ捧げる、あなたも知っている“あの頃”の物語。

山口小夜著「青木学院物語」「ワンダフル ワールド」の文庫本・・・。

作者のブログです・・・出版したあとも精力的に書き進めています・・・一度覗いてみてはと・・・。
恵 香乙さん

山口小夜子さん

環境問題・環境保護を考えよう~このサイトについて~
別の角度から環境問題を・・・。
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ごぜさの子守歌・・・7

2007-11-30 00:34:00 | 創作の小部屋
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ごぜさの子守歌


 お菊にとって、ごぜ屋敷での修業は、辛く厳しいものでした。広い部屋の掃除から始まりました。不慣れで、廊下から土間に転げ落ちることなどしばしば、柱に頭をぶつけることも度々でした。目が見えないのですから、普通の人と同じよぅに生活をする為めには、手と足、鼻と耳で目の変わりをして、世の中のことを覚えなくてはなりませんでした。

 お菊が三味の練習を許されたのは、一年経ってからでした。それまで、座敷の隅に座り、ごぜの三味や唄、語りをじっと聞く毎日でした。

「やりなおし」

 親方は、畳を叩き、最初から弾かせんるのでした。お菊の撥を持つ手が震えました。

「やりなおし。何べん教えれば覚えるんだい。どぢだね、まったく」

 親方は音が違うと大きな声で叫びました。お菊はその度に耳をふさぎました。

「耳をふさいではいかん。耳は私等の命ぞ。耳をとうして身体で覚えるのじゃ」

「はい」

「教える方も命がけなら、習う方も命がけでのうては、人より優れた芸人にはなれん。このうちはおまえに命をかけて教えておるのじゃ」 

「はい、すいません。うちは一生懸命に頑張りますから教えてください。お願いします」

 お菊は、縋るような顔をして言いました。

 三味の糸で指先が切れ血が流れでましたが、お菊は痛さをこらえて習いました。

「日本海の荒い波の音に負けたらいかん。波をのりこえて、その向こうまでとどかせるような響きを出せんと、人様に聞いて貰える一人前の芸とは云えん。音にお菊の魂を入れるのじゃ」

 親方は物差しで、お菊の肩や手首をびしびしと叩きました。お菊は痛さなど忘れてもう夢中で弾きました。唄の修業も、真冬の日本海に面した岩の上で、冷たい風をまともに受け身を凍らせながら習いました。

「それくらいの声は誰でも出す。声はおなかから出すものじゃ。人より優れたいい喉でのうては芸人とは云えんし、一人では生きられん。岩に砕けるる怒涛を押し返すほどでのうてはいかん」

 親方に叱られました。喉から血を吐きました。お菊は泣きながら唄い続けました。顔は波のしぶきに濡れ、刃のようなとがった冷たい風が、突き差さるように吹き付けていました。お菊は修業の辛さに負けそうになりましたが、早く一人前になって、お父やお母に会うのだと言う気持ちで頑張りました。

「おととやおかかに会いたいじやろう、胸で泣きたいじゃろう。じゃが、会えばよけいに辛くなり、今までの苦労も消えてしまうぞ。あと少しの我慢じゃ。お菊が一日も早う一人前のごぜになることを願うとんは、うちでもなえ、幼いお菊を手放したおととやおかかじゃからの。早う一人前になって里に返られるようになることじゃ」

 親方の言葉は優しい中にも厳しいものが含まれていました。お菊はこっくりと頷き、一層芸に身を入れました。

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ごぜさの子守歌・・・6

2007-11-29 13:45:22 | 創作の小部屋
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ごぜさの子守歌


 翌日、お菊は父に手を引かれて家を出ました。小さな風呂敷包みを小さな胸に抱えていました。

「お菊、元気でな」

 兄が声をかけました。

「お菊ちゃん、負けたらいかんで」

 姉が涙声で言いました。

「お、き、く、」

 母は前掛けで涙を拭き拭き叫びました。

 お菊はその声に何度も何度も振り返っては、頷きました。

 幼いながらも、自分がごぜになるしかないことを知る、お菊でした。

 長い道のりでした。歩いたり、父の背に負ぶさったりしました。お菊は父の背が広く大きいと思いました。時折、その背が小刻みに震えているのが伝わってきました。

 高田のごぜ屋敷に入りました。

「お菊と申します。どうかよろしゅうお願いします。よろしゅう頼みます」

 父はお菊を紹介し、親方にお願いしました。

「お菊、ここが今日からお前の家じゃからの」

 親方は妙に乾いた声で言いました。

「お父、いやじゃ、うちはいやじゃ。お母の所に帰りたい。お父!お父!」

 と、お菊は泣きながらさばり付いていきました。

「お菊、わかってくれ・・・。親方さんの言われる事をようにきいてな、早よう立派なごぜさになってくれな。お願いじゃ」

 と、父はお菊を抱き締め諭しました。

 父は、何度も何度も頭下げてお菊の事を頼み帰っていきました。

 お菊は父の後を追おうとしました。

「泣いて帰ると言うか。これから、どんなに辛うても淋しゆうても泣けんのだから、今日は涙がのうなるまで泣くとええ。が、帰ろうと思うたらいかん。逃げて帰ったら、お前のおととやおかかが困るだけじゃ。一端この屋敷に入った者は、定められた日以外の日に逃げて帰れば、沢山の金をもって、おととが謝りに来んといかん定めがあるでな・・・。心配や、迷惑をかけたらいかん。目の見えん者は、誰の力も借りずに生きていくのじゃ。誰も当てにはならし、助けてもくれん。同情や哀れみ受けたらいかん。そのためにも、これから、芸をしっかり身に付けるのじゃ。一人で生きて行ける芸をな」 
親方の言葉は、静かな空気の流れる部屋に厳しく響き、お菊の幼い胸にしみ込んでくるものでした

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ごぜさの子守歌・・・5

2007-11-29 01:19:04 | 創作の小部屋
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ごぜさの子守歌


 お菊は生まれた時からの盲目ではありませんでした。二歳の時にはしかにかかり、高い熱が続き、お医者に診て貰ったのですが、その時はもう手遅れで盲目になったのでした。山を一つ越した所にある神社が、目の病に良く効くと父が聞いて来まして、お菊は「め」と書いた絵馬を奉納して、毎日毎日父に連れられてお願いに通いましたが、治ずじまいでした。 お菊が生まれた村は山の中で僅かな田と畑しかありませんでしたから、貧しかったのです。だから、どこの家も、長男と長女を産むと、後の子は、産まれてもすぐ首を締めて殺し川に流す風習がありました。それは、村の掟のようになっていました。人間が増えればそれたけ食料が足らなくなり、村全体が滅びてしまうと言うことなのでした。お菊は次女として産まれたのですが、母がどうしても殺すことは出来ないと頑張ってくれて育ったのでした。

 産まれてきても殺されて川に流される子の事を日みずっ子と言うのです。

 ですから、お菊は村でも隠れるように暮らしていたのですが、病で目が見えなくなり、村の人に知れ、父と母は村八分にされてしまいました。村八分とは、火事があった時、火消しと跡形ずけの手伝いと、死人が出た時、葬式を手伝うと言うもので、後の付き合いは断つと言うものでした。

 そんな家でしたが、お菊は父と母、兄と姉に可愛がられて育ちました。

 お菊がだんだん大きくなるにつけ、父と母は考えなくてはなりませんでした。おきくをいっまでも家に置いておくこと、お菊の将来に良くないと考えたのでした。

 父と母、お菊が座っていました。

「お菊、お前は目が見えんのだから、あんまさんになるか、ごぜさになるか、どっちがええ」

 父はお菊に言いました。お菊は何の事かわからず俯いていました。

「あんた、そう言うても、まだ五歳のお菊にはわからないわな。うちだってどちらがええとも答えられん」

 母はそう言ってお菊の顔を見ました。

「習い事は早い方がええと思うて・・・」

「まだ幼いんじゃから、家におらせて」

「今度、ごぜさが来たら相談をしてみるか。わしは、お菊がごぜさになってくれたらと思うんじゃが」

「目が見えんよぅになるんじゃったら、育てるんじゃなかった。」

 母は目頭を押さえました。

「今更、何を言う」

「せいでも、うちは辛いんじゃ」

「そりゃ、このわしだって。わしらとて何時迄も生きていて、お菊を見守っていてやることは出来ん。だから、お菊が一人で生きて行ける道を捜しだしてやらにゃならん。わしらだけの淋しさだけを考えておったら、それだけ、お菊の生きていく道を邪魔することになるのじゃからな」

「あんた!」

「そうじゃ、思い付いたら早い方がええ。気の変わらん内に、明日にでも、わしはお菊を連れて高田に行って、座元の親方さんに会って頼もうと思う」

「そんなに急に決めんでも」

「いや、早い方がええ。お菊、わしらは、おまえが可愛くねえからごぜさにするんではねえ。目の見えんお菊には一番じゃと思うからじゃ。お菊は唄がうまい、歌を唄ってみんなよろこばせて・・・。わしらとて、お菊を手放すのは辛いが・・・きっと、後に、わし等の気持ちが分かってくれると思うから」

「うちは行きとうねえ、行きとうねえ」

 お菊は母の胸に飛び込んで行きました。

「行かしとうね。行かしとうねえ。けど、けど・・・」

母はお菊を抱いて言葉を詰まらせました。

「お菊、わかってくれ。お願いじゃ。わしらも辛いんじゃ、手放しとうはなえ。が一人前のごぜさになって生きてくれ。それしか、お前の生きる道はないんじゃから」

 父は優しく言葉を投げかけました。

「うちがごぜさになれば、お父や、お母は嬉しいんか」

 お菊は見えない目を父に、母に向けて言いました。

 父の頬には幾筋も幾筋も涙が流れていました。

「お菊!」

 母はその場に泣き崩れました。

「なら、うちはごぜさになる。お父やお母がそうしたほうがええと云うんなら、うちはごぜさになる」


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ごぜさの子守歌・・・4

2007-11-28 14:08:33 | 創作の小部屋
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ごぜさの子守歌


「帰るんなら丸木橋を渡してあげよう。この前にきたごぜさが落ちたから」

 長太はそう言って、お菊の手とりました。

 男は名主に近寄り、

「名主様、あのごぜさは、なんでも、吹雪の中で見失った子供を捜しているそうですがな」

 と、囁くように言いました。

「なに、子供をな。それは本当か」

 名主はお菊の後ろ姿を見ました。

「年の頃なら二歳半位の男の子で、胸に赤い痣があるそうですが」

「名は何と言った」

「だい、とか」

「そうでなく、ごぜさの名前だ」

「お菊とか、申しておりましたが」

「お菊さん。そうか、お菊さんか」

「なにか・・・」

「いや・・・。長太!そのごぜさに少し聞きたい事があるので連れて来なさい」

 名主は大きな声を長太に向けてなげました。

「お父!」

 長太は嬉しそうにそう答え、お菊の手を引いて連れ戻しました。

「私になにか」

 お菊は名主に問いました。

「あんたが離れごぜのお菊さんか」

「はい、私がお菊ですが」

「そうか、あんたがのう、そうでしたか」

「なにか、このごぜさが・・・」

 と、男が口を挟みました。

「いや、お菊さんのことは私の耳にもはいっている。お菊さんの口説「三椒太夫」 はええ物語じゃとな」

 名主は頷きながらいいました。

「いいえ、そんな、めっそうもございません」

「まあ、よかろう。子供達がこれ程慕っているのには、お菊さんになにか暖かい物を感じてのことじゃろうて」

「名主様!」

 男が諫めるように言いました。

「お菊さんの三味と唄を聞いてみたいと思うとったところじゃ。今夜は私の家に泊まって、村の者や子供達に聞かせてやって貰えませんかの」

 名主は穏やかに言いました。

「名主様、それでは村の掟を破る事になりますがのう」

 名主は心配そうな顔を向ける男に、

「かまわん。お菊さんの三味と唄を聞けば村の者も喜んでくれよう。三味も唄も評判での、先日来た薬売りが言うておった。・・・村の者がお菊さんの三味と唄を気に入らなんだら、私が村の者にどのようなことでもしょう」

 と、名主は、はっきりと言いました。そこまで言われた男は黙りこんでしまいました。

「いや、良いものはいい、悪いものは悪い。真実を知るために掟が邪魔をしていたら、その掟を破り曲げる事も必要なことでな。お菊さんは心配することはない。それより、いい三味と唄を聞かせて下されよ。お願いしましたよ」

「はい、一生懸命に弾き、唄わせて頂きます」

 お菊はそう言って、名主の方へ頭を下げました。

「お父!」

三人のやりとりを聞いていた長太が名主に飛び付いていきました。

「名主様、ありがとう」

「なぬしさま」

 子供達はそう言って名主をとり囲みますた。名主は笑って、頷きながら、子供達の頭を撫でていました。

「うんうん、今夜はお菊さんに唄と物語を聞かせて貰おうな」



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ごぜさの子守歌・・・3

2007-11-28 00:38:34 | 創作の小部屋
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ごぜさの子守歌


「幾らこの村の名主様とは言え村の掟を破る事は出来んのにのう」

 男はぽつんと言葉をおとしました。

「私は帰ります」

 お菊はそう言って帰りかけました。

「おめえは約束を破るつもりかの。たとえ子供とのものでも約束は破られめえ」

 男は静かに言いました。

 お菊はその言葉にはっと胸をうたれました。約束は破られない。そう思い、そこに立つて待つことに決めました。

「お菊さんといったな。どこで子供と別れたんじゃ」

 男は優しく問いました。

「はい、二年前に吹雪にあい、山の中で・・・」

「それじゃ、助かっとらん。諦めることじゃな」

「いいえ、生きております」

 お菊は強く言い切りました。お菊は大が死んだとは思いたくなかったのでした。

「そうか、そう思わんではのう」

「はい、そう思ってなくては、私は生きておられません」

 お菊の頬に一筋の涙が伝っていました。

「うん、その気持ち、ようにわかる。が、陽のある内に山を降りたほうがええぞ」

 男は優しく言いました。

「はい、ですが、私には昼も夜もありません。目が見えないのですから」

「そりゃ・・・。そうじゃが、夜の山は何時吹雪に変わるかもしれんからのう」

「はい」

 お菊は大きく頷きました。村人の親切がとてもうれしかったのです。村人の言う通り山を降りよう、そうお菊は思いました。

「離れごぜのあんたには、世間の風は冷たかろうが」

「はい、それは。「離れごぜは村にいれない。用はない。とっとと村から出ていけ。そうでないと川に投げこむぞ 」 と言われた事は二度や三度ではありません。もっと激しく責められたこともたびたびでした。ですが、奥深いごぜの行かないような村では、喜んでくれました」

「なんの楽しみもねぇ山奥では、ごぜさの訪れが何よりの楽しみじゃからな」

「はい」

 その時、

「ごぜさ」

 と、叫ぶ長太の声がしました。長太は父の名主の手を引っ張っていました。

 お菊は声の方へ耳を傾けました。雪を踏みしめる小さな足音と、大人の重い足音が近づいていました。

「ああ、これは名主様」

 と、村人は頭を下げました。

 お菊も、名主の方へ深々とおじきをしました。

「長太、もうよい。そんなに強く引っ張るな」

 名主は太い声で言いました。  

「お父、どうして、このごぜさを村に入れてはいかんのじゃ」    

「それはじゃな・・・。それは・・・このごぜさは、ごぜの規律破った人じゃからじゃ」

「規律とはなんじゃ」

「規律とは・・・」

 名主は言いかけて口をつぐんでしまいました。

「長太ちゃん、もういいんですよ。私はこれから次の村まで行きますから」

「次の村迄と言っても二里もある」

 と、お花がいいました。         

「今からじゃと、夜になってしまう」

 と、お雪がいいました。

「次の村も追い帰すかもしれん。お父、このごぜさを一晩泊めてやってくれ」

 長太はだだをこねるように言いました

「それは、出来ん。」

 と、名主はきっぱりと言いました。

 長太はお菊に近寄り、

「ごぜさ!」

 と、泣きそうな声を懸けました。

「いいんですよ。私は慣れていますから」

「裏山には狼もいるし」

「怖くはありませんよ。私にはこの撥がありますから」

 その撥はよく切れそうな刃物のように見えました。

「わあ、よう切れそうじゃな」

「私達、目の見えない芸人は、この撥で身を守るように修業しておりますから、大丈夫ですょ。みんなの暖かい心、とも嬉しいわ、有難う」

 お菊はそう言って頭をさげ、杖を頼りに丸木橋の方へ歩みかけました。

「ごぜさいくんか、お父」

 長太はお菊と名主を交互に見て言いました。

「私は唄を聞きたい」

「うちはお話を聞きたいわ」

 お花とお雪の言葉は、お菊の背にぶつかりました。唄いたい、語りたいとおもっても、村の掟で離れごぜは入れないのですから、二人の声に答えてあげることは出来ませんでした。


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ごぜさの子守歌・・・2

2007-11-27 14:09:12 | 小説 秋の華
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ごぜさの子守歌


 お菊は、農家の前に立ち三味を弾き、

「門付けをさせて貰えないでしょうか」

 と、声をかけました。

 ごぜとは、三味に合わせて、語り唄う事のうまい、盲目の女旅芸人のこというのです。そして、門付けすると言うことは、三味を弾き、その家の繁栄や健康を願って唄うことで、それによって 、米や、味噌、漬物など貰うことなのでした 。農家の男の人が出てきて、お菊をじろじろと見て、

「あんたは離れごぜか・・・。うちは入らん」

 と、強い口調で言いました。

 離れごぜとは、ごぜの規律を破り、ごぜ屋敷を追われ、一人りで旅をする、盲目の女旅芸人のことです。

「あの・・・」

「いらんというとろうが。門付けをしても、おめぇにやる、味噌も米も漬物も金もないわい」

 男はお菊の言葉に耳を貸そうせずに言いました。

「すいません。・・・少しお尋ねしたいのですが」

「なんじゃ。この村では今までに離れごぜを入れた事がないでな。いっも四人で来るごぜさがもう来る頃でな・・・。おめぇもはょう帰るたほうがええぞ」

「はい、そうします。・・・年の頃なら二歳半位の男の子で、胸に赤い痣のある子を知りませんか」

 お菊は必死の思いで問いました。

「嫌、知らんこの村の者はみんな知らん」

「そうですか。もし、そのような子のことが耳に入りましたら教えてください。その子は私の子の大です。私は離れごぜのお菊ともうします」

 お菊は頭を下げてお願いしました。

「うん、聞いたことにしておこうかのう」

「すいません。お願いします。お手間を取らせて申し訳ありませんでした」

 お菊は深々と腰を折り、頭を下げて礼を言いました。そして、振り返り帰ろうとしました。

「ごぜさ、帰るんか」

 と、お花が声をかけました。

「おらのお父を呼んで来るから、ここで待つててくれ」

 長太は大きな声で言いました。

「おぼっちゃま」

 男が長太に諫めるような言葉をかけました。

「おらが帰って来るまで、そこにいてくれ、約束じゃ」

 そう言い残して長太は走りだしました。その後を、

「長太ちゃん待って」

「長太ちゃん・・・」

 と、子供達が後を追いました。

「長太ちゃんのお父は、この村の名主で偉い人なの」

「髭を生やして何時も威張ってるけど、本当は優しい人なの」

 と、お花とお雪はそう言って長太を追いかけるように走りだしました。

 後にはお菊と男が残されました。


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ごぜさの子守歌・・・1

2007-11-26 22:58:44 | 創作の小部屋
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ごぜさの子守歌


「ベン、ベン、ベン」と三味の音が、雪をがつぽりとかぶった静かな山村に、何処からか響いてきました。村の子供達はその音を聞くと家から飛び出して「ごぜさが来るど」「ごぜさがくるど」と叫びました。子供達は二人、三人と集まり、村のはずれにある丸木橋の方へと走って行きました。橋の上から、村にはいって来る人達が良く見えるのです。丸木橋は雪の中でうっすらと黒く見えました。

「あれ、お地藏さんの前に座りこんだぞ。そして、三味を弾いとるぞ、それも一人で」

 と、名主の息子で七歳になる長太が不思議そうにいいました。

「なにをしとるんじやろう」 と、他の子供達がいいました。

「行ってみよう」と、長太は走りだしました。他の子供達もその後を追いました。

 お地藏さんは村に入る手前の道端にありました。その前に年の頃なら二十歳位のごぜがまんじゅう笠を被り、真っ赤な布で頬をかくして、雪の上に座っていました。三味線を右の膝の上に乗せ、胸の前に立てて左手で持ち、刃物のような白い撥を右手に持って、ぽつん、ぽっんと、ゆっくりと弾いていました。

「年の頃なら二歳半、胸に赤い痣のある子がどこにおりましょうか、お教え下さい。その子は私の子の大です。私はごぜのお菊と申します」

 と、両眼に涙を一杯に浮かべて語りかけていました。

 長太達は、そのお菊より少し離れた後ろでじっとみつめていました。

 お菊は三味を弾き終えると、赤い三味袋に納めて立ちあがりました。そして、長太達の気配に気付き振り返りました。「ごぜさ、今日はおら達の村によるんか」

 と、長太は問いました。

「いいえ、私は離れごぜですから・・・」

 と、あ菊は淋みしそうに言いました。そして、

「あなた達は、胸に赤い痣のある子を知りませんか」 と

問いました。

「ううん、知らん」

 長太はかぶりをふって言いました。

「そう、まだ三歳になっていない男の子なの」

 お菊は、尚も尋ねました。

「それより、村に寄って唄ってくれればええに」

 と、長太はお菊の腕を取りました。

「そうよ、うちが手ひいたげる」

「この村には丸木橋があって危ないから」

 子供達はそういいながら、お菊の手や肩、背にさばりついて行きました。

 お菊は立ち上がって、

「ありがとう。あなた達の名前は、今 なん歳になるの」

 と 優しく問いました。

「おら、七歳、長太てんだ」

「私、六歳、お花なの」

「うち、四歳、お雪」

「おら・・・」「わしは・・・」「うちは・・・」

 子供達は歳と名前言いました。       

「そう、そう」

 と、お菊は一人一人の言葉に大きくうなづいて聞いていました。

「村に寄って唄と話を聞かせてくれ」

 と、長太はお菊の手を取りひっぱりなから丸木橋を渡って村にはいりました。

「長太ちゃんの手はとても暖かいわ」

 村の子供達はお菊をとりかこみました。

 子供達はお菊をとり囲み、嬉しそうにはしゃぎまわっていました。

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皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・

恵 香乙著 「奏でる時に」
あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。

山口小夜著 「ワンダフル ワールド」文庫本化決定します・・・。
1982年、まだ美しかった横浜―風変わりなおんぼろ塾で、あたしたちは出会った。ロケット花火で不良どもに戦いを挑み、路地裏を全力疾走で駆け抜ける!それぞれが悩みや秘密を抱えながらも、あの頃、世界は輝いていた。大人へと押しあげられてしまったすべての人へ捧げる、あなたも知っている“あの頃”の物語。

山口小夜著「青木学院物語」「ワンダフル ワールド」の文庫本・・・。

作者のブログです・・・出版したあとも精力的に書き進めています・・・一度覗いてみてはと・・・。
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堀河西山庵草紙・・・18

2007-11-24 02:15:40 | 創作の小部屋
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    堀河西山庵草紙

       急

18
 病臥(やまいにふし)なさいましてふた年が巡り・・・。

 女院様は、起き上がられることもなくなり、長い夏の陽が西山に沈もうとしていた頃みまかられたのでございます。

 名残りを惜しむかのように、蜩(ひぐらし)が一斉に啼きはじめまして御座います。

 お手の中から数弁(すうへん)のあの櫻の花びらが・・・。


 待賢門院璋子様こと女院様が・・・。

 三条高倉第にて四十五歳のご生涯を終えられたのでございます。

 かぐや姫は月の世界へ帰られたのでございます。



    君こふる なげきのしげき 山里は

             ただ蜩ぞ ともに鳴きける



 女院様のお旅立ちに堀河はこのように歌いました。


 西行殿、なぜこのように女院様のことを語ったか・・・。

 総てこの堀河がなしたてむけは・・・。どうであったのか・・・。この堀河が女院様の歩まれる路(みち)をかえたのか・・・と・・・。


 この世のことは総て転寝(うたたね)のまぼろし・・・。

 その幻は御仏のご慈悲であったのでございましょうか・・・。


 西行殿、お応え下されませい。



 なに、これは・・・。そのお答えの歌なのですか・・・。



    願わくは 花のしたにて 春死なん

             その如月の 望月の頃



 なんと・・・。

 黙ってお立ちになられて・・・。何処(いずこ)へ・・・。

 西行殿・・・。西行様!



    この稿を書くに及んでの参考文献として

    「西行花伝」辻 邦生著

    「白道」  瀬戸内寂聴著

    「待賢門院璋子の生涯」 角田 文衛著

    「逆説の日本史」    井沢 元彦著

    「平家物語」      作者不詳

    「西行物語」      今田 東著

    「山家集」「百人一首」

    「西行」  高橋 英夫著


    さまざまな諸先輩の労を無駄にせぬ様にと心がけましたがここまでしか書けませんでしたことお許しくださいますように。
参考文献として読ませていただきましたが、この作品はあくまで作者の創作によるものであることをここに記しておきたいと思います。

                        作者敬白



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皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・

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堀河西山庵草紙・・・17

2007-11-23 14:42:34 | 創作の小部屋
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    堀河西山庵草紙

       急

17
 女院様は真如法尼(しんにょほうに)とおなりになられ、御仏のお使いとして生きられる日々が平安のうちに続いておられたのでございます。

「何があろうと私は一人ではない。義清がついていてくれる、それも御仏のご慈悲なのですね」

 女院様はそうお言いになられ御身を慰(なぐさ)めておいででございました。

 女院様の本当のお心はどうであられたのか、推し量ることさえ出来ませなんだ。

 法金剛院の庭には藤だなから花が垂れ下り美しい簾(すだれ)のようでございました。

 その一年後、はやりの病疱瘡(ほうそう)におかかりになられ、当代一お美しいといわれたお顔は・・・。

 それから、寝込む日が多なったのでございます。

女院様は法金剛院から御病気快癒のために三条高倉第へお移りになられましてございます。女院様が三条高倉第を懐かしんだゆえでございました。

 崇徳新院が結願(けちがん)の曼陀羅供養(まんだらくよう)を致した折りに鳥羽院もお出ましくださり優しいお言葉をおかけくださりましたが・・・。

 女院様は何もお言いにならずただ小さく頬を緩めるという日々が多くなりました。

「運命に沿って生きた、その報いが・・・」とお笑いになられて・・・。苛酷な運命に対してもそれが我が身の運命と従順にお受け取られておいでのようでございました。


 西行殿は三条高倉第の外で・・・。じっとしておられずにお気をもまれた事でございましょう。中納言の尼がそのことを女院様へ・・・。

「西行に心配はいりません。今の私は何も恐いものがありません。私には御仏と西行とがついていてくれますから、と伝えて下さい」 なんと言う穏やかな表情をされておられたか・・・。

 西行殿はその伝事(ことづて)をお聞きになり涙を流されたとか・・・。より御仏に・・・経を上げられ・・・。



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堀河西山庵草紙・・・16

2007-11-23 01:10:46 | 創作の小部屋
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    堀河西山庵草紙

       急

16
 花の命が繰り返され、女院様は四十二歳の折り御落飾を致すのでございます。

「これで女子でのうなる。どれほどの安堵(あんど)であろうか」 
法金剛院の池を取り巻く馬場の方へ懐かしそうな視線(まなざし)をお投げになられて零(こぼ)された女院様のお言葉・・・。

 女院様の運命に堀河も中納言も涙にくれましたぞ。

 中納言と堀河が御供を致して髪を下ろしました。

 兵衛の局は統子内親王の女房としてお仕えし、ここから女院様にお仕え致しておりました者皆別れ別れになるのでございました。

 華やかで賑やかであった女院様のお住まいには、ただ静かな物音さえなく静寂(せいじゃく)が広がっておったのでございます。

 その静けさにもまして、女院様のお心は一つの切っ掛けによって悟りを開かれたようにお平でお静でございました。



 綺麗な歌は読み人がそのように生きているから生まれるもの。そのように生きてこそ、歌に心が入ったと言える。

 歌は人の心を現実を変えるもの・・・。 歌で人を救う・・・。つまり、御仏の広い慈悲のようなもの・・・。それ故に御仏をこの世に生み出すとの・・・。光円が闇を照らすという・・・。


 西行殿はその後仏道の修行をするでなく・・・。何をお考えなのか、京を離れる事も無く留まられて・・・。洛北(きょうのきた)に住まわれ・・・。何をお探しになられておいでだったのでございます。深いお考えの中でなにかを見詰められる眼は・・・。おやせになられ・・・。ご自分を責めに責められて・・・。ただ、夢中で御仏の、歌の世界を・・・歩まれておられたのですね。

 西行殿、物事をその行為を総て背負われて・・・。それは、おとこの財(たから)・・・。生き歩む目的として・・・。その事で仏の修行にも、歌の道にも・・・。

 西行殿、人とはなんと悲しい・・・いいえ、強く生きられるものかと・・・。


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堀河西山庵草紙・・・15

2007-11-22 15:42:16 | 創作の小部屋
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    堀河西山庵草紙

       急

15
 西行殿、あの日、櫻の花びらが、池の水面に垂れ下る櫻の枝から零れるように・・・。


 月明かりの下、義清殿を女院様の寝所へ導き入れたのは・・・。「堀河、明かりはいりませぬ」

 女院様のくぐもったお声が・・・。


 静謐(せいひつ)が暗闇のなかにただ広がっておりました。

 更け待ちの月明かりのもとしだれ櫻が紫に染まって・・・。


「一生一度の恋、一夜の想い・・・。私は今日から一人ではない。義清がいつも側にいてくれる・・・。一度ゆえこのように美しくこれからの道を歩んでいくことが出来るのです。終わりが始まりであるのです。もっと大きな広い確かな世界へと誘ってくれるのです」 女院様は、御簾を揚げられ庭のしだれ櫻をご覧になられながら、お言葉を落とされまして御座います。

 昨日までのことが嘘のように晴れ晴れと、何事かをふっきられたお姿でございました。


 義清殿が、突然の得度(しゅつけ)のことは・・・。

 幸福なご家庭を・・・御妻女を、お子を捨ててなお・・・。

 女院様は驚かれるお様子もなく莞爾(にっこり)と頬を緩められておいででございました。

 ご出家なされても、西行殿はよく御所を尋ねておいでになり、闊達(かったつ)な兵衛の局や明るい中納言の局と歓談しておいででございました。女院様のことはお心の中ではっきりとお決めになっておられるようにお見受けいたしましたが・・・。

 女院様は兵衛の局や中納言の局が話す西行殿のことをお聞になられても、ただ、

「そうですか」と頷いておられました。

 女院様を狂わせた忌まわしいことは総て義清殿との一夜で綺麗に洗い落とされたように、ご安堵な日々が訪れたのでございます。

 が・・・。

 崇徳の帝が、鳥羽院と中宮得子様との間にお生れの近衛の帝に譲位、崇徳新院、鳥羽院となられるという世間の動きは、女院様の

お立場をより煩(わずら)わしいところへと向かわせるのでございます。

 母親想いの崇徳の帝が譲位され、女院様をお庇(かば)いになられるお方はいなくなりますと、女院様のお力は弱おうなるので御座いました。それに引き替え美福門院様のお力が・・・。

 そうしますと、今まで快く想っていなかった人達の嫌がらせが始まったのでございます。女院様のお命をと御所に火をかけることは二度御座いました。

 熊野からお帰りになられてすぐお住まいになられていた三条西殿が焼失・・・その前にも四条西洞院第(しじょうにしのとういんてい)が・・・と身にかかるご不幸は後を絶ちませんで御座いましたが・・・女院様は何も恐がることが無きように振る舞われておいででございました。・・・それから以前にお住まいになられておられた三条高倉第(さんじょうたかくらてい)へ・・・。

 女院様のご心中はいかばかりかと気を揉み ましたが、それをお忘れになるように・・・。

 女院様が三十一歳のお年から三十八歳の間に四度の熊野詣でをなさいまして、白河法皇のご供養と、鳥羽院、崇徳新院のご無事を御記念申し上げ、お子さまのご健康を、また御自身の平安無事を願われたのでございます。どれほどの思い煩わしいことがあられたのでしょうか、御仏におすがりになられ、また、遠い道程をお通いになられてなお、神のお加護をお求めになられたのでございます。

 女院様にはそれからも様々な忌(い)まわしい、お心を煩わせる波が押し寄せるのでございます。関白忠通殿と美福門院様の暗い策略(はかりごと)で御座いました。それにじっと耐え時を待つように西行殿と同じ道へと登るのでございます。


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堀河西山庵草紙・・・14

2007-11-21 16:35:06 | 創作の小部屋
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    堀河西山庵草紙

       急

14
 西行殿、憶えておいででございましょう。人は忘却の川を渡るとは申せ、その淵に佇(たたず)みもどかしい日々を過ごしたことを・・・。あの時、過去も未来もなく今を生きておられましたな。否、時を、一瞬を・・・。総てを捨ててなおその出会いを・・・。

 西行殿、人として今まで感じたことのないその悦びはやがて苦しみへと・・・。愛するという地獄を・・・。あの一時のご対面が一劫(いちごう)の時に勝るとお感じになられましたことでしょう。運命の悪戯はよりお二人の心の中に、池に小石を投げ込むように、恋情を広げられたのでございましょうな。


 その日から女院様は頻りと義清殿のことを尋ねることが多うなったのでございます。運命をお感じになられて総てを森羅万象に託され、一度はお捨てになられた、お忘れになられた女院様のお心に愛の火が灯されたのでございます。義清殿により芽生えたのでございます。

 そのお姿は、今まで男を引き入れた女子の血潮ゆえでなく、いじらしい程のお恥じらいをお見せになられ、頬を薄紅に染められ、立ち振る舞いもまるで少女の様でございました。

 三条京極第(さんじょうきょうごくてい)の御所にお仕えする女房はそのお可愛らしさにほーとため息をつきました。

 都は頻りと風花が舞っておりました。うっすらと大路を白く染め土壁から枝を延ばした寒椿の花びらが時折音を発て下りました。

 京独特の身を刺すような寒さでは御座いましたが、女院様のお心は熱う燃えていたのでございましょう。

 そんな日々のなか、女院様のお心もお身体も北面の義清殿へ傾斜して行かれまして御座います。

「堀河、あなたは本当に人を愛したことがありますか」

「運命、その運命に沿って生きただけの恋は本当のものではあり

ませなんだ」

「多くの人を愛したように想うが、愛ではなかった」

「もっと早く、若かった頃巡り会えていたら・・・」

「苦しいのです・・・」

「最初で最後の恋、そのように想われて・・・」

「私の人生は総て御仏が仕組まれた・・・ご慈悲なのですね」

 几帳(きっちょう)の外に控え待つ私にそのようは弱音を洩らされまして御座います。それはまるで初めての恋をお感じになられた時のように・・・。想いの深さ重さがひしひしと伝わりましたゆえ・・・。


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堀河西山庵草紙・・・13

2007-11-21 00:38:48 | 創作の小部屋
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    堀河西山庵草紙

       急

13
 崇徳の帝が法金剛院で観櫻の宴をお開きになられましたその日・・・。その日が、女院様、義清殿にとって運命を変える日になろうとは誰ぞ知る由(ゆし)もなかったことでございました。

 催しのなかに競べ馬が御座いました。馬場は大きく曲がるところがありましたが、義清殿は騎馬を巧みに操り、皆が落馬をする中を颯爽(さっそう)と一番乗りを致しましたな。女院様は「のりきよ、義清」とお手を叩いてまるで無邪気なお悦び様で御座いました。 その見事さに女院様が褒美(ほうび)を取らすと仰せになられたのです。私は義清殿にその事を告げに参りました。義清殿は女院様直々の沙汰に怯(ひる)む事無く女院様の御簾(みすず)の前に手を着き膝を折りかしこまりました。

 御簾の中から義清殿の姿を見られた女院様は、私の方へお顔をお向けになり頷かれたのでございます。私は御簾を揚げました。

 その瞬間・・・。

 女院様はお身体の力が抜けたように前に少し倒れかかられ、義清殿は咄嗟(とっさ)に両の手を差し出されて・・・。お二人はじっと見詰められておいででございました。そして、義清殿はわなわなと震えだしたのでございます。

 辺りは暗やみになりまるでお二人のお姿のみに明かりが・・・また、落雷の稲光がお二人の間に・・・。

 お側に居りました私は目が眩(くら)み驚いて平伏しました。


 その時、なにかをお感じになられ・・・。

女院様は三十九歳、義清殿は二十三歳の頃で御座いましたな。たしか・・・。



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堀河西山庵草紙・・・12

2007-11-20 15:13:14 | 創作の小部屋
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    堀河西山庵草紙

         破

12
 鳥羽院、崇徳の帝からの船遊びや、観櫻の宴、紅葉狩りなどの誘いは常にございました。が、なかなかお出かけになることもなかったのですけれど、私達女房を気遣ってお受けになられることも御座いました。

 女院様がお幸行(でかけ)の折りは私達女房も御供をして晴やかな場所へ着飾って出られ、楽しい一時を過ごすことができるゆえでございます。そんなお優しいお心遣いは、御身のお立場を越えてお見せくだざいました。


 法金剛院は五位山の麓の広大な敷地に御建立。西御堂、南御堂、阿弥陀堂である三昧堂を揃え、それに五重塔、当時の宗派を備えておりました。まるで女院様が浄土をお感じらなられる場所の様でございました。そう申す者がおりました。また、広い池をもち、その周りを馬場にし、船遊びや競べ馬(くらべうま)の出来る仕組みで御座いました。それに、精舎(じいん)は花をつける草木は植えぬものと言われておりますが、四季に花を見せる希有(まれ)な精舎で御座いました。女院様のお心は花を御覧になられ華やかであった白河法皇とお過ごしになられた昔を思い出す事より、お深い道へとお入りになられようと致していたのでございます。女院様のお心のまま女房達が植えたでございます。


 西行殿、御仏は人の営みの総てをお許しくださるものでございましょう。それがお慈悲で御座いましょう。四季に咲く花の命に心惑わす、その薫りに心定まらずでは、なんと修行のなさでございましょうか。何事があろうと一心に務めることこそ大事であろうと想われまするが。


 西行殿のお歌・・・。



    仏には 桜の花をたてまつれ

         わが後の世を ひととぶらはば



 そのように歌っておいでですから・・・。




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