yuuの夢物語

夢の数々をここに語り綴りたい

冬に秋のことを書く

2011-02-18 23:24:08 | シナリオ あの瞳の輝き永遠に 
春の風



 出不精の私が紅葉狩りに行ったと言えば小学生のころ遠足で行ったことがあるだけだ。この歳になっても粋人ではないので紅葉を愛でる趣味はない。まだ綺麗な物を綺麗だと言う心境には成れないし余裕もないのだ。私にはまだ自然の景観に感嘆する人の域に達してないのかも知れない。身近の美に対してのみ心動く小さな心しかないのかも知れない。つまり幼稚な精神しか持ち合わせてないと言うことなのだ。身近な雑事がある訳ではないが看たいという欲望が全くないのだ。人が春には櫻を愛で、夏には海水浴に興じ、秋には紅葉狩りを楽しみ、冬には樹氷をと忙しく立ち舞うのが理解できないのだ。時間は限りなくあるが行ってまで看たいと思わないのだ。そこにあれば見るだろうが。要するに美に関して横着なのだ。このような精神になったのには訳がある。子供達がまた幼かった頃には車に乗せて何処や彼処によく行ったものだ。だが、子供が少し大きくなり友達と遊ぶことの方を優先しだしてからは何処へも行っていない。三十を半分過ぎた頃に自立神経失調症にかかってからは余計に出なくなった。それが昂じて鬱になり家から出るのが怖くて外には一歩も出なくなった。出るときには家人を同伴させた。そんな私に自然の美に感嘆する資格はなかった。いわゆる閉じこもりなのであった。今様の人たちの閉じこもりとは違うが。
 だが、鬱がだんだん良くなって行く中で「演劇人会議」の実行委員をしていたときには東京へ這い這い一人で出かけた。東京駅で中央線へ乗り換える階段の多さには閉口した。今はエスカレーターがついていて便利になったが当時はなかった。新宿大久保のホテルまでよたよたしながら行った。倒れたら誰かが救急車を呼んでくれるだろうという思いであった。そんな私が家人と旅が出来るとは思わなかった。鬱を抱えていたときに篠田正浩監督の映画のに二ヶ月間参加してやり遂げた後少しは自信が付いた。その後監督とは三本の映画制作に参加した。このことは前に書いたことなので省略するが、監督との仕事で鬱と少しは離別できた。その間十年間子供達に演劇を教えて公演することで完治とは行かないまでも完治に近づいていた。二十数年間は鬱との戦いであり人生で一番動き充実した日々であった。鬱の苦しみを鬱を治すために誰かがくれた試練だったと言えるかも知れない。
 そんな私が自然の美と仲良くできるはずもなかったのだ。
 今年の春は家族八名で道後温泉へ行った。子供達がそれぞれ独立し家族を持って初めての旅行だった。春にはそのようなことがあったが紅葉狩りへの興味は湧いていない。
「紅葉狩りにでも出かけましょうよ」と家人は言うが今のところその言葉に答えてやれない。鬱を患ってからタオルの中に保冷剤を入れて額に巻いている。その保冷剤が1時間しか持たなくて溶けるとたちまち頭痛がするのだ。前の大きな車には保冷庫がついていたが今の車には付いていないので頭を冷やすすべがないのだ。だから躊躇するのだ。車でなくても新幹線でも一緒なのだ。頭を冷やす事は癖なのかも知れないとタオルを外して見たが一日が背一杯であった。筋収縮性頭痛なら冷やすと余計に血管が収縮し頭痛が酷くなるのだがそうではなく冷やさなければ痛くなると言う持病があって遠くへの外出は駄目と決めているのだ。国民文化祭の時に二日間会場に付いていたがタオルを濡らしにトイレに何回も通ったのだ。
 紅葉狩りも良いがこんな状態では無理だろうと決めているところがある。
 春の温泉旅行の時に秋には少し足を伸ばして伊勢にでも行くかという話があったのだが今のところその話題はない。
 東京の会議には四年間でほど三十回ほど人の善意を当てにして出たがその都度無事に帰ることが出来たのだ。あのときの気分で出る気になれば出られると思うが億劫が先に立つのだ。
 長年支えてくれた家人の願いを叶えてやりたいと北海道への旅を計画中だが、私の場合は先が見えなくてその日にキャンセルをするかも知れないと思うと躊躇するのだ。癖が悪くて朝早く起きられないから徹夜で行くことになり良く不測の思いが芽生えてキャンセルになるのだ。まだ鬱とは完全に決別が出来ていないと感ずる。
車は何不自由もなく乗ることが出来ている。家人を助手席に乗せなくても夜中でも何処へでも行けるようになっている。深夜六みんなが寝静まっても一人でパソコンの前で朝まで座ることも出来ている。
 やはり気のものなのか・・・。
 燃えるような紅葉を見れば私の心も赤く灯が付くだろうか。それが克服を祝う灯火であれば良いのだが。
 ここまで書いて、
 今年は紅葉がりをしに行っても良いかという気になっている。高梁川の流れを左に見て北へ走り・・・。


 

春の花.wmv

2011-02-13 23:22:50 | シナリオ あの瞳の輝き永遠に 
春の花.wmv


麗老(9) 
妙子は前夫の暴力がたまらずに離婚したと言った。酒飲みで飲んだら暴力を振るったという。子供は欲しかったが出来なかったと言った。別れた後、父の遺産で食べてきたと言った。食べるだけの土地はあり米だけ植えているのでと言った。借家も何軒かあり毎月その収入が入ってくると言った。「私に何も責任を感じてくれなくていいんです・・・。一人で生きていくだけの経済力はありますから」「それでは私に何をしろと言うのですか」「お互いを拘束しなくて、時々こうしてお茶やお話の相手をして下さればいいのです」 雄吉は何をどのように考えればいいのか戸惑っていた。「お嫌でなかったらですけれど・・・」「それは・・・」「お嫌でしたら面と向かっては辛いし・・・電話ででも」「いいえ、実を言うと女将から言われて断り切れずに・・・」「やはり、ご迷惑だったのですね」「そんなことはありません、今では良かったと・・・」「嬉しいわ」「・・・」「こんなに話をしたの、初めてです。あなたの前ですと素直に言葉が・・・」「私は一日中家にいてテレビを見ているだけでした」「船をお持ちとか」「漁船ですが」「山に畑をお持ちとか」「はい、猫の額くらいですが」「田植えを手伝って下さると嬉しいのですけれど」「はい、喜んで」 雄吉は魔法にかかったように言いなりになっていた。それが嫌ではなかった。「あなたの部屋が見たいわ」 雄吉は周章てた。まだ布団を敷いたままであったのだ。「まだ・・・」「片付けてあげます」 雄吉は案内した。「こんなことは初めです」 妙子は衣服を脱ぎ裸になって布団に横になった。雄吉は唖然とし呆然と眺めた。油ののりきった女体がそこにあった。
「二十年くらい女の人に触れてません」
「何も言わないで・・・」
 雄吉は夢だ夢だと心の中で叫んでいた。
麗老(10)
「安っぽい女でしょうか」「私も初めてです」「お嫌らなられた」「いいんですか、こんなことになって」「この歳になったら、もう何も失うものはありませんから。心の赴くままに生きたいと・・・」「私に鬼になれと・・・」「女の生活を忍従の中に閉じこめてきた社会に抵抗をしようと決めたんです・・・好きな人が出来たら私から誘おうと決めていたんです」 妙子は庭のようやく咲き始めた五月を見ながら言った。「私で良いのですか」「一人で飲んでおられる後ろ姿を見て・・・その哀愁に惹かれたのです」「これから食事でも」 雄吉は話を変え不器用に誘った。 瀬戸大橋の見える海岸線を走った。穏やかな海が 広がっていた。雄吉はそこを走って山間のレストランへの道を走っていた。山肌にはツツジが咲こうとしている時期であった。「なんだかこうなるように定められていたみたいです」 妙子は運転している雄吉の肩に頬を寄せて言った。雄吉も何年も連れ添った人のように感じていた。妙子をいじらしく眺めた。 雄吉は二十数年ぶりに男を感じさわやかな気分の中にいた。沸々と蘇る気力を感じ目の前が開かれたように思った。 谷間の小川をまたぐように山小屋風の建物が造られていた。 潺の音が床を通して聞こえて、鳥の囀りが静寂を破っていた。「ここは奥さんと来たところですか」 妙子は口元に運びながら言った。「いいえ、忍びの男女がよく来るそうです」「いい処ですね。こんな処を知っておられるなんて隅に置けないです」「初めてです」「嬉しい」「私たち、どのように映っているのでしょう」「さあ・・・」「人目を忍んで・・・。美味しい・・・」「時間は・・・」「誰も待っている人はいない」「そうですね」 山に夕闇が迫っていた。風が出たのか木立がざわめいていた。

食品問題のウラ 1/6

2011-02-06 19:46:50 | シナリオ あの瞳の輝き永遠に 
食品問題のウラ 1/6

食品問題のウラ 1/6



どうも日本の食品が危ない。添加物が子供の命を奪うのか・・・。

添加物で作れる、即席ラーメンのたれ。あらゆる食品の中に添加物で入り体をむしばむのか。

有機農業も危ないと・・・。日本人はなにを食べればいいのか・・・。

【歴史の空白が・・・。

2011-01-27 22:12:57 | シナリオ あの瞳の輝き永遠に 
【車載】茨城県取手市 常総ふれあい道路西行桜並木2010年


歴史の空白が・・・。

 昔、良寛さんを書いて舞台へ上げたことがあります。一応資料は集め読み砕いたのですが何か判然としないもがあり「僧にあらず俗にあらず」の言葉通り普通の人間僧侶として書いたのです。曹洞宗の光照寺で国仙和尚に依って御受戒を受けて出家をしました。良寛さんは国仙和尚さんを一生の師匠として岡山は備中の僧堂円通寺にお供をしそこで僧侶の修行をするのです。円通寺での良寛さんのことはなにも残っておりません。何も残っていないと言うことはどのように嘘八百を書いても文句が出ないという事なので色々と考えを巡らせ創作をしたのです。そのように空白があると言うことは物書きにとって有り難いことで何でも書いて良いですよと良寛さんが言っている様に感じて書かしてていただきました。出雲崎では良寛さんは童貞であったという説があるのです。大庄屋の跡取りであった良寛さん庄屋見習いの時に嫁を貰って直ぐに離縁しているのです。一女があったという説もあります。が、立派なご僧侶がバツイチでは良寛様の名に傷を付けることを案じてか童貞であると言うことなのでしょう。円通寺の事と、新潟は長岡の閻魔堂の貞心尼との心の交流も嘘を積み重ねて書きました。これは貞心尼が良寛さんとのことを歌で詠んでいる「蓮の露」がありましたが中に創作をさせていただきました。
 このようにして歴史の空白があれば書き手は自由に書くことが出来るのです。
 西行法師さんも書かして貰いました。舞台で上演しました。西行さんと待賢門院璋子さんとのことは女房の待賢門院堀河の語りとして直接に西行法師さんを書かずに西行さんを書いたのです。待賢門院璋子さんは鳥羽帝の女院でした。堀河さんは小倉百人一首で有名な歌詠みです。璋子さんの幼い頃から亡くなるまで女房として仕え何もかも分かっていたとして璋子さんと西行さんとの恋を語らせたのです。西行さんは好色家と言えば西行さんのファンの女性の方に怒られるやも知れませんが大変にもてた方であったらしいのです。花と月は西行さんの歌のテーマのような物ですがそこに女を加えてました。恋の、人想う歌も多かったからです。西行さんがどうして鳥羽帝の北面の武士を捨ててなお得度したか、それには待賢門院璋子さんと一夜のちぎりをもちそれが一生に一度の恋に想え苦悩の末に絶望したことが原因であったと言う説を取り入れ、ものの哀れを感じたと言うことにしたのです。親友の突然の逝去故にという説もありましたがそれを採りませんでした。劇中の会話はすべて創作をしました。瀬戸内寂聴さんや辻邦生さんや白州正子さんにしかられる事でしょう。
 北面の武士佐藤義清、歌人西行法師、法名円位上人が西行さんなのです。平清盛さんは西行さんと鳥羽帝の同期の北面の武士であったのです。
 目が不自由だったが居合いの手練れがいた。という子母澤寛の短い文章で「座頭市」が別の作者の筆で生まれると同じようにと言う風にです。
 坂本龍馬さんも舞台にのせました。
「金のなか人間に何が出来よっとぜよ」金に執着した龍馬さんを作りました。大法螺吹きにしました。なぜか龍馬さんを書いているとき愉しくなかったのです。あまりに完璧な龍馬さんを皆さんが書いている事に対する反発がありました。
「日本の國を洗濯しちゅうきに」
 この龍馬さんの言葉はあまりにも有名ですが洗濯する為には金がいることに気づき金集めに奔走する龍馬さんにしました。金持ちに取り入るのがうまい人として書きました。高杉晋作さんは策士で、中岡慎太郎さんに龍馬さんはこういうのです。
「高杉は喰えん奴じゃきに気をつけーや。泣いて助けてくれーというても知らんきに」
 今、NHKで「龍馬伝」放送しているが、龍馬さんと岩崎弥太郎さんとは長崎で初めて会っているのにあんなに何もかも知っているのはおかしいのです。ここは中岡慎太郎さんが流れを作り進めるということのほうがよかったと思います。龍馬さんと中岡慎太郎さんは質屋の二階で惨殺される。その暗殺者を人斬り半次郎さん、示現流の居合いの達人に仕立てたのです。これは西郷吉之助さんの意であったとしたのです。薩摩は龍馬さんを殺さければならない怒りがあったとしました。司馬遼太郎さんにしかられそうです。
 龍馬さんを時の人として薩長連合、公武合体、大政奉還。
 誰かが仕組んだものではないかとしたのです。
 お竜さんは龍馬さん亡き後横浜の豪商と再婚しています。
「人とはなんと悲しいのでしょう」お竜さんはそういいきります。
 書き手は時代の空白を書く。一瞬を語るのだと思います。書いてしまえば書き手の手元から離れ一人歩きを始めるのです。
 良寛さん、お元気で子供達と手まり歌を歌いながら遊んでいますか・・・。
 西行さん、大仏復興の勧進帳を持っての旅どうでした・・・。
 龍馬さん、まっこと誰に殺されたじぇよ、ぎょうさんの説で学者も困っているきに・・・。

 もう懲りたので歴史の人物は書かないことにします。
 
 

星に願いを 4

2010-12-28 02:07:57 | シナリオ あの瞳の輝き永遠に 


星に願いを  4

 ラルは羊を草原に連れて行くと一人で空と山が重なる一番高い一点を眺める事が多くなったのです。
あの夜からサラシャは夢の中に現れなくなっていた。ラルはサラシャがどうしているのだろうと思いました。お父さんやお母さんにあったと言っていたが本当だろうかと思いました。
 ラルの心の中にはまだサラシャのことが大きな場所をしめていたのです。もう会えないと思うと寂しくてしょうがなく、まぶたを閉じて思い出そうとしました。なぜか思い出せなかったのです。
 そんな日が何日も何日も続いたのです。風の日も雨の日も嵐の日もラルは見詰め続けていました。
 朝から晴れたいい天気だったのです。突然見詰めていた一点が黒く染まり空を覆っいました。稲光が光り雷が鳴りだんだんと近づいてきました。羊たちは驚いてみんな集まってうずくまっていました。光がラルの側に落ちたのです。ラルは吹き飛ばされてしまいました。
 ラルは空を飛んでいましてた。草原はいつもの輝きで羊が無邪気に遊んでいるのが見えました。それから真っ黒の雲の中に入ったのです。少しの間であったようにも感じるが長いようにも感じました。時間の経過ははかることは出来なかったのです。
 雲を突き抜けたのか目の前に今まで見たことのない風景が広がりました。色々の花が咲き乱れ見たことのない鳥たちが飛んでいました。空には雲一つなかったのです。
「ラル、来ては駄目、来ては駄目なのよ」
 どこからかサラシャの声がしました。だがそう言われてもラルの意志ではどうにも出来なかったのです。
「いつもいつもサラシャの事を考えてきみの居る一番近いところを眺めていたのだよ」
「私はいつもラルの側にいるわ。ラルには私が見えないけれど私はよく見えるの。悲しい顔のラルを見るのは辛いは、笑顔のラルが好きよ。・・・まだラルはこの世界にくる事は出来ないの。もっともっとラルの世界で笑ったり泣いたり沢山のことをしなくては駄目なの。
 ラル、初めがあれば必ず終わりがあるの。ラルを見守るのもあと僅かなの。これは神様との約束なの。ラルは私の事を忘れて、もっと勉強をして立派な人になるのよ。ラルが人を愛し愛されて子供達に囲まれ、みんなを幸せにして初めてここに来られるの。
 私はラルに出会えただけで満足なの。それが私の定めであったから。
もう、ラルの邪魔はしないは・・・忘れる、だから忘れて・・・。帰るのよ、早く帰るのよ。帰りたいと思ってそうすれば帰れるから・・・」
「そんなの無理だよ。サラシャにあいたいから・・・」
「それも時が経つと忘れられるわ」
「だめだ、出来ない」
「今、私はさようならとしか言えないのよ。分かって・・・帰りたいと思ってそうすれば帰れるから・・・」
「・・・」ラルはおじいさんのことを思い出したのです。
「ラル、どうしたのじゃ」
 突然ラルはおじいさんの声を聞いたのです。
 ラルはあたりを見渡しました。嵐の後は何も残っていませんでした。空は何処までも青く澄んでいて、羊たちも草を食べていました。何処を探してもおじいさんは見つかりませんでした。
 そのことをおじいさんに言いました。
「人は何かを思い詰めると幻を見るものじゃ。山と空の間になにか忘れているものがある様な思いを感じるものじゃ。そこに何かあるように思えるから人はいきられるのかもしれん。
 人にとって一番大切なことは今を懸命に生きるという事じゃ。なくなった人もそう願っておる。ラルが元気でないとその人が悲しむぞ。その人を幸せにするのはラルが幸せになることなのじゃ」
 おじいさんはそう言ってパイプの掃除を始めました。
 ラルはおじいさんの穏やかな顔を見ていました。それは幸せそうな顔でした。
 ラルはそれから空と山が重なる一番高いところを眺めなくなりました。
サラシャの事は時に思い出していました。

シナリオ あの瞳の輝き永遠に 1

2007-05-06 23:18:34 | シナリオ あの瞳の輝き永遠に 
戦後五十年を考える公演「あの瞳の輝き永遠に」の映画化

あの瞳の輝き永遠に


   脚本  吉 馴   悠

   企画  今 田  南

   プロデュース  原   弘 司

   監督  松 浦 広 治

   製作統括  岡 田 忠 雄

   助監督  佐藤敏一 高井 外

   プロデューサー補  園田悠子 朝井はるか

   制作責任者 菅原英行 岩城唯一
    出演 劇団滑稽座・Qプロダクツ・劇団和楽座
      あの有名な方々

         総合制作Qプロダクツ
スタッフ

製作総指揮

企画  今田 南

制作協力  劇団滑稽座

音楽

照明

美術  三宅 敏夫  蓮井 豊久

脚本  吉馴  悠

撮影

録音

編集

製作管理統括  岡田 忠雄 原 弘司

製作担当  菅原 英行 岩城唯一

助監督  佐藤 敏一  高井 外  園田 悠子

監督  松浦広治  平 一機

キャスト

佐武準子

石井準子

校長

住職

杉本長太

母 おせつ

健次

花江

お雪

母 民江

お石

春子

雄三

房子


佐助



道夫

加代子

君恵

小使いさん

文造

出征軍人 1

出征軍人 2

村長

婦人会

村人

子供達

巡査






あの瞳の輝き永遠に

                 吉 馴  悠

◎ 疾風する新幹線「のぞみ」
  関ケ原の辺りである。

1 東京行新幹線の中(現在)
  佐武準子。
  車中の席に座り眼鏡を掛けて書類に眼を落としている佐武準子  書類に「日本退職婦人教師連絡協議会」と言う文字が見える。  「北京世界女性会議」の文字も見える。字面を追っていたが、  眼鏡を外し目頭を揉み、目線を車窓へ投げる。

2 白冠を頂く連峰
  雪を頂く連峰が映し出される。

3 新幹線の中
  佐武準子。
  車窓よりじっとその風景を見つめる。

4 白冠を頂く連峰
  連峰がだんだんUPして、オーバーラップ。
  タイトル「あの瞳の輝き永遠に」
  キャスト・スタツフがながれる。
  BGMIN。
  流れのバックが蒜山三座に変わっていく。
  浮かび上がってくるのは杉本長太の顔。
  消えていく長太の顔。

5 新幹線の中
  佐武準子。
  車窓を眺めて
 佐武「長太君、けっしてけっしてあなたのことは忘れないわ」

6 村の中(昭和十八年春)
  校長、村長、長太、花江、健次、お雪、佐助、民江、おせつ、  その外日本国防婦人会の面々とお石。
  出征の幟を立てた行列が続く。
  「武運長久」「撃て鬼畜米英」
  着物に「祝・・・・君」の襷に戦闘帽を被ったお石の三男が行  く。
  子供達は「行ってくるぞと勇ましく・・・・」の唄を歌つてい  る。
  最後にだいぶ離れてお石がとぼとぼとついていく。

7 山麓にある寺院(石井の下宿)
  ここから村が一望出来る。出征の風景が見える。
  穏やかな山村のたたずまいである。絞り込まれるタンポポ。

8 寺院の庭
  住職、石井準子。
 住職「願はくは花の下にて春死なむ、その如月の望月の頃」
 石井「西行法師・・・何を言いたいのでしょうか」
 住職「西行は人の死に行く姿をどう眺めたあろうかと・・・」
 石井「この村の人達はみんな・・・」
 住職「この私は何もしてやれん。人間とは愚かじゃのう」
 石井「この私に、あの生徒たちを教えることが出来るのでしょう    か・・・何だか眩しい・・・」
 住職「学ぶことじゃ。あの子等と・・・」
 石井「(村の風景を眺める)」

9 首都東京上空に飛来するB29

10 山の下の分教場
  一本道の果てに学校が見える。
  点在する農家。

11 小川
  雪解け水を集めて勢い良く流れるせせらぎ。

12 冠雪の蒜山三座
  陽光に照らされてキラキラと輝き照り返している。

13 南太平洋をゆく日本の海軍の艦隊。

14 村の道
  出征の幟を立てた一行が行く。
  田は稲が植えられている。

15 畑(初夏)
  長太。
  長太が畦の豆を抜いている。

16 長太の家の庭先の川
  長太。
  長太、牛蒡や大根を藁の束を丸めた束子で洗っている。
  蝉時雨が画面を覆う。
 長太「あっ・・・」
  洗っていた大根を流す。

17 川
  流れている大根。

18 川沿い
  長太。
  長太、大根を追っていたが、捕れそうで取れない。
  勢い余って川へ落ちる。
 長太「ええい、ついでじゃ」
  川の中へ両の手をつつ込み魚を捕りはじめる。捕まえてお手玉  をして引っ繰り返る。

19 空
  烏が鳴きながら渡る。

20 川
  長太。
 長太「こん畜生」
  その時「長太!」と母のおせつ声。
  振り向く長太。おせつの声が続き。
 おせつの声「はよう、父ちゃんに便りを書かにゃー。あんちゃん   にも書いてやらにぁー。」
 長太「うん」
  長太、空を仰いだ。母の声。
 おせつの声「綺麗に豆の皮をむいで父ちゃんに送ってやらにゃ
   あー」
 長太「ああ」
  長太、がむしゃらに川の中で暴れる。

21 学校への道
  長太。
  長太がとぼとぼと歩いている。早いのか遅いのか誰もいない。  ふと立ち止まって、小便をしょうとする。

22 道べり
  健気に咲く花。

23 道べり
  長太。
  長太慌てて立ち小便を止める。

24 校門辺り
  長太。
  長太、何かを決心したごとく走りこむ。

25 教員室の窓
  石井準子。
  石井が見ている。

26 板張りの廊下
  森閑としている。

27 教室の中
  長太。
  長太が机に座ってぼんやりとしている。

28 教室の中  (中と外のカット割り)
  花江、長太。
  花江が走りながら入ってくる。
  立ち止まって、長太を見る。
  ゆっくりと長太の後に回り、
 花江「わぁー。今日はどうしたん」
  長太、花江に答えずボーとしている。
 花江「なにかあったん」
 長太「(ハッとして)何もありゃあせんが、何も・・・」
 花江「太陽が西から昇るかもしれんで」
 長太「何のことなら・・・」
 花江「何時も遅れてくるもんがはように来るけえじゃ」
 長太「悪かったの」
 花江「何して」
 長太「一番学校に行け、勉強も一番になれ、と花江のお父が出征   する時に言ょうたんをきいとるけえ」
 花江「気にせんの、気にせんの、長太ちゃんらしくねえ」

29 校庭
  健次、お雪。
  健次が走ってくる。それを追っうお雪。
 お雪「健ちゃん、待って」
 健次「愚図のお雪が、はようけい」
 お雪「健ちゃんの馬鹿」

30 教室の中
  長太、花江。
 長太「親父はどこらへんなら」
 花江「うーん(考え込んでいる)」
 長太「支那じゃつたの」
 花江「ああ・・・こん前の手紙にゃ支那人で一ぱいじゃと書いて   きとった」
 長太「馬鹿、おめえは呑気でええのー」
  長太、立って窓の方へ、それを追うように花江。
 花江「そげん言わんでもええが」
 長太「お父や、あんちゃんは・・・」
 花江「弾がお辞儀をしょうるって・・・」
 長太「わし・・・」

31 教室の入り口
  健次、お雪。
  健次、お雪が入ってきながら、
 健次「案山子のお雪」
 お雪「言うたなー」
  健次を追うお雪、逃げる健次。

32 教室の中
  長太、花江、健次、お雪。
  振返る長太、
 長太「健次、お雪、この非常時に何をしょうなら」
  立ち止まる健次、お雪。
 健次「何もしょうらんで・・・」
 長太「男と女子が・・・」
 花江「長太ちゃん!」
 健次「石井先生はみんな仲ようせいと・・・」
 お雪「そう言われとったもん」
 長太「馬鹿、力を合わせてと言われたんじゃ」
 花江「そうじゃ」
 健次「チェー」
  健次、お雪は席に着く。
  長太、窓の方へ。花江近寄り、
 花江「何かあったん」
 長太「何もありゃせんで」
 花江「何時もの長太ちゃんではねえみたい」
 長太「ニイチテンサクノゴ・・・かわらんじゃろうが」
 花江「隠さんでもええが」
 長太「ひつけえの」
 花江「本当に本当」
 長太「ひつけえ女子は、誰も嫁にもろうてくれんぞ」
 花江「うちええもん、嫁にゆかんけい」

33 教室の中
  長太、花江、健次、お雪、春子、佐助、道夫、弘、加代子
  君恵等が授業前の談笑。
  長太と花江は席が前後。
長太「わし、大きゅうなったら兵隊さんになるんじゃ」
花江「それまでこん戦争続いとんじゃろうか」
長太「当たり前じゃ。百年戦争じゃぞ」
花江「勝てるんじゃろうか」
長太「馬鹿、神国日本が敗けてたまるか」
花江「じゃ言うても、稗や蕨や薇を食べようるんじゃもん、それ   で本当に勝てるん」
 長太「女子はめめしゅうておえんけい」
 花江「じゃって・・・」
  長太、立ち上がって、
 長太「(敬礼をして)すめらお、日本帝国軍人は畏くも今上天皇の赤子    であられる。神の子が戦をしておるのだからして・・・」
 花江「わー、まるで校長先生のようじゃ」
 長太「つつこめ撃て撃て、撃って撃って撃ちまくれ、前進前進」  長太、床の上を這い舞った。
 佐助「おもしろそうじゃ、わしもやるで」
 弘「突込め!」
 長太「健次、おめえのお父は海軍じゃつたの、何をボケーとしと   んなら、駆逐艦じゃ、巡洋艦じゃ」
 健次「イ号八潜水艦でインド洋に行っとつたが、いまは・・」
  健次、立って潜望鏡を覗く真似をして。
 道夫「なんお、陸軍が何じゃ。旗艦砲を撃ちまくれ!」
 長太「海軍に敗けるな!」
 健次「陸軍に敗けるな、世界に敵なしの海軍、前方戦艦発見、魚   雷発射用意撃て!」
 長太「なにを、海軍に敗けるな、突込め、敵の陣地を占領せよ」 健次「(みんなに)海軍の子供はわしについてけえ、敵戦上陸じゃ」
  子供たち「そりゃーおもしれえ」「わしもやるで」
 長太「陸軍の子はわしに続けー、地雷に気おつけろ」
  子供たち「撃て撃て」「前進前進」
  と加わる。
   女の子たちは教室の隅へ集まっている。
 健次「やったぁー。戦艦撃沈」
 子供たち「わぁー」
  健次、子供たち飛び上がった。
 長太「後もう少しじゃ。大砲をうちこめ!倒れたらおえんぞ。お   花、突込め」
 花江「うちはすかんけえ」
 長太「何お、この非国民が」
 花江「今日の長太ちゃんはどうかしとる」
  お雪、その場に立って泣きながら。
 お雪「やめて!」
 健次「なんお、泣き虫お雪が」
  お雪、教室から走りでる。その後を春子が追う。
 花江「みんなやめられえ」
  長太、花江を見る。厳しい顔の花江。
 長太「健次、みんな止めえ」
 健次「(不承知の格好)ああ」
 花江「少しはお雪ちゃんのことを考えてあげられい」
 長太「何かあったんか」
 花江「この三ヵ月ほどお父からの便りがないらしいんじゃ」
 長太「そうじゃつたんか」
  長太、お雪の後を追って校庭へでる。

  (このシーンは細かくカット取りをすること)

34 校庭
  お雪、春子、長太
  お雪と春子は銀杏の木の下で蹲っている。
  そこへ長太が小走りにくる。
長太「すまん、悪かった、何も知らんで」
春子「お雪ちゃん」
お雪「ええんよ、うち・・・」
長太「もうせんけえ・・・」
春子「もうすぐ小使いさんが・・・」
お雪「うん」

35 教室の入り口
  お雪、春子、長太
  お雪、春子、長太が入ってくる。
  お雪、長太悄気ている。

36 教室の中
  34の子供たち
花江「(長太に)なにかあったん」
長太「いや・・・」
花江「長太ちゃん、謝ったん」
長太「ああ、健次おめえも、みんな謝れ」
健次「長太ちゃんがやれ言うたんじゃねえか」
長太「喧しい、謝れいうとんじゃ」
健次「ごめん」
  子供たちも頭を下げた。
お雪「うちええんよ」
花江「学校から帰ったら、お雪元気かって書いた分のあちーい手   紙がきとるって」
 お雪「そうじゃろうか」
 花江「(ボケーとしている健次に)なあ、健ちゃん」
 健次「ううん、そう思うで」
 長太「なんせ、郵便配達のおっさんも、自転車にようようのっと んじゃけえ」
 健次「だいぶ草臥れとるけえな」
 お雪「そうじゃね(笑った)」
 健次「今、泣いとったカラスがもう笑ろうとんじゃけえ」
 お雪「すかん、健ちゃんの馬鹿馬鹿」
  長太はじっと見ている。
  その姿を花江が心配そうに見ている。

37 校庭
  雄三、房子。
  ランドセルを負った雄三と房子が教員室の方へ向かっている。  雄三は学制服に帽子をかぶっている。都会の子だ。

38 校庭の二宮尊徳の像の前
  小使いさん。
  小使いさんが鐘を鳴らす。

39 教室の窓
  何人かの顔。
  子供たちが顔を覗けててんでに声を掛ける。
  「お早ようございます」

40 38と同じ
  小使いさん。
小使いさん「おはようさん、今日も元気だのう」
  と返して空を見て。

41 空
  紺碧の空の中に鰯雲が泳いでいる。

42 40と同じ
  小使いさん。
 小使いさん「鰯雲が東に走っとる。このぶんだと暑くなりそう
  じゃ」
  と呟きながら教員室の方へ。
  (カラメワークで空を雲を)

43 教員室
  校長、石井、雄三、房子。
  その母と雄三は校長と石井に頭を下げている。

44 教室の外
  房子。
  房子、心配そうに立っている。

45 教室の中
  子供たち全員、石井、雄三。
  教壇に立つ石井の傍で雄三が立ち、
 雄三「ぼくは小川雄三です。東京から縁故疎開をしてきました。   皆さん仲良くしてください」
  子供たちの騒めき。

46 学校の畑
  子供たちが全員。
  子供たちが耕し、藷を植えている。

47 農道
  お石。
  お石がとぼとぼい歩きながら来る。何やら呟いている。

48 46と同じ
  石井と子供たち。
  石井を先頭に農作業をしている。
  石井、額の汗を手で拭い、蒜山を見上げた。

49 緑の覆う蒜山三座

50 48と同じから教室のし下へ
  石井、お石。
  お石、石井に声を掛ける。石井聞きながら子供達から遠ざかる  。
 お石「先生様」
 石井「はい、ああこれはお石おばあちゃん」
 お石「何をしょうられるんですかな」
 石井「藷を・・・。兵隊さんに食べてもらおうと思いまして」
 お石「戦争は終わりましたけえ」
 石井「ええ?」
 お石「連れ合いも子供らも、みんな戦死、わしの戦争はおわった    。みんな死んどる、もう終わりじゃ」
 石井「・・・」
 お石「よう死んだ、おまえはお国のためによう死んだと靖国へ行   ってやらにゃならんのですかいの。こんな立派なお社に神と   祀られ幸せじゃというてやらにゃならんのですかの」
 石井「おばあちゃん」
 お石「わしゃ行きませんけえな。この戦争のこと忘れせんけえな   」
  と言ってとぼとぼと帰る。
  その後ろ姿を見送る石井。そして、目線を子供たちへ向けた。
51 畑
  子供たち全員。
  わいわいと賑やかに作業をしている。

52 教室の窓の下
  校長、石井。
 校長「あのばあさんは困ったものじゃて。この大事な時期に、気   が触れたように歩き回って・・・。いまこそ一億一心で戦わ   んとおえん時に、みんなの心に動揺を起こさせよって・・」 石井「校長先生」
 校長「何も言ってはなりませんぞ。白も黒もない、私達は(敬礼して)   天皇陛下の赤子に教えているという事を忘れてはいかんので   すぞ」
 石井「はい」
 校長「ところで、海軍に行っている家の子は誰と誰でしたかな」 石井「はい。健次くんとお雪ちゃん、それに・・・」
 校長「ああ、お雪のてて親が戦死なされた」
 石井「本当ですか」
 校長「ああ、役場から連絡があった」
 石井「何ということに・・・、あの子はお母さんと二人きりに・   ・・」
 校長「名誉の戦死ですぞ。先生が動揺していてはどうするのです   か」
 石井「父は軍医として・・・」
 校長「これからは国民心を一つにして・・・その教育を・・・」  校長、畑の子供たちを眺めた。

53 畑
  子供たち全員。
  弾けるような笑い。お雪にズームイン

54 52と同じ
  校長、石井。
 校長「眩しい、あの屈託のない笑顔が・・・」
  二人が眺める。

55 学校への道
  民江。
  手に紙切れを持って走っている。

56 学校の畑
  子供たち。
  子供たちが農作業をしている。雄三から何やら聞き出している  。長太は黙々と藷の蔓を植えている。見つめる花江。
  (ズームインカットの繰り返し)
 道夫「東京に爆弾が落とされたと言うんは本当か?」
 弘「もうそんなに攻めてきとんか」
 佐助「そうか」
 加代子「うちのお父は・・・」
 春子「もうみんな疎開を始めたんですか」
 君恵」春子ちゃんは東京から疎開してきとんょ」
 雄三「東京の空に、アメリカのB29が飛んでき始めたのは三ケ 月ほど前からです」
 春子「私らは足てまといになるからと、地方に親戚のあるものが   先に疎開したんです」
 雄三「いずれ、空襲が激しくなったら強制的に集団疎開を始める   だろうということです」
 健次「そうか、わしややつたるぜ」
 長太「何をようんなら、がたがた言わんと藷お植ええ」
 お雪「じぁや言うても・・・」
 花江「長太ちゃん、聞いてもええが」
 長太「みんな出鱈目じゃ。わしらは銃後を守る小国民として・・   ・」
 花江「長太ちゃん・・・」
 長太「兵隊さんのお陰ですじゃと言うことを忘れてはおえんで」 健次「そうじゃ、兵隊さんのお陰ですじゃ」
 長太「疎開もん、しっかり汗を流せ、空襲が何じゃ。前線で毎日   毎日・・・」
 花江「そうじゃ。大きい藷に育てて・・・」
 加代子「先生、早く見にきて・・・」
 佐助「こんなものでええんかのう」

57 校庭
  石井。
 石井「はい。すぐ行きますから」
  石井走って子供たちの方へ。

58 二宮尊徳の像の当たりから
  民江。
  民江走って、
 民江「お雪!」
  走って、運動場にへたり込む。
 民江「お雪、おゆきー」

59 畑
  子供たち全員、石井。
  お雪、振返った。そして立つ。
 お雪「おかぁー」
  民江を見て、走りながら。
 お雪「おかぁー」
 春子「お雪ちゃん」

60 校庭
  民江。
 民江「お雪・・・お父が・・・」
  民江泣きぐづれる。

61 校庭
  お雪。
  走りながら、
 お雪「どうしたん、おとうが・・・」

62 校庭
  民江、お雪。
  民江の背に倒れ込む。


シナリオ あの瞳の輝き永遠に 2

2007-05-06 23:09:52 | シナリオ あの瞳の輝き永遠に 
63 畑
  子供全員、石井。
  みんな立つが一人一人座り込む。
  健次は立って、悲しそうに見つめる。
  花江、一生懸命鍬をうつ。
  春子、泣き伏した。
  長太、歯軋りをして空の一点を凝視している。
  石井、数歩前に出たが、無力感。

64 空
  青い空にもくもくと入道雲が広がっている。
  お雪の声「おとうー」

65 南大平洋の海戦の模様

66 新聞
  山本五十六連合艦隊司令長官の戦死の報道

67 大阪中之島公園(昭和十九年)
  学徒動員令により行進する学生達。

68 駅
  出征の軍人がぶら下って発車する蒸気機関車。

69 蒜山三座
  紅葉して赤く染まっている。

70 工場
  鉢巻きをした女子勤労学徒の働く様。

71 蒜山三座
  雪をかぶった蒜山。
  「大本営発表・・・」の戦勝のスーパー。

72 長太の家の入り口
  長太、おせつ。
  雪の玄関前に躍り出る長太。
  長太、走り出てくる。
 おせつの声「長太、おめえはどうかしたんか、長太」
  長太、立ち止まるが、走り始める。おせつ出てきて、
 おせつ「長太ー。考え直してくれー」
  おせつ追ったが座り込む。

73 農道
  長太。
  走る長太。

74 戦場
  銃剣を構えて突進する兵隊達。

75 学校へ通じる道
  子供たち。
  「予科練の歌」を大きな声で唄いながら登校する一団。
  一人、二人と登校する子供たち。
  足元は雪が積もっている。

76 教室の中
  石井。
  達磨ストーブに薪を焼べ、生徒たちの履物を温めている。

77 教室の外
  校長。
  窓から覗いて、鼻髭を整えて入る。

78 76と同じ
  石井、校長。
 校長「そんなことをしても、雪の道を歩けば・・・」
 石井「はい。せめて履く時だけでもと思い」
 校長「先生のその優しさが・・・」
 石井「私にはこれ位の事しか出来ませんから・・・」
 校長「優しさが時には大きな残酷さに変わるやも知れませんな」 石井「それは・・・」
 校長「ああ、(はぐらかし)長太と言ったかな腕白の六年生は・・・」
 石井「長太君が何か」
 校長「先生は何も・・・」
 石井「はい」
 校長「満蒙開拓青少年義勇軍に行くと言うてきかんらしい」
 石井「何ということを・・・」
 校長「それは一体どういう意味ですかな」
 石井「はい・・・・いいえ・・・」
 校長「優しさで物事を判断しては、教育者は自らの感情で軽々し   く言葉を言うてはなりませんぞ」
 石井「はい」
 校長「本校からそのような愛国少年が出るということは此れ程の   誇れな事はない。喜んで岡山の義勇軍養成所への手続きを取   る心算です」
 石井「長太君が・・・」

79 雪の農道
  おせつ。
  思い詰めた表情のおせつは足早に通る。

80 冠雪の蒜山三座
  人間の営みなど知らぬ様に泰然自若としている。

81 教室の中
  石井、おせつ。
  石井が窓より寂しげな表情で眺めている。
  おせつが入ってくる。
 おせつ「先生様」
 石井「お母さん」

82 田舎のバス停
  バスが止まる。

83 82と同じ
  柳井明文。
  バスがが発車した後に海軍の制服の柳井明文が立っている。

83 81と同じ
  石井、おせつ。
 おせつ「まだ十二の子供に何が出来ますかいの」
 石井「長太君から聞いてみますから」
 おせつ「なんとか考え直すように・・・」
 石井「長太君の純粋な心、その小さな心で国のことを考えている   ・・・」
 おせつ「お雪ちゃんのお父が戦死なされた、その前に私の兄が来    て学校を卒業したらお国のために尽くせと・・・それから    長太は変わってしもうた」
 石井「お母さんには長太ちゃんが頼りですものね」
 おせつ「はーい。それじゃあよろしゅうお願いいたしますじゃ」 石井「はい」

84 校庭
  小使いさん。
  終業時の鐘を鳴らす小使いさん

85 教室の中
  石井、子供たち。
  石井が窓の外を眺めている。
  がやがやと入ってくる。
 石井「さあ、みんな席について」
  それに応えて席に着く。
 石井「今日はこれで終わりです。(健次に)ああ、健次くん大きなく    しゃみはしないように、雪崩になると大変ですから」
  みんな笑って「そうじゃ」「そりぁ大変じゃ」
 健次「(頭を掻き掻き)はーい」
 花江「起立、先生さようなら」
 全員「先生さようなら」
 長太「(少し遅れて)先生さよなら」
  みんな笑った。
 石井「皆さんさようなら、明日も元気で来るのよ」
  ワーと言ってストーブの傍に自分の履物を取って、
 花江「わぁ、暖かい」
 健次「こりぁーあたたけえのう」
 春子「これなら足がポカポカする」
 雄三「ふっくらとしていて気持ちいいや」
  他の子供たちもてんでに言う。子供たちは帰る。
  じっと何かに耐えている長太。それを見ている花江。
  その間石井は長太の表情を時折見る。
 お雪「先生、(泣き顔で)せんせい・・・」
 石井「お雪ちゃん、元気を出すのよ」
 お雪「うん、うん、うち負けんよ」
   お雪、教室より走り出る。
 石井「お雪ちゃん」
 健次「おゆき!」
   健次叫んでお雪を追った。春子も雄三も追う。
 花江「先生うちのおっとうは・・・」
 石井「大丈夫、元気ょ」
 花江「そうじゃね、先生さようなら」
 長太「わしゃ帰る」
 石井「長太君、待って・・・」
 長太「お母が来たんじゃろう」
 花江「うち、外で待つとる」
 石井「花江ちゃん・・・」
 花江「うち、話の邪魔せんょ。何時も長太ちゃんと一緒に帰っと   るけえ」
 石井「そうね、じぁー」
  花江、校庭へ出る。

86 校庭
  花江。
  花江出てきて、木の根子の下で雪の上に漢字を書いている。

87 教室の中
  石井、長太。
 石井「本当に行くの」
 長太「うん」
 石井「どうしても」
 長太「うん」
 石井「お母さんやお婆ちゃん、をほったらかしても平気なの」
 長太「そりぁー」
 石井「なぜそのことを一番に考えないの」
 長太「じぁやけえど・・・日本の國が負けよるんじゃ。家の事な   ど言うておられんけえ」
 石井「銃後を守ることも立派な愛国心なのょ」
 長太「先生はわしに行くなと・・・」

88 廊下
  校長。
  校長が立って聞いている。
  咳払いをする。

89 87と同じ
  石井、長太。
  石井、視線を廊下に投げて。
 石井「そうはいっていないわ、でも・・・」
 長太「先生が行くなというのじゃつたら・・・」
 石井「いいえ、それは・・・」
 長太「先生、わしは生きとうねえ。なんで、お母やお婆、妹を置   いてけりゃあ。村長さんが行けと言うて来たとき・・・お雪   のお父が戦死して・・・。行くと言うてしもうた」
 石井「長太君!」
 長太「恐い、行きとうはねえ。行くなと言うてくれ」
   石井、廊下の方を窺って、
 石井「何にも言えないの、言いたいこと、言わなくてはならない   ことが胸に支えているけれど・・・」
 長太「先生!」

90 教室の外
  校長。
 校長「長太よく決心をしたの。それでこそ日本男児じゃ。天子様   に頂いた命を捧げるのが忠君愛国の精神というものじゃ。満   州で頑張るのじゃぞ。後に続く本校の後輩のためにもいい見   本となることじゃろうて」

91 教室の中
  石井、長太、校長。
 長太「先生」
 石井「長太君」
  長太、机に行って、一枚の絵を取って来て、
 長太「これ・・・」
 石井「わたしに・・・」
 長太「うん」
 石井「きっと大切に(と胸に抱く)」
 長太「さようなら」
 石井「ちょうたくん」
  長太が走りでる。後を追おうとする石井。
 校長「先生、よかったんですよ。この時世に私らがしてやれるこ   とは元気でいてくれよと祈る事しか出来ないのですからな」  校長は出ていく。

92 90と同じ
  石井、花江。
  石井窓から見ている。
  花江飛び込んできて、
 花江「先生、長太ちゃんどうしたん」
 石井「追い掛けて、先生が良く考えてと言っていたと伝えて」
 花江「うん」

93 山麓にある寺院の書院
  石井、住職。
  石井、机に向かって何やら書いている。
 住職「お邪魔かな」
 石井「いいえ・・・」
 住職「悩みがありそうじゃな。言うてみなされ」

94 飛び立つ戦闘機
   特別攻撃隊の出陣の様

95 岡山駅
   石井、おせつの顔。
   窓を閉じた列車。見送る人々。静かに見送っている。

96 深緑の蒜山三座

97 校庭(二十年の初夏)
  雄三、春子、佐助、道夫。
  雄三、座り込んでいる春子に、
 雄三「大丈夫かい」
 春子「うん」
 雄三「もう僕は腹ペこだょ」
 春子「私も」
 雄三「疎開者といって食べる物はくれないし、ここのところ藷ば   かり食べて下痢ばかりしている」
 春子「東京のみんなはどうしているかしら」
 雄三「東京は空襲で大変らしいね」
 春子「家が焼けていなければいいけれど・・・」
 雄三「お父さんやお母さんは長野へ疎開したからいいけれど、友   達は・・・」
 春子「集団疎開をした」
   佐助と道夫が出てきて。
 佐助「おめえら何しょんなら、食べるだけ食べて何もせんとこの   村から追い出すぞ」
 道夫「そうじゃ、疎開もんは厄介もんじゃ」
 佐助「はよう、野山へ行って蕨に土筆を薇を取ってけえ」
 道夫「はょういけ!」
   「はい」と雄三、春子走って逃げた。

98 教室の中
   健次。
   健次とぼとぼと出てきて、何かに踏ん切りを付けたように。 健次「敵艦前方五千、魚雷発射用意、撃て。わぁー命中。イ号八   は日本一の潜水艦少々のことでは沈まんぞ・・・。爆雷攻撃   に備えて深度を下げろ・・・。はい。五十、六十、七十。
   右舷四千に駆逐艦を発見、魚雷発射用意、発射、わぁー・・   ・」
   健次教室の中を走り回った。

99 教室の外
   石井。
   耐えている石井。
   教室へ入って行く。

100 教室の中
   石井、健次。
   石井、そうと入ってきて健次を見つめている。
 石井「健次くん(声が詰まった)」
 健次「せんせい!(石井の胸に飛び込んだ)」
 石井「健次くん、先生は何と言えばいいの」
 健次「お父が・・・」
 石井「知っているわ」
 健次「先生、イ号八が沈んだなんて嘘じゃな、出鱈目にきまっと   らぁなあ」
 石井「(うつむいて)そうよそう。きっと何かの・・・」
 健次「先生もそう思うか」

101 教室の外
  校長。
  苦々しい顔で聞いている。

 石井「大丈夫。健次くんのお父さんは強い人、泳いででも帰って   くるわ」
 健次「そうじゃ、お父は強いんじゃ。何もかも嘘じゃー」
   健次走った。石井、その後を追おうとしたが。

102 教室の中
  石井、校長。
  石井に近寄りその背に、
 校長「先生!」
 石井「はい・・・」
 校長「等閑の言葉が一時は辛さを忘れさせても現実の前では嘘に   なるのですからな」
 石井「私は・・・」

103 蒜山三座
  柳井明文中尉
  白い雲の中に柳井の顔がオーバーラツプ。
  柳井は白い海軍の制服で敬礼。
 柳井「・・・今夕日が茜色に雲を焼きながらが沈もうとしていま   す。あす、自分はこの夕日を見ることは出来ません。自分の   学友、戦友は一足先に九段へ参りました。・・・良い先生に   なってください。
             神風特別攻撃隊 三○一大和隊
                  海軍中尉 柳井明文

104 教室の中
  石井、校長。
 校長「・・・さぞ辛いでしょうな・・・。柳井中尉は・・・」
 石井「あの方は、お国のために・・・」
 校長「忠君愛國、一億一心、みんなお国のため・・・」
 石井「私はどうすれば、これから・・・」
 校長「甘えてはおられませんぞ。先生だけではありませんぞ、お   雪にしても、健次にしても・・・この私にしても・・・」
 石井「校長先生・・・」
 校長「私の倅は将校として腹を切ることも出来ん疎か者じゃ」
 石井「それでは・・・」
 校長「沖縄にいた。女子低身隊と一緒に岸壁から海へ・・・」
 石井「知りませんでした」
 校長「この村の若者を、男を忠君愛國、一億玉砕を唱え出征させ   た・・・」
 石井「もう嫌です・・・」
 校長「許されませんぞ、子供たちを見捨てるというのですかな。   今どこかしこで悲しみにくれている人が沢山おりましょうな   、その人達のためにも私達はその手本として・・・」
 石井「出来ません・・・」

105 教室の入り口
  おせつ。
  おせつが骨箱を胸に提げて入ってくる。
 おせつ「先生様・・・」

106 教室の中
  石井、校長、おせつ。
  石井、振返る。
 石井「はい」
 おせつ「これがなんかわかりますかいのう」
 石井「ええ!」
 おせつ「長太の骨ですんじゃ、ように見てつかあさい」
 石井「長太君の・・・どうして・・・」
 おせつ「こんな姿で帰ってきましたがのう」
 石井「(両手で顔を被った)・・・」
 おせつ「あん時、先生に長太を留めてつかあさいとお願いいたし    ましたわな」
 石井「はい。(声が小さい)」
 おせつ「あん時留めてくださりぁ長太もこげん姿で・・・」
 石井「(骨箱に手を差し伸べる)・・・」
 おせつ「さわらんで下せえ、あんたは人でなしじゃ、嘘つきじゃ    」
 校長「何と言うことを、血迷うてからに、ええかげんにしなさい   よ。石井先生は・・・」
 石井「私が悪かったのです、私が・・・」
 おせつ「長太を返せー」
 校長「(お節を引っ張りながら)それ以上言うと憲兵に引き渡し   ますぞ」
  校長、おせつを教室から連れ出した。
  石井、とぼとぼ歩いて、窓の傍へ。そして、思いついたように  、教壇の辺りへ。

107 蒜山三座
  深緑に咽せている。
  石井の声「長太君、せんせいはどうすれば良かったの」

108 教室の中
  石井。
  教壇に中から長太の描いた絵を取り出して、石井は長太の机の  傍に立って、
 石井「許して、もう少し勇気があれば、行くなと言えたのよ。長   太君を殺したのは私。・・・でも、あの時どうすれば良かっ   たというの」
 (絵をじっと見入るだけの処理で石井の心理を出せればいい)
  石井はそこえ泣き伏した。

109 蒜山三座(昭和二十年の八月十五日)
  蒜山三座をバツクにして、
  天皇の全面降伏の放送が流れている。
  「朕念うに抑・・・タイヘイヲヒラカントホツス・・・」

110 学校の校庭
  校長、石井。
  校長、敬礼をして聞いていたが、その場にへたり込む。

111 村の寺院の書院
  住職、石井。
  住職、お茶をたてている。その前に石井が座っている。
  巧みな手前である。碗を茶筅で打ち鳴らして、
 住職「終わったか、だが、今日からが本当の戦いかもしれん」
 石井「(作法に則り戴きながら)いいお手前でございました」
 住職「愚かなと言う言葉で、何の為の戦であったのか。歴史が何   の役にもたっておらん」
 石井「私はこれから・・・」
 住職「何もかもが新しくなるが、もう、まやかしの政では進駐軍   も許してはくれん。まして国民は・・・」
 石井「私は、教え子一人救うことも出来ませんでした」
 住職「(笑って)私など、それこそ何もしてやることが出来なか   った。成仏の経が何の役に立つ。何も入っていない骨箱に経   をあげて」
 石井「これからどのように・・・」
 住職「過去を教材にして、本当に人間に必要な真実を捜すのじゃ   な」
 石井「あるのでしようか」
 住職「ある。と思わなくては何も生まれんからな」

112 校庭(中秋)
  子供達。
  校庭で賑やかに遊んでいる。「若鷲の歌を唄っている」

113 教員室
  校長、石井。
  石井、窓から子供達を見ている。

114 校庭
  子供たちに交じって、長太が走っている。
  真っ赤な夕日の中を、走っている。

115 教員室の窓
  石井、校長。
  石井、身を乗り出して見つめている。
 石井「長太君(小さく言って)」
  教員室を走りでる。
 校長「石井先生!」

116 114と同じ
  石井、校長。
  今まで遊んでいた子供は一人もいない。
  走り出てくる石井。
 石井「長太君・・・ちょうたくん・・・」
  校庭を走りながら叫ぶ石井。
  校長も出て来て、石井を捕まえようとする。
 校長「石井先生、どうされたんかのう」
  校長、石井を捕まえて、
 校長「何があったんですか」
 石井「長太君が、走っていたんです」
 校長「先生は疲れとるんですよ」
 石井「長太君を殺したんは、この私なんです」
 校長「それは、この私を攻めているんですかな」
 石井「いいえ、あの時、先生が行くなと行うんなら行かないと」 校長「この私が、村長が、割り当てられた数合わせで・・・」
 石井「でも、あの時私に勇気があれば・・・」
 校長「引き止めていたら憲兵に・・・」
 石井「その方が・・・」
 校長「長太君はより苦しんだのでは・・・」

117 蒜山三座
  紅葉が鮮やかである。

118 村の寺院(石井の部屋)
  窓から蒜山三座が見える。
  石井、石井文造。
 文造「苦しいか、苦しいから教師を辞めて母さんの所へ帰りたい   か」
 石井「・・・」
 文造「おまえ一人が苦しいのか」
 石井「それは・・・」
 文造「それで逃げ出したいのか」
 石井「教え子一人救うことが出来なくて・・・」
 文造「何が教師かと言いたいのだな」
 石井「少しの勇気があれば・・・」
 文造「救えたのか、本当に」
 石井「それは・・・」
 文造「私も多くの傷兵を殺した。それが罪なのだろうか」
 石井「お父さん!」
 文造「助かると分かっていても、なにもなかった、何もしてやれ   なかった。見ていてやるしかなかった。いくら励ましの言葉   をかけても、それは無力の自分を責める言葉として返ってき   た」
 石井「お父さんと私は・・・」
 文造「違うか、違うというなら違ってもいい。私は死んで行った   傷兵の事を何時も心の置いて、これからの医療を考えていこ   うと思う。そう御霊に誓ったのだ。それが生き残ったものの   務めだと気づいたのだ」
 石井「生き残ったものの務め・・・」
 文造「地獄・・・戦争とはこの世の地獄・・・」
 石井「地獄・・・」
 文造「もう一度教壇に立って、長太君に償え・・・」
 石井「償う?」
 文造「おまえが教師を続け、長太君を二人と出してはならん、そ   の事が長太君への償いになるということだ」
 石井「長太君を二人と出してはならん・・・」

119 校庭
  子供達、石井。
  走り回っている。

120 教室の中
  石井、子供達。
  教壇に立つ石井。子供たちは席に着いている。
 石井「先生は、考えました。
    私の教え子を二度と戦場にやらない。
    子供達をふただび飢えさせない。
    お母さん達の健康を守ります。
   皆さん、よく聞いてください。この考えは長太君への誓いな   のです。長太くんに相談をかけられ、先生が行くなと言うの   なら行かないと言われましたが、行かないでと言う勇気があ   りませんでした。間違ったことをしたのではありませんが、   そのように言うことが教育だったのです。そのように習った   のです。それを教えました。
   ですが、これからは、どんなことがあっても私の教え子を守   ります。それに、言っておきたいのは、人間にとって必要な   のは、少しの勇気と少しの努力です。その差は大きくなれば   大きな開きになるものだということを気ずきました」

121 教室の外
  おせつ。
  おせつが立て聞いている。

122 教室の中
  石井「戦争は絶対に嫌です。あなたがたが大きくなって、親に    なったら戦争のことを話してほしいのです。私も長太君の    事を話し続けていきます」

123 121と同じ
  おせつ、校長。
  おせつ、校長を見て、
  教室の戸を開けて飛び込む。

124 121と同じ 外から中へ
  石井、子供達、おせつ、校長。
  おせつ、飛び込んできて、
  膝ま付き、
 おせつ「先生様、あの節は誠にすいませなんだ。どうにかしとつ    たんですらあ、後で先生が・・・」
  花江が立って、
 花江「うち、先生のように考えてと言うことずてを長太ちゃんに   伝えたもん・・・長太ちゃんはもう済んだと言うて走ったも   ん」
 石井「いいのよ、いいの」
   花江、石井の胸に飛び込む。

125 新幹線の車内
  佐武。
  佐武窓の外をじっと見つめている。
  林立するビルが車窓から見える。

126 林立するビル
  そのビルがぼやけて、

127 蒜山三座
  冠雪の峰

128 東京駅のホーム(現在。新幹線「のぞみ」)
  ホームに滑り込む「のぞみ」

129 丸ノ内
  人込みの中を矍鑠と歩く佐武。

130 東京の町並
  若者がたむろして大手を振って歩いている。

131 不安な状況が新聞に載っている。

132 靖国神社
  参拝の人々で溢れている。

133 国会議事堂

134 蒜山山座
  冠雪の連峰に、
  子供たちの顔が流れ、長太の顔がアップ

              「おわり」