yuuの夢物語

夢の数々をここに語り綴りたい

蓮の露は・・・2

2007-10-15 03:05:40 | 創作の小部屋
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 良寛ゆかりの倉敷で生誕250年を記念しての公演台本を・・・。

一人芝居
蓮の露「はちすのつゆ」は・・・


    あれは、はじめて良寛さまにお目にかかったのは・・・十七の春。
    長岡藩士奥村五兵衛の娘ますことして生まれました。母は長患で他界し、家の米櫃は空っぽ・・・。口べらしの為に、早く嫁に行けとの父の胸の内・・・。そのように思うては・・・。きっと、自分の娘でいるよりは幸せを掴めるであろうとの父の想い・・・。いいえ、何もかも、時の運び、北魚沼郡の小出で医者をしておられた関長温(せきちょうおん)から話があり、これも定めと決め縁の糸を結び輿入を・・・。
    花嫁籠の中で、
    「汝がつけば 吾はうたひ あがつけば なはうたひ・・・」
    「ひい ふう みい よう・・・」
    こども達の燥ぐ声とともに聞こえたのが、良寛さまのお声でした。
    無論その時、そのお声が良寛さまだとは・・・。
    わたしは、籠の引き戸をずらせて、面長な輪郭の中に、はっきりとした目鼻唇、頬の肉が反り落ちているようで、より、耳の大きさを・・・霞みそうが群れをなして咲き・・・
    その時、何故かこの出会いは唯一度のことではないと感じたのです。
    人の妻への道程のなかでそのように感じたのは不貞なのでしょうか?
    そう思った報いなのでしょうか、嫁いでの五年の日々は地獄でございました。
    頼りない夫、口うるさい小姑、何事にも細かく厳しい姑、口性の喧しい小働きの女たち。
    本が読め、紙に硯、筆、その中で子を為してと考えていた私は、夫の医療の手伝い、待合の人達へ 薄い番茶を、薬の調合と、毎日が忙しく、自分の時間などとてもとても。
    夫との寝やの床は、障子を隔てての側に姑の床がと言う、私の行いの総てが見張られているようで・・・。
    「まだややが出来ぬのか?」との姑の叱責するような言葉。
    「若奥様はお可哀相じゃ、主人は不能で種なし茄子・・・」
    「ほころびかけた牡丹の花の滾る蜜は梔子の花の香り・・・。若奥様はどのよう になさっておいでなのかしら」
    小働きの女の陰口。
    ほころびかけた牡丹の花、梔子の匂い、その事も知らずに・・・、いた私が漸く分かり、顔を赤くし俯きました。
    五年間、そんな時の流れの中で、待合に客が落とす良寛さまの噂、歌がどうしたの行いがどうだったのと、それが、せめてもの慰めでありました。
    夫が丹毒であっけなくなくなり、私は着のみ着のまま里へ返されました。

    ほっとしました。
    家に帰りましても、子持ちの誰だれの後添いに、大店の隠居の妾にと。
    私は、逃げるように家を出て、柏崎の乳母を頼って・・・。
    その乳母も、二ヵ月もしないうちに逝かれ、拝みにこられた心竜尼様に出逢ったのです。
    たしか十二の時に、
    長岡からは海は遠おく、一度乳母に手を引かれ柏崎へ・・・。その時初めて海を・・・。その広さに圧倒され茫然と眺めたこと・・・。汐の音になぜか身体が熱くなり・・・。月・・・。
    二十三の時は、
    柏崎からの海の眺めは大きな川の流れに見えました。何一つ同じものがない砕ける波濤、その音の凄まじさ。まるで大きな生物が、広がる空の中へ溶け込み一つとなって消えていくというふうに。
    その姿に、人間の迷いや喜びはなんと小さいものかと、心の中にあったものが吹き飛んだように・・・。
    白いふんわりとした雲はいつかみた良寛さまのお姿に変わり、無邪気に戯れるお姿に、嬉々とした笑顔に・・・。
    それは、この私を仏の道へと・・・。
    私は、良寛さまと同じ仏の使いとしてその道を辿りたいと・・・。
    私は、柏崎は閻王(えんおう)寺の庭に立っておりました。
    帰るとことてないわたしは、そこに住込み、寺女のように働きました。
    髪を切ると、眠竜尼さま、心竜尼さまに申し出たときには、
    「そんな若さで出家しても通しきれるものではありません」
    相手にしては貰えませんでした。
    今までの、総てを過去のものとして、新しく出なおしたい、その願いが届くまでには時が過ぎましたが・・・。
    一年後、二十四まで慈しんだ髪を落としました。
    「ほんに勿体ない、未だ今のうちなら間に合うから」鋏と剃刀を入れながら何度 溜息をつれたことか。
    「艶やかな黒髪、白い餅肌ゆえに余計に映えて・・・綺麗じゃな」
    「未練はございません、どうぞ宜しくお願いいたします」
    「剃った後の顔も、なんと美しい」
    心竜尼さまはふつくらとした顔を綻ばせていった。
    「この長い髪は取っておくように」
    眠竜尼さまが元結(ひも)で根元を束ね、奉書に包んでくれた。
    白い襦袢も墨染の法衣も頂き、着けてみた。
    何やら身が軽くなったような、心まで清められたような・・・。
    「まるで、小僧さんのように可愛い」
    「なんと可愛い比丘尼(びくに)じゃろうか」
    剃り落とした青い頭を見られて、お二人はまるで子供のように燥いでおられた。それから、お二人を 師匠にして色々と学んだのでございます。
    これで、良寛さまと同じになれた、その思いの方が強をございました。
    あれから・・・。あれから二年の歳月が・・・。
    今は・・・。
    鳥達も冬の支度を終えて・・・。

                                暗転

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皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・

恵 香乙著 「奏でる時に」
あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。

山口小夜著 「ワンダフル ワールド」文庫本化決定します・・・。
1982年、まだ美しかった横浜―風変わりなおんぼろ塾で、あたしたちは出会った。ロケット花火で不良どもに戦いを挑み、路地裏を全力疾走で駆け抜ける!それぞれが悩みや秘密を抱えながらも、あの頃、世界は輝いていた。大人へと押しあげられてしまったすべての人へ捧げる、あなたも知っている“あの頃”の物語。

山口小夜著「青木学院物語」「ワンダフル ワールド」の文庫本・・・。

作者のブログです・・・出版したあとも精力的に書き進めています・・・一度覗いてみてはと・・・。
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