yuuの夢物語

夢の数々をここに語り綴りたい

瀬戸の夕凪 4

2007-10-10 19:41:22 | 創作の小部屋
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倉子城物語
  瀬戸の夕凪


「作兵衛の家はどこだい」

 棟割り長屋は通路を挟んで同じ建て方で向かい合い、中央に井戸を置く。入り口は半間の板戸の障子張り、三和土を挟んで台所に板張の仕事場、障子を開ければ四畳半、押し入れ、障子に二尺の濡れ縁と雪隠、突き当たりが隣の板の塀。

 商家の家作は殆どこんな具合に決まっていた。

「作兵衛、そんな人がいたかね」

 と井戸で大根を洗っていた狐のような顔の女が言った。

「居ると聞いて来たんだ」

「そういゃあ、隣の奥に・・・」

 嘉平は聞くか聞かないうちに、ありがとうよ、と言って、走っていた。

 同じ風景だ。入り口を軽く叩いた。返答がない。強く叩いた。

「御免よ」と声をかけて、引いてみた。重い音だが動いた。

「居るのかい、それとも留守かい」と声をかけながら入った。

 すえた匂いが鼻を突いた。

「この分じゃあ、長旅に出ているな、ひょつとしたら帰らえねえかも知れねえ」

 不憫なおさよを思った。

 嘉平は部屋の中をじっくりと見た。

 なにもない、貧相な男一人の部屋だった。仕事場には、二尺ほどに切った木株があった。嘉平は目を凝らして木株を見入り、手で撫ぜてみた。

 金銀の粉が指先に着いた。

「錺(かざり)職人だな」と嘉平は当たりをつけた。

「作兵衛は錺職人かい」とおさよを見舞って問った。

「居所が分かったのですか」おさよは起き上がろうとした。

「無理をすることはないよ。ああ分かった、だが逢えなかった」

「私をそこへ連れていってください」声に張りが出てきていた。

「きっと、作兵衛とやらとの段取りは着けるから安心しな」

 嘉平はそう言って帰ろうとした。そういやあ、店をほったらかしている事に気づいた。「お願いのついでといえば厚釜しゅう御座いますが、これを作兵衛さんに渡してくださいませんか」と言って、包みから簪を取り出して、嘉平へ渡そうとした。

「貴女はもしや、お武家の・・・」

「はい」おさよは俯いた。その細いうなじが嘉平の心を震わせた。それはおさよの定めを表していた。嘉平はもう何も言えなかった。

 おさよは少しずつ語り始めた。


皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・

恵 香乙著 「奏でる時に」
あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。

山口小夜著 「ワンダフル ワールド」文庫本化決定します・・・。
1982年、まだ美しかった横浜―風変わりなおんぼろ塾で、あたしたちは出会った。ロケット花火で不良どもに戦いを挑み、路地裏を全力疾走で駆け抜ける!それぞれが悩みや秘密を抱えながらも、あの頃、世界は輝いていた。大人へと押しあげられてしまったすべての人へ捧げる、あなたも知っている“あの頃”の物語。

山口小夜著「青木学院物語」「ワンダフル ワールド」の文庫本・・・。

作者のブログです・・・出版したあとも精力的に書き進めています・・・一度覗いてみてはと・・・。
恵 香乙さん

山口小夜子さん

環境問題・環境保護を考えよう~このサイトについて~
別の角度から環境問題を・・・。
らくちんランプ
K.t1579の雑記帳さん
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太鼓橋 6

2007-10-10 02:55:19 | 創作の小部屋
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倉子城物語
太鼓橋(たいこばし)

 6
 
「生きているといろいろとあるね・・・ここでの二十年間嘉平さんは必死に生きていたね・・・」
 お鹿はそう言って雨にたたかれる銀杏を眺めていた。
「わたしゃ、この四十年ここで待っている・・・あの人は島から帰ったらきっと帰ってくると言ったから」
「娘のようななおたねをつれてこの倉敷へ・・・なにもなけりゃあそんなことはしなえ・・・。お鹿さんの・・・人の裏も表も知っているお鹿さんの想像に任すよ・・・」
「嘉平さんは一体何者だい」
「髪結い・・・床屋さ」 
 嘉平は笑って言った。屈託の無い頬のゆがみのようだったが哀愁が漂っていた。
「諸中肩が凝っている」
「重たいのかい・・・」
「背負っている荷物が重いのかもしれなえ」
 嘉平は素直に喋った。
「おたねさんは今何歳に・・・」
 お鹿が尋ねた。
「さあ・・・三十三四になっているだろう」
「女の盛りだ・・・夫婦になっていないね・・・」
 嘉平はそう言われて驚いた。お鹿の眼力に一瞬たじろいだ。
「やはりね、嘉平さんらしいよ・・・でもそれではどちらも寂しい生き方を送ることになるよ」
「お鹿さんにはそう見えるかい」
「早く夫婦におなりな・・・おたねさんが可哀想だよ」
 夕立が少し小降りになりかけていた。銀杏のざわめきが少しだが静かになっていた。北の空が明るくなり広がり始めていた。
「好いて好かれていてどうして・・・江戸で何かやんごとないことがあったんだね」
「心の中にじっとしまっておかなくてはならないことの一つや二つはあるものだよ」
 嘉平はおたねの心を測りかねている自分をしっていた。それに・・・。これは例え何人にも漏らしてはならない秘密を嘉平はかかえていたのだった。
「夕立はいいねえ、通り過ぎるとぱぁと晴れて・・・人の心もそうはならないかね」
 お鹿がしみじみと言った
「今度通り雨の時に雨宿りをしたときにでも話すよ・・・あっしの話もそこらあたりに幾らでも転んでいる話だが・・・」

 おたねは引き戸を開けて夕立のしぶきを眺めながら嘉平を思い・・・あの最初の出会いを思いだしていた。


皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・

恵 香乙著 「奏でる時に」
あいつは加奈子を抱いた。この日から加奈子は自分で作った水槽の中で孤独な魚と化した。

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