倉子城物語
瀬戸の夕凪
4
「作兵衛の家はどこだい」
棟割り長屋は通路を挟んで同じ建て方で向かい合い、中央に井戸を置く。入り口は半間の板戸の障子張り、三和土を挟んで台所に板張の仕事場、障子を開ければ四畳半、押し入れ、障子に二尺の濡れ縁と雪隠、突き当たりが隣の板の塀。
商家の家作は殆どこんな具合に決まっていた。
「作兵衛、そんな人がいたかね」
と井戸で大根を洗っていた狐のような顔の女が言った。
「居ると聞いて来たんだ」
「そういゃあ、隣の奥に・・・」
嘉平は聞くか聞かないうちに、ありがとうよ、と言って、走っていた。
同じ風景だ。入り口を軽く叩いた。返答がない。強く叩いた。
「御免よ」と声をかけて、引いてみた。重い音だが動いた。
「居るのかい、それとも留守かい」と声をかけながら入った。
すえた匂いが鼻を突いた。
「この分じゃあ、長旅に出ているな、ひょつとしたら帰らえねえかも知れねえ」
不憫なおさよを思った。
嘉平は部屋の中をじっくりと見た。
なにもない、貧相な男一人の部屋だった。仕事場には、二尺ほどに切った木株があった。嘉平は目を凝らして木株を見入り、手で撫ぜてみた。
金銀の粉が指先に着いた。
「錺(かざり)職人だな」と嘉平は当たりをつけた。
「作兵衛は錺職人かい」とおさよを見舞って問った。
「居所が分かったのですか」おさよは起き上がろうとした。
「無理をすることはないよ。ああ分かった、だが逢えなかった」
「私をそこへ連れていってください」声に張りが出てきていた。
「きっと、作兵衛とやらとの段取りは着けるから安心しな」
嘉平はそう言って帰ろうとした。そういやあ、店をほったらかしている事に気づいた。「お願いのついでといえば厚釜しゅう御座いますが、これを作兵衛さんに渡してくださいませんか」と言って、包みから簪を取り出して、嘉平へ渡そうとした。
「貴女はもしや、お武家の・・・」
「はい」おさよは俯いた。その細いうなじが嘉平の心を震わせた。それはおさよの定めを表していた。嘉平はもう何も言えなかった。
おさよは少しずつ語り始めた。
皆様御元気で・・・ご自愛を・・・ありがとうございました・・・
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