yuuの夢物語

夢の数々をここに語り綴りたい

小説 冬の空 1

2006-03-20 19:33:40 | 小説 冬の空 
この小説は 海の華の続編である 冬の華の続編である 春の華の続編である 夏の華の続編である 秋の華の続編である 冬の路の続編である 春の路の続編である 夏の路の続編である 秋の路の続編である「冬の空」は彷徨する省三の人生譚である。
この作品は省三40歳からの軌道です・・・。ご興味が御座いましたら華シリーズもお読み頂けましたらうれしゅう御座います・・・お幸せに・・・。

 
サイズ変更サイズ変更DSC03958.jpg
 
  冬の空  どんよりと覆う空は 心を閉ざすのか・・・。


 
  冬の空

 1

 悠一の手術、豊太の交通事故はあったが恙無く日はめぐり過ぎていた。悠一も豊太も高校生になっていた。一人で喫茶店を仕切る育子は強く逞しくなっていた。
 省三は時たまの発作以外は健康になっていた。
 戸倉の手伝いで青年演劇の台本を書き、過ごした。演劇青年は常に入れ替わっていた。
 春、秋の定期公演と青年祭への参加作を省三は書いた。青年演劇の台本は百作を超えていた。
 順子も芳子も嫁にいき子供の母になっていた。古賀が交通事故で亡くなっていた。
 省三は子供を中心にした劇団を設立した。隣の空き地にスタジオを作った。七十人のキャバのものだった。
 集まった子供たちは、苛められっ子、不登校の子が大半で。親が演劇すきで連れられてくる子も中にいた。
 発声練習の中に九九を二十までと歴史年表、科学記号、元素記号と比重を加えていた。演劇の練習でいずれ役に立つものを覚えておこうというものだった。最初は十人くらいだったが直ぐに三十人四十人と増えていった。それに青年たちが十名程いた。悠一と豐太もそれに加わった。
 稽古場のスタジオが狭く感じられた。柔軟体操や脱力が出来ない、三班に分けた。二班はその間外を走らせた。
 ハァハァと息が上がっているときに発声の練習をさせた。子供は殆ど活舌が出来ていなかった。
「みんな、感動した生活をしてくれ」「感動を知らぬものが感動を人に伝えられないから」「感動とは心が動き心に残ったものなのだ」
 省三はみんなに言った。
 一人ずつ一日の感動を喋らせた。ワークショップは議題を設けてさせた。
 みんなに一冊ずつ井上ひさしの「ブンとふん」を渡して回し読みをさせた。本を読んだことのない子が大半いたからだった。読書の面白さを知ってほしいというのがその目的であった。それが演劇に役にたつと思ったからだった。
 通達事項は当用漢字以上の漢字を使って書いて渡した。辞書を引く習慣を持って貰う為だった。台本も漢字を覚える為に当用漢字を使おうと思っていた。
 礼儀は喧しく言った。出来ていない子は何回も階段を上がらせて挨拶をさせた。スタジオの掃除は徹底させた。子供といえどもやらせた。履き、モップ掛け、ワックスがけ、トイレの掃除と当番を決めてやらせた。子供たちを二十人に絞りたかったので厳しく言ったのだった。が、二三人やめただけでその目論見は失敗に終わった。みんな真剣についてきていた。子供以上に親が真剣になっていた。苛められっ子、不登校の子がここぞとばかり張り切っていた。
 一月もたたないうちに仲間意識が生まれ、結束力が強くなってきた。打ち解け助け合いが広がった。
 早口言葉を競い合う姿が見られた。スタジオには笑いがはじけていた。
 青年は四班に分かれた子供たちのなかに三人入って指導をし、練習をしていた。
 子供たちが帰って、青年たちの本科的な練習になるのだった。
 青年活動というのは公共施設を使えば時間という制限があった。公民館は九時には閉まるのだった。仕事を終えて駆けつけるのが八時半を過ぎることもあったことを見てきていた。その人たちに活動の門戸を開きたいというのも省三の考えだった。町には青年が目的もなく遊びうろついていたが、勤労青年は仕事を終え僅かの自分の時間に何か夢中になることを探していた。そんな青年に場所を提供したかった。市や県に時間延長を申し出たが「うん」とは言わなかった。青年会館の建設とその自主運営を青年にと提言したが実現しなかった。演劇の練習がないときは場所を提供し、子供も青年も集えるようにしていた。ここに来れば誰かがいて色々な人と出会い、話が出来るようにと考えたのだった。演劇の練習見学は自由にしていた。
 子供たちや青年たちと学び合おうと言うのが省三の目的だった。
「なんと見事な平城京」「鳴くよ鶯平安京」「いい国作ろう鎌倉幕府」「以後予算食う鉄砲伝来」
 練習日には発声練習で子供たちの声が聞こえていた。その声を聞きながら省三は台本を書いていた。総勢五十名が何らかの形で出演できるものをと考えての創作台本だった。一生の思い出になるものをという気持ちが取り掛かったのだった。劇団旗揚げには新しく出来た芸文館で公演をしてという思いがあった。八百三十のキャバをどう埋めるか、経費はどうするか、そんなことを考えながら書き進めていた。
「演劇にはお金がかかるから大変よ・・・。いいスポンサーを見つけることやね・・・。私がそっちにいたらお金集めに歩いてあげるのにね・・・」
 梅木女史から電話がかかって来たときにそう言われた。梅木女史は書き物をしながら日本舞踊を習い始め名取を取ったといった。元々芸事の好きな人であった。
「もう物を書くのはしんどいわ・・・踊りのほうが性根におうてるようや・・・。流派を立ち上げようとも考えとんのやわ・・・」
 梅木女史は人間の底に潜む情念の世界に長けていた。今そのテーマでは書き続けることが出来ないのかと省三は思った。
「やめないで下さいよ・・・一度離れると帰りの扉は重たいし中々開きませんよ」
「いいのよ、どうせ気まぐれ時間つぶしに始めたことなんやから・・・今村ちゃんと一緒にやってた頃が一番楽しかったわ・・・。あのころ、亭主とうまく行ってなくて・・・賭けていたのよ・・・女流新人賞に・・・取れたら別れ様と・・・でも駄目やった・・・子が鎹やったわ・・・毎晩、今村ちゃんに電話して・・・あの時は楽しかったなぁ・・・。うちは女やった・・・。今は乳あらへん・・・乳がんの手術でとってしもうた・・・ずっしりとした重量感が懐かしいわ・・・。流派立ち上げのときは来てや・・・あたしの乳を見せるから・・・」
 梅木は明るく言っていたが、その寂しさが伝わってきた。
 省三は人の生き方に様々な影があるとこを知らされる思いだった。
 台本は中々進まなかった。
 倉敷で幕末に起きた事件を書くことにした。それなら出演者が百人はいるものだった。

サイズ変更k2.jpg

       時 現代と文久元年~元治元年~慶応へと交錯する。
       所 コンビナートの源内の書斎と倉敷村・石城山・浪速、
       下津井・連島・宝福寺・その他。
       舞台と人物は時と所を変えるが時空はいつも流れているという
        ふうに演じること
       舞台情景
       コンビーナートがある町の柿本源内の書斎。
       上手に障子に机、その周りに散乱する様々なもの。
       上手は様々な空間処理により舞台となる。
       下手には美観地区の町並みが造られている。
       石垣に垂れ下る柳。
       下手は劇中劇の装置である。が野外と庭としてトップが降りる
       ときがある。
       上手は屋内として・
       エピローグ
       開幕してすぐに女性(お竜)が、
       江戸の末期の様、内乱を語り、京の町からひとりの女性が消え
       た事を淀むことなく喋って下手へ
       1幕1場
       開幕するとホリゾントが燃えている。ゆっくりそれが落ちて、
       音により時代を感じさせる。
       上手の書斎がぼやりと明かりが入る。
       雑然としていて足の踏み場もない。
       源内は机に向かい、妻の静は洗濯物を畳んでいる。
       庭に五右衛門がのんびりと横たわり時に大きな欠伸をする。縁
       には三太郎が居眠りをしている
       人の気配に五右衛門がおきあがり吠えたたてる。
静  シー、五右衛門ちゃん、今日のような日はワンと泣いて番犬の務めをしょうなんて考えては駄目。
       静は五右衛門に源内の様子をパントマイム。
       源内は頭を掻き毟り呆然とし鉛筆を舐め、猛然と書き始める。
       庭先からお竜(妙齢の美人)が 現われる。
       五右衛門は知らぬ振りをして、お竜を見ていたが・・・。
五右衛門  キャン。
静  これ、キャンもいけません。旦那様の・・・。
       静がお竜に気づき怪訝そうに見る。
       お竜の視線と静の目線がぶつかる。
       二人暫しの無言。二人の何方かが口を開こうとして言葉がぶつ
       かる。その繰り返しが何度かなされている。
       源内が原稿を書きながら、
源内  静、すまんがなや、書庫に入って左に曲がり、突き当たって右に踵を回し、二列目を五尺歩き、上から二段目、下から四段目、その本段の左から二十冊目、右から百三十三冊目の「転んでも只で起きるな凡人よ」と言う本・・・。
       お竜との視線の応酬に辟易していた静が振り向き、
静  その「転んでも只で起きるな凡人よ」を取ってくればいいのですね。
源内  いやその隣の「転んでも只で起きてる凡人よ」がいるのだぞい。
静  ややこしい事ですこと。
   (お竜に)何か御用で御座いますか?
源内  おまえは何時から耳が遠くなったのかいなや。「ころんでも・・・」
静  何か御用でございますか?
源内  何を言うのだなや。さっきから・・・。
静  (大きく)分かっております。
源内  (原稿を読む)風のように、煙のように、音もなく侵入してきた。飼い犬の五右衛門が吠えたが、妻の静に諌められて尻尾を巻いて小屋へ入った。その時、主人の源内は原稿用紙に向かって臥薪嘗胆、艱難辛苦、一つの升目の語彙に拘っていたのを静が知って注意を与えたのである。
静  あなた、お客さま、ですよ。
源内 その時、「あなたお客さまですよ」と言う声が、源内の鼓膜を震わせた。
静  馬鹿馬鹿しい。
       静は立って洗濯物を抱え消える。
       猫の三太郎が大きな欠伸をして起き、お竜の傍へ、
三太郎  ニャーン。
お竜  あなたがあの有名な源内先生の愛猫の三太郎くんなの。
三太郎  ニヤーン、おひけいなすって、あっしが三太郎でありやす。生まれ在所は分かりやせん親父の顔おかんの顔さえ知りやせん。が清き流れの高梁川で産湯を使い、捨てられゴミになるところをここの主人に助けられ、二食付き昼寝付き、主人のストレス解消に撫でられ、蹴られ、踏み付けつけられて泣くこともありやすが、今はこうして開き直って大きな顔をしているが、とかく世間はややこしい、この世は住みにくい。猫の仲間に言いたいことは決して物書きの飼猫になるなーよということかニャン・・・。
お竜  ここの先生はそんなに気難し屋はんなのですか?
       五右衛門がノコノコと出てきて、
五右衛門  ワワワン、おいら五右衛門、生まれ落ちて直ぐに生木を裂くように親の元から離されてここの主人の世話になり、芸文館ホールの舞台を踏むのは今回で四回目。何をやらされるか。夏目漱石ではないが猫を主人公にして「我輩は猫である」を書き、井上ひさしは犬を沢山登場させた「ドン松五郎」を書き原稿料をせしめた。モデル料を貰ったのかしら・・・。おいらの主人はおいらや、三太郎、茶子兵衛をモデルにして書いて時間を潰す横着者、おいらは思うんだが、それではもっと待遇を良くしてくれたらいいのになーと。身近な処に題材を捜すより、広大無変の物語のイマジーを湧かせて世界一の長編小説でもものにしては如何かしら。その才能はなしかも・・・よ。ワワワン。それにしても今度は何を・・・ワワワンワン。
お竜  君が心優しい五右衛門君、餌の残りを捨て犬、猫に、雀にと・・・。君は忠犬五右衛門君なんやね。そやったら、ここの先生に感性雅性がないなどと言っては駄目ですえ。稀に見る頑固者、いいえ奇特なお方はんなんやか ら。
       茶子兵衛がすっ飛んで来て、
茶子兵衛  ニヤゴロニヤーン、あたいは茶子兵衛、小雨が降っていた夜のこと、ゴミステーションに捨てられ泣いていた処を、その泣き声に引き寄せられたように近付いて来られ、あたいの顔をみて、「腹が減っているのではないのかなや」とジャングルの様な頭、ごわごわした髭が顔全体を覆い、のから思っても見なかった優しいお声。雌の怪しげな眼差しを一杯篭めて、尻尾を振り振り「ニャーン」と泣きましたわ。主人は、おまえは震えているではないか、今宵の夕食の残り物のすき焼きがあるからして食べてみる気があるならついてこいと・・・、一宿一飯が縁になって・・・ニニヤーン。
お竜  まあなんと世間の風聞と違うのでしょやろ。動物を可愛がる人に悪人はいてへん・・・。来て良かったわ・・・。
三太郎
五右衛門 }ニニャワワワニヤンワンニーンワニヤン                                
茶子兵衛  ワニヤンワワワーワンニーヤン                                     
源内  泣くな吠えるなや、今が一番大切なクライマックスを書いているのだからして・・・。気難し屋さんとか横着者とか才能無しとか、と聞こえたがそれはもしかしてこの我輩のことではあるまいかなや。
三太郎  いいえでやすニャン
五右衛門}いワンでいワン。
       三太郎と五右衛門と茶子兵衛が唄う源内の唄

サイズ変更k10.jpg

              賢い主人は本が好き
 奥さん泣かす大馬鹿者
              なんでも大好き本の虫
 紙屑作りの文豪さ
              哲学文学心理学
 書いても売れない大作家
              新聞週刊月刊誌
 猫に小言の小心者
              ポルノ猥本暴露本
 犬を蹴飛ばす薄情者
              活字大好き読書好き
 影を恐がる臆病者
              不正に目瞑る勇気なし
 風呂でも浮いてる軽い者
              主人は得がたい反骨者
 そんな主人が大好きだ
              ワワニニヤーンワンワンニヤニヤーンワニワニーン
       この唄は延々と続いてもいい。
源内  胡麻すり、味噌すり、喧しい。
三太郎  旦那、お客さんでやすょニャーン。
源内  今が一番の・・・。
五右衛門  若くて美しい女性ですワン。
茶子兵衛  あたいのように可愛い猫・・・いいえお人、ニヤーン。
源内  若くて美しい女性、最近はとんとお目にかかったことがないぞい。
お竜  あの、源内先生でございまひょうか?
源内  そのすずやかなる声音はやはり女人のものだなや。
お竜  はい。私は女子でございますえ。
       源内は立って縁側へ。
源内  して、この我輩に何か用があるのですかなや。
お竜  今お忙しいとは十分に承知いたしておりますねんけど、此の様なお願い心苦るしゅう御座いますけど・・・。
源内  力になれればいいのだがなや。言うてみなされや。
お竜  私は三代目のお竜でおます。
源内  お竜さんといえば・・・。
お竜  はい。お察しの・・・。
源内  お竜さんと言えばあの坂本の竜チャン、たしか坂本竜馬殿の奥方の名と同じではありませんかなや
お竜  はい。その竜馬が薩摩の手にかかって憤死しはってから、京の旅館を封じ・・・
源内  横須賀の大商人と再婚されて・・・。
お竜  それは嘘で御座いますぇ。
源内  嘘ですかいなや。
お竜  お祖母様が可哀相、そんな淫らな女子ではおへん・・・。それからは、縁を頼りにこの倉敷に移り慎ましやかに生きて参りましたえ。
源内  歴史とはいい加減なものとは言え・・・。して、その頼りの方とは・・・。
お竜  さる、大店の旦那衆で御座いました。その方とは高杉晋作どのの所で竜馬があっておりましたさかいに。竜馬、この私の祖父に当たりますけど、今の世間で喧伝されているような人ではありまへんでしたわ。
源内  ほほ、貴女は日本の歴史を変えようというのですかいなや。
お竜  いいえ、真実を・・・。竜馬が評価されればされる程、祖母が可哀相に思えて参りましたんどす。
源内  もう世の中を騙すのが辛いというのですかなや。
お竜  へぇ。
源内  その真実は・・・。
       三太郎と五右衛門と茶子兵衛が・・・。
三太郎  また、何やらややこしい事になりそうでやすょニャーン・・・。
五右衛門  話が今度は、坂本竜馬となると・・・ワン。
茶子兵衛  海援隊の金八先生・・・違ったかしらニヤーン。。
五右衛門  ややこしくするなワワワン。
三太郎  江戸末期・・・でやすニャニャニヤーン。
五右衛門  明治維新前夜、ワワワンのワン。
三太郎  尊皇攘夷、公武合体、大政奉還、桜田門外の変、蛤御門の変、ニヤンニヤン。
五右衛門  吉田松陰、宮部禎蔵、大村益次郎、久坂玄瑞、高杉晋作、武市半平太、坂本竜馬ワワンワンン。
茶子兵衛  井伊直弼、徳川家茂(いえもち)、近藤勇、沖田総司、ニヤニヤンー。
五右衛門  今まで挙げた人達は・・・ワン。
三太郎  維新を知らずに死んだ人でやすニヤーン。
五右衛門  とすると、この中に・・・、いやまたその外に・・・ワンワワワン。
茶子兵衛  聖徳太子、新渡部稲造、福沢諭吉はお札で有名だニャーン。
三太郎  (チラリと見たが知らん顔で)この倉敷でとなると、森田節斎、井汲唯一、林 孚一、立石孫一郎、本城新太郎、三輪光郷、桜井久之助、医者の島田方軒・・・ニヤーン。
五右衛門  なにやら、この倉敷で起こった途轍もない事件の・・・ワワワン。
茶子兵衛  寒いんだわ、淋しいんだわニャーン。
       お竜と源内のやり取り。
お竜  真実はまるで嘘のようでおますさかい。
源内  歴史は事実ではのうて、事実は小説よりも奇なりですかなや。

サイズ変更k4.jpg


2006/03/20 風が冷たい・・・。

2006-03-20 15:45:33 | Yuuの日記




晴れ今日は晴れていますでも風が冷たい暖かくなるのは何時か・・・。

昨日と今日の西端で桃の花はつぼみを大きくしています・・・。もう花びらを開くのは時間の問題か・・・。昨年枝を切り過ぎているので、てんぷらの廃油をやったが大きく枝を広げるのか・・・。九太郎の糞を木の根っこに埋めたが桃の成長を助けるのか・・・。生ごみを埋めたが・・・。
小松菜は華を開きそうだ・・・昨年の残りを放置しておいたのが咲きそうなのだ・・・。
夕餉はステーキを息子に・・・私たちは秋刀魚と野菜サラダ、味噌汁を・・・マグロの刺身・・・も・・・。簡単に作る予定・・・。
寒いのか九太郎は昼寝中である・・・。最近また太り始めた・・・よく食べる・・・餌がないと器を鳴らして催促をする・・・。体毛が抜け始めている・・・これからの季節への準備か・・・。

九太郎がいく・・・12


今日も主はお疲れ気味らしい・・・。風がまだ治らないのか。鼻を噛み、咳をしている・・・。花粉症か・・・。
ということなので、今日も三太郎さんの物語を読むことにする・・・。

四月某日
 桜の花びらが散って、主人の家の裏の川にピンク色の帯が出来た。
「このような眺めの方が風情があっていいものだ。人間の汚れた心が自然の生業の中で一瞬でも隠され、花弁はやがて朽ちて水を浄化させる役目をすることになる。自然とは偉大ではないか」
 主人は、川に面した書斎で久しぶりにペンを握りながら言った。俺は主人に尻尾を寄せてじっと川面を眺めていた。百メートルほど川上に科学工場の社員団地があり、そのぐるりに桜が百本位植えられていて、風に弄ばれた花弁が川に落ちて流れたのだろう。何せ、俺はそこの団地の入口の大きな木に登っていた時にスピッツのおばさんに拾われた事になっているのだから、その辺は詳しいと言うことにしておこう。
「この前なんか、そこ社宅の奴がコーヒーを啜りながらこうほざきおった。花弁が車にへばり付いて洗車をするのに大変なんですと。ちばけるではない。逆上せるではない。花が降り注いでくれることをどうして喜ばないのか、桜の開花によって春の訪れを確認できたことをどうして喜ばないのか。桜が咲かなかったら、それこそ大変ではないか、その事の重大さを認識しないのか。洗うのが嫌なら、そのまま乗り回し、雨が洗い落としてくれるのを待てばよいではないか。桜の花弁は正に天からの献花のようなものだ、と言う広い心で受け止めて悠然と自然と共に戯れたらどうなんだ」
 主人は興奮して矢鱈と唾を飛ばしながら煙を吐きながら喋りまくったのだった。
 自然を冒涜する人間には極端に、眼光を鋭く磨ぎすまし、唇を突き出して、攻撃的になるという性癖があるのだ。それは、主人が動物に極めて近い存在にあるという証拠なのだろうか。なにせ、容貌はマントヒヒそのものであるのだから。
「嗚呼、日本の繁栄も此処に極まれり」
 何を思ったか主人は涙混じりに言った。感情の起伏の激しいのも最も動物に近い。人間には理性とかと言う感情を抑制する機能が働くという事を聞いた事があるが、どうも、主人にはそのような高等精密なものは働かないらしい。
「なんだ、この匂いは。この川はまるで糖尿病患者の病棟のトイレと同じ匂いではないか。公衆便所と同じ臭気ではないか。桜の花弁が実に可哀相だ」
 と川面を睨み付け一辺の花弁に涙したのだった。
 主人は裏の川の匂いを今まで嗅いだ事がなかったのだろうか。俺なんかその臭気に反吐が何度も出たものだ。鼻水は垂れ、目は眼病患者のように涙の洪水だったのだ。川魚は川沿いを歩くアベックに恨み言を言いつつ集団で上流へ疎開したのを知らないらしい。ザリガニも鋏を怒りの刃に換えて、呆れ果てて川魚の後を追ったのだ。
「お前も、人間に愛想をし、へり下り、のうのうとしてないで、早く山へ帰れよ」
 と言う言葉を残してだった。
 だが、俺なんか人間に飼われ養われていると少しも思っていないから、
「どこに行っても同じ事だょー。いざとなりゃー化けて出ると言う手もあるしねー。それに、人間より俺の方が利口だもんねー。飼われたような恰好をして人間を飼ってるものねー。人間より逃げるのは早いものねー。気を付けて行くのだぞー」
 と尻尾を振りながら見送ってやったのだった。
「日本民族は皆糖尿病になってしまうぞ。三Kを嫌がり、楽して生きようとする処に原因がありそうだ。汗を流す仕事をする事によって運動不足が解消され、辛い仕事に携わる事により食することが出来る有り難さが解り、危ない仕事に従事する事が世の為人の為と言う充実感が芽生えてストレスが生じないのだと言う事が解っていない。実に情けない。今の人間は表面をチャラチャラさせていて一見風景はいいが、心の、精神の景色は廃棄物処理場のようなものだ。ゴミ処理場にはなんとゴミと一緒に人間の良心まで捨てている。どうも、人間という奴は際限のない阿呆か馬鹿であるらしい。ゴミと自分の良心の選別も出来ないらしい。いや、汚れて腐った良心はやはりゴミなのかもしれない。粗大ゴミの肉体もついでに一緒に捨てればいいのに・・・。自分だけよければと言う考えがやがては自分を殺し全体を葬るという方程式が解っていないのだ。
 今の日本の情勢を、世界の趨勢を四十数年前に看破した偉大な政治家がいた。そして、そのような状況になったらどような手を打ち、どう打開して行くかという事をグローバルな考えで著作にしている総理大臣がいたのだ。今の政治家どもはその先輩の本を読んでないらしい。また、その名も知らぬのではないだろうか。後にも先にもこれほど考えの確りした、無欲無私で、人間を愛し、人間を自然のなかに融和させようと考えた御仁はいなかった。嗚呼、カンバックツーウミー・・」
 主人は正に精神病患者のように一点を凝視して、己れの考えを言葉に換えて放流した。 この俺が理屈っぽくなったのは、こうした主人の独り言のせいであった。ガラガラ声で喋りまくり、自分の言葉に怒り泣き嗤い喜ぶと言う何だかよく解らない主人の性癖の齎らす結果が今の俺だった。そんな主人と何時も付き合う俺はこれから一体どうなるのだろうか、と心配になる時がある。主人は独り言で世間が変わるとでも思っているのだろうか。一日中何もせず、いや、静さんの店が忙しい時にはコーヒーカップを洗いよく割っているだけなのに、それだけで、社会が許すとでも思っているのだろうか。紐でありロープである身を世間に曝していて、正論をのたくっていてもその通りだと頷いてはくれまいに。人は、主人のことを”奇人変人横着者”と婀娜なしているのを知らぬのだろうか。俺には、知っていてやっているように見えるのだが。それだったら尚質が悪い様に思う。役者の演技なのだ。
 先程、人間属の中でましな御仁を挙げていたが、俺にはすぐ主人の言いたい事は解ったのだった。
 「石橋湛山」その人のことを言いたかったのだろう。山がつけば富士山を連想するが、湛山はその富士より日本が世界に誇らなくてはならない山だろう。
 俺が知っている事にどうか嫉妬しないで頂きたい。先だっての夜、主人が障子を鳴らすような鼾をかきながら寝込んでいた時に、
「いしばしたんざん、イシバシタンザン、石橋湛山、あなたは実に偉大だ。偉い賢い、あなたが今の世に生きていなさったら、嗚呼、ああ、アア・・・」
 と布団を抱き締め悶えながら寝言を言ったからなのだった。
「この地球上の資源を、僅か一億二千万人の日本人が食い潰そうとしている。飢えに苦しみ、寒空に着る物とてなく暮らしいる同胞がいることを忘れているのではないのだろうか。先進国病、繁栄病、豊かさのツケ病、と言われても仕方がないが・・・、日本人は皆糖尿病になり、その報いを受けなければならないとは、なんと言う馬鹿げた事だろう。形容しがたい哀れさだろう。合併症として、腎臓機能障害、眼底出血、神経障害、と様々な復讐が待っているというのに、それに気ずかずにのうのうとして美食を食らい、天然資源の浪費をしている。食べる物がなくなったら、可愛がっている犬や猫でも平気で胃袋の中に入れるだろう・・・」
 主人の言葉が途切れたのは、犬や猫でも食らうという事に対する俺の怒りの引く掻きがあったからだ。そして、俺は恨めしげに見上げてやった。
「いたた、痛い・・・。この感覚を忘れている人間が実に多いいのだ。痛みを忘れているから他人の痛みが分からない。そんな人間に心の痛みなど分かるはずがないのだ。・・・三太郎くんは大丈夫だからして心配をすることはない。そんな時には私達が死んでもお前と五右衛門くんは生かしてやる。心配するでないぞ」
 と主人は俺の頭を撫でながら言った。その顔は実に淋しそうだった。人間全体の愚かしい事を皆自分の物として背負い込んでいるような表情だった。
 俺は主人が愛しくなって全身をぶつけてやった。
 その時、五右衛門君が、
「僕は、旦那と一緒に行動する」
 と吠えていた。
 俺だって、マントヒヒとかと言ってるけれど、主人が好きだ。だから、ご一緒させて貰うつもりだと、大きな泣き声で応えてやった。何も犬だけが忠義心を持っている訳ではないのだ。忠犬ハチコウと言う犬が持て囃されているが、俺は忠猫三太郎である、と言いたいのだ。
「おとうさん!」
 と呼ぶ静さんの声が聞こえてきた。主人は、
「少し夜食を控えなくてはならんな。大好きなビフテキをやめて、鮪の刺身か、鰤の照り焼きにしょうか。そして、夜食の中華料理をフランス料理に換えた方がいいかもしれない。でも、どちらも捨てがたいなあー」
 と言いながらお腹を摩り声の方へ歩き出した。

書くことへの興味のために・・・。

手紙・文書の書き方mini百科手紙・文書の書き方mini百科
手紙、文書の書き方を豊富な文例を盛り込み解説した百科。私的な手紙からビジネス・就職・法律文書まで、日常生活で出合う手紙や文書の書き方を、目的や場面、相手に応じて紹介。
名文・名表現考える力読む力名文・名表現考える力読む力
ことば・文章作法など、「日本語」の名手となる方法はただ一つ。名文・名表現に触れ、その美しさ・魅力を身につけることだ。村上春樹、柳美里など若い感受性が輝く名文から、志賀直哉、太宰治など文豪・名人の名表現まで、読むと知らず知らずに文章作法の極意が会得できる。人間がわかり、ことばを知る「楽しさ」、文章を考える「喜び」を味わえる名ガイドブック。ことばに強くなり、文章力を磨きたい人のための新しい文章読本。

 日差し受けつぼみは大きく育つけど
               いつ開こうか明日か明後日

 2006/03/20晴れても風が冷たい明るさは春のそのもの・・・。