ゆいもあ亭【非】日常

映画や小説などのフィクション(非・日常)に関するブログ

空から来る敵を警戒してください!

2007-05-16 | 映画



遊星よりの物体X」( The Thing 【from another world】 )

 実に硬派な作品である。しかしながら、原作とも、ジョン・カーペンター版(John Carpenter's The Thing)ともちがって、唯一の女性キャスト(ニッキ・ニコルソン役のマーガレット・シェリダン)が出ている。時のキャリア・ガールというべき彼女は、充分な美人さんなのだが、もと恋人のパトリック・ヘンドリー隊長(ケネス・トビー)に対しても同等に口を利く男勝りの人物として描かれているため、「硬派な作品」の印象を崩すには至らない。

 舞台もまた先述の二作が「南極基地」を部隊にしているのに対し、軍施設からはかなり離れた北極圏と想定されてはいるけれども、アラスカの科学研究施設である。それから違いばかりを述べることになるが、宇宙生物を乗せた円盤は氷の下から発見されたのではなく、物語が始まった時点の前日に猛烈な速度で落下してきて、その発する熱で氷に埋もれたものである。登場する新聞記者が「遂に空飛ぶ円盤発見か!」と騒いでいるのだが、いわゆる「空飛ぶ円盤(フライング・ソーサー)」という言葉のもとになったケネス・アーノルドによる円盤目撃は1947年であり、1951年制作の本作は実にタイムリーなものを描写していることになる。1938年に、初出誌発表の原作には当然「円盤」は出てこないわけで、このあたりは「新しい」要素を取り入れていたわけであろう。異星からの侵略者が円盤に乗っている、という作品は、まさに51年作品であるハインラインの「人形つかい」であるし、「人形つかい」の描写があの「ロズウェル事件」を思わせるのと同じくらいには、「ロズウェル事件」的な展開であるといえるだろう。

落下物の正体が「ロシアの新型機」ではないか、というようなセリフなどは、いかにもである。

50年代SFには、半島やキューバなど、東西冷戦構造に向かっての危機意識が影を落としている。

ジャック・フィニーの「盗まれた街」を原作とする「ボディ・スナッチャー/恐怖の街」だって、隣人がいつの間にか違う生き物にすりかわる恐怖を描いて、思想の対立の時代を色濃く意識している。そういうことだ。

原作及びカーペンターリメイクの、それこそ他の生物を模倣する、いつの間にかすりかわる恐怖は不十分だが、植物の進化した吸血異星生物と設定することで、人間を食い物にして無限に繁殖する危険性を示して、よい雰囲気を出している。

モノクロでシンプルな作品ではあるが、見ている間は充分手に汗握る作品である。

やはり名作(マスター・ピース)である。

*そういえば「物体X」を擁護しようという科学者が「彼は異邦に放り込まれた異邦人だということをお忘れなく」とか言っていたが、Starabgers in the strange landといえば、ハインラインの「異星の客」の原題じゃないか!*


最新の画像もっと見る

コメントを投稿