ぴしゃ、ぴしゃぴしゃ、ぴしゃり――……。
と、水を跳ね上げる複数の足音が、聞こえてきた。
「――こわい」と、ウミが震えながら、ソラの背中に回って、服にしがみついた。
イヴァンとニコライは、大きな身振りで子供達にしゃがめと指示すると、唇に指先を当て、声を出さないように促した。
隊列が立ち止まっているのは、ちょうど水路が交叉している場所だった。
まったく不利な状況だった。足音が、いったいどこから聞こえて来るのか、コンクリートの壁に反響し、バラバラな方向から聞こえてくる音が、息をひそめてじっとそばだてている耳を、いたずらに混乱させた。
わずかだが、気の遠くなるような時間が流れた。と、業を煮やしたイヴァンが、その場に屈んで足下からなにかを拾い上げ、下手投げに遠くへ放り投げた。
暗闇に覆われた下水道の奥から、
カカン、カカツン、カツン――。
と、石が壁に当たって次々と跳ね返る音が、こだまのように反響して聞こえてきた。
「止まれ、なんだ今のは――」と、野太い男の声がした。
続いて、「向こうだ」とも、「こっちだ」とも聞こえるくぐもった声が、ひとつの水路の奥から、はっきりと聞こえてきた。
「よし、みんな、行くぞ――」イヴァンが、声のする水路をさけ、大きく腕を振って、進めの合図をした。
子供達は立ち上がり、先頭に立って進むニコライの後ろについて、歩き出そうとした。
「いたぞ!」
と、進もうとした水路の奥から、暗闇を破って、銃を構えた男達が、バラバラと姿を現した。
「そんなばかな……」あわてて足を止めたイヴァンとニコライが、口をそろえて言った。
兵士達の構えた銃が、けたたましい銃声を響かせながら、立て続けに火を噴いた。
子供達はてんでに逃げまどい、何人かは悲鳴を上げて、その場に力なく倒れ伏した。
「くそっ――」
先頭に立っていたニコライが、自分の胸に何カ所か指先を当てて突くと、銃を撃つ兵士達の前に壁のように立ち塞がり、両腕を目一杯伸ばして、雨のように降り注ぐ銃弾を、自らの全身で受け止めた。
と、目の端で逃げるソラを捉えたニコライは、歯を食いしばりながら、とっさに叫んだ。
「坊主、青い鳥を追いかけろ!」
ソラは、悲鳴を上げるウミの手を引きながら、ばらばらになってしまった子供達の後を追いかけて行った。