くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

ラブレター

2015-11-20 07:11:02 | 「ショートくりぃーむ」
 
 愛しき人へ・・・
  
 はじめて出会った時から、いつもきみのことばかりを見ていました。
 天使のように輝くきみは、世界でたったひとつの奇跡です。
 
 きみへの思いが、弱虫だったぼくのすべてを変えてしまいました。
 焼けるように苦しい胸は、爪を立ててわしづかみにしても、
 心に刻まれたきみの面影のひとつでさえ、取り去ることはできませんでした。
 ほんのひとつまみの欠片だけでも、摘み取って忘れることができるなら、
 きみ以外のことを考えることもできるのに・・・
 
 また会いたくて、いつもそばにいたくって、いつまでも一緒にいたくって、
 でもなかなか会えなくて、声もかけられなくて、泣いているきみを慰めてもあげられなくて・・・
 すれ違ってばかりで、強がってばかりいて、素直になれなくて。

 でも、

 きみへの思いがぼくを無敵にします。
 どんな痛みも、どれほどの苦しみも、世界中の人間を敵に回そうと、けっして恐れやしない。
 きみに振りおろされる刃も、深く傷つけようとする言葉も、すべてをことごとく蹴散らしてみせる。
 ぼくを信じてさえくれるなら、
 どんなに傷つけられたってかまわない。
 どれだけ血を流されようと、逃げ出したりなんかしない。
 悪魔に魂を売り渡してでも、生命をかけてきみを守り抜く。
  
 感じたことはありますか、空気の色、水のにおい、そして、きみが持っている、限りない未来。
 きみがそこにいるだけで、くすんだ景色が、まぶしい光で明るく照らされるのを・・・
   
 人は変わっていくけれど、ぼくのきみへの思いが変わることはありません。
 いつも、ついていないことばかりじゃない。いつだって、明日は必ずやって来る。
 朝日は、きみ自身。どんなに長く暗い夜でも、微笑むだけで粉みじんに吹き飛ばしてしまう。
 
 水晶よりも透明で、湧き出る泉より純粋に、炎よりも熱く、
 
 きみが、好きです。
 
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

荒野の自動販売機

2014-01-11 21:06:02 | 「ショートくりぃーむ」
 一台の赤い自動販売機がありました。
 誰もいない、熱い風が吹きつける荒野の砂の上です。
 いつからここにあるのか、知る人はいません。
 いつからここにいるのか、自分でもわかりません。
 お客さんは、来たことがありません。ときどき、小さなトカゲが日陰で休みに来るくらいです。
 話しかけようとしますが、ブーンと低くうなるばかりで、逆に怖がらせてしまいます。
 眠っているように見えますが、ちゃんと起きています。居眠りする時もあるけれど、それはないしょです。
 青い空に浮かぶ雲を見上げて、ブーンと歌うことがあります。
 ブーンブーンと体を震わせながら大きな声を出すと、なんだか気持ちがスッとします。

 ある日の夜。月明かりの中、傷ついた山猫がふらりとやってきました。少し熱があるようです。
 山猫は、自動販売機の足下に倒れると、ぐったりとして、そのまま眠ってしまいました。
 次の日も、その次の日も、山猫はぐったりとしたまま、体を起こすこともできず、目もうつろでした。
 自動販売機は無関心なふりをしながら、山猫の様子をそっと横目でうかがっていました。
 空のどこからか、飢えたハゲタカが静かに舞い降りてきました。じっと、山猫をねらっています。
 鋭い、刃物のようなくちばしが間近に迫っても、山猫は目を覚まそうとしませんでした。
 思わず、自動販売機は重たい体を左右に揺らし、大きな声をブブーンと上げました。
 驚いたハゲタカは、あわてて空に飛び上がり、間一髪、山猫は鋭いくちばしの一撃から逃れました。
 恨めしそうなハゲタカは、高い空から山猫の様子をうかがって、決してあきらめようとしませんでした。
 この次にハゲタカが襲ってきたら、もう助けてあげられないかもしれませんでした。
 なにか、自分にできることはないだろうか――。ただ黙って見ていることは、できませんでした。
 誰かが胸のボタンさえ押してくれれば……。いいえ、コインを入れなければ、なにも出てはこないのです。
 ――ふと、自動販売機は不思議に思いました。果たして、本当にそうなのでしょうか?
 それまで、考えもしないことでしたから、自分でもどうしていいか、困り果ててしまいました。
 いろいろ試してみるしか、ありませんでした。
 聞いたこともない呪文を唱えても、なにも起こりませんでした。
 ギュッと目をつむって力んでみましたが、息が苦しくなるのでやめました。
 日に日に弱っていく山猫を見て、ハゲタカもだんだん近づいてくるようになりました。
 残された時間は、もうあとわずかでした。
 自動販売機はうん、と力をこめて、勢いよく体を震わせました。
 自動販売機はうん、ともう一度力をこめて、勢いよく体を震わせました。
 自動販売機はもっとうん、と力をこめて、もっともっと勢いよく体を震わせました。
 すると、お腹のあたりがタプタプ音を立て、ドボンドボンと水があふれ出てきました。
 自分でも驚いた自動販売機は、続けてうん、同じように力をこめて、また勢いよく体を震わせました。
 ゴロンゴロンと、ひと塊の食べ物が出てきました。
 自動販売機が声をかけるまでもなく、水と食べ物の匂いに気がついて、山猫は目を開けました。
 山猫は、自動販売機が出した水や食べ物を口にすると、みるみるうちに元気を取り戻していきました。
 空から様子をうかがっていたハゲタカは、元気になっていく山猫を見て、いつの間にか姿を消していました。

 山猫が立ち去った後、しばらくはいつもの荒野が戻ってきました。
 噂を聞きつけた生き物達が、ふらり、と自動販売機を訪ねてやってくるようになりました。
 自動販売機は、ブーンと体を震わせて、自慢の歌を聴かせてあげました。
 お腹をすかせた生き物には、なにか食べ物を出してあげたりもしました。
 それからというもの、自動販売機の周りは、たくさんの友達の笑顔であふれるようになりました。
コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする