くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

地図にない場所(27)

2020-04-30 20:03:06 | 「地図にない場所」
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 サトルが目を覚ましたのは、暖かな朝日が、顔をほんわかと照らし始めてからでした。まぶしい光に柔らかく包まれ、ふわふわと重さを感じさせない体は、まるで翼の生えた天使が、天国の空を気ままに飛んでいるかのようでした。
「おっ、やっとお目覚めかい。今日もいい天気になりそうだぜ」と、サトルの耳元でガッチの声が聞こえました。

「おはよう、ガッチ……」

 と、サトルはすぐに息を飲みました。
 サトルが天使になったような気分で起きてみると、そこは地上にあるすべての物がミニチュアに見えてしまうほど、高い空の上でした。サトルは、そんな高い空の上で、物干し竿にぶら下げられた洗濯物のように、宙に浮いていました。
 どうしてこんな所にいるのか――頭の中で昨日の出来事を思い出し、こんがらがった考えを整理しました。そして、出てきた答えのとおり、恐る恐る真上を見上げました。
 バサッバサッ――と、繰り返し鳴り続く翼の音は、まるで山が丸ごと飛び上がったかのような、巨大な石の鳥のものでした。サトルはその鳥の、これまた大きな足に、しっかり襟元をつかまえられていました。
「――はっはっは」と、ガッチがからかうように言いました。「なにをびくびくしてんだ、サトル。顔が空みたいに真っ青だぞ」
 サトルは、なんとか口を開こうとしましたが、ガッチの言うとおり顔が青ざめて、小刻みに震えているのが精一杯でした。
「まあいいさ――」と、ガッチがあきらめたように言いました。「あの岩山で、この鳥に引っさらわれた時は、この足をなんとか放させて、逃げようとしたんだ。けど、ここぞって時にサトルが気絶しちまって、起こす間もなく、あっという間に空高く持って行かれたもんだから、さすがになんにもできなくて、しかたなく空の上でひと晩過ごしたのさ」
「ぼく達、どうなるの、かな――」と、サトルは震える声で言いました。
「子供のエサにでもするつもりだろうよ。子供って言っても、親がこんなにでかいんじゃ、子供も恐竜ほどはありそうだな……」と、ガッチが言いました。
「……」と、サトルは首を傾げました。「石の鳥って、肉を食べるの?」
 と、ガッチは宙に目を向けたまま、何も答えませんでした。
「――とにかくよ、どっかに連れて行かれる前に、さっさと逃げ出さないと、またひどい目にあっちまう」と、ガッチは言いました。
「どうやって……」と、サトルが言いました。
「そうだよな。こんな高い所で落ちたりしたら、それこそ一巻の終わりだし――。まぁ、海なり湖なりがあれば、別なんだが――」と、ガッチは思案げに言いました。

「ガッチ!」と、サトルが急に言いました。「あれ見て。川だよ、川があるよ」

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よもよも

2020-04-30 06:24:19 | Weblog
いやはや。

ひどい暑い。

夕べはぞくぞくするほど寒くって我慢できずに

ストーヴ点けたけど

今日は一転朝から日差しが刺さるほど暑いわ・・・。

本来なら有給もらって連続で休みにしてるんだろうけど

今日だけ休みもらって在宅だけ回避。

有休も取れるときに取っとかないと

年間5日以上取得しないと事情聴取だとかって指導されてるから、

なんか、ありがた迷惑。

昨日は一日中映画見てたけど、つらいわ。逆にこれに慣れちゃったら、

なんもかんもやる気が無くなっちゃうんだろうね。

あーあ。ため息しか出ない。

ただ、自分だけじゃないって意識だけが、救いだわ。。
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地図にない場所(26)

2020-04-29 20:12:59 | 「地図にない場所」
「そうだよ、早くしろ。あいつが来ちまう」と、ガッチは言いながら、戸惑っているサトルを突き落としました。
 あとわずかで、二人を捕まえられるはずだった恐竜は、不意に目の前から姿を消した二人を、そのまま追いかけ、勢い余って、奈落の底に真っ逆さまに落ちていきました。

「――ふぅ、助かったぜ」と、ガッチがやれやれというよう言いました。

 ガッチの声を聞いたサトルは、ぎゅっと目をつぶっていました。と、自分の体が、空中で止まっているのに気がつくと、そっと目を開きました。サトルは、また奇跡でも起こったのかと思いましたが、足元にはいぜんとして底なしの空間が広がり、時折吹きつける気流に、体がゆらゆら揺れていました。
 サトルの体は、しっかりとつかんだガッチの手で、かろうじて落下をまぬがれていました。その証拠に、ガッチのもう一方の手は、岩山の絶壁にできた小さな割れ目に、びくともせずに掛かっていたのでした。
「さて、これからどうするかだな――」と、ガッチが独り言のように言いました。「よし、サトル。ちょっとら揺れるが、我慢してくれ」
 ガッチはそう言うと、サトルを振り子のように左右に振り始めました。
 サトルは、だんだんと揺れが大きくなってくるにつれ、今にも真っ逆さまに墜落しそうな恐怖にとらわれ、すぐにでも、意識がなくなってしまいそうでした。

「――それっ」

 サトルの揺れが、十分大きくなったところで、ガッチはサトルの体を、思いきり宙に放り投げました。と同時に、岩に掛けていた自分の手も、ぱっと放しました。
 高く舞い上がったサトルの体は、勢いがなくなると、今度はもちろんのこと、放物線を描いて、地面に落ち始めました。
 しかし、その落下地点は、奈落の底ではなく、二人が飛び降りたそばの地面でした。サトルは、なにも手がかりのない空中で、ほとんど気を失いそうでしたが、遠くなりかけた意識の中で、ぼんやりと自分が助かりそうなことを知りました。
 かすかに笑みを浮かべたサトルは、けれど自分の体が、また上昇を始めたことに気がつきました。
 今度は、バサッバサッ――と、翼を羽ばたかせるような音が聞こえ、しばらくしても、上に昇るばかりで、まったく落ちていく気配はありませんでした。
 サトルは、次第に遠のいていく意識をどうすることもできず、奇妙な浮遊感を味わいながら、ゆっくりと目を閉じました。



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よもよも

2020-04-29 06:32:57 | Weblog
いやはや。

祝日だけど、

最近在宅勤務も増えてるんで、

仕事してる気がしてなんか妙な雰囲気。

それにしても北海道やばくない??

一時期落ち着いたのに

東京に合わせるみたいに感染者増え続けてるしさXXX

で、スポーツ教室の参加者にも感染者が出て、

今のとこ所属してるサークルも休止状態だけど

いつ再開できるんだか見通し暗いわ・・・。

クラスターの状況にもよるんだろうけど、

人と距離を取りつつ屋外でランニングする以外

スポーツも自粛しなきゃダメになるかもしれないね。。

5Gとかになれば、

笑い話でオンラインでオリンピックできるんじゃないとかって書いたけど

マジで現実味が出てきたんじゃない。

もうほんと、ワクチンができるまで、こんな調子で

世の中進んで行くってあきらめた方がいいんでしょ??

ああ、給料減らす話もされるんだろうし。

つらいわ。

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地図にない場所(25)

2020-04-28 20:03:52 | 「地図にない場所」
 恐竜は、不意に口にしたピストルを、やっとサトルを捕まえたものと勘違いして、むしゃむしゃと満足そうに頬張りました。サトルは、恐竜が岩山の裂け目からわずかに離れたのを見ると、ガッチを肩に乗せ、ここぞとばかり外に脱出しました。けれども、すれ違うサトルに気がついたのか、恐竜が意外に早く後を追いかけてきました。
「サトル。あいつ、また追いかけてくるぞ……」と、ガッチがあきれたように言いました。
「しつこいなぁ……」と、サトルが困ったように言いました。

「あれ? ガッチ、星が動いてるよ」

「――はぁ?」
 ガッチが前を向くと、サトルの言ったとおり、星が歩調に合わせて上下していました。ガッチは、どうして空の高い所で光っているはずの星が動くのか、いくら考えてもわからず、頭をひねっていました。しかもサトルが走って行くにつれ、また新たな星が足元から昇ってくるのでした。
「どうしてだ……。もしかして」と、ガッチが急に大きな声で言いました。「サトル、危ない、ここいらで走るのをやめろ。そうじゃないと、二人とも命がないぞ」
「えっ、どうして。恐竜が追いかけてきてるんだよ」
 サトルはガッチの言葉を無視して、そのまま走り続けました。二人の後ろには、しつこく後を追いかけてくる恐竜がいます。ガッチは、まだなにやら考えている様子でした。と、突然思い出したように、口を開きました。

「止まれっ! サトル――」

 サトルは、ガッチの突然の大声に驚き、すべりこむように足を止めました。
「どうしたのさ、ガッチ……」と、息を切らせたサトルが、不安げに言いました。
「説明は後回しだ。とにかく、目をこらして前をよく見やがれ」
 サトルは、多少不満げに前を向くと、言われるまま目を凝らしました。
 そこは、ただ延々と砂漠が広がっているだけのはずでした。けれど、サトルが目にしているのは、地面が終わり、冷たい気流の吹き上げる崖が、垂直に落ちこんでいる様子でした。
「危なかった。あと一歩で、落っこちる所だったぞ……」と、ガッチは青ざめているサトルに言いました。
「――もしかして、ここも岩山なの」と、サトルが言いました。
「そうみてぇだな。昼間は地平線が見えるほどだだっ広い所だなと思ったが、ただの岩の切れ目だったんだ。本当のところは、ご覧のとおりさ」
 二人がそろって奈落の底を見ていると、すぐ後ろで、恐竜の声が聞こえてきました。
「もう逃げ場はないぞ」とでも言いたげに、耳を覆いたくなるほどの、甲高い声でした。
「ガッチ、もう逃げ場がないよ――」と、サトルは言いました。
「おれにまかせろ」と、ガッチが力強く言いました。「いいか、おれの腕をしっかりつかんで、飛び降りるんだ。絶対に放すんじゃないぞ!」
「えっ、飛び降りるって、ここから?」と、サトルが信じられないというように言いました。
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地図にない場所(24)

2020-04-27 19:51:17 | 「地図にない場所」

「ガッチ!」

 と、サトルは叫びました。けれど、ガッチは戻って来ませんでした。そのかわり、隙間の奥から、悲鳴が返ってきました。

「うわーッ!」

 と、少し遅れて、ガッチも姿を現しました。
「ひどいじゃないか。ぼくだけ一人にして」
「それどころじゃねぇ。この奥にもいるんだよ、この奥にも」と、ガッチが息を切らせながら言いました。
「えっ、恐竜がもう一匹いるの?」
「いや違う、こっちのは蛇だ。だけど普通の蛇じゃねぇ、口から火花を上げてるんだ。電気の火花だ――」
 言い終わる間もなく、ガッチの言うとおり、奥の隙間から、まぶしく光る蛇が、バチバチと音をさせながら、顔を覗かせました。困ったことに、にょろりと這い出てきた蛇は一匹だけではなく、次から次へと這いだし、まぶしさで目がくらむほどでした。
「――やだよ、どうしたらいいんだよ」
「チッ」と、ガッチが舌打ちをして言いました。「どうせ食われるんだったら、恐竜の方がいいや。電気でビリビリ痺れるのは、ごめんだぜ」
 サトルは、ピストルでもあればいいのに、と思いつつ、もうどちらかに食われる覚悟を決めていました。けれど、電気蛇のバチバチいう音を聞いていると腰が引け、入口で歯をかちかち鳴らしている恐竜の方へ、意に反してじりじりと近づいてしまいました。
 と、サトルの足元で、コツンとなにか固い物が足に当たりました。はっとして見ると、サトルが思い描いていたのとそっくりなピストルが、地面の中に落ちていました。どうしてこんな所にピストルがあるのか、疑問に思うよりも先に、しめた、と思ったサトルは、すぐにピストルを拾い上げると、入口を塞いでいる恐竜に銃口を向けました。
 あわてながらも、落ち着いて狙いをつけたサトルは、思い切ってピストルの引き金を引きました。

 ――バン

 と、鳴るはずのピストルが、カチリ、と乾いた音を立てました。
「――あれ?」
 サトルは、弾が入っているかどうか確かめました。思ったとおり、ピストルには、ひとつの弾もこめられていませんでした。
 サトルが、ピストルを持ったままぼんやりしていると、
「サトル、その鉄をあいつの口の中に放りこんでやれ――」と、ガッチが言いました。「あいつがなにを食ったか迷っているうちに、横をすり抜けて逃げるんだ」
 こくりとうなずいたサトルは、恐竜が大きな口を開けるタイミングを見計らって、思いきりピストルを口の中へ投げこみました。
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よもよも

2020-04-27 06:11:40 | Weblog
いやはや。

いつもだったら連休イブで

仕事も手につかないでそわそわしてるんだろうけど

仕事がどうなるのかわからないで

そわそわしてるって、

なんか初めて。。

週末も感染症のニュースばっか見まくって

世の中のニュースは感染症しかないみたいな感じになってるけど、

世の中そんなに一枚岩じゃないから、

扱い小さいけど事件はいつもながらにあるみたい。

大きな所にばっか目が向いて、

小さな身近にある事件が目に入らなかったら、

もしかして自分にも被害があるかもしれないなんて

余計な緊張感を覚えるのも、

閉じこもって見えない脅威にばかりさらされてるからなんだろうねXXX

ああ、つらいわ。
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地図にない場所(23)

2020-04-26 20:18:19 | 「地図にない場所」
「――ねぇ、どうしたの。ちっともわかんないよ」と、サトルはガッチを変に思って、怒ったように言いました。「さぁ、早く行こうよ。朝になるまでにここを抜け出さないと、日干しになっちゃうよ」
 サトルは、立ち上がって歩き出そうとしました。と、ガルルルル――……。といううなり声が、すぐ後ろで聞こえました。サトルはその声を聞きつけると、ぴたりと動くのを止め、息を殺しながら、肩越しにそっと後ろを振り返りました。
 振り返ると、そこにはサトルの背の三倍はありそうな恐竜が、山のように牙を生やした口を大きく開き、ドロドロと生臭いよだれを垂らして立っていました。

「今だー!!」

 声に反応したサトルは、素早くガッチを肩に乗せると、まっしぐらに走り出しました。
 ――――……
「――ガッチ、まだ追いかけて来る?」と、サトルが息を切らせながら言いました。
「ああ。残念だが、すんげぇ勢いで走って来るぞ。このままじゃ、二人とも食われちまうかもな。なんとか振り切れ――」
「なんとかしろって、なんだよ!」と、サトルは言いました。「ガッチの方が、ぼくより強いんじゃなかったの。なんとかしてもらいたいのは、こっちの方だよ――」
 サトルは、とにかく死に物狂いで走りました。しかし、腹を空かせた恐竜は、歯をガチガチ言わせながら、すぐ間近に迫ってきていました。
「――サトル、あそこだ」と、ガッチが肩から身を乗り出して言いました。「あの岩山の隙間に入りこめ」
 サトルは、ガッチに言われるまま、岩山の下にぽっかりと開いた小さな隙間にすべりこみました。そこはなにか、地震で崩れたときにできたものなのか、岩山が上下にずれて裂けたようになっていました。入り口の幅はサトルの肩幅くらいしかなく、奥へ行くほど狭くなっていました。ですから、恐竜に追われて逃げこんだサトルは、入口から少し入っただけで、もうそれ以上は、奥に進むことができませんでした。
 恐竜は、サトルが逃げた隙間に自分も入ろうとしましたが、体が大き過ぎるため、突き出した口の半分がやっと入るだけでした。サトルとガッチは、恐竜があきらめてくれるだろうと思いましたが、入口のすぐ近くで動かない二人に気がつくと、どうしてもあきらめきれないのか、大きな口を何度も突き入れて、歯をガチガチ言わせました。
 思ったよりも恐竜の口が奥まで届くので、二人は冷や汗でびしょびしょになっていました。もしかすると、あの巨大な口がここまで届いて、骨ごとバリバリ音を立てて食べられるのかと思うと、たまらなく恐かったのでした。
「サトル。おれ、もうちょっと奥まで逃げていいか?」と、ガッチが声を震わせて言いました。
「――やだよ、一人にしないでよ」と、サトルがガッチに言いました。けれどガッチは、聞く間もなく肩から降りて、一人だけ狭い隙間の奥に逃げて行ってしまいました。
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地図にない場所(22)

2020-04-25 19:47:34 | 「地図にない場所」
「ん? こりゃたまげた。オレンジ味のジュースだ。いやー、おれ達ついてるな」ガッチは言うと、グビグビ、と喉を鳴らしながら、ひと息で飲み干しました。「うまかったぜ、サトル。もう一杯、もらえないかな」
 サトルは、もう出てこないかもしれないよ、と断りながら、また自動販売機のボタンを押してみました。
 するとどうでしょう。今度もまた、ジュースの缶が出てきたのでした。どうやらこの自動販売機は、こんなさびしい場所にあるせいで、どこか中の機械が故障してしまっているようでした。
 二人は、無料のジュースを浴びるほど飲むと、また大の字になりました。満足そうな顔からは、先ほどまでの苦痛に満ちた表情など、想像もできませんでした。
 地獄から一変して、天国に飛び上がった心地よさを味わいながら、サトルとガッチは、気持ちよさそうな寝息を立て始めました。
 さて、どのくらい時間が経ってからでしょうか。二人がゆっくりと目を覚ましました。昼間、あれほど暑かったお日様は姿を消し、変わって、満天の星が地上を照らしていました。

「ガッチ――なんか呼んだ?」
「サトル――なんか呼んだか?」

 サトルとガッチは目を覚ますと、お互いに顔を見合わせながら言いました。二人とも、どちらかが自分を起こしたものと思っていたのでした。

「えっ、ぼく呼んでないよ」
「あっ、おれも呼んでないぞ」

 二人はよくわからない、といった表情で、考えました。確か、眠っている時に声がしたのでした。自動販売機の声ではありません。もっと、腹の底から湧いてくるような、太い声でした……。
 そういえば、二人ともそんな声はしていません。はて、それでは一体誰が二人を起こしたのでしょうか――。
「ガッチ。なんか生暖かい風が吹いてない。昼間みたいな――」と、サトルが頬をなでながら言いました。
「いや、涼しい風しか吹いてないぜ。ちょっと肌寒いくらいの――」と、ガッチが声を詰まらせました。

「どうしたの?」と、急に黙りこくったガッチ見て、サトルが言いました。

「おい……」と、ガッチが声をひそめて言いました。「いいか、“今だ”って言ったら、おれを肩に乗せて、一目散に走れよ――。もしかしたら、おれ達の方が遅いかもしれねぇけど」
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地図にない場所(21)

2020-04-24 20:21:21 | 「地図にない場所」
「おい、危ないぞ、サトル」と、ガッチが言いました。「しゃべる箱になんか、うっかり近づいちゃダメだ」
 サトルは立ち止まると、ガッチを振り返って言いました。
「大丈夫。よく知ってるから――」
 と、歩き出したサトルに、ガッチが「ほんとうかよ」と、心配そうに言いました。
 自動販売機に近づいてみると、やはりサトルのよく知っている自動販売機に、間違いありませんでした。赤い自動販売機は、かすかなモーター音をウンウンと響かせながら、おいしそうな飲み物を、窓の奥にいくつも揃えていました。
「サトル、これなんだか知ってんのか?」と、サトルの横に来たガッチが、自動販売機をコンコンと叩きながら言いました。
「ね、なんともないでしょ」
 サトルが言うと、ガッチが不思議そうにうなずきました。
「これ、自動販売機って言うんだ」と、サトルが言いました。「ここにほら、ボタンがあるでしょ。これを押すと、中から飲み物の入った缶が出てくるんだ。でも――」
 お金を入れなきゃ出てこないんだ、と言いかけて、サトルがボタンを押すと、ガタンガタンと音がして、取り出し口にジュースの入った缶が落ちてきました。
「えっ?」と、サトルは驚いて言いました。
「うわっ、中で変な音がしたぞ」と、ガッチが飛び上がりました。
 サトルはジュースを取り出すと、なにか仕掛けがあるのかもしれないぞ、と思って、よく調べてみました。でも、細工をした様子はぜんぜんありませんでした。サトルは思いきって缶を開け、匂いをかいでみました。甘くおいしそうな匂いのするほかは、嫌な感じはまったくしませんでした。
(気味が悪いから、よしといた方がいいな……)と、思うより早く、サトルはごくごくと、喉を鳴らしてジュースを口に運びました。
「プハーッ。おいしいー」と、サトルは口を拭いながら言いました。
「サトル……大丈夫なのか」と、ガッチが心配そうに見上げていました。
「――あっ、ごめんね、ガッチ」と、サトルは自分だけジュースを飲んでしまったことに気がついて、言いました。「もうほとんど飲んじゃった。ちょっと待って、すぐためしてみるから」
 サトルは、もう一度ジュースが出てこないか、祈るように自動販売機のボタンを押しました。

 ――ガタン、ガタタン。

 と、冷たいジュースが、自動販売機から出てきました。
「やった、ガッチの分も出てきた」
 ガッチは、サトルからジュースを受け取ると、
「本当に、飲んでも大丈夫なんだろうな――」
 疑いながらも、ガッチはサトルのやったように缶を開け、両手で持ちながら、おそるおそる口に運びました。
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