くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

機械仕掛けの青い鳥(36)

2019-05-06 20:37:16 | 「機械仕掛けの青い鳥」

 ――……。

 わずかな間隔をあけ、ザッザッと砂利を蹴散らすような足音が近づいてきた。ヘルメットを被り、肩幅の広い制服を着た何人かの軍人が、あちらこちらに顔を向けながら、なにかを捜すようにやってきた。幅広の襟に施された刺繍や、大きめのボタンが目立つ軍服は、しわのひとつもないほどきれいに整えられ、膝下まである黒いブーツは、わずかな土埃もついていないほど、鏡のように磨き上げられていた。革の手袋をはめた軍人達の両手には、使いこまれたライフルや、長い弾倉をつけた機関銃が握られていた。
「誰かいたか」
 一人だけ角張った帽子を被り、先頭に立っている男が立ち止まって言うと、後ろからやって来た男達がバラバラと円陣を組むように集まり、めいめいに首を振った。
「くそっ、すばしこいヤツらだな」と、帽子を被った男はくやしそうに言った。「だが時間の問題だ、新しい歴史は我々とともにある」
 暑苦しそうに帽子を脱ぎ、汗に光る金色の髪の毛を、ハラリと後ろになでつけた男は、にんまりと笑みを浮かべると、角張った帽子を被り直し、両手に持った機関銃を構えたまま、通りを小走りに進んで行った。
 ――建物の中、通りからは決して見えない隅の陰で、ソラは恐ろしさに目を見開いたまま、ほとんど瞬きもせず、黒い革手袋をはめた手で口を塞がれていた。
 ソラの口を塞いでいたのは、学校の帰り道、青い鳥のことを訪ねてきたサングラスの男の一人だった。
「また会ったな、坊主」
 聞き覚えのある声は、学校の職員室で、ヴァンパイヤのような怪物に変身した先生に間違いなかった。
「――」と、ソラは男に学校のことは言わず、コクリとうなずいた。
「声は出すなよ。まだやつらがその辺を嗅ぎ回ってるはずだからな」
 革手袋をはめた手が口から離れると、ソラは大きく深呼吸をするように息をついた。
「先生……」ソラが言うと、男は首をかしげながら言った。
「なんのことかわからんが、妹も無事だ。ここを出たら、すぐに会えるだろう」
「えっ、どこにいるんですか?」
 身を乗り出したソラに男が言った。
「あわてるな。ちょっと臭いが、鉛の弾が飛んでくるよりはましな所だ」
 男はソラに背中を向けて屈むと、右手の指先を床の上に走らせた。なにやら、紋様のようにも見える文字を書いているようだった。
「フン――」男が両手を床にあて、短く息を吐いた。すると、鉄板でできた四角い蓋が、それまで床だった場所に現れた。
 ソラは、怪訝そうな顔をしながら、じっと様子をうかがっていた。
「きっとおまえで最後だ。先に行け」
 男は、はずしたサングラスをスーツの胸ポケットにしまうと、鉄の蓋についた左右の取っ手をつまみ出し、両手で持ち上げた。
コメント
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