くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

機械仕掛けの青い鳥(56)

2019-05-26 20:16:29 | 「機械仕掛けの青い鳥」
「――おや、こいつは珍しいね」
 と、ホテルのオーナーなのか、女の人は、シェリルを値踏みするようにまじまじと見て言った。「うちで商売するのは、ごめんだよ」
「勘違いしないで」と、シェリルは不機嫌そうに階段を下りた。「ひと部屋借りるわ。通りの向こうがよく見える部屋をお願いね」
 いくつか空き部屋を見せてもらったあと、なにかを思い出したのか、シェリルは一度は断った部屋を借りることにした。
 なかなか部屋を決めようとしないシェリルに業を煮やしていた女の人は、「ちっ――」と舌打ちをしつつも、ほっと安堵のため息をついた。
「この部屋は特別なんだ、代金が納得できないなら、さっさとよそへ行っておくれ」
 シェリルはなにも言わず、黙ってお金を差し出した。
「うちじゃ一番の部屋さ、お目が高いね。それじゃあ、ごゆっくり……」
 部屋のキーを受け取ると、シェリルは、廊下を歩き去る女の人の丸い背中を見送り、階下に靴音が降りて行くのを確認してから、ドアを開けた。

 ギギグッ――と、硬く軋む音が廊下に響いた。

 もわっとするほどカビ臭いにおいが、鼻をついた。どう考えても、請求された料金に見合う部屋ではなかった。
 部屋の中は、小さなテーブルと一人掛けの椅子のほか、必要最低限の調度しか置かれていなかった。そんな中、意外なほどきっちりとベッドメイキングされていたが、シェリルは腰を下ろすことなく、ベッドの上に荷物を放り出すと、窓に近づいた。
 窓の外から、牧師が泊まっているホテルの中庭を見ることができた。ただし、シェリルが借りた部屋は角度が悪く、中庭に面した牧師の部屋を見ることまでは、できなかった。
 シェリルがこの部屋を借りることにしたのは、部屋を案内されていた時、ふと、犯人の男が泊まっていた部屋のルームナンバーを、思い出したからだった。
 窓を開けたシェリルは、そっと外に顔をのぞかせ、隣の部屋の様子をうかがった。半分ほど開けられている窓から、風に揺らめくカーテンが、ひらりひらりと、踊るように外と室内を行き来していた。
 シェリルは、枕を包んでいた白い布のカバーを取ると、人差し指を立てた右手を覆うように巻きつけ、拳銃を構えるように何度か練習すると、ほどいたカバーを手にして隣の部屋に向かった。

 トントン。

 隣の部屋をノックしたが、誰も答える者はなかった。
 留守のはずがなかった。事件が起こった時刻までは、残り数時間しかなかった。シェリルは、そっとドアノブに手を掛けた。ガチャリッ――。ドアには、ロックが掛けられていた。しかし、あわてることなく、シェリルは後ろに束ねた髪の毛の中から、針金のような細い器具を取り出すと、たやすくロックをはずしてしまった。
コメント
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