goo blog サービス終了のお知らせ 

くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

未来の落とし物(172)終わり

2025-07-14 21:02:00 | 「未来の落とし物」


 ハハハハハッ……

 と、楽しそうに笑ったアマガエルを、亜珠理はキッと睨むような目で振り返った。
「悪魔に貰っても神様に貰っても、力それ自体には悪魔も神様もないんじゃない」と、アマガエルは遠くを見るように言った。「貰った力を使う者が、悪いことに使うか、良いことに使うか、その違いによるはずだよ」
「――この覆面は、悪魔から貰ったんです」と、亜珠理は向き直って言った。「この覆面のおかげで、キングみたいに強くなれたんです。でも、悪魔から貰ったことが許せなくって、破り捨ててしまおうとしたんですけど、燃やすことも切ることもできなくって、どう処分しようか考えて、ここに来たんです」

「もし君が被らなくても、誰かが被って、悪魔のように変身するかもしれないよ」

 と、アマガエルは言った。「悪魔のことを危険な存在だって知っている君が、正しく力を使えば、悪魔を寄せつけないことができるだろ。それが――」

「闇を切り裂く無敵の光。シャドウ・ライト・キング」 

 と、亜珠理が言うと、アマガエルは大きくうなずいた。
「――どう、一人で降りられるかい」と、アマガエルは心配そうに言った。
「大丈夫です」と、立ち上がった亜珠理はアマガエルを見ると、マスクを被っていてもそれと分かるほど、にっこりと笑いながら言った。「一人で帰れます」

「だって私、正義の味方ですから――」

「あっ」と、息を飲んだアマガエルは、亜珠理を助けようと手を伸ばした。
 小さく手を振った亜珠理が、ビルの屋上から、真っ逆さまに落ちていくように見えたからだった。
「すごいな」と、屋上から下を覗いたアマガエルは、思わず舌を巻いた。
 どういう原理なのか、空は飛べないようだったが、亜珠理は何もない空間を足場に、次々に飛び移りながら、どこかに向かって移動していた。

「キングか――」 

 と、笑みを浮かべたアマガエルは、ポケットに手を入れると、タン、という音と共に姿を消した。
 雪が、どんよりと曇った空から、ちらほらと舞い降り始めた。

                        おわり。そして、つづく――。


※長きに渡り閲覧いただき、ありがとうございました。

 またいつか、そのうち、近々、すぐにまた、新たな場所でお会いできればと思います。

 それじゃ、したっけ!

 

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

未来の落とし物(171)【14章 闇を切り裂く無敵の光】

2025-07-14 21:01:00 | 「未来の落とし物」

         14章 闇を切り裂く無敵の光

 ヒュー、ヒュヒューン、ヒューン――  

 と、どんよりと広がる暗い雲の下、耳障りなビル風が止むことなく吹き続けていた。

「とうとう、本格的に雪が降りそうだなぁ」

 後ろからつぶやくような声が聞こえて、びくりとした亜珠理は、はっとして振り返った。
 見ると、どうやって来たのか、前をしっかりと閉じたハーフコートの男が、空を見上げて立っていた。
 スキンヘッドの男は、コートのポケットに両手を入れ、わずかに身を震わせながら、寒そうに白い息を吐いていた。襟元から覗く青い色のシャツが、嫌に目についた。
 振り返っていた亜珠理は、男がなにもしないと分かると、静かに向き直って座り直した。
 眼下には、ライトを灯した車が互い違いに走りすぎ、家路についた人々が、足早にすれ違っていた。
 亜珠理は、街を見下ろすように建てられたビルの屋上で、縁から足を投げ出すように座っていた。

「キング、なんとかだったっけ――」

 と、男はややもして、ぽつりと言った。
「――」と、振り返った亜珠理は黙ってうなずき、向き直ると、首を振って言った。「シャドウ・ライト・キングです」
 学校の帰りなのか、マスクを被った亜珠理は、制服を着てリュックサックを背負っていた。
「そうそう」と、アマガエルは楽しそうに言った。「シャドウ・ライト・キングだった。面白かったなぁ」
 亜珠理は声を出さなかったが、くすりと笑ったようだった。
「もしかして、ぼくより年上?」
 アマガエルが言うと、これには亜珠理も驚き、大きく首を振った。
「――もしかしたら、高いところが好きなのかい」と、アマガエルは言った。
 と、小さく首を振った亜珠理は、眼下に見える街の様子を見ながら言った。
「どうして、こんな力を貰っちゃったんだろうって、考えてたんです」
 じっと考えていたアマガエルは、困ったように言った。
「貰った力は、大事にしないと。使い方さえ間違わなければ、誰にも恥じることなんかないんだよ」
 と、亜珠理は顔を上げると、声を荒げて言った。

「悪魔に貰った力でも、そう言えますか」

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

未来の落とし物(170)

2025-07-14 21:00:00 | 「未来の落とし物」

 右腕の銃を構えたまま、真人は微動だにしていなかったが、亜珠理の悲鳴に我に返ったのか、
「――」
 と、わずかに首を傾げながら銃を下ろした。

「この人殺し」

 亜珠理は声をかすれさせながら叫ぶと、真人に掴みかかろうとした。
「もうやめるんだ」と、沙織をアオにまかせ、ジローが亜珠理を捕まえた。「仕方なかっただろ。おれ達の誰一人、スカイ・ガールを止められなかった。おまえも分かってるだろ」
「あの子は悪魔だ」と、亜珠理はジローの腕を振りほどこうと、もがきながら言った。「彼女が言っていたとおり、あの悪魔を倒さなければ、終わらない」
「いい加減にしろ」ろ、ジローは舌打ちをして言った。「分かってるんだろ。あのままスカイ・ガールを放っておいたら、ほかの誰かが犠牲になっていたかもしれないって」

「――放して」

 と、亜珠理は嫌々をするようにジローの腕を放そうとした。

「放してやれよ」

 と、ジローが顔を上げると、真人が自分達に向かって右腕の銃を構えていた。「面倒くさいから、同じように蒸発させてやる」

 一瞬の沈黙の後、しかし銃は再び閃光をほとばしらせることなく、真人の腕に戻っていた。
 見れば、亜珠理とジローがいた場所には、二人を守るように、沙織と、沙織の肩に止まって剣を抜く、アオの姿があった。
 小さく舌打ちをした真人は、いつの間にか出現していたどこまでもドアに向かって、歩き出していた。
「あいつらの道具は、潜水艦でどこかに捨てておけばいい。タイムパトロールが回収してくれるさ」と、多田が待っていたドアをくぐって、真人は言った。「いつでも島に行ける準備をしておけよ。迎えに行く――」

 どこまでもドアの扉がバタリと閉まると、急に押し黙った亜珠理を残し、ジロー達は手早く瞬と孝弘の道具を回収すると、気を失った二人をそのままに、潜水艦に乗って球場を後にした。
 深夜の球場に一人残された亜珠理は、遠くパトカーのサイレンが鈴なりに聞こえてくるのに気がつくと、はっとして顔を上げ、Sガールにも負けない速さで走り出し、寝静まった住宅街に姿を消した。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

未来の落とし物(169)

2025-07-13 21:02:00 | 「未来の落とし物」


「だめ、私が止めるから」

 と、なにかを感じた亜珠理は、ジローを叩きのめし、まんまと膝を突かせてしまったSガールに向かって、諦めずに飛び出していった。
「こっちに来ちゃダメ」と、再び元の姿に戻った沙織は、手を伸ばして亜珠理を止めようとした。

「おまえだけは許さない」

 と、Sガールが沙織にとどめを刺そうと拳を構えたところに、亜珠理のこれまでにないほど強烈な蹴りが放たれた。

 ――ドッゴゴン。

 亜珠理の蹴りは、Sガールも目を剥くほど、わずかな時間で強さを増していた。
 しかし、蹴りを受けたSガールを、わずかに後ろに下がらせただけで、亜珠理の放った蹴りでは、Sガールを止めることはできなかった。
「もう邪魔するな」と、沙織に向けられていたはずの拳が、亜珠理の胸を突いた。

 うっ――。 

「だから言っただろ、無理するなって」

 振り返ったSガールが見ると、右腕に仕込んだ銃を構えた真人が、Sガールに銃口を向けていた。

「おまえか」と、Sガールは余裕の笑みを浮かべて宙に飛び上がった。
「やめて、彼女は悪くない」と、胸を押さえた亜珠理が、真人に言った。
 ジローは、ふらついている沙織を支えて、Sガールに鋭い視線を送っていた。

 真人の構えた銃口から、瀧のような光が勢いよく吹き出し、空を舞うSガールをすっぽりと包みこんだ。

 その場にいた誰もが、言葉を失った。
「なんだ、今の  」と、ジローがSガールが飛んでいた辺りを見ながら言った。
 沙織は、困ったように首を振った。その肩には、いつの間に降りてきたのか、アオが何事もなかったように止まっていた。

 ――キャアアアアアッ

 と、亜珠理の慟哭のような悲鳴が、球場中にこだました。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

未来の落とし物(168)

2025-07-13 21:01:00 | 「未来の落とし物」


 ――ドッゴヴン

 と、Sガールの胸が重い音を立てたが、わずかばかりの影響も与えることができなかった。
「おいジロー。おまえも手加減しすぎなんだよ」と、転がっていた真人は急いで立ち上がりつつ、右腕の指輪を装填しようと躍起になっていた。「少しは歯ごたえのあるところを見せないと、ますます調子づいて、完全に正気を失うぞ」

 ――ドッゴゴン。ゴゴン。ゴゴン、ドゴゴン。

 と、Sガールの拳を続けざまに受けたジローの体が、分厚い鉄が深い海に落とされたような、形容しがたい音を繰り返し響かせた。
「サオリ、おまえどんな接着剤でくっつけたんだ」と、舌打ちをしながら真人は言った。「石が台座から外れやしねぇ」

「もう、やめなさい」

 と、全身泥まみれになった亜珠理が、ジローを殴り倒そうとしているSガールに、飛びかかった。「もうやめなさい。自由なれたんなら、それでいいじゃない」
 振り返りざま、Sガールの放った裏拳を顔面に受け、亜珠理は蹴り上げられたボールのように躍り上がった。

「おっと。危ねぇって」

 と、ちょうど目の前に来た亜珠理を、身を投げ出して捕まえた真人は、ため息を漏らすように言った。「おまえも自分の殻を破れないヤツだな。そのマスクを被ってりゃ、空飛ぶお姉ちゃんと同じ力が出せるはずなんだぜ」
「――」と、体を起こした亜珠理は、不思議そうな顔をして真人を見た。
「オレが手を加えたからな。やる気になれば、空だって自由に飛び回れるんだ」

 ジローとSガールは、奇妙な破壊音を轟かせながら、互いに一歩も引かずに戦っていた。

「おい鳥。見てないで頼む」

 と、真人は空に飛び上がったまま、じっと様子をうかがっているアオに言いながら、持っている指輪を頭上高く放り上げた。「――なんだよ。わかった。アオ、頼むよ、こいつを切り外してくれ」
 と、真人はもう一度、空に飛び上がったまま、じっと様子をうかがっているアオを見ながら、持っている指輪を頭上高く放り上げた。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

未来の落とし物(167)

2025-07-13 21:00:00 | 「未来の落とし物」

「いいえ。全力だったわ」と、沙織は自分を支えていたジローの手を放して言った。「彼女を止めるために、必死だった」
 まだおぼつかない足で立っている沙織の肩に、アオがふわりと止まった。
「ごめんね、アオ」と、沙織はちらりと、肩に止まった機械仕掛けの青い鳥を見て言った。「やっぱり、あなたアオなんでしょ。私の知っているアオにそっくりだもの。――ううん。マスクの子を助けなきゃ。あの子じゃ、スカイ・ガールには勝てないから」

 Sガールにしたたか地面に叩きつけられた亜珠理は、力を振り絞って立ち上がろうとしているところを、「もう立つな、寝てろ」と、何度も繰り返し、Sガールに踏みつけられていた。

「石を返せよ」と、真人は沙織を見ると、手の平を出して言った。「おまえ達のかなう相手じゃない」
「おれからも、頼む」と、ジローは沙織を見て言った。
「――」と、沙織は一度は首を振ったが、Sガールに踏みつけられる度、苦悶の声を上げる亜珠理を目に留め、しぶしぶ指輪を外した。

「あなたにまかせるわ」

「まかせせとけって」と、真人は指輪を受け取ると、右腕の銃を実体化させ、装填しようとした。

「おまえら、シカトしてんじゃねぇぞ」

 と、指輪を真人に手渡した沙織に、Sガールが音よりも早い蹴りを放った。
 しかしSガールの放った蹴りは、わずか紙一重のところでジローに足首を掴まれ、沙織に食らわせることはできなかった。
 真人は、Sガールの蹴りがはらんでいた風圧を受け、ふわりと浮き上がったかと思うと、後ろ向きに転がされてしまった。
 アオは、翼の下に隠した剣を抜くことなく、飛び上がって宙に留まったまま、なぜかじっと様子をうかがっていた。
「放せ」と、Sガールはもう一方の足でジローの腕を蹴り外すと、沙織ではなく、ジローに殴りかかった。「私の邪魔をするヤツは許さない」

「――もう立つな、そこでじっとしていろ」

  と、ジローはSガールに向かって行こうとする沙織に言った。「おれを倒さなければ、彼女には手を出させない」
 ジローは胸にSガールの拳を受けたが、一瞬の後、同じように拳を固めて打ち返した。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

未来の落とし物(166)

2025-07-12 21:02:00 | 「未来の落とし物」

「知ったことか」と、Sガールは小さく飛び上がると、両足で沙織を蹴りつけた。「私の足手まといになるなら、もう仲間じゃない」
「かわいそうな人」と、Sガールの蹴りを胸に受けた沙織は、どろどろになった溶岩となってSガールに絡みつき、地面に押し倒した。「自分でスーツが脱げないんなら、私が焼き切ってあげるわ」

「待て待て、待てよ」

 と、真人はあわてて沙織に言った。「そのスーツは惑星開発用に作られた特注品なんだ。洗脳機能といい、人でなしのろくでもない道具だが、それ分だけ強度は桁違いで、地球上でそのスーツを焼き切る熱は発せられない。――はず?」
 Sガールの上に馬乗りになった沙織の手元から、焦げたような匂いがたちまち周囲に漂い始めた。

「放せっ」

 と、Sガールは全身に溶岩をまとわりつかせながら、両手足をうんと伸ばして、力まかせに沙織を振りほどいた。「熱いって言ってるだろ」
 Sガールは、跪いている沙織に真っ赤になった目を向けると、熱線を放った。
 二筋の熱線は、冷水に熱した鉄棒を突き刺したような、ジュボッという音をさせ、沙織の溶岩の体を貫いた。
 沙織は体を再生させようとしたが、Sガールは沙織を立ち上がらせまいと、滅多やたらに熱線を浴びせ続けた。

「だめ」「やめろ」

 と、Sガールは亜珠理の蹴りを受け、片膝を突いた。
 わずかの差で遅れたジローは、うつ伏せのまま起き上がれないでいる沙織に駆け寄り、抱きかかえて立ち上がらせた。
「――どうやってそんな姿になったんだ」と、足下がおぼつかない沙織に、真人は聞いた。「まさか、オレが貸したブレスレットじゃないよな」

 こくり。

 と、沙織はうなずいた。「助かったわ」
「――だろ」と、どぎまぎとして言った真人を見て、ジローはチッと舌打ちをして言った。
「ちょっと強すぎたんじゃないのか。沙織に合わせて作った物じゃないんだろ」
「――」と、真人は冷たい芝生の上で揉み合っている亜珠理とSガールを見て、言った。「さっき手加減しただろ」
 ジローは、はっとして沙織の顔を覗きこんだ。

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

未来の落とし物(165)

2025-07-12 21:01:00 | 「未来の落とし物」

「もういい加減にしろ」と、もがくSガールを押さえながら、ジローは言った。「誰の指図で操られていたのかは知らないが、もう声は聞こえないんじゃないのか。弱みにつけこまれる心配がないなら、もう無理する必要なんてないだろ」
 わずかの間、Sガールとジローは顔を見合わせたが、仰向けになっていたSガールは、すぐにジローの腕を外し取り、うつ伏せになって抱きついているジローの顔面を足蹴にした。

「黙れ、はな垂れ坊主」

 と、言ったSガールは立ち上がると、ジローが遠く転がった先を一瞥しつつ、沙織に向き直った。「あんただけは絶対に許さない」
「もうやめて」と、Sガールの前に立った亜珠理は大きく腕を広げ、「もうやめて」と、Sガールを見ながら、繰り返して言った。
「どきな、マスク女」と、Sガールは憎らしげに言った。「その女が填めている指輪を持って帰らなきゃ、終われないんだよ」

「そうそう。空飛ぶお姉ちゃんは止まんないよ」

 と、潜水艦から下りてきた真人は、大きな声で言った。「マスクのお姉ちゃんには分からないかもしれないが、そのスーツにはまだ隠された機能があるんだ」
「――子供の姿をした悪魔め」と、こちらに向かってくる真人に、Sガールははっとした顔を向けつつ、なぜかわずかに後じさった。
「――」と、その様子に気がついた亜珠理だったが、自分達のいる所まで歩いてくる真人に言った。「きみ、それってどういうことなの」
「そのスーツは、着る者に超人的な力を発揮させるが、スーツを着た人間が刃向かわないように、知らず知らずのうちに洗脳してしまうんだ」
「そんなことはない」と、Sガールは否定するように言ったが、亜珠理と沙織は黙ったまま、反応しなかった。
「その女を正気に戻すには、スーツを脱がして洗脳を解くしかない」と、真人は言った。

「この悪魔め。私はなににも縛られやしない。私は自由だ――」

 と、Sガールは自分の胸に手を当てながら言った。「ただ、その女が填めている指輪と、悪魔のおまえを退治さえすれば、本当の私になれるんだ」
「な、おかしくなってるだろ」と、真人は困ったように言った。「スーツを手に入れた時、マスクを断ってなけりゃ、もっと早く悪の手先に落ちてただろうよ」
「うるさいっ」と、Sガールは地面を蹴ると、目の前の亜珠理をはねのけ、沙織に殴りかかった。
「もういい加減にしなさい」と、沙織はSガールの腕を捉えると言った。「倒れた二人をあのままにしておいたら、タイムパトロールに記憶を消されてしまうわよ」

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

未来の落とし物(164)

2025-07-12 21:00:00 | 「未来の落とし物」

「私は先に鳥を潰しておくから」と、Sガールは空に舞い上がって沙織から距離をとると、翼を凍らされて身動きのできないアオを狙って、急降下を始め、拳を突き出した。

 ――もぞり。

 Sガールがとっさに目の端で捉えたのは、地面が水のようにこんもりと膨らみ、黄色い鉄の船体が勢いよく飛び出してきたところだった。

「ちっ、やっぱり来たか」

 よそ見をしつつ、Sガールは地面に転がっているアオに鉄をも破る拳を打ちこもうとしたが、翼を凍りつかされて身動きができないはずのアオは、何事もなかったかのように立ち上がると、Sガールに向かって嘴を突き立てるように飛び上がった。
 アオは、咥えていた剣を翼の陰に器用に隠したまま、カワセミが水面下にダイブするような姿勢で夜空に向かって飛び上がり、唸りを上げて襲いかかるSガールの拳に正面から向かっていった。

 ざっぶん……

 と、黄色い潜水艦が地面の上に浮かび上がるのと、わずかな悲鳴を上げてSガールが地面に叩きつけられるのとは、ほぼ同時だった。

「あっ――」

 と、Sガールが地響きと共に倒されたのに驚き、孝弘と瞬は思わずSガールの安否を確かめるように振り向いた。
 亜珠理と沙織はその一瞬を見逃さず、非情な一撃を加えて二人を昏倒させた。

「命までは取っちゃいないわ」

 と、沙織と亜珠理は申し合わせたように、二人とも同じ言葉を口走っていた。

「――おまえら。絶対に許さない」

 手をついて立ち上がったSガールは、沙織の発する熱でぐちゃぐちゃに溶け出した土を全身に浴び、泥だらけになった顔を持ち上げて言った。「その指輪をよこせ」
 Sガールは、泥水を派手にまき散らしながら、沙織に襲いかかった。
 しかし、潜水艦から出てきたジローが後ろから掴みかかり、Sガールとともに地面に倒れこんだ。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする

未来の落とし物(163)

2025-07-11 21:02:00 | 「未来の落とし物」

「仕方ないわね」と、ため息をついた沙織と、剣を咥えたまま地面に立っているアオが顔を見合わせた。
「あなたには気の毒だけれど、私だって、この石を諦めるわけにはいかないのよ」と、沙織は襟の裏から取り出した指輪を填め、緑色に怪しく光る石を指先でねぶりながら言った。

「休憩は終わりよ」

 と、キーンという耳障りな音を立てながら、Sガールが拳を突き出して襲いかかってきた。
 さっと身を翻した沙織達は、またばらばらに引き離された。

 ドドン、パッ、ドッドン……

 と、瞬の太鼓が起こす稲妻が、アオと沙織にではなく、亜珠理を狙って落とされた。
「アオ、お願い」と、気がついた沙織が言うと、アオは急ぎ翼を翻したが、剣を振るうやいなや孝弘に翼を凍らされ、地面に倒れこんでしまった。

 ドッドドドロロロン――……

 と、亜珠理を狙っていた稲妻は、アオが倒れる寸前に振るった一刀によって、ぎりぎりで軌道を変えられ、球場のスタンドに設置されたベンチの一角を焦がしただけだった。
「当たんねぇなあ」と、瞬は舌打ちをすると、ちょこまかと捉えどころがないほど動き回る孝弘と亜珠理を見ながら、不満そうに言った。「おい、もう少しゆっくり動いてくれよ。雷が落とせないじゃないか」

「熱いわね、なんなのその腕」

 と、両腕で顔を守っていたSガールは、体中を溶岩と化した沙織を見ながら言った。「あんたって、センスのない衣装を替えられるだけじゃなかったの」
「服は外から自分を守る物でしょ」と、沙織はどろどろの飴のようになった腕を振るうと、盛んに湯気を立ち上らせる溶岩が、Sガールに向かって鞭のように襲いかかった。「内側から自分を守る心の鎧は、使い方次第で武器にだってなるのよ」
「けっ、訳の分からないこと言ってるんじゃねぇよ」と、言いながら、Sガールは襲いかかる溶岩を避け、後ろに下がりながら、目から発する熱線を間髪を入れず沙織に放ったが、どろどろの溶岩と化した沙織には、微塵も痛手を与えられなかった。

「――そんなところでぼけっとしてないで、あの女に雷を落としなさい」

 と、Sガールの声にあわてて振り返った瞬は、溶岩を振るう沙織に向かって雷を落とそうと、背中の太鼓を激しく叩いた。

 

コメント
  • X
  • Facebookでシェアする
  • はてなブックマークに追加する
  • LINEでシェアする