くりぃーむソ~ダ

気まぐれな日記だよ。

狼おとこ(51)

2022-03-31 19:21:42 | 「狼おとこ」

 グレイの手に、しっかりと手首をつかまれ、離れられないでいたトムが、勢い余って尻もちをついた。信じられないといった顔で見上げるトムの目の前で、グレイはゆっくりとナイフを引き抜いていった。ズルッ、ズルッ――という耳障りな音を立て、ナイフがだんだんと持ち上がっていった。
「本物の狼男は、そんなことはしないんだ」と、グレイはトムの足元に、血で濡れたナイフを放り投げた。
 と、グレイが天を仰いで白目を剥いた。噛み合わされた歯が、がちがちと音を立てた。なにもない空間を鷲づかみにするように、両手が突き出された。

 ウォ――……ッ

 グレイの口から、獣の声が発せられた。その顔は、みるみるうちに銀色の剛毛で覆われていった。見れば、ボタンが千切れそうなほど体が膨れ上がり、胸からも、そして袖口からも、太く長い毛が飛び出していた。爪は、ぼろぼろと剥がれ、黒く鋭い爪がにょきりと生えていた。グレイは、人の形をした獣に変身した。
「バードの仇を、とらせてもらうよ」
 グレイは、きっとトムを睨みつけた。恐怖で引きつったトムは、訳のわからぬことを言いながら、後じさるのが精一杯だった。
 トムを追い詰めながら、グレイが言った。
「バードがどんなにおまえを恨んだか、わかるか。どんなにくやしい思いをして、十字架に掛けられたか、おまえにわかるか。おまえみたいなやつは、おまえらがダイアナにそうしたように――いやそれ以上にむごたらしく、この爪で切り刻んでやる」
 グレイは、どっしりと大股に立つと、湧き上がる力を歓喜するように、星空に向かって大きく吠えた。細く伸びる叫びは、連なる山々を遠く越え、どこまでもこだましていった。

 

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よもよも

2022-03-31 06:13:38 | Weblog

やれほれ。

オミクロンも都市部の話しだと思ってたら、

町のホームページで子供達に感染が広がってるって

お知らせがXXX

子供達に広まってるって事は、

自動的に家族にも感染が広がってしまって、

一緒に働いてる人もやむを得ず自宅待機とか・・・。

地方なんて人混みなんかないんだから

感染なんてないんじゃない。

なんて高く食ってた所もあったけどさ、

確かに学校とかはそれなりに人も多いし、

クラスターも発生するよな・・・。

だんだんウィルスが近づいてきて、

なんか恐いなぁXXX

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狼おとこ(50)

2022-03-30 19:45:09 | 「狼おとこ」

「放してよ!」と、アリエナは手足をばたつかせてもがいた。「知らなかった、知らなかったって。あんた達も分からず屋の大人と一緒よ。知らなかったで人を殺しておいて、それで許されるわけがないじゃない」
「――だって、バードを犯人に仕立てなければ、おれ達に火がつくって。だから、だからおれ、あいつが狼男だって、トムと一緒にたくらんで密告したんだよ」
 ごめん、と言いながら、嗚咽を漏らすトーマスの腕が、突然「いてぇ」という叫びとともに緩んだ。
 アリエナは、その機を逃さず、さっと腕をすり抜けた。トーマスは、転げのたうち回って、苦悶の声を上げていた。その腕には、いつ戻って来たのか、アリスがしっかりと食らいついていた。どこに行っていたのか、アリスの首から、リードが消えていた。
「放せよぉ」と、トーマスが耳をつんざくような声で叫んだ。しかしアリスは、たとえめったやたらに殴られても、幾度となく地面に叩きつけられても、咥えた腕を決して放そうとしなかった。逆に糸を引いてしたたり落ちる血が、さらにいっそう深く噛みついていることを示していた。
 黙って眺めていたトムも、あわててトーマスに走り寄ってきた。そして、アリス目がけてナイフを振り下ろそうと、頭上高く持ち上げた。すると、アリスはいともやすやすと噛みついていた腕を放し、暗闇に沈む林の中へ入っていた。
 あっけにとられたトムが、アリスが消えた林に目を転じると、そこに光る一対の鬼火を見た。
 次から次へと血が流れ出す腕を抱えて、トーマスは転げ回っていた。仲間の三人が駆けつけたが、あたふたと、お互いの青くなった表情を見比べるばかりだった。青くなっていたのは、アリエナも同様だった。腰が抜けたように座ったまま、後ろに手を突いて、呆けたようにトーマスを見ていた。
「なんだよ、おまえは――」と、トムが人の輪郭を持った鬼火に言った。
 トムの殺気をはらんだ声を聞いて、その場に居合わせた全員の目が、トムへと注がれた。
 祭りの最後を飾った花火は、既に終わりを遂げていた。先ほどまで色鮮やかに燃えていた空も、今では無数に瞬く星の世界に戻っていた。墓標のない墓場は、ひときわ大きく光る満月の明かりによって、緑色の舞台のように浮かび上がって見えた。
 のっそりと、それほど大きくはない背丈の人影が、草を踏むカサカサという音をさせながら、近づいてきた。月光の丸い光の輪に照らし出されたのは、グレイだった。
「こいつ、見てやがったのか」と、吐き捨てるように叫んだトムは、素早く駆け寄ると、グレイの心臓にナイフを突き立てた。
 アリエナの甲高い悲鳴が、静寂な山々に響き渡った。見守っていた三人とアリエナは、動けないトーマスを置いて、次々と蜘蛛の子を散らすように逃げ去った。
 後に残ったのは、トムとグレイだけだった。
 グレイは、ナイフを突き立てたトムの腕をつかんだまま、じっとその場に立ちつくしていた。
「やっぱりおまえだったんだな、トム――」と、野太い、腹の奥に響くような声で、グレイが言った。

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よもよも

2022-03-30 06:14:25 | Weblog

やれほれ。

去年も思ったけど、

自然の力は偉大だよね。。

先週末じんわり雨が降ったと思ったら、

あっという間に地面が表に出てきて、

あんだけ積もってた雪が見る影もないくらい

溶けて痩せちまった・・・。

こうなると春支度も進まなきゃって

着る物やら準備する物やらでなんとなく気がせいてくるんだけど、

これも去年と同じで、なんにも手につかない。。

でも、さすがに春は寝付きがいいんだよね。

短い睡眠時間だけどさ、

年中通してこんな寝心地がいいんなら、

年間通して高いパフォーマンス維持できんだけどなぁ。

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狼おとこ(49)

2022-03-29 19:49:15 | 「狼おとこ」


「よく来たな、アリエナ。みんながいるから、なんて嘘ついて悪かったが、ちょっとおまえに話があったんだよ」

 トーマスが話している後ろから、ジャック、チャールズ、そしてアルが、怒ったような表情をして現れた。

「なんの用なのよ!」

 アリエナは震える声で叫んだが、トーマス達は互いに顔を見合わせ、いやしい声をあげて嘲笑した。
「遅かったじゃないか、アリエナ――」
 アリエナは驚いて後ろを振り返った。自分の今やってきた道を塞ぐようにして、義兄のトムが立っていた。口元にはあの、人を凍りつかせるような、冷たい笑いがへばりついていた。
「アリエナ、遅かったじゃないか。来ないんじゃないかと気が気じゃなかったぜ」
「なんなのよ。わたしになんの用があるのよ」
 アリエナの声は、もう半ば涙声になっていた。と、アリエナにくっついて立っていたアリスが、不意にトムに向かって走り出した。アリエナはあわててリード引こうとしたが、間に合わなかった。
 走り出したアリスにぎくりとしたトムが、懐からなにか取り出すのを、アリエナは、ひときわ大きな花火の明滅する光りの中、はっきりと目の当たりにした。
 トムがアリスに振りかざしたのは、大きなジャックナイフだった。その刃は、トムの顔が隠れてしまいそうなほど幅広で、花火の赤い火を血のようにぬめぬめと反射させていた。
 アリスはしかし、トムに飛びかかっていかなかった。ただひたすらに、来た道を走り去っていった。あっけにとられたトムは、気負いをくじかれて、ちぇっ、と歯がみをしたが、その場にいたほかの面々が、重々しくどよめいた。
「トム、なんだよ、それ――」と、トーマスが指をさして言った。
 トムは、ヘッヘッヘッと声を出して笑った。
「なに震えてるんだよ、トーマス。こいつはおれ達のことを知ってるんだぜ。おとなしく黙ってりゃいいものを、鍛冶屋の老いぼれに洩らしやがって。おかげで町の連中が妙な目つきでおれを見やがるんだ。おせっかいでうるさい口は、塞いじまうのが一番さ」
「トム、まさかおまえ、ダイアナを死なせたのは、おまえじゃないだろうな」と、トーマスが訊いた。
「だったらどうするんだ」と、トムはナイフを手にしたまま、ゆっくりと近づいてきた。「だったらどうする? おまえらだって、もうどっぷり狼男ごっこにつかっちまってるんだぜ。誰か一人が逃げ出そうとしても、残された者ともども裁判にかけられるんだ」
 アリエナは後じさった。トムはゆっくりと近づいていった。悲鳴を上げて、駆け出そうとしたアリエナを、トーマスが羽交い締めにして捕まえた。
「ごめん、アリエナ」と、トーマスは涙声で言った。「あいつがダイアナを殺しただなんて、知らなかったんだよ。あんなことをする奴だったなんて、知らなかったんだ――」

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よもよも

2022-03-29 06:21:46 | Weblog

やれほれ。

日本の映画がアメリカの映画の賞を貰ったらしい。。

ローカル放送じゃロケ地になった赤平市の

盛り上がりみたいなこと放送してるけど

よく考えてみりゃ映画になるくらい適度に閑散としてるって事でしょ??

嬉しいけどなんか寂しさを感じるのは自分だけかな?

業界の新聞じゃまたぞろ小樽から長万部までのJRが

廃線になるとかって記事が大きく出てるしさ、

北海道じゃ車持ってないとどこにも移動できない時代が来そうで恐くない??

北海道人口がどんどん本州の方に流出しちゃって、

そんなところに

三色旗の大国がその気になって攻めてきたら、

あっという間に領土にされちゃいそう・・・。

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狼おとこ(48)

2022-03-28 19:32:04 | 「狼おとこ」


「――よう、アリエナ」

 肩を叩かれて振り向くと、そこにはトーマスがいた。
「トーマス、どうしたの、その格好」と、アリエナは眉をひそめた。それだけ、トーマスの仮装は異様なものだった。それは、どう見ても狼男だった。本物の狼の皮を剥ぎ、頭からすっぽり被ったようだった。
「じいちゃんから貰ったんだよ。旅のお土産に」と、トーマスは自慢げに言った。「あっちで、みんな集まってるんだぜ。一緒に行こうよ」
 アリエナは躊躇した。ダイアナの事件が頭をよぎった。しかし、みんなの中で孤立したくはなかった。
「いいわ。どこなの――」
 トーマスは、「ついてこいよ」と、そう言うと、アリエナの前を小走りに駆けていった。
「おいで、アリス」
 アリエナは革のリードをつけたアリスを連れながら、トーマスを見失わないよう懸命についていった。トーマスは、やけに早足だった。アリエナについてこいと言いながら、後ろのことなどまるで無関心といった感じだった。
 トーマスの後についていくだけに集中していたアリエナは、次第に周囲から人の気配が消えていくのに気がつかなかった。アリエナが不安を覚えたのは、町はずれの、もうぼんやりとした明かりしか届かない、小さな野道にさしかかってからだった。
 立ち止まったアリエナに、先を走っていたトーマスが、

「早く来いよ、花火が終わっちまうじゃないか」

 と、しきりに手招きをして見せた。
 花火は、相変わらずアリエナの正面の空で、きれいな火花を満開に咲かせていた。
「早く来いよ!」と、トーマスがじれたように言った。
 アリエナは、唇を噛みながら走り出した。トーマスもそれを見て、前よりもいっそう早く駆けていった。
 トーマスは、みるみるうちにアリエナとの距離を離してしまった。ひとりぼっちで道を走る心細さに、アリエナがたまらず声をかけても、ただ「早く来いよ」と、そう繰り返すだけで、ずんずんと先を走っていった。やがて、アリエナの視界からトーマスの姿が消えた。寂しい木立の中に延びる一本道で、追いつくのをあきらめたアリエナは、寒さからとは違う溢れる鼻をすすりながら、駆けていた足を早足に変えた。もういい加減帰ろうか、と迷ったが、アリスが一緒にいるんだから、と勇気を奮い立たせ、歯を食いしばりながら進んでいった。
 アリエナが行き着いたところは、バードの遺骨が眠る墓場だった。アリエナは直感で、自分が騙されたのだとわかった。案の定、闇夜に隠れていたトーマスが、狼男の姿をして近づいてきた。

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よもよも

2022-03-28 06:15:38 | Weblog

やれほれ。

4月が近づいて卒業だ異動だって

人の動きが多いからか、

はたまた蔓延防止対策期間が解除になったからか、

それともそのいずれもか、

都市部は人の動きが多かったわ・・・。

ひさびさ練習あったんでそこそこ人も集まるのかなと思ったら

さすがに社会人のクラブだからか、

思ったほど人は集まらなかった・・・そりゃそうだわ。。

それにしても野球は連敗で、

まぁスター選手ばっか続けて出てくるんでファンは盛り上がるんだろうけど、

勝敗にこだわる人達はどんな思いで見てんのかね??

なんて事務局側の立場から考えると、なんかスポーツに政治持ちこむみたいで

とたんにお金とか権威とかって匂いがプンプンしてきて、

だけどプロスポーツってば、勝たなきゃだめなんでしょ??

給料貰ってる以上は人気だけじゃだめなんだろうから、

このまま開幕みたいな感じが続いちゃうと、会社がどう動くのか、

なんかそっちの方が興味があるわ。。

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狼おとこ(47)

2022-03-27 18:34:16 | 「狼おとこ」

「よかったじゃないか。でも、もう寝なさい」と、ケントはそう言って、寝室へ戻っていった。アリエナはしかし、もう眠気などどこかへ飛んでいってしまっていた。
「どう、おいしい」と、店の食堂に入り、皿いっぱいにミルクを注ぐと、アリエナは言った。
 アリスは、たっぷりのミルクをあっというまに平らげてしまった。アリエナは大喜びし、さっそくアリスを部屋に連れて行くと、アリスがいた時に使っていたボールを探し出し、ポンと床に放って遊ばせようとした。

「どうしたの、アリス?」

 アリスはボールなど見向きもしなかった。伏せて、嬉しそうに尻尾は振っているものの、耳をすまし、かすかな物音にもぴくりと反応していた。
 アリエナは、アリスが以前のアリスではないことを悟った。もう立派な大人になっていた。アリエナは、ちょっぴり悲しさを覚えながらも、ベッドに入った。アリスがいなくなってから起こった、たくさんの出来事が思い返された。アリエナは、アリスの息吹を感じながら、静かに深い眠りに落ちていった――。
 朝、アリエナは花火の音で目を覚ました。大砲のように大きな音は、心地よいベッドの中でたゆたんでいるアリエナを、心臓が飛び出しそうなほど驚かせるのに、十分なほどの迫力を持っていた。
 半ば寝ぼけているアリエナは、昨夜のアリスが夢ではなかったかと思い、毛布を跳ね上げて起き上がった。アリスは、ベッドの横で、しっかりと座っていた。アリエナは、アリスがぴしっとした姿勢でいるのを見て、アリスが自分をなにかから守ろうとしているのではないか、そう思った。
 朝食も早々に、アリエナは去年と同じ、ピエロの仮装をすると、パレードが行われる表通りへ、アリスを連れて大急ぎで駆けていった。
 神父を先頭とするパレードは、実に賑やかなものだった。きらびやかな山車がこれもきらびやかに飾られた馬に引かれ、通りをゆっくりと行進していった。全国から来た大道芸人達が、鳴り物を響かせて盛り上がらせていた。思い思いの仮装をした住人達は、大道芸人の輪に加わって狂ったように踊り、また山車の後ろにくっついて町内を練り歩いた。アリエナもそれらの人々に混じって、空腹も忘れるほど夢中になって祭りに参加していた。
 夜になり、祭りはいっそうの盛り上がりを見せていた。町中が昼間同様に明るく照らされ、湯水のように振る舞われた酒が、あちらこちらに水たまりを作っていた。我を忘れた人達は、その水たまりに飛びこみ、酒まみれ泥まみれになりながらも、踊り続けた。
 ドドーン、という音と共に花火が天空を焦がした。たくさんの火の粉が、しんしんと輝く満月の上る空を、無数に飛び散った。
 アリエナも疲れ切った顔をしながら空を見上げ、花火が打ち上げられるたびに歓声を上げていた。

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狼おとこ(46)

2022-03-26 22:10:06 | 「狼おとこ」

「違うよ」と、グレイは眉をひそめながら言った。「みんな気がついたんだよ。どうして魔法が弱くなってしまったのか。どうして、いつのまにか世の中が人間で溢れてしまったか。
 それは、魔女も妖精もぼく達も、自分大事さにお互いを認めなかったからさ。顔が合えばすぐケンカして、仲良くしようとしなかったからさ。しまいには、仲間同士で言い争って、自分だけの殻に閉じこもってしまったからさ。
 だから、魔法は効かなくなってしまったんだ。もう誰も、古くさい呪文になんか引っかかりはしないよ」
 魔女は黙りこくって、じっとうつむいたまま動かなかった。グレイはもうひと声なにか言おうとしたが、魔女にきつい一瞥をくれると、大股に歩き始めた。
「――坊や、ひとついいことを教えてあげるよ。いいことを聞かせてもらったお礼にね」と、魔女はうつむいたまま、不気味に震える声で言った。
「バードをはかりごとにかけたのは、町長の所のトムさ。あいつは、次はアリエナを狙ってるよ。ばかな小娘が、真犯人はトムなんだって、洩らしちまったからね。仇を討つつもりなら、あの娘から目を離すんじゃないよ」
 グレイは振り返りもせず、ただこくん、と小さくうなずいた。
 小路の向こうに見える表通りにグレイが消えると、魔女は意地の悪い笑い声を上げた。
「そうだよ狼男の坊主。せいぜいかわいい小娘を守ってやるがいいさ。おまえさんがいなくなっちまった後で悪かったがね、もうひとつおまけに教えてやるよ。
 もうすぐそこまで、異端審問官の一行が迫ってるってね――。
 イヒヒヒヒヒ……」


 アリスが帰ってきたのは、祭りの前日、夜が更けてからだった。グリフォン亭の住人は、みんなが寝床についていた。ただ一人、アリエナだけは、最近ひどくなったトムの冷たい視線におびえきり、夜も眠れずしきりに寝返りを打っていた。
 カリカリカリ、という木を削るような音が聞こえたのは、そんな時だった。アリエナははじめネズミのいたずらかと思ったが、しかし音は窓の外からしてくることに気がつき、じっと息を殺して耳をすました。
 カリカリという音に混じって、犬の鳴き声を耳にしたアリエナは、直感的に階下へ駆け下りていった。明かりも点けず、思い切ってドアを開けた向こうには、アリスが立っていた。
「アリス!」と、アリエナは喜びの声を上げ、しっかりとその胸にアリスを抱きしめた。
「おかえり、アリス。ごめんね、もう二度と、おまえを外へ放り出したりさせないからね。ごめんね、ごめんね……」
 階段を駆け下りる音に驚いて、ケントが手に銃を持ちながら、下に降りてきた。
「どうしたんだい、アリエナ――」
「見て、お父さん。アリスが帰ってきたのよ」
 ケントは目を疑った。アリエナがアリスという犬は、あの小さかったアリスの面影を、どこにも留めていなかった。一瞬、飼い犬ではないのではないか、と目をしばたたかせた。がっしりとした四肢ですっくと立つその姿は、まさに野生の狼を思わせた。ピンと立った耳、ましてやその眼光の鋭さは、アリエナが喜ばしげに抱いていなければ、とっさに銃の引き金を引かせそうなほど、恐ろしげだった。

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