11
キュールル……キュル……
キュール……キュルル……
耳障りな音が、ランドセルの中から聞こえてきた。
「ハァイ! こちら銀河放送局。
今日もあなたに送るハートのメッセージ――。
しっかりキャッチしてね……」
時折入る雑音に途切れながら、女の人の声が聞こえた。
「まずは届いたばかりの新曲から、どうぞ――」
ポップスの軽快な曲が流れ始めると、サトルはゆっくりと目を覚ました。
ついうとうとと、ふかふかの段差でうつ伏せになったまま、いつの間にか眠ってしまっていた。ラジオから流れる曲をぼんやりと耳にしながら、自分がどこにいるのか、うっすらと目を開けて考えていた。
「サトル君、さあ、あなたの町に到着したわよ――」
自分の名前が呼ばれて、サトルはあわてて体を起こした。くちびるの横を手でぬぐいながら、床に転がっているランドセルをつかむと、中に入っている風博士のラジオを取り出した。
湖にランドセルを落とした時、水に浸かってしまったラジオは、壊れたとばかり思っていた。しかし、手に取ったラジオからは、いくらか雑音混じりではあったが、確かに放送が聞こえていた。
雑音が入らない場所を探しながら、サトルがラジオのボリュームを上げると、エスと名乗る女の人の声が聞こえた。
「サトル君、目を覚まして。あなたの町に到着したわよ――」
「ほんと?」サトルは思わず声を上げると、急いで窓に顔を近づけた。ひんやりとした窓に額をぴったりとくっつけて、真っ暗な外の様子を目を細めながらうかがった。
うなずくような間隔をあけて、エスが言った。
「さあ、降りてみて――」
背中に風を感じて、サトルは後ろを振り返った。円盤ムシが、いつの間にか扉を開けていた。どこか懐かしい土のにおいがした。ふっと、自然に笑みがもれた。
サトルはラジオを手に持ったまま、ランドセルを背負って、階段に足をかけた。
一歩ずつ、確かめるように階段を下りると、そこは小学校のグラウンドだった。
外はすっかり夜も更けて、誰もいないグラウンドは、しんと静まり返っていた。見上げると、空はスッキリと晴れていたが、明るい町の灯りに照らされて、それほど多くの星は瞬いていなかった。けれどニセモノの町とは違い、奥行きのある大きな空間と、がっしりと重量感の溢れる地面が、確かにあった。
サトルがグラウンドに降りると、円盤ムシはゆっくりと扉を閉じていった。忘れ物がないか、確認するのを待ってくれているようだった。
円盤ムシが、ぴったりと扉を閉じた。サトルが「ありがとう――」と言って手を振ると、円盤ムシはまっすぐ空へ飛び上がり、ボールが跳ねるように光の跡をジグザグに残しながら、あっという間に見えなくなってしまった。
空を見上げたまま、サトルは円盤ムシが残した光の跡が消えるまで、じっとその場を動かなかった。まるで、長い夢を見ていたようだった。けれどその手には、しっかりと風博士のラジオが握られていた。
(さぁ、早く家に帰ろう。みんな、ぼくの話を信じてくれるかな……)
「ありがとう――」
サトルは声に出してお礼を言うと、グラウンドの出口に向かって走り始めた。
顔に当たる風を感じながら、サトルはそっと耳を澄ませた。風の音に混じって、リリの歌声が聞こえてきそうだった。
きっと、もう行くことがないだろうドリーブランドが、もしかすると、いつでも行き来できるほど近くにあのではないか、そんな気がしていた。
そう、夢の彼方に――。
おわり。
キュールル……キュル……
キュール……キュルル……
耳障りな音が、ランドセルの中から聞こえてきた。
「ハァイ! こちら銀河放送局。
今日もあなたに送るハートのメッセージ――。
しっかりキャッチしてね……」
時折入る雑音に途切れながら、女の人の声が聞こえた。
「まずは届いたばかりの新曲から、どうぞ――」
ポップスの軽快な曲が流れ始めると、サトルはゆっくりと目を覚ました。
ついうとうとと、ふかふかの段差でうつ伏せになったまま、いつの間にか眠ってしまっていた。ラジオから流れる曲をぼんやりと耳にしながら、自分がどこにいるのか、うっすらと目を開けて考えていた。
「サトル君、さあ、あなたの町に到着したわよ――」
自分の名前が呼ばれて、サトルはあわてて体を起こした。くちびるの横を手でぬぐいながら、床に転がっているランドセルをつかむと、中に入っている風博士のラジオを取り出した。
湖にランドセルを落とした時、水に浸かってしまったラジオは、壊れたとばかり思っていた。しかし、手に取ったラジオからは、いくらか雑音混じりではあったが、確かに放送が聞こえていた。
雑音が入らない場所を探しながら、サトルがラジオのボリュームを上げると、エスと名乗る女の人の声が聞こえた。
「サトル君、目を覚まして。あなたの町に到着したわよ――」
「ほんと?」サトルは思わず声を上げると、急いで窓に顔を近づけた。ひんやりとした窓に額をぴったりとくっつけて、真っ暗な外の様子を目を細めながらうかがった。
うなずくような間隔をあけて、エスが言った。
「さあ、降りてみて――」
背中に風を感じて、サトルは後ろを振り返った。円盤ムシが、いつの間にか扉を開けていた。どこか懐かしい土のにおいがした。ふっと、自然に笑みがもれた。
サトルはラジオを手に持ったまま、ランドセルを背負って、階段に足をかけた。
一歩ずつ、確かめるように階段を下りると、そこは小学校のグラウンドだった。
外はすっかり夜も更けて、誰もいないグラウンドは、しんと静まり返っていた。見上げると、空はスッキリと晴れていたが、明るい町の灯りに照らされて、それほど多くの星は瞬いていなかった。けれどニセモノの町とは違い、奥行きのある大きな空間と、がっしりと重量感の溢れる地面が、確かにあった。
サトルがグラウンドに降りると、円盤ムシはゆっくりと扉を閉じていった。忘れ物がないか、確認するのを待ってくれているようだった。
円盤ムシが、ぴったりと扉を閉じた。サトルが「ありがとう――」と言って手を振ると、円盤ムシはまっすぐ空へ飛び上がり、ボールが跳ねるように光の跡をジグザグに残しながら、あっという間に見えなくなってしまった。
空を見上げたまま、サトルは円盤ムシが残した光の跡が消えるまで、じっとその場を動かなかった。まるで、長い夢を見ていたようだった。けれどその手には、しっかりと風博士のラジオが握られていた。
(さぁ、早く家に帰ろう。みんな、ぼくの話を信じてくれるかな……)
「ありがとう――」
サトルは声に出してお礼を言うと、グラウンドの出口に向かって走り始めた。
顔に当たる風を感じながら、サトルはそっと耳を澄ませた。風の音に混じって、リリの歌声が聞こえてきそうだった。
きっと、もう行くことがないだろうドリーブランドが、もしかすると、いつでも行き来できるほど近くにあのではないか、そんな気がしていた。
そう、夢の彼方に――。
おわり。