ガラガラガラ……。と、不意に図工室の扉が開いた。はっとして顔を向けたソラの目に映ったのは、黒っぽい服に身を包んだシルビア、子供達から魔女と呼ばれている女の人だった。
「おやおや、どうしちゃったのかねぇ、だいの大人が教室に倒れているなんて」
魔女は後ろ手に扉を閉めると、目を細めて、やさしそうに笑いながら言った。大人の姿をしたソラとウミが、本当は小学生なのを知っているかのようだった。
「危ない、おばさん」と、ソラは目の前に突きつけられた切っ先のことを忘れ、思わず声を上げそうになった。はっとして口ごもると、息がかかるほど近くにいた忍者の姿が、恐ろしげな刀と共に、煙のように消えてしまっていた。
「あれ?」
と目を点にして、ソラが後ろを向きながら立ち上がった。
「こらこら、そんなにあわてなくてもいいさ。片付けるなら、私も手伝ってあげるよ」と、魔女は背中に手を回すと、どこに持っていたのか、竹で編んだカゴを取りだした。「ちょっとお座りなさいな。採れたばかりのリンゴを食べておくれよ」
魔女が持っていたカゴの中には、季節外れのリンゴがびっしりと入れられていた。
「さあ、遠慮しなくていいんだ。たんとお上がり――」
甘い匂いを漂わせたリンゴをカゴから取り出すと、魔女は床に座った二人にひとつずつ、おいしそうなリンゴを手渡ししていった。
甘い匂いをかいだとたん、急にお腹が減りだした二人は、すぐにでもリンゴにかじりつこうとしたが、そばで笑顔を浮かべたまま、じっとこちらを見ている魔女の様子が薄気味悪いので、なにか企んでいるのではないか、とかろうじて思いとどまっていた。
「どうしたんだい、毒なんて入っていやしないよ」
せかすように魔女が言うと、ガラガララッ……と、また図工室の扉が開いた。
あっ、と二人は目を見張った。扉を開けたのは、眼鏡こそかけていたものの、グレーのスーツに身を包んだシェリルに間違いなかった。
「まだ片付けてなかったのね」と、二人を見下ろしたシェリルが、片手で眼鏡の端を持ち上げながら言った。「父兄の方ですか? もう少しで終わりますので、申し訳ありませんが、外で待っていてもらえませんか」
シェリルが言うと、魔女はもうひとつリンゴを取り出しながら言った。
「先生ですか? いつも子供達がお世話になっております。もうとっくに学校は終わっているものと思って、中まで入ってきてしまいました」
「こんな先生学校で見たことないよ」と、ソラがシェリルを指さして言った。
「信じちゃだめ、こんな先生学校にいないよ」と、立ち上がったウミが、魔女を見ながら言った。
「おやおや、どうしちゃったのかねぇ、だいの大人が教室に倒れているなんて」
魔女は後ろ手に扉を閉めると、目を細めて、やさしそうに笑いながら言った。大人の姿をしたソラとウミが、本当は小学生なのを知っているかのようだった。
「危ない、おばさん」と、ソラは目の前に突きつけられた切っ先のことを忘れ、思わず声を上げそうになった。はっとして口ごもると、息がかかるほど近くにいた忍者の姿が、恐ろしげな刀と共に、煙のように消えてしまっていた。
「あれ?」
と目を点にして、ソラが後ろを向きながら立ち上がった。
「こらこら、そんなにあわてなくてもいいさ。片付けるなら、私も手伝ってあげるよ」と、魔女は背中に手を回すと、どこに持っていたのか、竹で編んだカゴを取りだした。「ちょっとお座りなさいな。採れたばかりのリンゴを食べておくれよ」
魔女が持っていたカゴの中には、季節外れのリンゴがびっしりと入れられていた。
「さあ、遠慮しなくていいんだ。たんとお上がり――」
甘い匂いを漂わせたリンゴをカゴから取り出すと、魔女は床に座った二人にひとつずつ、おいしそうなリンゴを手渡ししていった。
甘い匂いをかいだとたん、急にお腹が減りだした二人は、すぐにでもリンゴにかじりつこうとしたが、そばで笑顔を浮かべたまま、じっとこちらを見ている魔女の様子が薄気味悪いので、なにか企んでいるのではないか、とかろうじて思いとどまっていた。
「どうしたんだい、毒なんて入っていやしないよ」
せかすように魔女が言うと、ガラガララッ……と、また図工室の扉が開いた。
あっ、と二人は目を見張った。扉を開けたのは、眼鏡こそかけていたものの、グレーのスーツに身を包んだシェリルに間違いなかった。
「まだ片付けてなかったのね」と、二人を見下ろしたシェリルが、片手で眼鏡の端を持ち上げながら言った。「父兄の方ですか? もう少しで終わりますので、申し訳ありませんが、外で待っていてもらえませんか」
シェリルが言うと、魔女はもうひとつリンゴを取り出しながら言った。
「先生ですか? いつも子供達がお世話になっております。もうとっくに学校は終わっているものと思って、中まで入ってきてしまいました」
「こんな先生学校で見たことないよ」と、ソラがシェリルを指さして言った。
「信じちゃだめ、こんな先生学校にいないよ」と、立ち上がったウミが、魔女を見ながら言った。