1、実在の人物「黄飛鴻」
1990年代香港で大ブレイクしたこのカンフー映画の主原題は「?飛鴻」。
これにアメリカ向け売込みを意識し、副題として「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」と付けたのは、明らかにアメリカ映画「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」をなぞったもの。「歴史を喚起させる」意味はあろうが、あまりにも安易な真似ごとは感心しない。
ともあれ、この映画の主人公「?飛鴻」は中国に実在した民衆の英雄。日本語で音読みすれば「こう ひこう」となるが、原音からすれば北京語で「ファン・フェイホン」だそうだ。
黄飛鴻は、清朝末期の1847年、広東省の仏山で生まれ。父が経営していた漢方薬局兼拳法道場を継いだいわば医者兼武術家。時はちょうど阿片戦争やアロー号事件を皮切りに、「眠れる中国」に対し欧米列強が侵略的に進出、衰退した清王朝に対し民衆蜂起が繰り返し起きる時代。
黄は労働者・農民など一般大衆に武道を教えて自警団を組織し、民間レベルでの治安維持・勧善懲悪に努める。やがて官軍や警察などにも伝来の「洪家拳」を教授しつつ、動乱中国を何とか「辛亥革命」へ持っていったと評価されるようだ。
中国辛亥革命後の1924年に死去。その後小説や劇の主人公になり、仏山市の祖廟の隣りに「佛山黄飛鴻紀念館」が作られ、家族の紹介や関連映画、任侠小説関する展示などが行われているという。
2、背景にある「天地大乱」
この映画のシリーズは2作目の「天地大乱」が最も良いとされているが、本作の背景およびストーリー次の四点。
①清朝末期の「白蓮教徒の乱(あるいは義和団事件)」・・・・・秘密宗教結社に扇動さ
れた民衆の反乱や抵抗運動・・・往々にして外国人排斥=攘夷運動となる。
②それを鎮圧せんとする官憲・・・・・清朝正規軍(八旗・緑営)は腐敗、弱体化。むしろ
地方官や有力者の組織する自衛軍が活躍する(後の「軍閥」のはしり)。
③目覚める知識層、そして革命勢力・・・・・映画の中では孫文が出てくる。
④そういう中で黄飛鴻の活躍、官憲の横暴を叩き、革命勢力を支持して。
3、白蓮教徒の乱?
映画は冒頭から百蓮教徒の暴れぶり・外国排斥ぶりをカンフーで描くが・・・
歴史の教科書で「白蓮教徒の乱」という項目が出てくるのは、もう少し50-70年ぐらい前。1800年前後の広範な大反乱、例えば① 1774年「清水教の乱」 ② 1796年「嘉慶白蓮教徒の乱」③ 1813年「天理教徒の乱」 などを総称している。
ここで白蓮教というのは、古くから中国大衆の中に根つく反体制的気運を「革命の宗教」として吸い上げた秘密宗教結社を総称的にさす言葉として遣われているが・・・
映画の時代の反乱は歴史教科書では「義和団運動」と呼ばれる。ここでの義和団は白蓮教や八卦教の流れをくみ、拳法や棒術を修練し、お札を呑み呪文を唱えれば、刀剣や銃弾をも跳ね返すとして熱狂的信者を集めた。
この義和団が起した反乱は1900年北京に乱入したため、欧米8カ国軍隊は自国民保護のため共同出兵せざるを得ず・・・これが歴史を動かす「北京議定書」に繋がり・・・。
この事件を背景にしたのがチャールトン・ヘストンの「北京の55日」。だから「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・チャイナ」の黄飛鴻はこのときどうしていたのだろう、ついつい興味を持ってしまう。
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