映画で楽しむ世界史

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ダ・ヴィンチ・コード(10)「天使と悪魔」

2006-07-01 15:13:11 | 講演資料レジメ

一神教の凄さ、怖さ を感じさせる

ダ・ヴィンチ・コードのついでに、ダン・ブラウンの前作「天使と悪魔」が評判になっている。 例によって探偵役はハーバード大学宗教象徴学教授ラングドン。ここではスイスのセルン(欧州原子核研究機構)から呼び出される。物理学者の会に象徴学者が呼び出されたのは、そこで殺害された科学者の胸に「イルミナティ」という刻印が焼き付けられていたから。

 イルミナティ(Illuminati)は、古くからあるといわれる秘密結社の名前。語源的には、啓蒙、開化を意味するラテン語で、近世以降、この名前で呼ばれた秘密結社はいくつもあり、グノーシス的要素やテンプル騎士団と関連を持つものもあるとも言われる。日本では「ユダヤの陰謀」や「フリーメイソンの陰謀」として語られることが多いが、この「天使と悪魔」に出てくる結社は、17世紀のガリレオ・ガリレイに起源をもつとされている。

事実として明らかなのは、バイエルン王国で1776年に、ある大学の哲学教授アダム・ヴァイスハウプトが啓蒙主義的な「人類の倫理的完成可能説」を謳い、賛同する人たちで結社を創り、後にイルミナティと改名したこと。頭でっかちな理神論的要素が強く、この世界を完全な倫理が支配する理想郷としようとするものであって、キリスト教など個別の宗教を云々するものではないと主張した。最盛期には各国に支部が置かれ、会員はインテリ、著名人、政治家、貴族等、2千人を数えたが、反社会的な言動も目立ち、1784年にバイエルン王国がフリーメイソンリー、イルミナティを含む全ての秘密結社を禁止するに到った。

「天使と悪魔」で殺害された科学者の研究テーマは、天地創造論ー天地がいかにしてできたかであって、その答えにつながるキーを司祭でもあるこの科学者が見つけだした。しかし、これが表に出ると、キリスト教の教義は深刻な打撃をうける。従って殺害者はこれに関する実験結果を盗みだし、それをヴァチカン市国に隠したという。

 その実験結果とは、無から物質を生み出す「反物質」と呼ばれるものの発見(核エネルギーをも凌駕するもので、ビッグバンを再現しうるものと説明される)。これをもって宗教と科学の和解を図ろうとする科学者と、科学を弾圧し続けたということから教会への復讐を図ろうとする一味が対立。 イルミナルティの使者は「4人の教皇候補を1時間ごとに殺ろす、そしてカトリック教会を破滅に追いやる」と声明。パニックに陥るヴァチカンの中でラングドンの名探偵ぶりが発揮される。

この話は一体どう考えればいいのだろうか。キリスト教に代表される一神教は唯一の天地創造者神を想定し「神の代理人」たる教皇等とそれを支える体制を構築し、あらゆる理屈をこねて唯我独尊的に西欧世界に君臨してきた。

しかし一神教を根底に据えると、科学は進歩する。創造の起源にたどり着こうとして究極の科学的真理を追究する。その過程で幾多の科学的発見、発明がもたらされし・・・要するにのに現代社会構築に多大の貢献をした。そして今や究極の謎、この宇宙、生物の起源まで解き明かされんとしている。(物理学の世界でSF的ではあるが、宇宙と生物の発生が一元的に説明できるとする「万物理論」があるという)

とすると「神の代理人」たるローマ教皇の存在やキリスト教の正統派理論が危機に堕ちいることは明らかだろう。ということまで考えると色々面白い作り話(小説)が可能であろう。

しかし少し真面目に考えて、人類の未来として、こんな事態の推移進行がそのままでいいのかどうか。本当に宇宙のこと総てがわっかたからといって、それが何の役に立つのか。むしろ宇宙や人類の破滅を可能にする武器が誰かに握られるということで・・・いくら科学が進んだからといって、人間の性格はあいも変わらず非寛容、偏狭なままで・・・となるとどういうことになるのか。

確かに一神教は多大な貢献をした。しかしその功罪は正しく評価されねばならない。宇宙や生物の究極の科学的事実は分からないが、唯一の創造主など考えない方がいい。、生きとし生けるもの総てに神性を感じて畏敬の念を持つ多神教や、個々の人間が修行を積んで「仏」に近ずくという仏教が見直されるべきなのではなかろうか。換言すれば西洋文明から東洋思想へということなのだろうが・・・中国、インド、日本バラバラでは、いやバラバラなのが東洋的なのであろうから、時間がかかってもしょうがない?

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