このもともとの原作は、1897年フランスの劇作家エドモン・ロスタンが発表した「シラノ・ド・ベルジュラック」。当時パリで大当たりをとり、以後世界的に息の長い人気を保っている名作。恋文代筆もののはしり。
日本ではこれが鈴木・辰野氏の名翻訳で岩波文庫の「シラノ・ド・ベルジュラック」となり、それを新国劇が「白野弁十郎」として舞台化し(映画にもなった)、更には島田正吾が一人芝居とし、現在は緒方拳が引き継いでいる代物。
ちなみにこの一人芝居の筋書き・・・
舞台は幕末の京都。無骨だが歌も詠む朱雀隊の勇敢隊士「白野弁十郎」は、従妹の「千種」から、同じ隊にいる「来栖生馬」への恋情を打ち明けられる。実は千種を想っていた弁十郎だったが、大きな鼻を気にしている彼は気持ちを隠し、部下の来栖のために、千種への恋文の代筆を引き受ける。届いた手紙を来栖からのものと信じ込んでいる千種を残し、やがて白野と来栖は戦場へと向かう。
登場人物名を原作でいえば・・・白野弁十郎は「シラノ・ド・ベルジュラック」、千草は「ロクサーヌ」、来栖生馬は「クリスチャン」
ところで、このシラノ・ド・ベルジュラックは実在の人物・・・1618年パリ生まれの若者、一種の義侠人。
親友ル・ブレと共に当時人気のあった「ガスコーニュの若武者隊」(義勇の近衛隊)に入隊して、剣の腕を磨き、毎日のように決闘して名声を上げた。
しかし出世はできず戦争で重傷を負い1641年に除隊。その後もパリでいろいろな人種と交流、喧嘩、立ち回り。
1648年にフロンドの乱が発生すると反マザラン文書を書くが、最後にはマゼラン側にまわり、年来の友人たちと次々諍いという具合に毀誉褒貶激しい人生。
1655年、材木を頭上から落とされ致命傷を負って35歳で死去、死因は梅毒だという説もある。
ロクサーヌとの恋などはエドモンド・ロスタンの創作であるが、このお陰で、フランスで最も人気のある文学上の登場人物となった。
ところで「シラノ・ド・ベルジュラック」に出てくる戦争は何の戦いか。
当時フランスは、血生臭い宗教改革騒ぎ、王家の交代(ヴァロアからブルボンへ)が一段落し、王権の強化に本格取り組む、ルイ13世と強権宰相リシュリューの時代。
ところがドイツを主戦場とする30年戦争はまだ終わっていない。フランスは国内的にはカソリック側の筈なのに、この戦争に対しては、ハプスブルグ勢力を弱めるため、新教側につく。
1635年から本格参戦。旧教側の攻勢を押し返し(劇中のアラスの戦いなど)、やがて1648年の終戦、ウエストファリア条約に持ってゆく。そして次のルイ14世時、フランスの絶頂期に結び付けて行く。
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