映画で楽しむ世界史

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アルゼンチン「ステート・オブ・ウォー」

2011-02-16 21:58:19 | 舞台は中南米
アルゼンチン映画「ステイト・オブ・ウォー」

1982年、南大西洋の戦争、イギリス側から言えばフォークランド紛争、アルゼンチン側から言えば「マルビナス戦争」を描き、トライベッカ映画祭で賞をとったという。

実録風な描き方で、前線にいた兵士たちの虚しさはよく分かるが、戦争の背景の説明や、戦争の全体感が描かれておらず、物足りない、勿体ない。

考えてみれば、この戦争、アルゼンチン、イギリスの「領土争い」ではあるが、双方とも国内の政治事情に影響されて戦争に突入した感じが強い。
双方軍隊はよく戦い、戦争史上の研究材料としては見るべきものがあると言われるが、参加した兵士にすれば、政治利用で使い捨てられ、面白くないこと甚だしい。

そもそもアルゼンチンは、第二次大戦後1946年以来の悪名高いペロン政権が、旦那が引っこんだあとイサベラ夫人を大統領に据えた期間を含め30年にも及び、腐敗の限りを尽くす。

1976年これを倒した軍事政権だが、激しいインフレと失業が続き、国民の不満を鎮めるすべがない。とうとう1982年、時の軍人大統領レオポルド・ガルチェリが眼を外にそらすためマルビナスに軍をおくる。

一方イギリスはそもそも南米では後発で、19世紀以降は専ら経済進出・侵略に重点を置いてきた。
しかしフォークランドのみは、16世紀早々にイギリス人が手をつけていたという証拠があるとのことで・・・勿論軍事的重要性を考えてのことであるが、「領土」として拘りがある。

そこで「イギリス病」克服のため国民に痛みを伴う政策を強行し、人気の低下にあえぐサッチャーが「鉄の女」ぶりを発揮するというわけだ。

アルゼンチンは善戦にも拘わらず、戦後、大統領の暴走で起きた戦争として評価されず、帰還兵が歓迎・待遇されることがなかった。そこが不満の兵士たちの姿、その辺がこの映画のミソ。

尚、「state of war」という言葉、一種の政治用語で「軍事的に交戦状態」という意味。
従って「フォークランド(交戦突入)」とか「南大西洋波高し」のような邦訳の工夫が欲しかった。

(了)

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