佐藤春夫「少年の日」より
半紙
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本文は以下の通り。
君の瞳はつぶらにて
君の心は知りがたし。
君をはなれて唯ひとり
月夜の海に石を投ぐ。
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先日、「一日一書501」の「花を敷き」について
中学以来の友人から、
「敷」という字は、ぼくが読んだ岩波文庫の「春生詩抄」では
確か「簿」みたいな字だったと思うんだけど、
君はどの本を出典にして書いているのか、という質問メールがきました。
ぼくが出典にしているのは、新潮社版「日本詩人全集17佐藤春夫」なのですが
家にあった岩波文庫の「春生詩抄」を見ると、
確かに彼のいうとおり「花を藉き」(確かに「簿」みたいな字だ)となっていました。
何と言う記憶力!
もっとも、彼は高校時代から、佐藤春夫の愛読者でしたから
不思議ではないともいえるのですが、それにしても、文字まで覚えているなんて驚きでした。
では、どちらが正しいのか。
新潮社版「日本詩人全集17佐藤春夫」を見ると
これの原典は、「殉情詩集」の初版本だということが分かりました。
一方、岩波文庫版「春生詩抄」は、佐藤春夫自身の編集になるもので
その編集過程で、春生自身が詩句を変更したようです。
ちなみに、新潮社版では、4つの連には、1、2、3、4と数字があるのみですが
岩波版では、1春 2夏 3秋 4冬、となっています。
更に、「2」の後半の二行が
新潮社版では、昨日ご紹介したとおり
「あたたかき真昼の丘べ/花を敷き、あはれ若き日。」ですが
岩波版では、「なやましき真昼の丘べ/さしぐまる、赤き花にも。」となっています。
どちらがいいか、好みの問題ですが、
作者は、結構あとから、自分で修正してしまうことが多いので
困ることも多いのです。
それにしても、こういうやりとりが友人とできるというのも
人生の幸福のひとつですね。