芥川龍之介
凩や目刺に残る海の色
半紙
葦ペンで
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先日、自分の「号」を、「澄月堂」としたと書いたところ
古くからの友人が、芥川龍之介の号は、「澄江堂主人」だぞ、って教えてくれました。
全集を見てみると、「澄江堂日録」「澄江堂句抄」などが入っていました。
この句は、「澄江堂句抄」の中の一句。
山本健吉は、この句についてこんなふうに書いています。
大正7年作。凩は彼の好んだ句材であった。「凩にひろげて白し小風呂敷」「胸中の凩咳となりにけり(三汀の病を問ふ我亦時に病床にあり)「凩のうみ吹きなげるたまゆらや」「凩の大葬ひの町を練る」等。この句はやはり彼の愛好した言水の句「凩の果はありけり海の音」が意識下にあったのではないかと思う。もちろん感覚はずっと近代的で、鋭くなっている。凩の候は新目刺の出初める頃であり、鮮やかな目刺の膚の青さに、したたるような深い海の色を感じとったのである。句の形としては古典的なオーソドックスであるが、「目刺に残る海の色」は鋭い把握である。(「芥川龍之介全集8」ちくま文庫・解説)