ポケットの中で映画を温めて

今までに観た昔の映画を振り返ったり、最近の映画の感想も。欲張って本や音楽、その他も。

『人間の境界』を観て

2024年06月08日 | 2020年代映画(外国)

『人間の境界』(アグニエシュカ・ホランド監督、2023年)を観た。

「ベラルーシを経由してポーランド国境を渡れば、安全にヨーロッパに入ることができる」という情報を信じ、
幼い子どもを連れて祖国シリアを脱出した家族。
やっとのことで国境の森にたどり着いたものの、武装した国境警備隊から非人道的な扱いを受けた末にベラルーシへ送り返され、
さらにそこから再びポーランドへ強制移送されることに。
一家は暴力と迫害に満ちた過酷な状況のなか、地獄のような日々を強いられる・・・
(映画.comより)

中東やアフリカからの移民・難民たちがベラルーシ・ミンスク空港に降り立つ。
その中の、幼い子供2人と乳飲み子、年老いた父親もいるシリア人夫婦の一家。
そして、飛行機の中で知り合ったアフガニスタンの女性。

時は2021年10月。
シリア人一家を含めた難民たちがベラルーシ西側にある森林の鉄条網からポーランド側に入る。
しかし、ポーランドに来た喜びの難民たちの前に立ち現れる国境警備隊。

強制的に再度、ベラルーシ側に送り返される難民たち。
その扱いは非人道的で物扱いである。
そしてベラルーシ側も見つけた者を片っ端らにポーランド側に送り込む。
凍てつく国境付近の森の中を右往左往する難民たち。
食べ物もなく水さえ手に入らない。
国境警備隊員にお金を差し出し、やっと手にできると思ったペットボトルの水は、その警備隊員が目の前で地面に流す。

この作品は4つの章に分かれていて、まず「難民」側、そして「国境警備隊」側、次に「難民支援者」、
続いて「難民と遭遇した女性精神科医が支援者」として自覚していく様子。
そしてラストに「エピローグ」が付く。

このように多角的視点からの物語を、メリハリの効いたモノクローム映像で表出されるため、正しくドキュメンタリーそのものと錯覚するほどの緊迫感を醸し出す。
そして驚くのは、このような完璧な作品を僅か1ヶ月以内の撮影で行なったということ。
私がこの作品に衝撃を受けるのは、難民の苦悩は当然のこととして、国境警備隊員の自分の任務に対する疑問、苦悶。
人道支援者が難民を救助しようとしても、その立ち入り禁止区域内に入れば自分が逮捕されるため十分に活動ができないということ。

ポーランド政府は、このような国境近くに立ち入り禁止エリアを設けることによって、難民を宙ぶらりんの状態に置く。
それをこの作品はえぐり出し、問題提起する。
そして痛烈な政権批判として、「エピローグ、2022年2月26日」で、政府が人道支援として隣国ウクライナから2週間で200万人もの難民を受け入れ、
国境警備隊員たちはウクライナ難民に対して良き人たちだった事実を描く。

ではなぜ、ベラルーシが大量の難民を受け入れると見せかけポーランドに送り込んだのかの現実問題は、勿論背景があるがここでは省略したい。

『太陽と月に背いて』(1995年)、『ソハの地下水道』(2011年)の題名は聞いて知っていても、これらがこのアグニエシュカ・ホランド監督作品とは知らなかった。
覚えておこうと思う。


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