ポケットの中で映画を温めて

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成瀬巳喜男・23~『女が階段を上る時』

2020年05月11日 | 日本映画
『女が階段を上る時』(成瀬巳喜男監督、1960年)を観た。

圭子は銀座のバーで雇われマダムをしている。
一緒に働いていたユリは上得意だった美濃部の融資で独立し、ついでに客もさらったため、圭子のバーは売り上げが落ちている。

そのユリと偶然に会った圭子は、ユリからの話で、実は借金で首が回らず狂言自殺をして借金取りから逃れようと計画していることを知る。
しかしユリは、狂言のつもりが実際に死んでしまう。
そして葬式中に、美濃部からの使いのものが借金取りに来たりしてユリの母親を苦しめる・・・

圭子は交通事故で夫を亡くしている関係上、水商売で生計をたてて実家にも仕送りをしたりしている。
それでもオーナーは、体を張って売り上げをあげろと注文する。
そう言われても圭子としては、そこまでする気はない。
嫌気がさした圭子は別のバーに移るが、そこでも将来への不安がつきまとう。

ユリの死亡の件もあり、心労が重なった圭子は血を吐き、実家に戻って静養することになる。
しかし実家では、兄が金銭のトラブルのために実刑判決を受けるかもしれず、そればかりか小児麻痺の息子には手術の金もいる。
圭子は、正月前後に静養しただけで、金の工面のためにまた働き始める。
そして資金調達をしようと奉加帳で寄付をつのるが、それもうまくいかない。

そんな折、下戸なのに常連客の関根のやさしさにほだされ、結婚の夢をみて一夜を共にするが、見事に裏切られる。
やけになった圭子は深酒をし、常連の銀行支店長の藤崎にアパートまで送ってもらう。
元々、藤崎は圭子が好きだったし、圭子の方もそうだったので、成り行きで二人は関係を持つ。
しかし、藤崎から出てきた言葉は、実は栄転で明日大阪に出発する、という内容。

藤崎が帰り、ショックを受けている圭子のところへ、圭子とずっと一緒に働いてきた年下のマネージャー、小松がやって来る。
小松は、圭子と藤崎の関係を知って激怒する。
小松は、圭子の夫が亡くなった時、圭子が夫以外の誰とも関係を持たないという手紙を、骨壺に入れて埋葬したことを知っていたからである。
小松は圭子を秘かに愛していた。
しかし、圭子は裏表を知っている同志ではうまくいかない、とやんわりと拒否する。

翌日、東京駅で銀行の部下たちが見送る藤崎の列車のもとに圭子が顔を出す。
藤崎は妻と子供を前にして座席に座っている。
圭子は妻に、「ご主人からお借りしたものをお返しします。今度は奥様からお借りしますわ」と、手切れ金にあたる株券と、菓子折りを渡す。
何も知らない妻は、愛想よく受け取り、目の前の藤崎は無言のまま素知らぬ雰囲気でいる。
本来は相思相愛のはずの二人の、その場の状況。
端から見ると何気ない情景のようだが、その情念は凄いはずである。

今日も圭子はバーのある二階の階段を上る。
バーに入った圭子は、過去を振り切ってにこやかに客を歓迎する。

圭子は高峰秀子。
対する男たち、
銀行支店長の藤崎、森雅之
マネージャーの小松、仲代達矢
工場主の関根、加東大介
実業主の郷田、中村鴈治郎
利権屋の美濃部、小沢栄太郎
と役者が揃っている。

高峰秀子演じる圭子の生き方が印象強く、この作品も成瀬巳喜男の名作の一本と言える。

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2 コメント

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ツカヤスさまへ (くりまんじゅう)
2020-05-13 11:07:00
この作品もだいぶん前にBSプレミアムで観て
印象深く頭に残っています。

銀座のママと聞くと 華やかでお金持ちで資金提供してくれるパトロンがいて
とつい素人は思いますが 高峰さん演じる圭子ママは身持ちが硬く
女を武器にのし上がるママではなく そんな人柄に多くのファンがいます。
若い頃の仲代達矢氏扮するバーテンダーもその一人です。

森雅之氏は『浮雲』の時と同じく優柔不断の男で
ママと深い仲になった直後に 大阪転勤の話をするなど ズルさも持っています。
『浮雲』『女が階段を上る時』その両方で 煮え切らぬ男の役ですが
憂い顔が美しく こんな男についつい できる女はひかれます。

森氏が有島武郎の息子と知れば どこか高貴な雰囲気が漂い
演じる前からすでに もてる男の雰囲気持っているのも頷けます。
加東大介氏が珍しく結婚詐欺師みたいな役でしたね。
あの顔で迫られたら だれも信じるでしょうね。

高峰さんの和服が美しく 立ち姿にも魅入った作品でもありました。
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>くりまんじゅうさんへ (ツカヤス)
2020-05-13 20:43:57
またまた、高峰秀子中心の作品、凄いなぁと感心しました。
中でも、若い頃の仲代達矢、やはりただ者でない雰囲気が十分ありました。
そして、森雅之。
「羅生門」より、「雨月物語」の主人公がインパクト強く印象に残っています。
その森雅之が有島武郎の子とは、今回教えて頂けるまで知りませんでした。
久々に聞く有島武郎の名、懐かしさもあります。
昔、自分では文学青年気取りでいましたが、遅読のために手っ取り早くいろいろな人のいろいろな人生を知る方法として、映画を観始めたりして今日に至っています。
有島武郎も「或る女」や「生れ出づる悩み」を読んだとわかっていても、今では内容を思い出せません。
ただ不思議なことに「小さき者へ」が多少記憶にあり、結核で亡くなる妻に対する3人の子へのメッセージの内容。
本人が、その作品発表時には意識していなくても、後年自殺してしまう事実からして、後々に子が読んだ場合、その子はどう思うのだろうと文章の体裁と共に違和感を覚え、その記憶によって有島武郎の名がこびりついています。
その著名作家の子の一人が森雅之と知り感慨深いものがあります。
ありがとうございました。

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