原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

七分咲き、春国岱のサンゴソウ

2011年09月13日 08時49分37秒 | 自然/動植物

 根室湾と風連湖を区切るようにある長洲、春国岱。6月から8月にかけてハマナスが一面を飾る自然が美しい根室百景のひとつである。この春国岱で今年はサンゴソウがいいという風の便りを聞いた。そこで早速、春国岱へ。サンゴソウの群生と言えば能取湖のウバラナイが有名であるが、今年はこちらが気になる。以前に訪れた能取湖とほぼ同じ時期であったのだが、今年の方が少し遅れ気味なのか、まだ七分咲きという感じ。それでも緑の湿原を染めるように朱色が広がっていた。ネイチャーセンターの話では10月初旬がベストシーズンとか。これからが見ごろとなる。

サンゴソウの正式の和名はアッケシソウ。1891年(明治24年)に厚岸の牡蠣島で発見されたところからその名前が付いた。環境の変化で厚岸では現在ほとんど見られなくなったが、能取湖や春国岱などで、観賞することができる。

残念ながら、アッケシソウは近い将来絶滅種となるで危険が高い種(EN)に指定されている。日本では北海道と瀬戸内海周辺で見られるだけであるが、朝鮮半島や北国などの寒いエリアの湿原では普通に見ることができる。秋になると茎などの濃緑色が紅紫色に変化する。その姿が海の中のサンゴによく似ているところからサンゴソウという別名が付いたのである。紅葉を思わせるその姿は湿原の風景の中でもひときわ美しく、見る人を喜ばす。塩分を含んだ湿原地帯にのみ生息する特徴があり、本体そのものにもミネラルを含んでいる。ヨーロッパなどでは昔から長旅には欠かせない栄養素の一つになっていた。サンゴソウにあるグリシンベタインという成分は動脈硬化の予防に効果があると言われ、化粧品の皮膚の保湿剤としても使われている、という。なかなかに優れた植物でもある。

このサンゴソウで面白い話を聞いた。瀬戸内海の一部(塩田の周辺)で見ることができるサンゴソウはどこから運ばれてきたのか、という話である。もともとは北海道で発見されていたもの。なぜ瀬戸内海にまでそのエリアを広げることができたのか、については、つい最近まで、北前船が運んだと思われていた。江戸時代から北海道と四国を結び、塩を運ぶ北前船が航行していたからである。北前船に付着してきたサンゴソウが、瀬戸内海で根をおろして繁殖したという説が定説となったのである。

北海道のサンゴソウに比べ、四国のそれは一回り大きい。この姿に疑問を持った大学の研究家(岡山理科大学の星野卓二教授)が二つのサンゴソウの成分を分析した結果、全く別のものであるということが分かった。それでは、四国のサンゴソウはどこから来たのかということになる。その疑問がつい最近に解明された。

それは韓国の寄島干拓地のものと同種であることが分かった(塩基配列100%一致)のである。どういう経路で到達したのかは分からないが、人間で言うDNAが一致したというのであるから、間違いない。これまでの北前船定説は、この日で消滅したのである。

春国岱のサンゴソウは能取湖のものより少し大きい。一時、四国と春国岱は同一なのではという話が持ち上がった。が、調査により、春国岱と能取湖のサンゴソウの成分は完全に一致。四国のものとは完全に別種であった。たんに大きく成長しただけのことであった。自然界の生態は、人間にはまだまだ謎だらけと言える。

野に咲く小さな命ではあるが、地球の大自然と深く関わって生き続け、結果として人間にも大きな貢献をしている。野に咲く見知らぬ野草にも、人は温かな目を向けなければならない。


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4 コメント

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チョッと怖い! (numapy)
2011-09-13 10:52:26
よく桜の根元には死体が埋まってると言われますね。
何の根拠もないんですが、サンゴソウやどこかの国の赤い湖を見ると、血を思い出すんでしょうか、チョッと怖い感じがしてしまう。
サンゴソウは実際に見ればこの写真のようにキレイなんでしょうが、土から生えてることに圧倒されますね。そういえば、去年もこの頃、一辺見に行かなきゃ、と行ってた筈ですが、あっという間に一年経ってしまいました。
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緑の茎が紅くなるだけです (原野人)
2011-09-13 11:21:31
写真で見るよりずっときれいかもしれません。
紅くなるのは緑の茎からで、まだ半分ほどしか染まっていないものもありました。そんなに怖くありませんから。
天気のいい日に歩くと気持ちがいいです。遊歩道がずっと続いていて。歩くならやはり晴天ですね。
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近くの自然の綺麗さ (ぽけっと)
2011-09-14 08:29:55
こんなに 自然がいっぱいのところに住んでいながら
あまり出かけられず ちょっと残念です
お天気の良い日は お店休んで自然に身をおくことも
必要なのかもとおもわせてくれるブログですね
これからも 楽しみにしています
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近くにあるありがたみほど、忘れがちなのかも (原野人)
2011-09-14 09:28:47
>ぽけっとさんへ

北海道は自然の宝庫です。それは一度でも北海道を離れて暮らしたものなら、誰でも強く感じることです。でも身近にずっといると、そのありがたみを十分に理解していながら、当たり前のようにそれを受け止めてしまう。
私はしばらく北海道から離れていたので、この自然の恩恵を人一倍強く感じているのだと思います。なにしろ知らないで過ごした時間が長かったものですから、懸命にそれを取り戻そうとしているのかもしれません。
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