原野の言霊

風が流れて木の葉が囁く。鳥たちが囀り虫が羽音を揺らす。そのすべてが言葉となって届く。本当の原野はそんなところだ。

ススキとヨシ

2012年10月19日 07時34分41秒 | 自然/動植物

 

二つはよく似ているが、違うもの。どちらが馴染みかと言えばススキなのだが、よく目にしているのはヨシの方かもしれない。なにしろよく似ているので、ちょっと見ただけではススキに思う。よく見るとそれはヨシであることが多い。気づくとなぜか、残念に感じてしまう。ヨシには失礼なのだが、ススキの方がどうやら人間には好みらしい。その反動か、ヨシはどうも低く見られがち。「ススキもどき」などとの別名で呼ばれることもある。気の毒に思うのだが、ヨシは別名アシ。パスカルが「考える葦」と、言ったあの葦。人とは深く関わりのあるものだ。もう少し大切に扱われても良い存在だと思う。

 

(風に揺れるススキ)

秋風が吹くと湿原には多くのススキやヨシが風に揺られて右左に揺れる。秋を代表する風景の一つだ。この姿に秋の風情を強く感じる。野口雨情の名詩で「船頭小唄(枯れすすき)」というのがある。あれは潮来の水郷地帯の風景を詠ったものとか。ススキを見ていると自然にこの歌を思い出す。ふと、雨情が見たのは本当にススキであったのだろうかという疑問が浮かんだ。

実は、枯れてもその姿を残骸のように残すのはヨシの方で、ススキは枯れると棒のようになってしまう。あの秋風が沁みるような雨情の詩を思い出すと、ヨシの方がいかにもぴったりする。もう一つ根拠がある。ススキもヨシも日本全土で見られる植物であるが、ススキは野山の草地が主で、ヨシは低層湿原、水辺、川岸に植生することが多い。

水郷地帯に行ったことはないので、はっきりと言えないのだが、そこはヨシが茂る河原だったのではないのだろうか。ま、勝手な妄想なのだが、それで唄の価値が下がるわけではないし、いまさら実はヨシでしたと言ったところで意味はない。ただちょっと、疑問が浮いただけの話なのだが、どうかな。

 

(ヨシの姿)

イメージに差があるススキとヨシだが、どちらもイネ科の植物。そしてどちらも藁(わら)というくくりになる。昔から藁は日本人にはなじみの植物。いろいろなものに活用している。畳、草履、蓑、縄、麦わら帽子、俵などがあり、藁ぶき屋根というのもある。ススキを使った屋根は茅(カヤ)葺き屋根と呼ぶ。ススキがカヤと呼ばれる由縁でもある。

つまり機能としてはススキもヨシもほとんど同じ。混同して呼ばれても大差ないことを付け加えておきたい。

 

船頭小唄(枯れすすき)

作詞:野口雨情、作曲:中山晋平(両方とも著作権は消滅)

 

(一)

おれは河原の枯れすすき おなじお前も枯れすすき

どうせ二人はこの世では 花の咲かない枯れすすき

(二)

死ぬも生きるもねえお前 水の流れに何変わろ

おれもお前も利根川の 船の船頭で暮らそうよ

(三)(四)(五)は省略

 

大正10年(1921年)に作られたが、レコード化されたのが大正12年。大ヒットの最中の9月に関東大震災が起きた。雨情の暗い詩と中山の哀しい曲が世相にマッチした。人生の哀愁を語る曲として人々の共感を呼んだのも頷ける。たしかにススキやヨシには哀愁が漂うのを感じる。これもまた野口雨情が生みだしたイメージなのかも。しかしこう感じる世代もほとんどいなくなったことも、たしかだ。

(川湯硫黄山にて、これはススキなのかヨシなのか。悩ましい)


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3 コメント

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20km中、一か所! (numapy)
2012-10-19 11:58:12
ススキのほうがオシャレ、ヨシのほうがドンクサ、と自分の中ではかなり区別してます。ススキは白くて清潔そうだし、ヨシは少し茶色がかってる分、清潔感が劣る。
大楽毛から240号を阿寒まで、20km。この間、ススキの原があるのはわすか一か所、それも70mほどです。やっぱり、ススキを見ると郷愁を感じます。
因みに中山晋平は、小布施の隣、信州中野の出身です。高野辰之もお隣の、現中野市(旧豊田村)出身。改めて、なんとなく風土が分りますね。
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旧豊田村 (genyajin)
2012-10-20 07:52:40
旧豊田町は隣町でしたか。前にも聞いて話していたかもしれませんが、台湾に移住した日本人が作った町で豊田村がありました。いまも当時のもの、お寺、駐在所、学校、鳥居、民家などが残っていました。日本人がすべて引き揚げた後も、台湾の人は当時の村をそのまま保存して使っていたようです。
ススキにはなにか故郷の匂いを感じさせますね。日本のどこにもあるのに、郷土色を感じさせます。もっとも台湾にはススキはなかったような気がするけど、季節のせいかもしれません。
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Unknown (通りすがり)
2015-05-16 01:38:51
成長しても竹よりも小型であり伐採し易く「帯に短し襷に長し」というもので、笹と同じくさまざまな用途に用いられる葦。
実は生活によく結びついており、漆喰の壁の中の骨組みに使われたり、屋根の成形にも使われました。また群生地が見つけやすく、簡単に集積すること出来、秋になれば乾燥して着火も容易になります。
事ほど左様に、古来より建築材や燃料に使われ、日本人とは切っても切れない関係と言って良いでしょう。
ススキは、まあ、垂れ方が綺麗ですからね。観賞用には向いているのでしょうが……
なお、象徴として意匠される事も多く、過去は非常に身近な植物だったのですね。役にも立ちますし。
だからこそ、ススキの美しさが際立つのでしょう。
湿地帯であれば何処でも見ることができます。川のへりとか。大きく育っているものを見つけて、釣竿にでもしてあげてください
まる
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