今年はエゾカンゾウの当たり年なのかな。わが山にもたくさん咲いていた。昨年はこれほど咲いてはいなかった。なんでも三年に一度くらいの割で豊作がくるらしい。ラッパを思わせるその姿はなかなかに凛々しく見える。が、この花の命はたった一日限り。朝に開いた花は夕にはしぼんで落ちてしまうしまう。一日一花の原則で生きているのだ。だが、一つの茎からいくつもの蕾がうまれ、開花する日が少しずつズレる。そのために花が継続して咲いているように見える。今日見た花はその日限りの花。明日はまた別の花となる。一期一会のエゾカンゾウは山にひっそりと咲いている。
この花をちょっと調べてみると、面白い事実が次々に現れる。学術的な分類はユリ目ユリ科、ワスレナグサ属、正式の和名はゼンテイカとなる。しかし、よく似た花が日本各地にあり、各地でそれぞれに呼び名がついてしまった。したがって実に多くの別名を持っている。各地のを見比べると微妙な違いがあるのでそれぞれが亜種と考えてしまった結果らしい。しかし今ではほとんど同じと考えられている。
北海道ではエゾカンゾウとなり、セッテイカ、ニッコウキスゲ、エゾゼンテイカ、センダイカンゾウ、トビシマカンゾウなどなどたくさんでてくる。エゾカンゾウとエゾゼンテイカはまったく同じであるが、よく似たものでエゾキスゲという花がある。ニッコウキスゲが同じだから、エゾキスゲも同じかと言うと、これが違う。エゾキスゲは黄色みが強く、エゾカンゾウは橙色の花を咲かせる。何より違うのは、エゾキスゲは夕方に花が開き、翌日の昼過ぎにはしぼんでしまう。昼に咲くエゾカンゾウに対して、夜に咲くのがエゾキスゲ。森進一や藤圭子の歌に出てきそうな花なのである。この花にも、いつの日か出会いたい。
(昨日咲いた花と今日咲いている花、明日咲く花が同時に見ることができる)
名前の由来も興味深い。ゼンテイカは「禅庭花」と書く。日光の戦場ヶ原を中禅寺の庭に見立て、そこに咲く花ということで禅庭花(ゼンテイカ)と名付けられたとか。ニッコウキスゲのキスゲはカサスゲの葉によく似ていて、黄色い花を咲かせるところからついたという説と、日光の霧降高原にあるキスゲ平に発見されたところから名づけられたという二つの説がある。ゼンテイカにしてもニッコウキスゲにしても、栃木県日光が出発点となっていることは確か。この花の原点はここらしい。
ゼンテイカの基準種と言われているのがヒメカンゾウ。花の種類としてはもともとはここが出発点。ヒメカンゾウの亜種としてゼンテイカが存在していると考えられている。
カンゾウは甘草と書く。葉が甘いところからついたものなのか。薬用とは思えないが、昔の人はきっとこの葉を噛んで見て、甘く感じたらしい。
(この花に明日はない)
ムサシノキスゲは準絶滅危惧類に指定され、トビシマカンゾウは絶滅危惧類に指定されている。エゾカンゾウも植生するところが保護地域が多く、むやみにとってはいけない植物であることにかわりはない。一昨年の霧多布湿原ではエゾカンゾウがエゾシカに喰われて大きな被害を生んだ。今年はどこまで回復しているのか。大いに気になるところでもある。
*アイヌの人たちはエゾカンゾウのことを「カッコクノンノ」という。カッコウの鳴く頃に咲く花という意味。季節を象徴する花であった。道東では6月から7月まで楽しむことができる。
北海道は固有種が多く、その固有種は、例えばエゾリスやエゾシカなどのように、“エゾ”が付いてるとばかり思い込んでました。
さらに、「この花には明日がない!」というのも知りませんでした。いやぁ、勉強になったなぁ。
そのエゾカンゾウ、阿寒ではあまり見かけないんだけど、見てる場所が違うのかなぁ。ニッコウキスゲなどは尾瀬沼など湿地帯に多いようですが…