レアもののポートエレンが手に入った。アイラの懐かしい香りと味が染みる。この気分はシングルモルト好きにしかわからないかもしれない。ちょっと趣味に走りすぎるきらいはあるが、今日はシングルモルトについて語りたい。ブレンデッドとシングルモルトの違いが分からない人には全く無縁の話となるが、お許しいただきたい。歳末を迎えた道東の空から珍しく雪が降り続いている。雪に静まる夜のシングルモルトは絶品である。
十数年前、「バランタイン」の某有名ブレンダーと話す機会があった。話の流れの中でロイヤルロッホナガーを愛したヴィクトリア女王の話題となった。女王がシングルモルトにミルクを入れて飲む話は有名である。私にはできない飲み方だし、とてももったいないという話をした。その時、かのブレンダーはぽつりと言った。「シングルモルトの飲み方にルールはない。自分の好みで飲めばいいのさ、女王はこれで楽しんでいたと、いうだけさ」。自分の狭い了見を思い知らされていた。その時彼は次の一言を付け加えた。「ただ一つだけ、やってほしくないことがある」「氷を入れて飲むことだ」「氷を入れると飲みやすくなるが、繊細な味が分からなくなる」。以来私は、シングルモルトをオンザロックで飲むことはやらなくなった。ショットグラスにいれたシングルモルトをまずストレートで一口。次に数滴の水を加えてまた一口。それだけで味の違い、蒸留所の個性をまず感じる。その後はじっくりスコットランドの風景を思い出しながら、酔っていくのである。至高の時がこうして過ぎる。友と飲むのもいいが、一人で飲むのも楽しめる。それがシングルモルトである。
もともと、シングルモルトは反逆のウィスキーとも呼ばれている。スコットランドとイングランドとの激烈な戦いと対抗心から生まれたものである。スコッチウィスキーが現在の形となったのは、17世紀ころ。それほど遠い話ではない。スコットランドのウィスキーに膨大な税金をかけて、利益を上げようとしたイングランド政府に対してスコットランド人は密造という手段で抵抗する。この時、密造の貯蔵用に使われたのが、スペイン産のシェリー樽。この樽の色がウィスキーを染めるようについて、現在の琥珀色が生まれたのである。その前は、スピリッツと呼ばれる無色透明が常識であった。琥珀色に染まった蒸留酒は長い熟成の証でもあった。シングルモルトはこうして完成したのである。この密造時代の逸話は今もスコットランド中にたくさん残っている。この話を聞きながら飲み続けると、夜の更けるのも忘れてしまうほど楽しい。
スコットランドと北海道は大変よく似ている。面積もほぼ同じで、冬の寒さも同じくらい。雪は北海道より少ない。道東の風景によく似ている。ヒースの広がる荒涼とした風景は釧路湿原の風景ともダブってみえる。ピート(泥炭)が採れるのも同じだ。ニッカの竹鶴氏が余市に工場を造ったのもピートがあったからだ。ピートは大麦をスモークさせて、独特の味わいを持たせる重要な素材の一つなのである。先日、一緒に飲んだ塘路の友は、釧路湿原でもピートがとれると語っていた。ぜひとも今度それを確認したい。
スコットランドの冬は夜が長い。北海道もそうであるが、スコットランドはさらに長く、午後三時で暗くなる。そして朝は九時ころまで明るくならない。底冷えの寒さには、暖かな暖炉がある。暖炉の灯りでシングルモルトを飲みながら語り合う。これがスコットランドの冬の過ごし方なのだ。冬に来れば本当のスコットランドに会えると彼らは言う。まさに北海道とよく似ている。
シングルモルトの蒸留所は現在スコットランドで七十カ所ほどとなった。最盛期には二百以上の蒸留所があった。時代とともにその数を減らし、また大手のメーカーの傘下となって生き残っている。しかし、数多くの蒸留所がそれぞれの個性を保っているのが嬉しい。どれ一つとして同じ味のシングルモルトはない。もちろんすべてが好みとなるはずがない。その特色ある個性の中から自分に合うウィスキーを見つけるという楽しみが生まれる。極めて限られた市場でさらに一部の人の愛好となる。シングルモルトが儲かる商品でないことはたしかだ。だけど、強烈な愛好者は後を絶たない。いつまでもこの個性的なウィスキーが消えないことを心から望む。
シングルモルトを口にするたびに蒸留所のある風景が浮かんでくる。ハイランド、スペイサイド、そしてアイラ、スカイ、オークニーの島々。スコットランドの風景が頭の中を巡る。心地よい酔いが身体を支配する。
私が見たスコットランドの風景とともに、訪ねた数多くの蒸留所をいつの日か紹介できたらと思う。
十数年前、「バランタイン」の某有名ブレンダーと話す機会があった。話の流れの中でロイヤルロッホナガーを愛したヴィクトリア女王の話題となった。女王がシングルモルトにミルクを入れて飲む話は有名である。私にはできない飲み方だし、とてももったいないという話をした。その時、かのブレンダーはぽつりと言った。「シングルモルトの飲み方にルールはない。自分の好みで飲めばいいのさ、女王はこれで楽しんでいたと、いうだけさ」。自分の狭い了見を思い知らされていた。その時彼は次の一言を付け加えた。「ただ一つだけ、やってほしくないことがある」「氷を入れて飲むことだ」「氷を入れると飲みやすくなるが、繊細な味が分からなくなる」。以来私は、シングルモルトをオンザロックで飲むことはやらなくなった。ショットグラスにいれたシングルモルトをまずストレートで一口。次に数滴の水を加えてまた一口。それだけで味の違い、蒸留所の個性をまず感じる。その後はじっくりスコットランドの風景を思い出しながら、酔っていくのである。至高の時がこうして過ぎる。友と飲むのもいいが、一人で飲むのも楽しめる。それがシングルモルトである。
もともと、シングルモルトは反逆のウィスキーとも呼ばれている。スコットランドとイングランドとの激烈な戦いと対抗心から生まれたものである。スコッチウィスキーが現在の形となったのは、17世紀ころ。それほど遠い話ではない。スコットランドのウィスキーに膨大な税金をかけて、利益を上げようとしたイングランド政府に対してスコットランド人は密造という手段で抵抗する。この時、密造の貯蔵用に使われたのが、スペイン産のシェリー樽。この樽の色がウィスキーを染めるようについて、現在の琥珀色が生まれたのである。その前は、スピリッツと呼ばれる無色透明が常識であった。琥珀色に染まった蒸留酒は長い熟成の証でもあった。シングルモルトはこうして完成したのである。この密造時代の逸話は今もスコットランド中にたくさん残っている。この話を聞きながら飲み続けると、夜の更けるのも忘れてしまうほど楽しい。
スコットランドと北海道は大変よく似ている。面積もほぼ同じで、冬の寒さも同じくらい。雪は北海道より少ない。道東の風景によく似ている。ヒースの広がる荒涼とした風景は釧路湿原の風景ともダブってみえる。ピート(泥炭)が採れるのも同じだ。ニッカの竹鶴氏が余市に工場を造ったのもピートがあったからだ。ピートは大麦をスモークさせて、独特の味わいを持たせる重要な素材の一つなのである。先日、一緒に飲んだ塘路の友は、釧路湿原でもピートがとれると語っていた。ぜひとも今度それを確認したい。
スコットランドの冬は夜が長い。北海道もそうであるが、スコットランドはさらに長く、午後三時で暗くなる。そして朝は九時ころまで明るくならない。底冷えの寒さには、暖かな暖炉がある。暖炉の灯りでシングルモルトを飲みながら語り合う。これがスコットランドの冬の過ごし方なのだ。冬に来れば本当のスコットランドに会えると彼らは言う。まさに北海道とよく似ている。
シングルモルトの蒸留所は現在スコットランドで七十カ所ほどとなった。最盛期には二百以上の蒸留所があった。時代とともにその数を減らし、また大手のメーカーの傘下となって生き残っている。しかし、数多くの蒸留所がそれぞれの個性を保っているのが嬉しい。どれ一つとして同じ味のシングルモルトはない。もちろんすべてが好みとなるはずがない。その特色ある個性の中から自分に合うウィスキーを見つけるという楽しみが生まれる。極めて限られた市場でさらに一部の人の愛好となる。シングルモルトが儲かる商品でないことはたしかだ。だけど、強烈な愛好者は後を絶たない。いつまでもこの個性的なウィスキーが消えないことを心から望む。
シングルモルトを口にするたびに蒸留所のある風景が浮かんでくる。ハイランド、スペイサイド、そしてアイラ、スカイ、オークニーの島々。スコットランドの風景が頭の中を巡る。心地よい酔いが身体を支配する。
私が見たスコットランドの風景とともに、訪ねた数多くの蒸留所をいつの日か紹介できたらと思う。
釧路でシングルモルトの夜をつくりましょう。期待してます。