やんまの気まぐれ・一句拝借!

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鳴く前の喉ふるはせて雨蛙:伊藤伊那男

2020年07月16日 | 俳句
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鳴く前の喉ふるはせて雨蛙:伊藤伊那男
雨模様の庭木に雨蛙を見つけた。喉を震わせているなと思ったら鳴きだした。ケロケロケロと楽しい歌を唄い始めたのが憎めない。歌を唄う前に喉の準備運動をするなんて新発見である。今は梅雨。俳人には何でも楽しめる才がある。でんでん虫の句が出かかって喉に詰まった。吾には俳人の才が無いらしい。<雨蛙金色眼鏡がお気に入り:やの字>:角川『合本・俳句歳時記』(2019年3月28日)所載。
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空梅雨の塔のほとりの鳥の数:宇佐美魚目

2020年07月15日 | 俳句
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空梅雨の塔のほとりの鳥の数:宇佐美魚目
梅雨なのに雨がなかなか降らない。ふと高い塔が目にはいったがそのほとりを鳥が群れ騒いでいる。椋鳥だろうか。私の街ではカラス科の尾長鳥が群をなしている。こんな時にはバードウウッチが楽しめる。自粛していても鳥は向こうからやって来る。ただ人間の目には新緑が目には優しいのだが気温湿度には辟易とする。日本は細長い国なので列島全部が梅雨に沈む事はまず無い。今年も沖縄ではもう梅雨明けが済んだようだ。梅雨が明けたら郊外へ双眼鏡を持って歩いてみたい。<空梅雨の気候を愛でる老い二人:やの字>:角川『合本・俳句歳時記』(2019年3月28日)所載。
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追憶の川でありしよ天の川:長谷川瞳

2020年07月14日 | 俳句
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追憶の川でありしよ天の川:長谷川瞳
天の川を見ると何故か無性に泣きたくなってくる。切なくも甘酸っぱい思い出が甦る。今や都市近郊では薄れて見えにくなってしまった。あの頃の郷里の空には漆黒の中に恐いほど鋭く瞬いている星々があった。そんな追憶の中の人々との触れ合いが脳裏に渦を巻いて甦る。恋あり挫折ありつまりは青春そのものの自分が其処に居た。戻りたい。戻れない。<天の川どの星が母どれが父:やの字>:朝日新聞『朝日俳壇』(2020年7月12日)所載。
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帰省子のピアスのぞかせ半夏生:角田文江

2020年07月13日 | 俳句
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帰省子のピアスのぞかせ半夏生:角田文江
少し早めの夏休みだろうか。子が帰省してきた。少し大人びて見えるのは耳のピアスのせいだろうか。成長の早さに驚くばかりである。都会の土産話も郷の者には眩しいばかりである。ただこのコロナ禍で再び帰して良いものか親達の心を惑わせる。例年と違って地域間の移動に気を遣う年となった。庭の半夏生が風に揺れている。<帰省子の顔懐かしき両隣:やの字>:俳誌『百鳥』(2020年7月号)所載。
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ハンモックあの雲が父あれが母:岩永はるみ

2020年07月12日 | 俳句
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ハンモックあの雲が父あれが母:岩永はるみ
ハンモックを通した風に背中が涼しい。ぼんやりと空を見るのも久しぶりである。ぽっかり浮かんだ雲を眺めて飽きない。あの大きな雲が父で寄り添う雲が母である。などと思う内に父母の面影が脳裏に現れてきた。そしてあの頃のことあの友のことに思いが馳せて行く。こんな想像力を湧かせて、本当に雲は天才である。<ハンモック我が重力に軋みけり:やの字>:俳誌『春燈』(2020年7月号)所載。
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宇宙まで行きし目高の子孫殖ゆ:小暮よし

2020年07月11日 | 俳句
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宇宙まで行きし目高の子孫殖ゆ:小暮よし
何年か前に目高が宇宙へ運ばれて戻って来た。そんなこんなで目高の飼育の愛好家は今に絶えない。我が家でもご近所から20尾ほどお裾分けいただいた。何と銀色でぴかぴか光っている。きっとお値段が張る種類なのだろう。それが卵を布袋草の根に産み付けた。あれよあれよと子目高になって2~3百匹が泳ぎだした。親から隔離して育てるのだが朝晩の世話が大変である。親の餌をすりつぶして微粒子にして与えている。成長に釣れ容器が足りなくなった。いやはや。<我が家の銀色目高すいっすい:やの字>:読売新聞『読売俳壇』(2020年06月29日)所載。
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次の世は鳥もよからむ晩夏光:満田春日

2020年07月10日 | 俳句
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次の世は鳥もよからむ晩夏光:満田春日
逝く夏の光を横切る鳥の影あり。一夏を楽しんで喜びの歌を唄っている。ふとあやかりたいと頭に浮かぶ。重力に地べたを這ずり生きる身にとって空を飛ぶことは夢で或る。生まれ変わるしかないか。現世に次の世があるならば鳥に為ってみるのも佳いと思う。人生の一夏を終えてこの秋をどう迎えるのか。やはり重力から逃れたいと思うこの頃で或る。季語的には八月は秋と言うことか。<我が影のゆらゆら歩き晩夏光:やの字>:俳誌『はるもにあ』(2020年7月号)所載。
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夏河を越すうれしさよ手に草履:与謝無村

2020年07月09日 | 俳句
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夏河を越すうれしさよ手に草履:与謝無村
暑い夏の旅である。河を渡る踝に冷たい水が触れて行く。嬉しさが心の底から湧いて出る。今ならば靴とかスニーカーを脱いで渡る夏の河である。皮膚の感覚が五感を刺激して命そのものが喜んでいる。余談ながら若い内から清流の魚釣に遊び呆けてきた。出世には縁無き人生であったが今の老いた身ではあの頃の喜びの境地には達せまいと思っている。結果オーライ、これで佳し。<夏河の魚影に触れて帰りけり:やの字>:山本健吉『與謝無村』(1987年5月25日)所載。
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もてなしは山の水てふ夏館:黛まどか

2020年07月08日 | 俳句
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もてなしは山の水てふ夏館:黛まどか
訪れたお宅でまずはお水をと戴く水の何と美味い事か。この夏館で最高のお持てなしを戴いたことに納得である。暑い最中ここまでの道程の遠さが嘘のよう。迎えてくれた主の人柄がこの一件に象徴的である。小生のなどの「まずは一献」という持てなしの世界とは別の次元なのだ反省する。<命には清水が美味し山の家の:やの字>:俳誌『角川・俳句』(2020年7月号)所載。
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七夕の港出でゆく船の水脈:長島衣伊子

2020年07月07日 | 俳句
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七夕の港出でゆく船の水脈:長島衣伊子
新暦の七夕が定着して来た。織り姫伝説ではないが七夕にはデート(逢瀬)が似合う。宵闇に星が輝き天の川がぼうっと流れている。地上の人間も昼の暑さを覚まさんと外をそぞろ歩きする。せせらぎの音が耳に甘く螢の光が目に優しい。死のうかと囁かれしは螢の夜てな経験は小生には無いが説得力はある。汽笛が鳴って港を出てゆく船の水脈をじっと眺める。さて今夜は夢見る夢に居場所があるのだろうか。<溢るるは誰が涙なる天の川:やの字>:俳誌『角川・俳句』(2020年7月号)所載。

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コーヒーにミルク渦巻き緑雨去る:大串若竹

2020年07月06日 | 俳句
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コーヒーにミルク渦巻き緑雨去る:大串若竹
雨が新緑を濡らして通り過ぎた。雨宿どりの喫茶店だろうか。所在なげに窓の外を眺めるばかりである。無意識にかき回すコーヒーにミルクの渦巻きが流れた。外が明るくなって雨が去ったようだ。さてもう一歩きして帰ろうか。凡愚の民ながらも今はこうして平和を楽しんでいる。<緑雨かな傘差す人と差さぬ人:やの字>:大串若竹句集『風鈴』(2013年9月7日)所載。

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​円卓のどこに座らむ大南風:岩淵喜代子​

2020年07月05日 | 俳句
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円卓のどこに座らむ大南風:岩淵喜代子​
夏の南風が吹く或る日、何人かの集いがあった。梅雨の湿度でむんむん蒸れていて気分良く過ごすには隣に座る人を選びたい。円卓をぐるりと見渡して空いている席を物色する。あれ!自己中のあの人の隣が空いている。ワタクシ事ですが隣に座るのが苦手な人がいます。大変可愛がっていただくのは有り難いのですが、お酌の無理強いをされてしまうのです。断ろうものなら「テメエ俺の酌が気にいらネエのか」と流れてゆきます。さて今夜は何処に座れるだろうか。<おろおろと胸吹かれゆく大南風:やの字>:俳誌『ににん』(2020年夏号)所載。

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聞き役に回り団扇の風送る:森野経子​

2020年07月04日 | 俳句
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聞き役に回り団扇の風送る:森野経子
お喋りを娯楽のように楽しむ性格である。それがひょんな事で聞き役にまわってしまった。長い話しの相づちにも少々疲れて今は団扇の風を送るのみ。昨今ではクーラーが普及して団扇はめったに見られなくなった。扇風機とか扇子はたまに見掛ける事がある。ウチワには昭和の香りがする懐かしい響きがある。秋刀魚を焼く路地や祭りの団扇が懐かしい。そういえばコロナ禍で町内の夏祭りも中止となった。<婦人より似顔絵団扇送らるる:やの字>:雄山閣『新版・俳句歳時記』(2012年6月30日)所載。
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小判草これは詐欺だと気付きたる:赤猫​

2020年07月02日 | 俳句
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小判草これは詐欺だと気付きたる:赤猫​
例年おなし場所に小判草が咲く。小判の形からこう言はれている。猫じゃらし同様楽しいネーミングである。これだけ小判があったら人生豊かにくらせそうだ。と茫々としている頭へ今流行のオレオレ詐欺の電話である。熟練した間合いと抑揚についつい騙されそうになってきた。ところで小さな違和感がありはっと気がついた。これって詐欺!危うくセーフでやれやれである。小生の場合根が素直(?)なので騙されやすい性格だと思っている。が、残念騙されるだけの金銭を持っていない。100万円騙された等と聞くと良くお金があるなあと尊敬してしまう。せめて保証人の印鑑だけは押さない様にしよう。<豊かなる風にそよげり小判草:やの字>:ネット喫茶店『つぶやく堂』(2020年6月29日)所載。
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昔から母は留守番釣忍:原田香伯

2020年07月01日 | 俳句
303
昔から母は留守番釣忍:原田香伯
母は家を守った。父が仕事の時も子どもが学校の時もである。ただ留守番をしていただけでは無い。家事の炊事洗濯以上の事をこなしていた。戦後の混乱期にはご近所から針仕事を頂いて家族の糊口を凌いだ。泣き叫ぶ子を背中にあやしつつ懸命に命を繋いだ。父がやけ酒で帰らぬ夜も家の留守を守った。子供が学校で悪さをしたときもひたすら謝って廻った。今静かな人生の午後を寛いでいる。わすかな風に風鈴が一鳴りした。囁く様な小さな音で。<短所みな母に似てをり冷奴:やの字>:俳誌『百鳥』(2019年10月号)所載。
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