政治の季節【稗史(はいし)倭人伝】

稗史とは通俗的な歴史書等をいいます。
現在進行形の歴史を低い視点から見つめます。

日本医師会会長選挙と医の倫理…自民党と共倒れ?

2009-10-18 17:52:32 | 政治
日本医師会はこれまで自民党の支持組織あるいは圧力団体としての側面のみが突出しているように見えていた。
職業団体としての医師会は当然二つの側面を持っている。
一つは、生活者・職業人としての医師の利益擁護組織という側面である。
そしてもう一つは、この国の医療を担う前線組織としての一面である。

多かれ少なかれ職業集団というものは、利益擁護団体の性格と同時に社会的責務を持っている。
ただ医師会は他の職業集団と比べて、より重い社会的責務を要求される団体と言えよう。
しかしながら日本医師会はこれまで利益擁護集団という側面だけが強く印象されてきた。
当然政治的な活動も活発であった。
日本医師会は自民党の強固な支持基盤の代表の一つであった。
日本医師会は日本医師連盟という政治組織を作っている。
国会議員を自民党から立て、毎年15億円を超える政治資金を渡し、集票マシーンとして働く。
それが日本医師会であった。
診療報酬の引き上げなどを目標とする圧力団体。
それが日本医師会だと思われてきた。

だから茨城県医師会が後期高齢者医療保険制度に反対の声を上げたときは、国民も、自民党も、日本医師会自身もビックリ仰天したのである。
その動きは次第に各地の医師会に広がっていった。

茨城県医師会が来る衆院選では民主党支援を打ち出したとき、それを強くけん制したのは日本医師会であった。

日医連盟「与党を推薦」表明 地方を牽制 (asahi.com 2008.9/18)
次期衆院選での対応について、日本医師会の政治団体・日本医師連盟は18日会見し、47都道府県の医師連盟に対して「自民党を中心とした政権与党の候補者を推薦する」との基本方針を示し、「その趣旨に沿った行動をお願いする」と指示したことを明らかにした。

民主党を推薦する方針を17日に決めた下部団体の茨城県医師連盟を牽制(けんせい)した形だ。日医連盟の羽生田俊・常任執行委員は「連盟規約に処分や罰則がなく、茨城県の方針は容認できないが反対もできない」と話した。日医連盟は、茨城県内の選挙区から立候補する自民党公認候補から支援の要請があった場合、県医師連盟とは別に直接支援を決めることもあるという。

 羽生田委員は、自民党側から再来年度予算では社会保障費の2200億円抑制方針を凍結するという麻生太郎幹事長の意向を伝えられたと明らかにし、「医師会の医療政策を最も理解し、政策実現能力を有するのは与党だ」とした。


日本医師会と都道府県医師会は下部機関とはいえ、それぞれ独立した公益法人となっているらしい。
日本医師会としては茨城県医師会に何らかの処分を下したかったのだろうが、これが精一杯の意思表示であったのだろう。
しかしそもそも、この対立の根底にあるものはなにか?

総選挙後、日本医師会は自民党から離れる素振りを見せている。

揺れる日医“選択の秋” 民主強硬…パイプなく困惑 参院選へ「自民離れ」か否か (@nifty 産経ニュース 9/26)
自民党の有力支持団体である日本医師会(日医、唐沢祥人会長)が、民主党支持にシフトするかどうかで大きく揺れている。鳩山政権の「日医外し」の動きに、発言力低下を危惧(きぐ)しているためだ。自民党支持団体の象徴ともいえる日医が民主党にかじを切ることになれば、来夏の参院選への影響は計り知れない。(河合雅司)
8月の衆院選では一部地方医師会が民主党支持に回ったが、日医全体では自民党支持を明確にし、民主党の政策批判を展開した。
 当然のことながら、民主党は反発。選挙後、唐沢氏は鳩山政権にも政策提言したい意向を示すが、民主党医療関係議員の一人は「自民党ベッタリの日医の意見を政策に反映させることはあり得ない」と切り捨てる。
「今後は自民党だけでなく、国会の議席数に応じて政治献金の配分を決めるべきだ」。15日に行われた日医の政治団体・日本医師連盟の執行委員会では献金先の見直し提案が出された。来年の参院選についても、自民党比例代表で出馬予定の西島英利参院議員(61)を「選挙区からの無所属とするか、擁立を白紙に戻すべきだ」との声が上がった。


ここには政権与党というだけの理由で自民党にくっついていた医師会の心底があからさまに見て取れる。
問題にしているのは選挙結果だけで、政策も理念も無関係である。

ところで茨城県医師会のここまでの動きの基本にあるものはまったく異なる。

原中茨城県医師会長「国民に貢献できたと思える日が来ればいい」 (2009/09/02 キャリアブレイン )
原中氏は今後、民主党に対し「わたしたちの持っている知識をできるだけお伝えして、最終的には老後に安心できる医療介護の制度に直すことなどと、それに必要な財源を説明して、積極的に改善してもらうというお話をしていく」と述べたが、同党への入党は否定した。その理由については、「医師として公平な意見を言うというのは、政党にこだわらなくても十分にできる。政党人にならない方が、わたしは正確な意見をきちんと言えるだろうと思っている」と述べた。


これは自民党か民主党かという選択の問題だけではない。
選ぶ側の姿勢の問題である。
同業者組合としての利益優先路線をとるのか、医師の社会的責任・倫理観を優先させるのかということである。
茨城県医師会が後者の立場に立てば次の行動は当然であろう。

日医会長選、民主支持の茨城医師会長が出馬へ (YOMIURI ONLINE)
来春に予定される日本医師会(日医)の会長選挙に、茨城県医師会の原中勝征会長が立候補する意向を固めたことがわかった。
 19日の同県医師会の臨時代議員会で賛同が得られれば、同日中に記者会見して正式に表明する予定だ。同選挙にはすでに、唐沢祥人会長が出馬の意向を示している。
 日医の政治団体「日本医師連盟」は自民党の有力支持団体だが、原中氏は先の衆院選で民主党を支持した。原中氏が出馬すれば、支持政党をめぐる路線対立や鳩山政権との関係が選挙の争点になるのは確実だ。(2009年10月15日 読売新聞)


無条件に自民党支持を続け、茨城県医師会の動きをけん制してきた日本医師会。
「医師会の医療政策を最も理解し、政策実現能力を有するのは与党だ」としてきた執行部側。
そして自民党惨敗後は恥も外聞もなく民主党にすり寄ろうとする現執行部。
それに対して
「国民に貢献できたと思える日が来ればいい 」と語る原中茨城県医師会会長。

選択すべきは自ずと明らかであろう。

自民党と郵政一家、農協そして医師会。
しょせん利害得失のみで結びついていた関係は、壊れるのも速い。




政の次は官と財とマスコミと!


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