写真は雑誌短歌研究 1980年9月号 第23回短歌研究新人賞発表。第2回ではあの寺山修司も受賞している。この回の受賞作は中山 明「炎禱」(えんとう)。
中山 明(便宜上、呼び捨てにすることをお許しください。)は私の先輩。この年中山 明は駒澤大学文学部歴史学科4年、そして私が3年だった。歌を、幾つか引いてみよう。
残聴のごとく夜の雨ふりしきる窓よ いずこの海へつづかむ
無言にて向きあいている終バスに あわれひとたびの視線もあわず
己が死をとおく命(さだ)めし日もあれよ ユリウス暦につづく七曜
汗血の馬奔り去るたまゆらをゆらげよ炎禱のごとくかげろふ
胸中を白くひそかに零(お)ちゆくか 錠剤の翳 花びらのかげ
大学を卒業後、幾つかの職を経て、中山 明は教職に就いた。教鞭をとりながら、歌を作ることはできたはずだが、第二歌集を出すと、中山 明は歌を作ることを辞めた。当時、中山 明はその理由を何も語らなかった。まるで老兵が静かに戦場を去るような退場だった。おそらく中山 明は知っていたはずだ。歌はまだ自分がなにものか分らぬものが、その葛藤から歌ってこそ輝きがあることを。そして世間体的には自分がなにものであるかを知る立場になった中山 明は、歌とわかれた。
中山先輩ご無沙汰しています。先輩は自分がなにものであるかわかりましたか。
そろそろまた、歌よみに戻られたらどうですか。