私の思いと技術的覚え書き

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ブレーキの必要要件

2016-11-20 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険
 ブレーキ(制動装置)とは、クルマの基本機能たる、走る、曲がる、止まるを全うする上においてステアリングに並んだ最重要装置であろう。そのブレーキの必用要件だが、如何なる高μ路においても、十分ロック可能な絶対能力を持っている必用がある。そして、超高速からの急減速とか、下坂路での連続使用や急加速からの急減速の繰り返しにおいて、昇温により容易にフェード(高熱により摩擦係数が低下する現象)しない十分な熱容量と放熱性能を持つことが求められる。

 また、昇温においては、ブレーキフルードが容易に沸騰し、液中の気泡によりベーパーロックしないことも求められる。(ブレーキフルードの規格においてはDOT4以上において沸点250°以上を保証している。)また、ブレーキフルードは、配管中のラバー部品を犯すことなく、配管中の防錆を防ぐ目的から、エンジンなどの油膜を形成するオイルではなく、フルード(エチレングルコール系)である点に注意が必要なことと、それ自体に吸湿性があり、使用期間に応じた吸湿と共に、沸点低下を生じることも知る必用があるだろう。

 レーシングカーや市販高性能車ではブレーキディスクと、それを保持するベルが別部品となり、ウェーブワッシャを入れ、ある程度ディスクの振れを吸収出来る構造とした、2ピース構造にしている場合が多い。これは、高温で赤熱したディスクが倒れ込んでペダルストロークが増加するのを防止したいがためのものだ。

 もう一つ、2輪車においては、前後は別ブレーキレバーとなっており、車体重量の30%前後となる運転者の体重移動や走行条件に応じて、前後ブレーキ力の配分は任意に行えるのが普通だ。しかし、四輪車においては、前後のブレーキ力の配分は、市販車ではメーカー設計者任せで、後は実車評価で決めているのだろうが、最近は実車評価自体が何処まで突き詰めて行われているか怪しいものだ。ABSを装備しているからという意見もあろうが、ただ付いていれば良い訳ではない。これも、制動中のステアリング特性と制動力を高次に達成するには、実車評価と高度なチューニングが欠かせぬはずだ。なお、最近はESCとかDSCと呼ばれる、車両挙動をGセンサーなどで監視し、設計者が意図した不安定を検出すると、4輪の内の一部車輪だけの制動を行い、合わせて点火時期を瞬時に遅らせる等して、安定性を回復させる装置があるが、これも付いてればいいというものでなく、高度なチューニングにより高度な運転する楽しみを維持出来るものであって、低レベルに介入されたらそんなものはなくなるだろう。

 以上は市販車のものだが、レーシングカーとなると、だいたいがブレーキペダルの前方に2つのマスターシリンダーが並列に並んで配置されており、ペダル踏力は2つのマスターシリンダーを結ぶバランスバーに複数用意された結合点で連結する構造になってる。つまり。バランスバーのフロント側マスターに近い方の結合点で連結すれば、制動時にフロントブレーキ重視となり、その逆であればリヤブレーキ重視となるのだ。これは、ドライバーの好みや、走るコースにおける最良点によりセッティングされる。

 最期に、通常あまり触れられることのないブレーキの安定性のことを記してみる。特に自己サーボ作用を持ったドラムブレーキにおいて多いのだが、フェーシング温度などの条件や自己サーボの効き具合によって異なるのだが、特に朝一番の最初のブレーキで、いわゆる「かっくん」ブレーキが働き易い。これは、フロントブレーキが2リーディングと呼ばれる2つのシューのそれぞれにホイールシリンダの過圧力が働くタイプに生じ易い。

 もう一つ、主に昔の後輪に使用されたドラムブレーキ方式で、ディオサーボというものがあった。一見、リーディング・トレーリング式だが、下部シューの連結部を見ると、アンカーで固定されておらず、リーディングシューの後端がリンクで後ろ側のシューを押す機構となっている。つまり、前後のシューがリーディングというか、むしろ後ろのシューはリーディングで生じた自己倍力が更に強く働く仕組みなのだ。具体車種だと、トヨタのMS60などであるが、これで走り初め、軽いタッチでブレーキングして、クルマが横向きそうになったことが数回ある。シュー温度がある程度上がってくると、ある程度改善するが、とても怖くて乗れたものではなかった。メーカーでも判っていて、次期MS80(MS70は60のHT版)では、安定性が良好なリーディング・トレーリング式に改修された。



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