私の思いと技術的覚え書き

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リコール届け出の内容不審(7/3公示の日産セレナなどのCVTリコールから)

2020-07-03 | 車と乗り物、販売・整備・板金・保険
 国交省HPでのリコール届け出には、リコールの説明としては、以下が記されている。

Q リコール届出とは何ですか
 リコール届出とは、同一の型式で一定範囲の自動車又は特定後付装置について、道路運送車両の保安基準(国土交通省令)に適合していない又は適合しなくなるおそれがある状態であって、かつ、その原因が設計又は製作過程にあると認められるときに、自動車メーカー等が、保安基準に適合させるために必要な改善措置を行うものをいいます。

A 自動車メーカー等がリコール届出を行う場合には、道路運送車両法の規定により不適合の状態、その原因、改善措置の内容等をあらかじめ国土交通大臣に届出を行うことが義務付けられています。その後ユーザーに対して通知し、早期に改善措置を行うことが義務づけられています。

 ということで、端的に記せば、設計や製造に起因して、事故や火災に至る可能性がある場合は、リコール届け出が義務付けられている。なお、必ずしも事故や火災に結び付かない程度であるとか、車両の美観や耐久度に難点が多いなどの場合は、サービスキャンペーンとして、比較的に消極な公示により無償修理する場合がある。

 という程度は、自動車関連の業を行う者なら理解しているところだろう。ところで、今回提起したい問題は、リコールの届け出となった故障の原因としての記述が、自動車工学の技術者としての視点では、間尺に合わないというか、論理不明確で理解し難いという問題について書き留めておきたい。この問題は、過去から各種リコール届出を多く眺めて来て、毎度と云うことまではないまでも、比較的多く目に付く問題なのだ。

 今回、7月3日付けで届け出された日産自のセレナ、スズキランディ(OEM車)でのCVT・AT車の不具合だが、「基準不適合状態にあると認める構造、装置又は性能の状況及びその原因」と非常に長ったらしいしかも意味が理解し難い項目には、以下の記述が届けられている。

 無段変速機(CVT)において、制御プログラムが不適切なため、変速機構であるスチールベルトに傷がつくものがあり、そのままの状態で使用を続けると、最悪の場合、スチールベルトが破損し走行不能に至るおそれがある。

 この記述からすると、CVTの金属ベルトにキズが生じるものがあり、最悪走行不能に至る場合があるが、この原因は制御プログラム(ソフトウェア)に原因が帰するという内容だ。

 もし、整備士に関わらず工学系の試験問題として、回答にこの様な記述をしたら、出題者としては到底合格点を与えないだろう。つまり、ソフトウェアの不具合とCVTベルトのキズとの相当関係が何ら言及されていないことから、その様に判断されるのだ。今回の不具合が果たしてどのような相当関係にあるのか知らぬが、例として事例を以下に記す。

 走行中にアクセルを踏み加え急激に減速比を上げ加速制御する場合において、CVTのプーリー比制御が急激過ぎ、よってCVTプーリーとベルト間にスリップを起こす場合があり、ベルトのキズ付き摩耗からベルト寿命を短縮する場合があった。

 この様な、リコール届け出を見ていると、何時もではないが、何か結果と原因の間に、間尺に合わないと云うか、言及不足もしくは、本当の原因をメーカーは隠しているのかとすら感じるケースは多いのだが・・・。

 その理由は以下の様なことが想像される。
・なるべく短い文章で理由付けしたい。
・本来の原因を隠したい。
・対策の内容をなるべく軽便なものとして、リコール経費を圧縮したい。

 今回の事例では、対策として制御プログラムを書き換えると記しているが、本当に制御プログラムの不良なのか疑わしいとも想像する。そもそも、スチールベルトやコマとプーリー断面の形状が不良とか、プーリー加圧力の不足、トルク容量自体の不足(許容容量として経時変化による劣化に対する余裕がない)なども考えられそうだ。なお、故障履歴で不具合があればCVT本体(トランスアクスルAssyということだろう)を交換すると記しているが、その故障履歴とはCVTのスリップの記録のことではないのか。


追記
 これは前にも類似の問題で記したと記憶するが、国交省リコール担当者は、ただリコールの届け出を受け付け公示するのではなく、先に記した様な問題が内在している場合は、届け出者に釈明を求め、その内容をユーザー及び関係者に理解し易い様に訂正させるべきだろう。

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1 コメント

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まさに (きじ)
2024-06-11 14:46:06
はじめまして。最近こちらのブログを発見し、興味深く読ませていただいております。
私は北関東のとある県で整備・鈑金塗装業を営んでいる者です。

筆者様は元損保の損害調査人とのことですが、事実(事故)を客観的に見つめ、損保にも修理工場にも寄らない姿勢に、こんな方もいたんだなぁと感銘を受けました。

さて、表題のリコール(日産CVT)ですが、先日まさにこの症状の車が入庫しまして、エラーコードも確認の上、ディーラーにリコール案件では?と問い合わせたところ…
既にリコール実施済み(リプロのみ実施)の車両のため、実費修理になりますとの回答でした。
既に内部損傷はある(確認はできないが)が、症状がないものをリプロのみでリコール対応済みとし、その後の走行過程で症状が進み発生したものを対応済みだから認めないとなるならば、最初からリプロ対応せずに壊れるまで待ってたほうが良いですねという話をしましたが、ディーラーの対応は無理なものは無理とのことでした。
結果、お客様が直接日産に持ち込んで交渉してみるとのことで終わったのですが、筆者様の推定通りの大規模リコールを避けたいという思惑が見て取れました。
エコモーターのリコールもそうですが、タイミングによっては高額有償修理をしてしまったというケースも多いと思いますが、何らかの保証(部品代相当の返還)など対応してもらいたいものです。

長くなりましたが、今後も様々な記事(特に損保関連の考察など)を楽しみにしております。お身体ご自愛ください。
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