思考の7割と収入の3割を旅に注ぐ旅人の日々

一般的には遊び(趣味)と見下されがちな「旅」も、人生のなかでやるべき「仕事」である、という気概で旅する旅人の主張と報告。

今年、“私事”によっておそらく日本一の服部文祥マニアに成った、かもしれない

2012-12-28 23:59:59 | 出版・言葉・校正
秋以降にようやくそこそこの成果が出て、年末ということもあって初出しの報告を。

23(日)の投稿の続き(前振りの受け)みたいなものだが、今年の年始からずっと服部文祥氏の著作を読んでいた。
服部氏の著作は6年前からの発行順に、『サバイバル登山家』(みすず書房、2006年。現在14刷)、『サバイバル! ――人はズルなしで生きられるのか』(ちくま新書、2008年。同初版)、『狩猟サバイバル』(みすず書房、2009年。同7刷)、『百年前の山を旅する』(東京新聞出版部、2010年。同4刷)、『狩猟文学マスターピース』(みすず書房、2011年。同初版)と単著では計5冊あるが、今年は『百年前の山を旅する』以外の4冊を。
というか、「読む」以上に時間をかけて、校正の仕事くらいの力の入れようで「視た」と言うほうが正しいかも。この件について。

コトの発端は昨年2月のトークイベントで服部氏と会ったときに、「俺の本も校正してくださいよ」と言われたことで、このときはお互いに単なる社交辞令としか思っていなかったはずだが、その翌日以降に、実は僕はそれまでに服部氏の文章は編集部員として所属している月刊誌『岳人』の記事は随時読んでいても既刊の著作を通しででは『サバイバル!』の1冊しか読んでいない状態だったので、なんなら読書ついでにやってみるか! と思い立ち、社交辞令をあえて真に受けて取り組むことにした。
なぜそう思ったかの決め手は、先の投稿でも挙げたように単に登山に関してはここ数年で最も好きな書き手であること。雑誌記事はよく読んでいてもこの頃は単行本のほうはあまり読んでいなかった状態も幸いで、もしすでに全部読んでいたら断って(無視して)いたかもしれない。

ひとまずそう決めて翌月から始めるつもりだったのだが、仕事しながら下準備をしている最中に東日本大震災が起こってしまい、その影響でばたばたしてしばらくはどうしても読む気分にはならず、優先してやるべきことも発生したせいでこの件は放置して無期延期の状態になっていた。

だが、年が明けて今年の年始、手持ちの仕事の区切りがついて落ち着いたこともあって、そろそろいいかな、と1月から着手した(まあ要はただの読書ですけど)。ただこれは報酬の発生する仕事ではないので、特に見返りなんか期待することもない極私的な趣味の一環として、しかしやるからには仕事並みに注力するために、仕事と趣味の中間のような位置付けで自分のなかでは“私事”という呼称で取り組んでいた。

で、具体的にどういう作業だったかは秘密、でもなくて挙げてもよいが細かく説明するのが面倒なので割愛するが、僕は本への書き込みは元々嫌いなのでそれはやめてふつうに別紙にメモを取ったり付箋を使ったりして疑問点を洗い出した一覧表を作って、1冊終えては服部氏に結果を随時送る(贈る?)、を繰り返すカタチであった。

服部本を改めて詳しく視ると誤植が結構あり、しかも今春に服部氏と東京都内某所で個人的に会ったときの“事情聴取”で知ったが、増刷するたびに気付いた点は修正していると聞き、だから刷数が後の本のほうが徐々に改善されている。とはいえ、一応はプロ校正者の僕の見立てでは正直とても改善したとは言えない(失礼ながら)お粗末な状態の箇所も数多く見受けられた(しかもそれが本の発売以降はずっと放置された状態で、なぜ誰も指摘しなかったのか……)。

僕は読者歴が今年で18年の『岳人』というと、今月発売の13年1月号からの誌面の大幅なリニューアルに伴って服部氏はなぜか編集部員なのに「スーパー(超)・登山論」という新連載を持つようになったが、それも含めてこれまでの氏の記事のなかでも誤植および誤植と疑わざるを得ない表記も散見され、ああせっかく表現者としてカッコイイことを書いてまとめたつもりでもそういう粗相がたとえ1文字か2文字程度でも存在するとそのぶん説得力を欠き、面目丸潰れまではいかなくてももったいないよなあ、と常にいち読者として心のなかでツッコミを入れていた。なので、(出版のために書き下ろした箇所も多々ある)本も似たような傾向なのかと最初から疑ってかかると案の定で、読み進めるうちに疑問点が次から次へと浮かび上がってきた。まあ良く言えば校正しがいがある、ということか。
今年は服部本を視ながら、良い内容なのに「もったいない」と心のなかで何百回言ったことか、というくらいにもったいない状態である(現在、全国の書店や図書館に流通している本たちが、ということ)。

“私事”で苦労した点をひとつ挙げると、読書以上に力を入れて読むために(1冊あたりで少なくとも3、4回は読み返すくらい時間をかける。というかホントは校正という作業は文章を読んではいけなくて文字を1つずつ追うものだが)、集中力を持続できる環境を探すのが大変だったことか。まあ大概は客入りの少なそうな立地・時間帯のマクドナルドを狙って行って毎回2時間以上は集中して取り組んでいたが(今年4月のエイプリルフール無視ネタで触れた、2月の沖縄県内の旅の最中に読んでいた本も『狩猟サバイバル』だった)、テレビやら菓子類やら横になれる布団やら誘惑の多い自室で、しかもあぐらのままずっと作業し続けるのは腰を痛めたりして限界があるので、どうしても誘惑を断ち切るために、そしてたまには椅子に座りたいがために外出する回数が多かった。だから今年は特に、最近流行りの“ノマド(ワーキング)”みたいなカタチが多く、ファストフード店や喫茶店に長時間入り浸る人たちの気持ちもわからなくはない。
ただ僕の場合はPCはあまり使わないほとんどアナログ作業なので(普段のちゃんと報酬のある仕事も、ペンを持ちながら校正紙とにらめっこの時間が大半)、“ノマド”が毎回苦慮する電源確保の問題とはほぼ無縁だったけど。

そういえば今年の服部氏の動向を振り返ると、お得意の“サバイバル登山”は少なめだった気がする(「気がする」というのは服部氏がウェブサイトやブログや最近流行りのSNSに否定的で、私的な情報発信は昔気質の活字媒体にこだわっている=お金にならないものは書きたくないからで、そのぶん私生活の情報は出さない影響もあるけど)。
その代わりに? 3月は神保町で内澤旬子女史の対談相手に指名され、4月は(『岳人』12年6月号の表紙と記事にもなったが)服部氏のファンだと公言する人気若手俳優の瑛太とともに八ヶ岳南部の雪山へ行き、夏はつり人社のムック『渓流 2012 夏』で登山装備の持論展開とともになぜかセミヌード写真!? を披露し、昨年の震災の影響で延期して今年開催となったモンベルの「冒険塾」では野田知佑・関野吉晴など野外業界の重鎮とともに講師役として名を連ねて参加者たちに泊まりがけで“サバイバル登山”を伝授し、陸上競技で数年前から取り組んでいるという中距離走の年代別で全国優勝し(記録は男子M40の800mのところに)、10月には実は旧知の仲の(ヒマラヤ8000m峰14座完登の)竹内洋岳氏との公開対談に登場し、ほかにもそれらの合間に講演がいくつかあり、と自分の行為と表現を突き詰めるよりも他者と交わる機会のほうが多かったか。なんでだろう、今年に偶然重なったのかなあ。というか、『岳人』の編集部員という本業以外の副業がやたら多いよなあ。

まあこれは、業界的に比較的どころかかなりの有名人の服部氏のことなので公的な情報は集めやすく、参考までにつらつら挙げてみましたけど。
このような服部氏の動向も掴みながら随時、僕が服部本を読了してからまとめた“調査結果”を随時送り、それに関する連絡・補足等をメールでやりとりしていた(ざっくり言い換えると、僕が服部氏に容赦なくツッコミを入れ続けていた)。氏の今年の表立った活躍の裏で、実は僕がそういう嫌味? なことをやっていたのであった。


渓流 2012 夏』。今夏、服部氏がこれにも登場していることを知っている人は釣り人以外では少ないと思われる。僕の仲間内でもほかに1人しか知らないっぽいから。この記事のなかにも目を覆いたくなるような大問題の誤字がある。

ああそういえば瑛太は、来月からの1月クールのテレビドラマに、フジテレビとテレビ東京の2本掛け持ちで主演するという無茶をやるらしいが、大丈夫かねえ(近年、同じクールのドラマを2本か3本、さらには映画や舞台演劇も、と仕事を複数掛け持つ役者は多いが、ドラマで主演級の掛け持ちは異例。でもまあ撮影時期はたいしてかぶっていなかったのだろうけど)。しばらくは山に行くどころではないだろうがまあ面白いので、同じ服部ファン目線で観るつもり。
ついでにもうひとつそういえば今年、瑛太と杏が共演の某飲料のテレビCMを観ると、登山経験者のあの組み合わせでオリジナルの山ドラマか映画を創ればいいのに、と思った。

そして、僕のその働きかけ? の結果どうなったかを宣伝ついでに挙げると、まだ『サバイバル登山家』の1冊のみだが、実はこの本は10月に約1年ぶりに増刷して14刷になったが、この刷から僕の指摘によって修正されたところが数箇所あり、若干だが本として改善されている。ただこれは素人目にはわかりにくいと思うが、たしかに替えている部分はある。さてどこでしょう。

おそらく絶版状態の『サバイバル!』の増刷や再販は今後も無いと思われるが(でも僕はこの新書サイズが最も読みやすいと思う)、服部本は各種媒体の本の特集記事や書店のフェアなどでも度々取り上げられるので、今後の再注目による売れ行き次第では『狩猟サバイバル』と『狩猟文学マスターピース』はまだまだ増刷の可能性がありそうなので、修正してそれぞれ8刷と2刷が刷られる場合は同様に僕の指摘部分が改善される、かもしれない。
ただ、どこを修正するかはやはり最終的に著者の判断に委ねることに。僕は最大限の選択肢を提供した時点で作業はおしまい。校正者という立場は作者を尊重するために出しゃばりすぎてもいけないので(本来こういう私的な話をブログに書くのもどうかと思うが、すでに世間に出回っている本のことですし、ネタとして面白いので、使ってしまってすみません)、結局はそんなものだ。

指摘箇所は、プロではあっても登山に疎い校正者が視ると見逃す、もしくはわざと流す点もあると思うし、登山の専門用語などある程度は登山のことを知っている者でないとわかりにくい記述もあり(道具、動作、仕組み、山・谷・尾根の名称、俗語などなど)、服部本の作業は(手持ちの時間が多いという意味も含めて)数多の校正者のなかでも近年の登山および関連媒体の傾向も掴んでいる(つもりの)僕にしかできないことではないか、と自負している。服部氏が『岳人』の編集に加わった約16年前から氏の書くものに触れているため、筆致を人一倍知っていることも強みだとも思いますし。
おそらく、服部氏の筆致は感覚的にも年配もしくは山岳関係の編集者やほかの書き手でも理解し難い部分もあるだろう(と、今回取り組んで尚更そう思った)。だから、服部本の一連の“私事”は面倒ではあったがやりがいは普段の仕事以上にあった。野外業界内の服部氏と僕の年齢的な立ち位置を再確認することもできてむしろ良い勉強にもなった。

ホントは服部本に関連する内容の媒体もなるべく調べて反映させたかったのにその時間はあまり取れなかったのは悔しいが、僕も普段の生活があるもので、どうしても、ねえ。まあこれが報酬付きでお金の懸かったれっきとした仕事であれば、目の色を変えて最優先で取り組むだろうけど。
でもまあ関連のある作品として今年、映画では『デルス・ウザーラ』と『リバー・ランズ・スルー・イット』を観て、あとマンガネタで挙げなかったがイブニング連載『山賊ダイアリー』(岡本健太郎、講談社)の既刊2冊も読んで、それらの作品に触れることも服部本の世界観の理解の一助にはなった。

出版物の編集と校正を担当する場合、その著者(もしくは依頼・発注者)の思惑や世界観にいかに深く寄り添うことができるか、というのが肝要だとは常に思いながら取り組んでいて(週刊ヤングジャンプ連載『ハチワンダイバー』で言うところの“ダイブ”の感覚で)、その点は仕事でも“私事”でも変わらないと思う。という僕の普段の仕事の初心に立ち返ることもできた、(僕が得することはほとんど無い、しかも無収入状態で取り組む、という意味で)苦しくも有意義な作業であった。こういう機会が生まれたことを逆に(僕の“私事”を受け容れる懐の深さもある)服部氏に感謝したい。今後はこのようなカタチを仕事としてできるとよいけどなー。

というわけで、今年の“私事”のおかげ? せい? で、服部本に限ってはおそらく書いたご本人以上に詳しくなった、かもしれない。とりわけ、漢字の使い分けや固有名詞・ルビの扱いやかぎ括弧付き会話文の挟み方など表記の癖に関しては尚更。なんなら、ビッグコミックスピリッツ連載『花もて語れ』ばりに情景描写を踏まえた朗読もできそうだなー。というか今後の何かの催しで、服部氏が直接それを披露すると面白いと思う。

ホントは併せて年内に終わらせたかった『百年前の山を旅する』が残ってしまったので、来年の年始から取り組んで早めに完結したい。それとともに僕は現金なヤツなので、業界的に顔も広い服部氏を介して今後は正式な仕事が入るといいなー、と淡く期待もしている。いわゆる、「損して得取れ」ということです、はい。


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