先月発売の『CYCLE SPORTS』12年2月号を遅まきながら最近読むと、石田ゆうすけ氏の連載「僕の細道」では僕の地元である埼玉県をいつものようにぶつくさ言いながら旅しているし、モノクロページの「実戦!道路交通法規サバイバル」では“軽車両”の乗り手として心得ておくべき行動と態度の指針となり得る興味深い記事だったし、といつになく読み応えのある内容が並んでいた。だがしかしそのなかで、むむむっ、と眉をひそめる記事があった。
それは、「鏑木裕のダートクエストIII 第二十二章」という、(以前に一度覗きに行ったことのある)神奈川県・青葉台の轍屋自転車店の店主の鏑木氏がオンロード偏重のあまたある自転車専門誌のなかにあってオフロード(とりわけ、いわゆる「ダブルトラック」≒林道)の自転車旅にこだわって紹介している連載で、毎号ここも興味深く読んでいる。で、今回は八ヶ岳の本沢温泉の野天風呂「雲上の湯」に入浴しに行く話だった。
取材は昨年? の12月中旬だそうだが(店のブログによると21日(水)みたいね)、仲間と麓からMTBでやや積雪のある林道を上り詰めて野天風呂を目指す、という今回の企画趣旨自体は良いと思う。
が、もう冬に入って気温マイナス8度のなか駆け上がってその目的地に辿り着いていざ入浴、でその最高潮? の入浴中の写真の見せ方がまずいだろ、と率直に思った。具体的には108ページと110ページにある湯船まわりの写真数点のこと。
記事と写真のとおりに4、5人でしっぽり入浴するだけならまだしも、そこに登山用の小型ガスコンロを持ち込んで、湯に浸かりながら湯を沸かしてカップラーメンを食べたり、あらかじめ仕込んでおいたお汁粉を温めて食べたり、という写真もあった。それらの写真の注釈のひとつに「それ(=カップラーメン)を湯船に浸かって食べられるとは」ともあったが、その行為はどうなんだ?
その行為以前に、この記事の最初の掴みとして配置した108ページの大伸ばしの写真のように、野天風呂を完全に貸切状態で雑然としたというか私物化した状態はいかがなものか、と憤った。積雪期、直近では下の写真のように2年前の10年1月中旬に雪模様のなか登山の下山行程の道中に入浴しに行ったこともある、この風呂の愛好者のひとりとしては。

降雪がホントに多いときは自転車なんかでは到底入り込めない、雪山登山経験者が徒歩で膝ラッセル覚悟のうえで接近せざるを得ない状況のときもある野天風呂。まあそんなふうに、より面白い条件になるときもある風呂で、僕はその点も気に入っている。
この野天風呂、標高2150mにあって周りの景色は思いっきり野趣溢れる感じだが、一応はここから少し下ったところにある本沢温泉の管理下の整備された、600円の入浴料も支払うべき有料の外風呂で(でも記事中には料金の説明が抜けていたのも問題かなー。「ちなみに山小屋には内風呂もあるのでご安心を」という注釈はあったけど)、たとえ一時的に撮影のために貸切にできたとしても、ほかの来客の可能性を無視した私物化状態を見せつけるのはどうなんだろうね。
まあ場所が場所だけにそういうふうに羽目をはずしたい気分も、そこまで標高が上がると達成感からいくらか湧き上がるとは思うのでわからなくはないけど。でもべつにここは八ヶ岳の登山事情を知る者からすると“秘湯”でもなんでもない、(たしかに周りの景観はちょいと珍しい)特徴的な露天風呂ではあるが、そこまではずせるものなのか。
社会人としてふつうに考えても、ほかの入浴客が訪れる可能性もある公衆浴場で入浴時に飲み食いするものかねえ。それと同じことだ。まあ旅館などの貸切状態の内風呂で、絵に描いたような盆を浮かべて熱燗をおちょこでたしなむ程度の状況であればまだよいかもしれないが、谷側に開けた場所のここでコンロを持ち込んで調理までするとはやりすぎだよなあ。しかもそれを全国的な月刊の商業誌であからさまに見せるだなんて。僕だってやりたくてもさすがにそこまではやらないぞ。せいぜい缶ビールかワンカップをちびちび呑むくらいに留めておくし、いつでもほかの来客があってもよいように脱衣場所もいくらか整頓したうえで入るわよ。たとえオフレコの入浴であっても。
しかも僕の場合、大学時代のワンゲルの春山合宿登山中にここに初めて入浴したときに湯あたりした経験から、ここではそういう余計なことはやりたくなくて、できるだけ入浴にのみ集中したい、という思いもあるし。
また、この企画の訪問時間は不明だが、一応は12月といえども積雪期の登山をやる人が登山または下山途中に入浴しに来る可能性は(無雪期よりも確率はかなり低いだろうが)ゼロではなくてあるだろうし、もし登山者の立場からこの私物化状態の人々と出遭ってしまうと混浴するのはためらわれる。しかも単独で来た場合や女性連れ、女性グループならば尚更。もし寒いなかここ目当てで行動してきたのに、辿り着いたらこういう雑然とした状態に運悪く出くわしてしまって落胆し、あとから来た人のほうが気まずくなる、というのはちと辛い。
いくら雑誌用の誌面的に映えそうな決めポーズの撮影であっても、ここに行ったことのない人がこの写真を目にすると、12月に限らずいつでもこういうことをやってもよいのかー、と誤解を招きそうだよなあ。
この見せ方によって内輪で“秘湯”に行く愉しみを伝えたかったのかもしれないが、人によっては入浴マナーがなっていない(お気に入りの場所を汚された感覚で見ている)、気分を害する写真にも映る。ものを食べる、それに湯船まわりがごちゃごちゃしている写真とその占有感たっぷりの雰囲気が出ていなければそこそこ良い記事なのに、台無し。
しかも、この調理して食事もできてしまう状況が成立してしまった背景を考えると、12月中旬というと年によってはまだ積雪量は少なくて気温もそんなに下がっていない頃で(ここでマイナス10度以上であれば暖かいほうだ)、まあ撮影日の天気も吹雪というわけでもなくてそこそこ良かったのも幸いだったのか、それでMTBでも本沢温泉まで上れて(元々、無雪期は東麓の松原湖方面から途中までクルマで乗り入れできるくらい道幅は広くて勾配も緩い林道と登山道なので、MTBでも当然行きやすい)、しかも登山者数は1年の四季のなかでも比較的少ない時季のためにこういった撮影がやりやすい、というある意味中途半端に自転車乗りでも気候的にギリギリ難なく上れる頃合にタイミング良く(狙って?)行って、かつ辛うじて食事もできる気温と天候だったのがまた悩ましい。ここは降雪と風が強くてホントに寒いときは上半身裸で長時間のコンロの操作なんてやっている場合ではない場所だから。でもまあ湯船に肩まで浸かって温まって、出て、を繰り返しながらであればできそうか。
この写真、自転車専門誌だから許されるという判断なのかね。編集部の意向なのか鏑木氏の意向なのかはわからんけど。自分が浸かれる湯船を掘るためのシャベルなどの道具を携行して人跡まれな山中に分け入ったり、またはガスマスクが必要で生命の危機は自己責任でなんとか回避するくらい難易度が高いような秘湯中の秘湯にでも行かない限り、ある程度管理された風呂では節度を、意識するよなあ。
この記事の特に写真は、この野天風呂が大好きな登山者にはあまり見られたくないよなあ。まあ自転車専門誌だから自転車に興味のない人には目に付き難く、僕のような登山も自転車も両方かじる者の目にしか留まらないかもだけど。
と締めようと思ったがよく考えると、でもこの場合は一般的な入浴マナーの良し悪しとして、登山者や自転車乗りや露天風呂好きおよびマニア以外にもむしろより多くの人々に見てもらって判断を仰ぐほうがよいのかもしれない。
次号の発売まであと2週間は書店や大きめの図書館に並んでいるから、手にとって確認してみてはー。
なので、サイスポは新年早々に良識を欠いた粗相をやらかした感がある。前々から“カブ”こと鏑木氏の書く記事はおおむね好んで読んでいるし、たまに個人ブログのほうも拝読しているが、今回の記事に限ってはがっかりで、かなり株を落としそうな気がする。
サイスポ、ここ数年は「俺チャレ」企画や読者投稿、それに安東浩正氏をはじめ僕の知り合いもたまに登場するJACC(日本アドベンチャーサイクリストクラブ)関係者の活動もよく取り上げるくらいに同業他誌に比べて旅要素の強い自転車の楽しみ方を伝えているのは良い傾向だが、今回の記事はいただけないので今後の改善を期待したい。
※6日(月)の追記
若干、追記した。
また、ホントにそんなに寒くて雪の多いときに登山者が来るのかね? と疑問視する方のために、比較的手にとりやすい参考資料を挙げておく。
・新版 日本雪山登山ルート集
・アルペンガイド 八ヶ岳
もちろん、節度と、この時期の雪山登山の用意(知識・装備・同行できる経験者など)があれば、真冬でも積極的に楽しんでもよい風呂だと思う。
※24日(金)の追記
この投稿のURLを添えて、サイクルスポーツ編集部にいち読者の意見として一応送ってみると、先週に丁寧な回答をいただきました。お忙しいなか、回答ありがとうございました。
今後の編集に期待します。