29日(木・祝)、東京都の谷根千は不忍ブックストリートの一箱古本市に、4年連続で春に出店した。今回は29日と来月2日(日)の2日間開催で前半のほう。
05年から始まって今回で6年目に入ったこの催し、10回目という節目の開催となった。が、それはあまり気にしていなかったなあ。僕のなかではもう毎年この時期に「人力旅人の本箱」という屋号での出店が恒例行事というか年間予定の優先順位では特に上位のほうにあらかじめ組み込まれているもので。というくらいの意気込みでこの日に合わせて臨んでいる。
今回の出店場所、いわゆる「大家」さんはこれまで予告してきたとおりに文京区千駄木の古書店「古書ほうろう」(以下、「ほうろう」)で、2日間ともここで8箱ずつ出店することになっている。
で、10時に出店場所に集合して以降の当日の流れは例年とだいたい同じなので割愛する。その参考に、過去3回の出店の模様のリンクを張っておく。
07年4月29日(日・祝)、第4回は「コシヅカハム」で出店
08年5月3日(土・祝)、第6回は「根津教会」で出店(当初は「クラフト芳房」だったが、降雨が強まって場所を変更した)
09年5月4日(月・祝)、第8回は「ギャラリーKINGYO」で出店
ああ、よく考えたら昨日も含めて4回とも祝日の出店だったのね。今度の2日は日曜日だけど。
「ほうろう」のスタッフと助っ人のみなさん、お世話様でした。特に一箱古本市の古くからの実行委員のひとりでもある「ほうろう」の主の宮地健太郎さんには、ツイッターで事前事後も当日も少しずつ情報を流していただいたりもして、それによっても間接的にはかなり好影響があったはず。ありがとうございました。今後もひとりの客としてもお世話になります。それに、規模は大きくないもののいろいろ撮られていたドキュメンタリー映像? も日の目を見るのかどうかはわかりませんが、楽しみにします。
箱の準備は今月始めから少しずつ進めていて(それ以前の本の選定はほかのフリーマーケット等への出店対策と併せて半年以上前から続けていたけど)、過去3回の経験というか教訓が活きたのか本番直前に慌しくなるということはなかった。あとの心配ごとは当日の天気で、数日前からの天気予報では前日の雨が残るかも、という感じだったが、実際には11時の出店開始直後に数分間パラパラ降りはしたが箱の上からダンボールか何かかけて出品物を保護したり箱を「ほうろう」の店側へ大きく移動させるほどのものではなく、その後は逆に晴れてきて気温も上がって、16時の終了まで問題なく出店できた。ただ、全時間帯を通して風がやや強かったか。
で、僕の箱の売り上げの結果を先に挙げると、出店料と交通費の差し引きを除く5時間の販売で今回は8300円となった(終了後の集計で100円間違えました。実行委員の方、ごめんなさい)、またもや終了後の打ち上げの表彰でも箸にも棒にも引っかからない感じの小粒な結果となった。が、07年が7000円、08年が7500円、09年が2400円、という結果に比べると僕としては過去最高の出来であった。ただこれ、27日の予告にもあったとおりにミニコミ誌『野宿野郎』関連の委託販売も含めた値段で、それを切り離した僕の出品単体だと1900円引いて6500円となる。一応、出店料と交通費とともに仕入れ価格も差し引いても儲けは約1500円出ているので、まあいいか。
終了後の打ち上げによると、売り上げ金額上位では5万8000円超が2箱あったり、売り上げ点数で100冊以上が2箱あったが、毎年思うが上位のほうを見るときりがないので、あまりそちらと比較せずに自分の結果をきちんと見つめて反省すべきことはしてまた次回に活かすしかない。
でも今回は出品物の選定にかなり時間をかけて準備してきて例年になく力を入れてきたため(まあ主に東京都内と近郊のブックオフでのセドリのことだが)、それなりの効果が出たようで良かった、と自画自賛しているのだが。特に昨年が最悪の結果だったから。
ちなみに、今回の売り上げ点数2位100冊だったのが古書ほうろうの8箱出店のうちの「yom yom古書部」という(最近は村上春樹の『1Q84』の大ヒットで社内的にはイケイケドンドンでてんやわんやで絶好調なはずの)新潮社の文芸誌『yom yom』の編集の方々だっけか、の出店。でも実際には特別ゲストに本の評論・翻訳や2日に出店の豊由美氏と組んでの書評『文学賞メッタ斬り!』シリーズで知られる大森望氏を迎えて、氏の蔵書のうち300冊を持ち出して自ら販売して、後半は売り子に娘さんも動員しながらその3分の1の100冊を売り捌いていた。
ここでひとつ、知っている人は数人程度の小話というか声を大にして言っておきたいことを。「ほうろう」で11時の開始前に8箱の出店位置を決めるさいに店主たちがじゃんけんで勝った者の順で位置を獲っていったのだが、実はなぜか僕があれよあれよと最終的に勝ち上がってしまった。でも「ほうろう」の入口前の特にお客さんの目につきやすくて販売的には有利な好位置は譲って、(この店に行ったことのある方はわかると思うが)僕は上の写真のように奥の端のほうへあえて引っ込んだ。
これは、僕は特に荷物が多くて端のほうが整理しやすい、各時間帯のお客さんの増減も含めた「ほうろう」の出店の全体像を把握しやすい、ということもあるが、僕の箱の中身は過去3回の出店経験でどこの「大家」さんに行っても位置に関係なく売れる・売れないがはっきりしていて(「人力」の「旅」というこだわりによってお客さんの好みがはっきり分かれるというか)、だからどこに陣取っても売り上げにたいして影響はないだろうという予想も頭にあって、あえてその位置に決めたわけで。
つまり、「yom yom古書部」はおそらく8店のなかでも絶好の位置で、100冊を売った結果には僕も間接的に貢献? していて、僕にも少しは感謝してもらいたい気分。ホントはその位置に僕が最優先で入ることもできたのだから。
でも結局は、それでも僕も過去最高の売り上げを記録できて、ともに良い結果に終わったけどね。それにほかにも初出店の方もいたし、今回もお世話になった運営に携わる助っ人さんにも初参加の方もいたので、前方のほうがお客さんの目に留まる確率は高いのだから少しは周りに華を持たせようじゃあないか、それによって8箱全体の出店の雰囲気をいくらか良くすることにつながれば幸いじゃあないか、という意識も、出店経験者でこの古本市の1日の流れを少しは知っている者のひとりとしてあるにはあった。というやや嫌味に聞こえるかもしれない本心を、ここであえて出しちゃう。
自分のことに戻るが、そんなことも時折考えつつの出店で今回は55種類の本を売り出したが、実際に売れた本を売れた順に以下に挙げてみる。ただ、例年は本が売れた時間も付記しているが、今回は売る前後にお客さんと結構話をしてしまったり立て続けに会計が続くときもあったりで曖昧になったのでそこは割愛して、その代わりに僕が値付けした販売価格を初めて出してみる。誰かの今後の参考になるかどうかわからないけど。
1 青葉台駅チャリンコ2分 (鈴木カオリ、小学館) 500円
2 日本縦断徒歩の旅 (石川文洋、岩波新書) 300円
登山不適格者 (岩崎元郎、生活人新書) 200円
植村直己の冒険 (本多勝一、朝日文庫) 100円
沖縄人力紀行 (藤本亘、彩図社) 800円(※新古品)
3 風呂なし野郎 (風呂なし野郎編集部) 100円
4 野宿野郎缶バッジ ×2 300円
5 サバイバル! (服部文祥、ちくま新書) 350円
全ての装備を知恵に置き換えること (石川直樹、集英社文庫) 250円
6 絵ハガキ ×2 50円
7 山とお化けと自然界 (西丸震哉、中公文庫) 200円
8 沖縄人力紀行 (藤本亘、彩図社) 1000円(※新品)
9 野宿野郎7号 (野宿野郎編集部) 500円
10 野宿野郎5号 (野宿野郎編集部) 500円
11 東方見便録 (斉藤政喜・内澤旬子、小学館) 800円
12 日本一 温泉&アウトドア篇 (藤臣柊子、幻冬舎) 500円
野宿塊(人力旅人の館) 150円
13 ハイキングと立ち寄り温泉 関東周辺 (石丸哲也・三尾章子、山と溪谷社) 600円
自転車生活vol.4 (出版社) 100円
14 野宿野郎7号 (野宿野郎編集部) 500円
野宿塊(人力旅人の館) 150円
15 岳 第8集(石塚真一、小学館) 200円
16 野宿塊(人力旅人の館) 150円
どうっすか。「人力」らしいっすか。
数字が買ってくださった方の順番と人数。だから計16人か。特に5と13の方はお洒落な買い方ね。まあ13のほうは知り合いの若い女子なんだけど。
ちなみに拙著『沖縄人力紀行』は昨年から、新品1000円と新古品800円(一度は書店に出荷されたが返品されてきた、表紙カバーや小口などにやや傷が入っているもの)を分類して販売しているのだが、購入時に一応はお客さんにどちらが良いかを確認・選択してもらっている。
僕個人的には、拙著が2冊売れたのはもちろん嬉しいが(今年初)、自分が作った『野宿塊』が3冊売れたのも嬉しい。これの前作? の『野宿魂』ももちろん一緒に出品していたが、『野宿野郎』のかとうちあき編集長(仮)が作った後者は売れず(でも『風呂なし野郎』は久々に売れた)。この対照的な結果は、日頃の行ないと表紙の質の差によるものだろう。ああでも、後者も僕が書いたことをまとめたミニコミかぶれなので、両方ともより多く売れてほしいんだけど。そろそろ在庫が少なくなってきたので、たぶん来月中に増刷するかも。先日プリンタも新調したし。
元々は旅関連の本が僕の得意分野なので、それぞれの旅業界の価値や本の出版後の流通や減価償却? ぶりもだいたいわかるし、古書販売の値付けも各店を巡ってかなり研究して、拙著と新品で委託販売していた『野宿野郎』以外はいずれも適正価格で出したつもり。今回は事前にそれよりもサービスとして少し安めの価格設定にはしなかった。価格に関係なく売れるときは売れるし売れないときは売れない、と以前ある友人が言っていたことも一理あるなあ、と参考にしているため。
ちなみに上記のなかで『東方見便録』は、この催しの主宰で今回は“ミスター一箱古本市”と大書された黄色のタスキをかけて各「大家」さんに出没している南陀楼綾繁(以下、ナンダロウ)さんとともに当初からかかわっている、でも昨年あたりからブログや雑誌連載を拝読してもかなり忙しくなっていると見受けられる内澤旬子さんが取材同行とイラスト担当でかかわった本であることはこの界隈では周知のことで、毎回ご祝儀というか敬意を表してという意味合いでどこかからなんとか探し出して箱に必ず1冊入れているのだが(斉藤政喜=シェルパ斉藤さんが書いているので辛うじて「人力」に合致する内容でもある)、今回の出店では文春文庫版ではなくその元の小学館の単行本のほうを仕入れることができた(現在はほぼ絶版状態のこの仕入れ経路・価格は秘密)。文庫版では一部カットされている韓国の話も完全に収録されているやつ。これは、おそらく僕よりも若いと見られる女性にお買い上げいただいた。
一昨年あたりからか、出店者も助っ人さんもお客さんもどちらかと言うと女性のほうが多い印象は毎回あり(秋の開催も客のひとりとしてたまに覗きに行っても思う)、今回も僕の箱を覗いていった、そして実際に本を手に取ったのは女性のほうが多かったかも。
例年どおりに特に12~13時頃に暇な時間帯もあるにはあったが、でも「ほうろう」全体的にはお客さんが完全に途切れることはなかったかな。どこかしらに必ずお客さんがいたか。特に11時の開始直後のスタートダッシュは凄かったけど。まあ「ほうろう」の立地が不忍通りという人通りが多くて目立つ場所なのがまず幸いなことで、それがありがたかった。
まあ今回もお客さんと本を介しながら旅の話も少しはできて。誠に有意義な場であった。
箱を覗くのとともに積極的に本について話しかけてくださるのも女性のほうが多かったなあ。きれいなお姉さんから沖縄県にまだ旅行に行ったことないんだけど何を見ればいいの? と漠然と訊かれてどきどきしたり(ひとまず拙著を薦めた)、野宿の楽しいところは何? と訊かれて女性でもわかりやすい答えを出すのに苦慮したり(この問答は本来は『野宿野郎』編集部のほうでやるべきなのだが)、ということもあった。なかには、以前に登頂はできなかったが南米最高峰・アコンカグア(6960m)へ登山しに行ったことがある女性にも会い、僕よりも登山経験はかなりあるほうじゃあないか? といきなりその話を繰り出されて面食らったりもして(この方は話の流れで『野宿野郎』が気に入って、7号をお買い上げ)。まさか谷根千でそんな突っ込んだ登山話ができるなんて、とびっくりした。こういう偶然性もあるやりとりが直接できるから対面販売は楽しいのよね。
ああそれから、1、2人来ればましなほうかと思っていた知り合いも予想外に多く訪れて、実は売り上げ金額の約2割は友人知人による。上の写真も、直前に別の委託販売を頼まれた『野宿野郎』編集部の伝道師氏に撮ってもらった。これはべつにお客さんがずっといない開店休業状態が続いたわけではなくたまたま空いている瞬間の写真。
ちなみに『野宿野郎』は今回、編集部の怠慢により出店できなかった。来月23日(日)のこちらも10回目の節目となる蒲田での「文学フリマ」には出展するけど(僕は出展しない)。
ほかにも、試験的に今回初めて導入した条件付きの値引きについても触れようかと思ったが、マニアックだったのかほぼ失敗に終わったので(でも1人だけ適用できた)、伏せておく。今後またどこかの機会で場数を踏んで改良していくことにする。
とまあ、例年以上に準備期間を設けて意気込んで臨み、でも当日はガツガツと採算性は求めずにゆるゆると出店し、今回も楽しかった。終了後の打ち上げも“ミスター一箱古本市”を中心とした掛け合いは面白かったし、今後の参考になる話も聴けた。また新たな課題がいろいろ見付かってしまったが。
予定が微妙だった今後の黄金週間、昨日あたりでだいたい固まって、2日の出店は覗きに行けるようになったので、スタンプラリーをきっちりこなしたい。今年からそれを達成した人限定の景品が変更されたことも教わったし。
ただ、古本市も含めて全部で53本あるこれに関連のある「一箱古本市week」企画は今年はほとんど覗きに行けそうになく、行けて2、3本かなあ。3日(月・祝)にそのいち企画の「全国ブックイベントシンポジウム」を聴くために都内に出るが、それにかこつけて谷根千にも三度行けるかどうか。
2日に出店される方も助っ人さんも、本に浸りながら再びおおいに楽しめる1日になることを期待します。今回も出店して改めて思ったが、「『一箱の宇宙』で本と遊ぶ」という趣旨も含めてホントに面白い催しだもの。規模が年々大きくなりつつあって洗練もされてきて、ゆえに全国各地で広く真似されるようになって(ここ数年のその傾向はナンダロウさんの近著『一箱古本市の歩きかた』を読めばわかる)、そのぶん各種媒体で取り上げられる機会も増えてきたが(最近では28日付の東京新聞東京版と30日付の朝日新聞東京版)、今後も変わらぬ雰囲気のまま続けられるかな。
移動中に見かけた、今回の告知のポスターが黒色基調でカッコイイ。2日もありますんで、ぜひ。