行き詰まった在韓米軍負担問題、縮小・撤退の可能性も 日本にとっても試金石
Feb 1 2019
在韓米軍の駐留費負担を巡り、米韓同盟に亀裂が入っている。昨年末に期限切れとなった防衛費分担金協定の延長協議で、トランプ米大統領は、約2倍の負担増を韓国に要求。これに対し、韓国の文在寅(ムン・ジェイン)政権は「到底受け入れられない」と要求をはねつけ、交渉は暗礁に乗り上げている。トランプ大統領は、金額面で妥協する代わりに、在韓米軍を一部撤退させるのではないかという見方もあり、交渉の行方しだいでは、米韓同盟の根幹が揺らぐ事態にもなりかねない。2月下旬に2度目の米朝首脳会談が予定されているが、その前に交渉がまとまらなければ北朝鮮情勢にも悪影響を与えかねないと識者らは懸念している。
◆負担倍増か短期契約か、はたまた撤退か
韓国は昨年、20以上の拠点に展開する約2万8500人の在韓米軍に対し、約8億5500万ドルの駐留費を負担した。この分担金の協定は、5年周期で結ばれているが、米側が負担増を主張したため延長交渉がまとまらず、昨年末に失効した。新たな協定の交渉期限は4月15日だが、協議に詳しい韓国側の当局者によれば、それまでに合意に至る見込みは薄いという(ブルームバーグ)。
この問題を担当する韓国国会の外交・統一委員会の所属議員らがメディアに語ったところによれば、アメリカは当初、昨年の2倍近い16億ドルを要求。やがて12億ドルに下げられたが、これも韓国側に拒否されると、米側は金額をそれ以上下げるのなら、協定の有効期限を通常の5年から1年へ短縮すると提示してきたという。
さらには、在韓米軍の縮小・撤退をしばしば示唆しているトランプ大統領が、分担金交渉の不調をその口実にするのではないかという見方も広がっている。ワシントン・ポスト紙(WP)の報道によれば、韓国の議員や識者たちは、「トランプ氏は韓国の負担増に非常にこだわっている。もし、交渉がまとまらなければ、部隊の一部を撤退させるという、これまでには考えられなかった手段を取る可能性がある」と、懸念しているという。
一方、米下院で1月30日、在韓米軍の縮小を事実上禁止する法案が与野党の8人の議員によって提出され、トランプ大統領を牽制。米国内でも早くもつばぜり合いが始まっている。
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◆文政権は撤退を黙認か
北朝鮮との外交交渉が進むなかで景気低迷に苦しむ韓国にとっては、このタイミングでの負担増を受け入れるのは物理的にもかなり難しいだろう。韓国与党は、1兆ウォン(8億9000万ドル相当)が限度だとWPに語っている。加えて、文政権のメンバーの多くが学生運動出身の左派で、駐留米軍そのものに反発してきた過去があり、心情的な面でも負担増を受け入れるとは思えないという見方が強い。韓国の一般市民も「アメリカによるいじめ」には非常に敏感なため、文政権としても弱みを見せるわけにはいかないという内情もある。
とはいえ、文政権のほうから米軍の撤退を要求することは「絶対にない」と、韓国保守派の元安全保障アドバイザー、チョン・ヨンウォ氏はWPに語る。ただ、同氏は「しかし、トランプ大統領がこの問題によって撤退を決めれば、そうした決定を嘆く者は(文政権内には)いないと思う」とも述べている。つまり、米側から撤退の提案があれば、文政権ならば黙って受け入れる可能性があるということだ。
米タフツ大学の朝鮮半島情勢の専門家、ソン・ユンリ氏も、「文氏とそのアドバイザーたち、彼の支持基盤の国民は、公にはどう言おうと、米軍の縮小には無頓着だ」と、文政権は在韓米軍の縮小を厭わないことを示唆(『ザ・ヒル』)。また、同氏は、分担金交渉でトランプ大統領が侮辱的な発言をすれば、政権内や市民の間に大きな怒りと不快感が広がり、「中東以外ではまだ珍しい、大規模な反米デモのきっかけにもなりかねない」と警告する。
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◆日本との交渉にも直接的な影響
トランプ大統領が、韓国の負担増に強くこだわるのは、在外米軍の軍事費負担の「パラダイム・シフト」を目指しているからだと、米シンクタンク、国際戦略研究所のシニア・アドバイザー、ビクトリア・チャ氏は言う(WP)。「アメリカ・ファースト」を唱えるトランプ大統領は、費用面でも戦力面でも、中東、アジア、ヨーロッパの駐留米軍の順次縮小・撤退と、関係各国への負担増を求めている。そこには、当然、日本も含まれている。チャ氏は、トランプ大統領は「来年、日本とNATOと同様の交渉をするにあたって、韓国との間で前例を作ろうとしている」と見ている。つまり、韓国との分担金交渉は、日本を含む世界中の駐留米軍の費用負担の試金石となると、米側は捉えているようだ。そう考えれば、北朝鮮問題を抜きにしても、我々日本人としても決して無視できない問題だ。
一方、タフツ大学のソン氏は、『ザ・ヒル』に寄せたオピニオンで、仮に在韓米軍が撤退しても構わないという見解を示唆している。同氏は、「アメリカが同盟から離れるのも自由だし、同盟国を守る義務から解放されるのも自由だ。韓国から離れる選択をすれば、(米国の)安全は確保できるか? アメリカは、核武装した北朝鮮による解放戦争に確実に巻き込まれない選択をするか? そして、アメリカは、統一朝鮮との関係を修復できるか?」と問いかけ、その答えは、ベトナム戦争での米国の選択を先例として、「イエス、イエス、イエス、そしてイエスだ」と全肯定している。
ちなみに、ベトナム戦争では1973年にパリ協定(和平)が締結され、米軍は南ベトナムから撤退。その後、1975年に北ベトナムが当時の南ベトナムの首都サイゴンを陥落させ、共産主義国家としてベトナムを統一した。
増える韓国籍離脱者、10年で22万人超 兵役逃れの手段にも
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韓国では全ての成人男性に兵役義務が課せられ、18歳になると徴兵検査を受けなければならない。もちろん有名スポーツ選手やK-POPアイドルも徴兵対象だ。海外生まれでも両親が韓国人なら自動的に韓国籍となる。検査を受けて身体・精神に問題がなければ30歳になるまでに入隊する必要がある。このとき、特に人気の韓流スターが入隊する様子は日本でも大きく報じられる。
◆兵役義務は不評? 韓国人男性のホンネは……
しかし韓国男性の全員が徴兵制度を歓迎しているわけではない。朝鮮戦争後、韓国と北朝鮮が休戦状態にあるといっても60年以上経過しているのである。「なぜいまだに兵役義務があるのか」と疑問に思う韓国人男性も多い。実際、多くの韓国芸能人らは名も知れない大学に通うことで入隊時期をギリギリまで遅らせている。なかには、徴兵検査時に健康状態を不正に悪く見せ現役兵としての任務を逃れた芸能人もおり、韓国のテレビ番組で暴露された。高血圧を意図的に引き起こす薬を売る兵役回避専門のブローカーまでいるという。
また、兵役逃れのために韓国籍離脱を図る者も後を絶たない。海外生まれの韓国人(2世)は18歳になる前に国籍離脱申告を行うことで徴兵制の対象外となることができる。締め切りは今年の3月31日までなので、出生届を提出していなかった18歳未満の少年たちは離脱申告手続きに急いでいるという。
増える韓国籍離脱者、10年で22万人超 兵役逃れの手段にも
Jan 17 2018◆深刻化する韓国人による韓国離れ
このような背景もあってか韓国籍離脱者は増え続けている。韓国のIOM移民政策研究所によれば、韓国籍を離脱した人は過去10年間で22万人を突破。2016年は過去最高となる3万6404人におよんだ。新たな国籍取得先は米国が最も多く約9万5000人。次いで日本(約5万9000人)、カナダ(約3万3000人)が人気だという。一方、同期間で韓国籍を再取得した人は約2万3000人にとどまるため(韓国SNSニュースメディア『インサイト』、2017年11月7日)、少子高齢化が深刻化する韓国で今後も人口減少が進行する一因と考えられている。
このほか、国内出国者数も急増している。韓国経済新聞(電子版、12月24日)によれば、2016年に海外旅行などで韓国を出国した人の数は前年より400万人増加して2600万人を突破。韓国の人口が約5120万人なので総人口に占める出国者比率は50%を超える。同紙はこれを世界最高としている。
一部調査によれば成人男女10人のうち9人が「機会があれば韓国を去りたい」とまで考えていることが分かった(インサイト)。
深刻化している韓国人の韓国離れ。もちろん徴兵制度がその主因であるわけではないが、韓国社会が抱える課題の一因と見ることができるようだ。
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