和田浦海岸

家からは海は見えませんが、波が荒いときなどは、打ち寄せる波の音がきこえます。夏は潮風と蝉の声。

「あわれ」に対し「をかし」。

2020-09-29 | 本棚並べ
現代教養文庫の「要説日本文学史」(1977年)は、
伊藤正雄・足立巻一著とあります。

ひらけば、枕草子をとりあげた箇所が、短いながら、
印象深いのでした。

「わが国随筆の祖『枕草子』」と指摘されております。
はい。短い2頁ほどの文をさらに短く引用します。

「枕草子は約300段に分かれ、日常の見聞や随時の感想を
雑然と記したものである。作者は、気を負い才に誇る勝気の女性であった。
同性の儕輩(せいはい)について語ることきわめてまれで、
凡庸の男性もこれを揶揄して憚らなかった。
堂々たる男子をして後(しり)へに瞠若(どうじゃく)たらしめるところ、
本書はあたかも作者の自讃録(じさんろく)たる観さえある。

本書の生命は、
犀利な観察と、鋭敏な感覚と、縦横の機知とに存する。
四季自然の描写のごとき、いかにも着眼が清新で、
微妙な詩趣を随所に捉えている。
人事に対する観察もまた奇警で、事件を長編の物語に
構成するような組織的手腕には欠けていたが、
刹那の印象を把握する感覚と機知の閃きとにおいては、
まれにみる天才であった。

『何々なるもの』という「ものは尽し」の段のごときは、
最も作者の素質を発揮した独擅場(どくせんじょう)であろう。

その文章は、よく漢文の特徴を咀嚼して、
完結奇勁(きけい)、長短錯落、変化の妙を備えて、
悠長な宮廷女流文学中に大きな異彩を放っている。

源氏物語に『あわれ』の語の多いに対し、
枕草子に『をかし』の語が多いのも、両者の特質をよく示すものである。
かれが人情の上より美を創造したのに対し、
これは感覚の上より美を発見したものともいえよう。

枕草子の後世文芸への影響は、源氏物語ほど大きくはないが、
『徒然草』以下の随筆を起こし、江戸時代の俳文などにも
少なからぬ関連をもっている。・・・・」(p66~67)

『よく漢文の特徴を咀嚼して』と本文にありますが、
その枕草子の魅力を語るに際して、難しい漢字をもってきて、
人間関係の微妙な深みを、簡略自在に示す手腕。
現在では望むこともできない文学史となっておりました。
読めてよかった。2頁で枕草子をまとめておられました。
そのあとに、例文として『憎きもの(24段)』と
『香炉峰(かうろほう)の雪(354段)』とを引用されて満足。

うん。これを読まなければ損するところでした。

コメント
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