フライボール・レボリューション

2017年08月12日 | 井戸端会議
【フライボール・レボリューションとは?】
MLBでは最近、打法に変化があり「フライボール・レボリューション」論争が沸き上がってる。
一般的に野球経験者であれば少なからずダウンスイングでボールを捉え、ピッチャー返し、センター返しをするように指導されたはず。
この打撃理論が長らく主流であった。
バッターが球を打つときに上から叩きつけろ言われてきましたが、讀賣の坂本選手がスポーツ番組で、「WBCのメンバーで上から叩いているメンバーは1人もいなかった。みんな、下からすくい上げるイメージで打ってるんだ」と発言してからその定義が広まっている。 
今年のMLBではホームランがとても多く、7月時点で史上2位のペースで量産されているのだとか。
その理由はバッターの意識が「とにかくフライを打ち上げろ」という意識に変わってきたんです。今までは「センター前にライナーを打ちなさい」というのが正しいバッティングだとされてたんですけど、今はもう「フライを打ち上げればホームランになる可能性があるから、どんどん打ち上げろ」という感じなってきたんです。これが革命…゛フライボール・レボリューション゛とのこと。

『フライ増加という“突然変異”』

1415試合で3559本塁打。今年のMLBの本塁打ペースは1試合あたり両軍合わせて2.52本で、歴史的な多さとなっている。ニューヨーク・ヤンキースに所属する田中将大も19試合の先発で被本塁打24を記録しており、後半戦に差し掛かった段階でキャリアワーストに近い数字だ。この全体的な本塁打増については、公式球が変わったと証言する投手も多いが、打者がフライを打つ意識を高めていることも一因とされており、現地では“フライボールレボリューション”と表現されている。

MLBのトレンド゛゛フライボール・レボリューション゛を知ってか知らずか、NPBでも今年からフライ打球を大幅に増やした選手がいる。

『フライボールヒッター、アレックス・ゲレーロの場合』
※本日8回裏、ゲレーロ29号HRインパクトの瞬間。
やはり、アウトローでした!



セ・リーグ、ホームランダービーのトップを快走するゲレーロは、典型的なフライボールヒッターだ。ゲレーロの打球がフライ性の打球となる割合は63.5%で、これはここ5年の規定打席到達者の中で最も高い数字となっているそうだ。長打を打つためにはフライの打球を数多く打つのが合理的であるという発想から、主にMLBでフライ指向の打者が増加傾向にある。ゲレーロもまたこの“革命”のサンプルとして格好の存在といえる。

フライ割合の高さだけではなく、ゲレーロのバッティングにはもうひとつ大きな特徴がある。とにかく、低めに強い。
低めの本塁打は17本で、その割合は63.0%。リーグ平均は30.0%とその半分ほどだから、ゲレーロの本塁打傾向はかなり特殊であること分かる。
この゛フライボールレボリューション゛が時間をかけて球界に浸透していくと、若い世代を中心にアッパースイングでフライを狙う打者が増えることも考えられる。投手が高め・近めに強いボールを投げ込む配球は、アッパースイング指向の打者に対して一定の効果を上げると考えられる。一方でこれらのコースを正確に突くのは難しく、抜けて死球、引っ掛けて甘いコースへ失投のリスクもある。事実、ゲレーロはここまで両リーグ最多の12死球を受けている“被害者”でもある。直近では7/26のヤクルト戦で右手に死球を当てられ、翌日の試合で欠場を余儀なくされている。低めへの投球はピッチングの基本とされているが、ゲレーロに対してそのまま実践すると強烈なアッパースイングの餌食となってしまう可能性がある。

『フライボールヒッター、柳田悠岐の場合』



日本人選手では、ソフトバンク・柳田悠岐だ。上のグラフは柳田のフライ割合の推移を示したもので、今季は昨季までとは別人のようにフライ打球が増えている。
その増加は5月から顕著になっていた。柳田は今季からソフトバンクに復帰した川崎宗則にスイングのアドバイスを求めたという報道もあったが、川崎が一軍に合流したのが4月28日のこと。柳田のフライ増加と川崎の一軍合流の時期に、符合が見られるのは興味深い。
川崎からMLBの練習法を教わったそうで、そこで「ゴロではなく、フライを打て」というアドバイスを受けたらしく、実践したことで今季はフライが増えて既に23本塁打を打っている。
ここまで柳田のフライ打球増加について紹介してきたが、これは柳田の成績にも影響している。オールスター戦の中継では「ゴロを打たずフライを打つようにしたら、ホームランが増えました」と本人が語ったように、ホームランのペースは34本塁打を記録した15年を上回るものだ。

もちろん選手の全員が柳田ほどのパワーを持っているわけではないが、どのようなバッターでも長打の可能性が低いゴロを最初から狙うのはもったいない。ゴロを打つように、という教えがいまだ根強い日本球界にあって、異なる発想でバッティングに取り組むのも1つの手法だろう。
最後に、NPB通算404本塁打を誇る中村紀洋氏を非常勤コーチに迎えた浜松開誠館高校では、同氏が「フライを狙え」と指導しチーム本塁打が倍増したそうだ。一部では長打を意識したスイングを志向する指導者も増えてきている。日本球界にも“フライボールレボリューション”の波が迫りつつあるのかもしれない。