ドラクエ9☆天使ツアーズ

■DQ9ファンブログ■
オリジナルストーリー4コマ漫画を中心に更新中
時々ドラクエ風味ほかゲームプレイ漫画とかとか

若気の至り

2016年11月29日 | ■うのじごと■

ことわりもなくいきなり更新ストップしてて申し訳ございませんでした

気が付いたらもう12月が目前!!(いやーホラー!!)

なんとか明るく笑って年を越したい!の一心でブログの更新に逃避したい今日この頃でございます

 

そんなこんなで更新再開

画像は、このブログを開始して1年~?くらいの頃のアナログ落書きです

ミカのお貴族さま設定を考えて残していたものが3枚あったので復活の足掛かりにさらりと上げてみます

ミカ母がまだ狂暴だったころの落書きですね(顔もミカまんまだし)

一応、これ舞踏会真っ只中の4コマなんですけども(無茶いいやがるぜ)

 

この頃はまだドラクエ9のゲームをそれなりにやってた頃なので(おそらく)脳内設定もゲーム寄りです

ミカが家に友達連れて帰る→母に叱られる→舞踏会でお披露目する→踊らんかい!!

っていう流れを描きたいわあ、って思ったら素直に描く!!

そこに至るまでの流れとかガン無視!

その日の夜に唐突に舞踏会が始まり、冒険者がなんの苦労もなく舞踏会に出席しちゃうこれぞゲーム脳!!

(なんかRPGってちゃらら~んって場面暗転して舞踏会が始まるじゃない?)

 

 

しかしもうドラクエ9のゲーム内容もほぼ脳内から消去されてしまっている今では

舞踏会を開く為だけに延々と理由を探し、状況を整え、設定を盛りに盛って1年かかってやっと書き上げる現実脳ですよ

ゲーム脳もすっかり現実に侵食されちゃって、そもそも舞踏会とかがおかしいだろ!!って夜会になっちゃう程ですよ

ミカは宮廷式ダンスを踊れる、のは良いとして、ちょっと付き合え、でミオを引っ張り出して踊る辺り

どんだけゲーム脳だよ!!

と大絶叫かましたい私だよ

 

 

 

まあそんな感じで、ゲーム脳が9割、とかだった若気の至り気味な落書きは「ミカの里帰り編」をもって世に出し切りました

鉛筆で紙に書いたネタはこれで全部です!もう処分してもいいのです!嗚呼やっと捨てられる(涙)

とはいえ脳内ノートに書きためてあるネタはまだもうちょっとあるんですが、それは後日、真剣に吟味するとして

落書き2枚目

 

1枚目はまだいいですよ

 (あれでも一応ネタとして完成しているので)

これどーすんだよ!?って感じの落書きも結構あって、それはそれで実際ブログ用に描くときに、オチを変えたり

ツッコミのキャラを変えたり構成をしなおしたりして何とか使い切ってきましたが

大体セリフが長いので手書きで書くの面倒だったんでしょうね…(3コマ目のウイには、ねーじゃねーよ!とツッコミたい)

あとオチもいまいち思いつかなかったんでしょうね、っていう扱いに困った2枚目

多分、「ダンスとして楽しいのはフォークダンスとかリンボーダンスとかあの辺だよな」っていう二人の意見の一致

からの

1、フォークダンスだのリンボーダンスだので会場を沸かせる

2、のは妄想だけにして、ミカが怒られそうだから俺たちはケーキバイキングでも楽しもうぜ

っていう流れにしたかったんだと思うんですが、なにせ絵が描けない(ダンスシーンとか拷問)なのが如何ともしがたい、ってやつです

ミカとミオが躍ってるのを見てる(設定の)ヒロが「宮廷式はあんなもんだよ」って言ってるのもなんかこう…

ああもうなんかいろいろこう…

 

 

で、大問題の落書き3枚目

ミカが…ミカのキャラが…

初期設定すぎて使うに使えなかった問題の1枚

舞踏会を終えてミカが家を出るのを、見送りしてくれてるキャラはミカのお爺ちゃんです

ミカはお爺ちゃん子、っていうのはまあいいとして

じじいとか呼んでるあたりなんかこう…

庶民になじむ為を通り越して、元々すんごいやさぐれてるキャラだったのが、今や

「御爺様にご心労をおかけするなよ」とか言っちゃうキャラになってますからね

宇宙人に脳内改造でもされたんかよ、ってレベルでね…ホラーですわホラー…

 

そんなこんなです、な落書き3点セットをお披露目したところであれです


書き残してるのは、お爺ちゃんのSSのみ、なんですが

明日明後日しあさってがまた忙しいので、ちょっと間が開くと思いますが…

ちょっとっていうか、うん、がんばろうと思います

 

 

 

 

 

 

毎年なんで年末は忙しいの?それはね、年末だからだよ?

にほんブログ村 イラストブログ ゲームファンアートへ

にほんブログ村


マリスの誓い

2016年11月19日 | ツアーズ SS

侯爵家のとある姫君の傍仕えとなったマリスは、上の姉二人を差し置いてどうして自分が選ばれたのか、不思議に思っていた。

侯爵家の姫君、アステが、王立の寄宿学校へ入学するのを機に傍仕えが必要になったからだが。

「あなたが可愛らしかったからだわ」

とアステは言った。

アステの傍に仕え、一緒に寄宿学校へと入学する。宿舎の部屋も一緒、授業も一緒、朝から晩まで生活を共にする。

私より一つ下なのね、父上様や母上様と離れるのは寂しいでしょうけれど、私がついているから心配しなくていいわ、と言われ。

それでは立場が逆だわ、と思ったけれど、入学までの1週間、アステは本当にマリスを可愛がってくれた。

私のお気に入りなの、と言って見せてくれた人形を大切そうに撫で、ねえあなたに似てるでしょう?と笑う。

兄からの誕生日の贈り物で、とても大切にしているのだというそれは、確かに愛らしい。

その人形を学校へ持っていくことはできないから、あなたを選んだのよ、と言われることも嫌ではなかった。

正直、マリスは、自分とその人形が似ているとはあまり思わなかったが、アステがそう思ってるならそれでいい。

それで自分が選ばれたのだから、それでいいのだ。

 

 

 


そうしてアステと共に入学し、そこで学ぶ日々はあっという間に過ぎた。

学校の教師や世話係の大人たち以外は子供ばかりの世界で、家にいるよりずっと自由だわ、とマリスは学校生活を気に入っていたが。

アステは、周囲の学友と仲良くすることを嫌がっている様だった。

レネーゼ侯爵家の、というと誰もが必ず、アステの兄の話を持ち掛けてきた。

教師たちはアステの兄が如何に成績優秀であったか、世話係たちは彼がいかに品行方正であったかを、自慢げに語る。

学友たちは、自分の兄や姉から聞いた様々な話をして、アステにそれは本当かどうかを訊ねてくる。

その度にアステは窮屈な思いをしているように見えたのだ。

大人たちには「兄上様が優秀なのは当然ですわ」と言い、学友たちには「そんな噂話なんかより兄上様は素晴らしいですわ」と言う。

そう誇らしそうにしていながらも、アステから兄上様の話をすることはなかった。

共に生活をしていればマリスにも解ってくる。アステは、兄と過ごした事は、ほとんどないのではないか。

学友たちに自慢げに語れるような出来事も、教師たちに卒業後の様子を知らせられるような関わりも、持っていないのだ。

だがアステはそれを認めない。

そのうち、アステは気位が高い、と周囲からはやや距離を置かれるようになったけれど、マリスにはどうすることもできない。

学友と仲を取り持とうとしても、「マリスがいるから良いわ」と言う。

そんな学校生活を送る中で、この事件は起きたのだ。

 

 

 

侯爵家で開かれる夜会で兄がお披露目をする、という噂を学友から漏らされたアステが、強引に休学届を出して家に戻った。

そのことでマリスは、「なぜ止めなかったのか」と奥女中頭の婆や様に叱られている。

なぜと言いつつ、なぜなのかは聞いてくれないようだ。

「姫様の事を思うのであれば、まずお前が真っ先に止めなくてはなりませんでした」

「でも、えっと、ばあや様」

「私の事はエディエラと呼びなさい」

「はい、エディエラ様、でも、姫様はとてもお辛かったのだと思うんです」

「お辛いお気持ちを優先するのではなく、まず慰め、それからお諫めすることがお前の役目ですよ」

姫様が一時の感情で家に戻り、現在、母上様に厳しくお叱りを受けている事の方がお辛いと考えなくては、と言われて、そうかしら、と思う。

姫様は母上様に叱られる事よりも、兄上様に会えたことの方が嬉しいのではないだろうか。

「そもそも夜会はこれ一度きりというわけではありませんでした」

これから先も幾度と開かれ、その度若様もこちらへ戻られる。これが生涯ただ一度というものではない。それも解っているマリスだが。

「それなのに一時の感情で、早まり、駆け付けた事で、生涯を台無しにするような事件が姫様に降りかかっていたらどうするつもりだったのです」

「でもばあや様」

「エディエラです」

「はい、そうでした。エディエラ様、事件は起きなかったのだから、兄上様に会えたことの方が大事だと思います」

「わたくしは結果を論じたいのではありませんよ、マリス」

「でも、ば、エディエラ様、私は結果を見た方がいいと思うんです」

「ああ、マリス…」

「あ、あのぅ、ばあや様?」

「エディエラです!」

「い、いえ、マリスではなく、…あの若様がいらしておりまして…、マリスを借りたいということなのですが」

「なんですって?」

二人の間に割り込んできた女中の言葉に、マリスとエディエラは同時にそちらを見た。

女中の背後、部屋の入り口ではアステの兄、ミカヅキが立っている。全員の視線を受けて、美しい一礼を見せた。

エディエラは立ち上がり、そちらへと近づいていく。

「お話し中、申し訳ありません。エディエラ様の大切なお説教であることは承知しているのですが」

失礼は承知だが、マリスに大事な用がある、外で仲間を待たせている関係上ここは自分に譲ってもらえないだろうか、

と言うようなことを話しているようだ。

「坊ちゃまのお言葉ならようございます。私はここで控えておりますので、どうぞ中へ」

「有難うございますエディエラ様」

「婆やでようございます、坊ちゃま」

「ありがとう婆や様」

「このような所まで自ら足を運ばずとも誰ぞにご命令なさいまし」

「解りました、次から気を付けます。…誰か、婆やに椅子を」

「はい」

慌ただしく人が動くのを気にもせず、ミカヅキがマリスの傍まで歩いてくる。

わーすごい、やっぱりアステの兄上様ってすっごく偉い人なんだわー。婆や様も兄上様には逆らえないんだわー。

マリスはそんな呑気なことを思いながら、その場に立ったままミカヅキの動きを目で追う。

ペンと紙を、と部屋係に言いつけ、小机に着く。用意されたそれを受け取り、椅子に掛ける。

何という事もない動作だけれど、すごく綺麗だなと思う。教師の誰もが褒めたたえる彼の所作は、こういう事かと思い、

それを自慢するアステの心を思う。

姫様は兄上様のお姿を見て、でも見るだけで、それで終わってしまうんだわ。

だから、兄上差はお美しくて素晴らしくて素敵ですのよ、と言う以外の言葉をもたないのだ。

その膝に座ったり、一緒に字の練習をしたり、そういった誰もが知らないが故に聞きたがる「アステの兄様」の話ができないのだ。

「ばあや様のお説教を中断させてしまって、すまないがマリス」

お前にこれを渡しておこうと思って、と言ったミカヅキが、マリスを見ている。

どういえばこの気持ちを解って貰えるだろう。学校にいるアステの気持ちを、ばあや様にも兄上様にも、解って欲しいだけなのに。

「マリス?聞いているか」

「あ、はいっ、聞いてます」

「こちらへ来い」

見れば、ミカヅキがたった今字を書いた用紙をマリスに差し出している。

慌ててマリスはミカヅキの傍まで近寄り、それを受け取った。

「えっと、これ」

「俺は屋敷を空けていることが多い」

そこにかかれていたのは、とある住所と、宿の名前。

「そこを連絡手段の一つにしている。それを、お前に教えておこう」

「私に?」

「いいか、もう二度と、こんなことをするな」

ああ、またお説教をされるのか。

やっていけない事は解った。誰もがあんなに怒るんだから、アステもマリスも、相当な失敗をしてしまったのだろう。

だけど、やってしまった事だ。済んだことなんだから、どうしてそれをしてしまったのか、解って欲しい。

そうでないとアステが可哀想だ。

「あの」

「これからは休学届を出す前に、まずは俺に手紙で知らせろ」

そう言われて、マリスは驚く。これがお説教ではない事、何より、あの兄上様がマリスに指示をくれているという事。

「手紙、を、…私が姫様の兄上様に手紙を書いていいんですか?読んでくれるんですか?」

「当然だ。これはお前の役目として任せるんだ。傍についているお前が、アステは冷静じゃないと思ったら」

まずお前が手紙で知らせてこい、と言った。

それを両手に預かって、ミカヅキを見る。

「手紙で済むことなら、俺から返事を出す。済まないようなら、会いに行く」

「えっ」

「だからって、気軽に呼び出すなよ。俺も忙しい。いつも国にいるわけじゃないから、即座に対応はできないかもしれないが」

そうする事でアステが落ち着くだろう、と言われて、マリスは言葉に詰まる。

マリスが、アステを止められなかった事を解ってくれているような気がした。

だから言った。

「あの、お願いきいてもらえませんか」

マリス!と、女中の誰かが窘める声。若様のお時間を取らせてはいけません、というそちらの方へ目をやって、大丈夫だ、と言ったミカヅキが 

「なんだ、言ってみろ」と、マリスの言葉を促す。言葉を、勇気を、促されてマリスは一息に告げた。

「姫様にお手紙を書いてあげて欲しいんです!」

その声に、部屋は一瞬、静まり返った。

目の前のミカヅキも、意外そうに戸惑い、それから口を開く。

「手紙?アステにか?何のために?」

「ええっと、次は夜会でこんな事をする、とか、今はどんな所を旅してるか、とか、そういうお手紙です」

ミカヅキは、マリスの言う事を「子供のわがままだ」と退けずに、ちゃんと聞いてくれているのが解ったから、その後に続く言葉は止まらなかった。

「姫様は、ずっと我慢していらっしゃるけど、ご学友の方々の方が兄上様の事に詳しいんです!アステ様の知らない兄上様の話を、ご学友の方がするんですよ」

そんなのオカシイ。そんなのヒドイ。そんなの。

「姫様は、お辛いだろう、って思って私」

「アステがそう言ったか?」

「言わないです、でも!」

「そうか」

いつの間にか背後にいた女性が逸るマリスの言葉を抑えるように、そっと肩に手を置く。ミカヅキが少し、考えるような間があった。

「俺が手紙で状況を知らせてやれば、その問題は解消されるんだな?」

「あ、はい!」

「解った。 ではそうしよう」 

「いいんですか?」

「それでお前たちが学業に専念できるならな」

すごい。すごいすごい。姫様の為に言った事を、こんなに簡単にかなえてもらえるなんて。

アステとの事があったから、ミカヅキは自分たちの事など一切気に掛けない人なのだと思っていたけれど、考えていた人と全然違う。

じゃあもう一ついいですか、と言う声に、再び周囲からマリスを窘める声があったが、構わなかった。

「これ、姫様に渡してあげていいですか?」

これ、と、ミカヅキに手渡された用紙を見せる。

「それは、俺がお前に役目として預けたものだが?」

「はい、解ります。だからお聞きしました。住所も宿の名前もちゃんと書き写して控えます。お役目も果たします」

ただこれは兄上様が書いてくれたものだから姫様に渡したいのだ、と言うと、解った、と言ったミカヅキが机に向かう。

同じようにアステにも書いておくから渡してやってくれ、と言われる。

ペンをとり、綺麗な模様の入った用紙に、さらさらと音を立てて書かれる字を見ながら、感動する。

わーすごいなんでも言ってみるものだわ、と思っていると、字を書きながら、ミカヅキが笑った。

「しかし、お前はなかなか度胸があるな」

「え?」

「この俺に説教する奴はそういないぞ」

「ええ?」

説教?自分が?姫様の兄上様に説教をしたつもりなんて、どこにもないけれど。

どうしてだろう?どこがだろう?

「婆や様の諭しにあれだけ抵抗するところも中々の見ものだったしな」

「ええっと、あれは」

「わ、若様…」

周囲の女性が慌てて傍により、後で言って聞かせますので、と言う事に、ミカヅキは顔を上げた。

「いや、マリスにはマリスの義があるんだろう。俺はそれを好ましいと思っている」

義?と思っていると、だがな、とミカヅキはペンを置いてマリスへと向き直る。

「婆や様に話を聞いてもらいたい時は、でも、じゃなく、では、だ」

「では?」

「では、私はこのように考えていたのですがいかがでしょうか、と教えを乞う事だな」

「教えを」

「納得できるまで話がしたいなら、それを示せば良い。婆やなら必ず応えて下さる」

母上や俺を育てて下さった方だ、お前たちにも必ず良くして下さる、とミカヅキが言う事に、部屋の向こうに控えているエディエラを見る。

エディエラはマリスの視線を感じていないように、あらぬ方向を見ていたが。

これで良いか、と言われて向き直ったマリスはミカヅキが差し出している用紙を受け取った。

「有難うございます!」

兄上様が書いてくれたものだ。姫様はきっと喜ぶ。そう思っただけで嬉しくなるマリスに、ミカヅキがほほ笑んだ。

「礼を言うのは、俺の方だな」

「え?」

「お前が言ってくれた事で、初めてアステにしてやらないといけない事があると解る」

ミカヅキの言うその意味が良く解らなかったが、「これからも妹を頼む」と言われて、勿論だ、と思った。

「はい!」

ミカヅキが立ち上がる。それを目で追っていると、ミカヅキの手がマリスの肩に置かれた。

「お前の役目は厳しいものだ。主の人生と、自分の人生、二つの責を背負っているようなものだろう」

「え?」

「まだ幼いお前には厳しいだろうが、時にはアステの心情を裏切ってでも正しい選択を迫られる、それは不条理な事もあるだろう」

だがそれこそがマリスが選ばれた証だ、とミカヅキは言った。

私が、選ばれた理由。

あなたが可愛らしいかったから、と言ったアステの顔が浮かぶ。

「今日、お前と話してみて解った。アステの為に尽くしてくれようとするそれは、十分だ」

アステの為になるように動いてくれるマリスだからこそ、それを取りあげたくはない。

マリスの行動一つが、侯爵家にとって害悪になると判断されれば、大人はそれを排除しなくてはならなくなる。

「俺はそれを大人の手で行われる事に納得が出来なかったから、自ら従者を排除した」

いつの間にか部屋が静まり返っている。

「アステも同じように考えるかどうかは解らない。だがお前の失態一つで、お前はアステの従者でいられなくなる事があるという事を」

覚えておくように、と言われて、マリスも言葉を失った。

そんなことを考えたことはなかった。

アステの侍女候補として選ばれた以上、ずっと先の未来まで、アステと一緒にいるものだと思っていた自分に気が付く。

「私のせいで?」

「うん、だが俺はアステにはマリスが必要だと思った。だから俺が出来る限り力になる」

「兄上様」

「お前がまだ幼く力が及ばない部分は俺に頼って良い」

お前たちを守ってやると約束しよう、と言ったミカヅキは、厳しい言葉を全て払拭するように優しい笑顔を見せた。

「それが、お前がマリスに尽くしてくれていることへの礼だ」

どんな時もそれを忘れるな、と言ったミカヅキに頷いた。

「もうお願い事はないか?ないなら行くぞ」

と言われて、マリスは慌ててかしこまった。

「はい、ないです。有難うございました、兄上様」

「おい俺はお前の兄上様じゃないからな」

「あ、はい、ごめ…、じゃなくて、スミマセン」

「申し訳ございません若様、だな」

「申し訳ございません、若様」

「うん、励めよ」

その言葉を最後に、ミカヅキがマリスから離れていく。

それを見送る視界の中で、女中たちに何か指示をし、立ち上がってミカヅキを見送るエディエラに挨拶をして。

ミカヅキは、部屋から出ていった。

なんだか信じられない。

守ってくれると言ったのだ。頼れと、言い、励めよと言われる事の意味。

手の中にある二枚の用紙、それは両手で持てるほどの重さではないものを含んでいる。

「若様のお言葉は、解りましたか」

と、エディエラがマリスの傍まで戻ってきて言う。

「はい、解りました」

「そうですか。では、お前も姫様の所へお戻りなさい」

「え?ばあや、…エディエラ様のお話はまだ」

「若様のお言葉以上に私から言う事はありません」

その代わり若様のお心をしっかりと胸に刻みなさい、と言われて、そうかこの二枚の紙は兄上様のお心なんだわ、と思う。

「はい、あの、姫様をお止めできなくて申し訳ございませんでした」

だからこれからも姫様のおそばにいさせてください、と頭を下げて、部屋を下がるマリスに、エディエラが声をかける。

「私の事は、ばあやで結構です」

「ええ?」

「お前はどうもまだ公私をうまく切り替えられないようなので、ここにいる間は私がしつけます。良いですね」

母上と俺を育ってくださった方だ、と言ったミカヅキの言葉。

そしてアステから聞かされていた「ばあや」の話。

そして目の前にいるエディエラの、老いてなお美しい佇まい。

「はい、どうかよろしくお願いいたします、ばあや様」

マリスはできるだけ学校で習った美しい最敬礼になるように、丁寧に頭を下げた。

宜しい、というエディエラの言葉に、体を起こす。

「早く姫様にそれをお渡しして差し上げなさい」

「はい!」

言われて、もう何も考えずに回れ右、ドアに向かって一直線に走る。

「これ!駆けるとは何事ですマリス!ああ、もう…」

ドアを開けて、廊下に飛び出した背にばあやの声は届かず。

マリスは、アステの待つ部屋を目指す。

ミカヅキの心を届けるために。

 

 

 

 

 

 

 



にほんブログ村 イラストブログ ゲームファンアートへ

 


宴の後先

2016年11月15日 | ツアーズ SS

敷地のそこここで大がかりな宴が催されている最中に、その開催主の跡取りである若君がその中心を離れ、

人気のない庭の片隅にある護衛管理室で人目を忍んでいると発覚すれば、それを許している自分たちの処分は相当なものだろうな、と思う。

しかし、簡素なテーブルにつき、簡素な食器でためらいもなく出された茶を口にする、その姿を見ていれば、自分たちの処分がどれほどのものか、とも思うジュードだ。

「お口にあいますかどうか」

などと今更なセリフと共に差し出された熱い茶を口にして、「渋い、なんだこれは」と驚いている若君の傍についている若い護衛の二人がこちらを見る。

それを離れた所から(外の様子を警戒して入り口で)見守っていたジュードは、若君をどこにでもいる少年のように捉えていた。

「酔い覚ましですよ、我らは二日酔い防止に良く飲みますので」

と言った後に、ああ、と続ける。

「大丈夫、侯爵家の薬室から頂いているれっきとした薬湯です」

「そうか」

年配の御仁から宴のご酒に付き合い、酔いが回って自身を保てなくなっても、それを周囲に漏らすこともできない。

そんな教育を受け入れ実践するだけの人生はさぞや窮屈だろうな、と同情してしまっている自分がいるが、それも今夜の若君の変則な行動があってこそ。

強い酒に飲まれて、多少、自分を見失っているのだろうと考えれば、自分たち護衛が処分を受けるのと引き換えにしても、庇護してやらねば、と思う年齢だ。

まだ16,7の少年は、冷えた体を温めるために、酔いを醒ますために、顔をしかめて薬湯を飲む。

「苦行だ、お前らも付き合え」などと言っては、若い二人にも同様の茶を飲ませている様は、お坊ちゃまらしい傲岸さだが、憎めない。

ここに来るまでの道でのやり取りの為か。

「今日は、かなりご酒を過ごされたんですね」

というジュードの言葉に、いや、と一向に減らない薬湯をにらみながら、ミカヅキは思い返すように少し黙り込み。

「量で言えばそうでもないな。大体どれくらいの量で、どんな風に体が変調するかは訓練されているから、普段なら管理できるんだが」

最後に口にしたあれがきつかったな、と独り言のようにつぶやく。

その言葉には黙り込むしかない。

訓練か。この方にとっては、宴の華やかな酒席も、自分たちのような享楽的な酒盛りとはわけが違うのだ。

それは、若い二人にも同じ思いを抱かせたのだろう。率先して薬湯を用意したウォルターが、同情的にミカヅキを見る。

「いやあ、若様の宴って、大変なんですねえ」

もうこの際だから言葉遣い云々は置いておこう。ジュードも、上の方々に対する言葉をしつけられたわけではないので、正しく注意できるわけでもないし。

だがその感想は余りにも阿呆すぎないか。

いや俺も似たような事は思ったがさすがに口にはしてないぞ、とジュードは頭を抱える。

若い二人は、普段は雲の上の人である若君が気さくに相手をしてくれるのが嬉しいようだが、本来これはあってはならない事なんだぞ、と言ってやらねばならないか。

しかしそれを若君の前で言うのは気が咎める。あってはならない事だが、自分たちに気を許してくれているような若君の前で。

そんな葛藤を知るはずもなく、だがミカヅキもジュードとほぼ同じような反応を見せた。

あのなあ、と呆れて見せる。

隣のトリオスも、咎めるように肘でウォルターの体を突く。

だが続くミカヅキの言葉は意外だった。

「他人事のように言ってるが、俺とお前たちと、やってる事はそんなに変わりはないんだぞ」

ただ立ち位置が違うだけだ、と言われて、「えっ」と若い二人は素直に声に出しているが。ジュードもミカヅキの言葉には驚かされた。

そう考えたことはなかったな、と思う。

「お前たちは俺を守るための護衛だ。脅威から警護し、脅威と対峙し、脅威を退ける。それが任務だろう」

俺はそれを家と家でやってるだけだ。侯爵家を守るために、他家から警護し、他家と対峙し、他家を退ける。

そう語るミカヅキの言葉は揺らぎない。

「お前たちが警護のために戦闘訓練を受けるように、侯爵家を守るために学び、国に仕え、爵位を頂くんだ」

それは個々に課せられたものであり、そこに同情など必要ないのだ、と言う。

「お前たちは同情するのではなく、真実の目で見なくてはならない」

侯爵家に仕える者として、自分たちの頂きが進む将来が正しく望まれたものであるかどうかを、厳しく見定める。

それが下の立場を与えられた人間の役目であり、上の立場を与えられた人間はそれによって生かされている事を忘れてはならない。

「お前たちがいることで俺は侯爵としてあることができるんだ」

「えっ、そんな」

「逆だと思ってますよ、だって侯爵様がいて領地を守ってくれるから、そこで暮らしていけるんだって」

「それは、政だ。権力者が領土を統治しているというだけだ。そうじゃなくて」

お前たちが侯爵家に仕えるという意味だ、とミカヅキは二人を見る。

この場が、最年少者の言葉に支配されている。

「俺がたった一人で見知らぬ土地に出向いてみろ。誰からも敬意を払われないし、見向きもされないだろ」

「えっ、そんなことありますか?!」

「ある。実際、そうだ。だがそこにお前たちを連れていく。お前たちが俺に頭を下げ、道を譲り、恭しく仕える様子を見て」

ようやく見知らぬ人間が、あの人物は貴人なのか、という認識を受ける。

人なんて周囲の扱い一つで、どうとでもなる。

「俺はそれに生かされている。侯爵家に仕えるということは、侯爵家を支えるという事だ。多くの支えがあって、俺はその頂きに立つ」

それが、先ほどの言葉「立ち位置が違うだけでやる事は同じだ」と言ったミカヅキの真意につながるのか、とジュードは彼を見た。

若い二人も黙ってミカヅキを見ている。

「お前たちが足場を固めているから立っていられるんだ。そう心配するな」

と言い。

「あ、年端も行かないのは大目に見ろよ。そのうち向こうが老いればこちらが有利になる、くらいに思っておけ」

と、軽口をたたいて見せるのは、ウォルターが「大変ですねえ」などと言った嘆き節への返答か。

思わず失笑したジュードに、三人が揃ってこちらを見る。

「あ、いや」

決して、若君の講釈を笑ったわけではなく。

と前置きして、ジュードは、ミカヅキを憐れに思っていた自分を改めた。

「若君があまり屋敷におられない事を寂しく思っている者は多いと思いますが」

寂しく、というのは誤魔化しだ。まだ幼く頼りない、という目で見られている事はミカヅキ自身も重々承知の事だろう。

「若様は、そういった多くの事をご自身の力で学んでこられたのが解って」

嬉しかったんですよ、と言えば、他の二人も同時に頷いた。

「他の者たちも、この夜会での若様を見て、きっと誇らしいと思っているでしょう」

若君は化ける、と言っていた同僚の顔を思い出す。

多くの貴族たちの中で自分たちの主を誇る。それは臣下として当然の情だ。その情さえも越えた高みに、ミカヅキの振る舞いがあった。

その振る舞いを決定付けさせるのは、ミカヅキの侯爵家に懸ける使命であり、その使命を支えるのはお前たちだと言われたことが、何よりも尊い。

そんなジュードの思いを受けて、ミカヅキが微笑を見せる。

「そうか。なら、張り切った甲斐はあったな」

「え?」

「主として臣を喜ばせるのは、この上ない本望」

そう言って、ミカヅキは飲み干した茶器をテーブルに置いて立ち上った。

「残す賓客への挨拶も、それを励みにこなすとするか」

二人も慌てて立ち上がる。

「宴にお戻りになられますか」

「ああ、明日の事も考えて、時間的にあと4件は済ませておきたいからな」

上着を羽織り直しながらそんなことを言うミカヅキに、鏡を要求され、姿見のある壁際まで案内する。

「リフォルゼ家は今どなたも広間におられないな?」

「はい、おそらくは」

「うん」

鏡の前で格好を整えながら、挨拶の段取りでも考えているのだろう。

ウォルターに小屋の片づけを、トリオスに道の先導を指示しながら、あと4件か、とジュードも警護の範囲を想定していると。

「西の広間と、中庭にもう用はない。外していい」

と、身支度を整えたミカヅキが小屋の外に出る。

「あ、はい」

角灯に火を入れ直しているのを待つ間に、ミカヅキがジュードを見る。

「そう構えるな。着いてきていない時には、待ってやってるだろ」

その言葉の意味を考えて。

「えっ」

ジュードとトリオスは同時に声を上げていた。

「あ、もしかして、我らの事を気に掛けて下さっていたのですか」

「いつもなら二人のところ、今日は3人もついてるからな。何かあるのかと思ったが」

ただの新人教育だったか、と言われて、恐縮してしまう。

「いやあの、まさか、若様にご負担をおかけしているとは思わず、…不遜な真似をいたしまして」

「別に負担でも不遜でもないけどな」

灯りの入った角灯をトリオスから受け取り、笑ってみせる。

「まあ、新人教育でもないと、こんな場所まで足を延ばせなかっただろうしな」

付き合ってくれて助かった、と言われてしまってはかしこまるしかない。

「それから」と、並んで敬礼をとるジュードたちにかけられる声。

「さっきの薬湯な、館に届けておいてくれ」

「は」

「明日に備える」

「かしこまりました」

その声は、もうただの少年のような身軽さはなく。

「では、これまでだ」

従者の返事を待たず毅然とした背中を見せたミカヅキは、再び、あの宴へと戻っていく。

その背に従い、目を向ける。

宴の華やかさに目を眩ませられない様。

主の姿を真実の目で見る事だ。

 

 

 

 

 

 

「いいか、今夜の事は、一切の他言を禁じる」

ジュードは、ウォルターとトリオスを自室に呼び、そう言った。

「あ、はい」

「解りました」

そう素直にうなずいた二人に、なお、念を押す。

「屋敷外でもだ。友人や家族にも漏らすな。口をつぐんだまま、墓場まで持っていくんだ」

いいな、と言う厳しさに、二人はたじろいだようだ。

「どうしたんですか」

何がそこまで、と解っていない様子に、ジュードは少し、口調をやわらげた。

「あれは若様の戯れで済ます事は許されないだろうと思うからだ」

「そんな、戯れだなんて思っていませんよ!」

「そうですよ、俺たちなんかにあんな有難い言葉をくれて、深い話をして、奇跡ですよ!」

その反応にはため息が出る。

人が過ちを犯すのは、何も悪意ばかりではない。

むしろ、正しく清らかな心で、美しい善意から犯す過ちの方が手に負えないのだ。

この二人はまだ若く、それを実感するのはむつかしいだろう。

「勿論だ。若様にとって、あれは真実だ。それは俺も疑いようがない。酔った勢いとは違うだろう」

それを聞いたのが俺たちだけだ、というのがまずいんだ、と言えば二人も黙り込む。

「今日の事は、偶然に偶然が重なったようなもんだよな?上の方々が俺たちに気安くお喋りなんてしないからな」

それは二人にも解っている。

ジュードはもう一度頷いた。

言葉は人から人に伝わる事で独り歩きする。

自分たち3人が聞いた心からの言葉は正しくても、自分たちが誰かにその言葉を正しく伝えられるわけではない。

「俺たちは若様じゃないからな、若様のお心は知り様がない。表面的な言葉だけが伝わって、それを受け取る側が勝手に解釈するだろう」

そこでもう言葉の本意はゆがむ。

ゆがんだ言葉は人から人にゆがめられ、別ものとなって、やがてミカヅキを攻撃する武器にもなるだろう。

「若様が心を許してくれたからこそ、俺たちがそれをやってしまってはいけないんだよ」

解るか?と問えば、俯いていた二人が顔を上げ、ウォルターの方が、でも、と口を開いた。

「若様は旅に出てばかりで家をないがしろにしているとか、継承を軽く見ているとか、影でそう言う奴もいるじゃないですか」

「そうだな」

「ただの暇つぶしとか軽口とかなんだってのは、解るけど、でも軽々しくそんなことを言ってるのを聞くと、腹立ちますよ」

「まあそう思うのは、俺たちが今日、偶然若様の話を聞いたからだよな」

「そりゃそうなんですけど」

「そんな事全然ないのに、理解されてないなんて、若様が可哀想ですよ」

ここが歳の差だな、とジュードは苦笑する。

ミカヅキと歳が近い二人には、今夜の出来事のせいで「雲の上の人」から一気に「同世代で頑張ってる人」になってしまっている。

ミカヅキの言った言葉に感銘を受けても、それを自分の事のように捉えてしまっている。

同情するな、とミカヅキは言っていたのだが。

こいつらにはまだそこまでは難しいか、と考え、ミカヅキとこの二人の差を見てしまった事で、さらにミカヅキ本人の問題も浮き彫りになる。

ミカヅキの、生まれつき後継者教育を受けている器と中身の成熟度が揃わない事も今回の事を引き起こしたのだろう。

それを思えば、我が子を育てるのにも似たもどかしさにらしくもなく苦悩し、現侯爵もこうして頭を悩ませてるんだろうな、と思ったジュードは。

思わず、失笑する。

「隊長?」

「え?どうしたんです?」

訳が分からず身を乗り出す二人に、いやすまん、と謝りながら笑いをこらえる。

ミカヅキに同情している二人を前にどうしたものか、と悩みながら、自分は現侯爵に同情している。

人ってのは、どうしたってそういうものか、と可笑しさにひとしきり笑ってから、ジュードは二人に向き合った。

「確かにな、若様は他の後継の方がたに比べたら、一回り、二回りも違うんだから仕方ない」

けど今夜の宴で多くの人間は、他の方々と堂々とやりあってる若様を見ただろう?あれを見て少しは考えも変わるだろう?

「そう思わないか」

ジュードは言っておきながら、二人の答えを待たずに、口を開く。

「そうやって、若様がご自身の力で下の人間を抑えつけていかなければならない事なんだ」

まだ幼い。経験も実力も伴わない。それでも後継者であるという事。そう生まれてきた事こそが。

「若様に課せられた使命なんだよ」

誰の手を借りることなく、なさねばならない事。

他の人間が手を貸すという事は、その実、課せられた使命の邪魔をすることにしかならないのではないか。

「言ってみれば、お前たちが昇格試験を受ける時に、俺が甘い評価を付けて合格させるようなものだ」

「あ」

「過大評価で、お前、明日にもお館様の護衛役にでもなってみろ。お城に上がったり、王の御前に出たりするんだぞ」

そう大袈裟にからかって見せて。

「まあ、お前らもいずれはそうなる可能性を秘めた優秀な奴だと思っているから今日の要人護衛に抜擢したんだがな」

ジュードは改めて二人を見据える。

「俺は若様も十分に優秀な方だと思っている。必ず、ご自身の力でそれを果たされるだろう」

だから。

「若様も、正しく自分を見ていろ、と言ったんじゃないのか」

そこまで話して聞かせ、ようやく、二人も納得したようだ。

ジュードの目をまっすぐ見返して、黙って頷く。

新人教育は思った以上に大変だな、とジュードは肩の力を抜いて、背もたれに寄りかかった。伸びを一つ。

「俺はな、他にもいると思ってる。俺たちみたいに若様の言葉を聞いて、一生口をつぐんでる、って奴らが」

「えっ」

「誰が」

「そりゃあれだ、口つぐんでるんだから解らないだろうが。これはもう忠義心の闘いだ。黙っていられない奴から脱落、だな」

顔を見合わせる二人にちらりと笑い。

「まあ、そうは言ってもだな、腹に据えかねることもあるだろう。あんな若様を悪くいわれてはな」

だから、と姿勢を戻し、

「ついぶちまけたくなったら、俺に言いに来い」

ここがお前らの墓場だ、と己の胸を指して言ってやれば、二人そろって大袈裟にのけぞって見せる。

「い、言いませんよ、そんな脅されなくてもっ」

「そうですよ、信じてくださいよ隊長!」

「はあ?」

ああ。

全く。これが世代格差か。

せっかく大見得を切って格好つけてるんだから、びしっと決めさせろよな。

「ばーか、墓場までもってけ、って言っても何十年も黙ってられんだろうが。たまに愚痴吐くくらいなら俺が聞いてやる、って言ってんだよ」

それくらいはいいだろう、と言ってやれば、ウォルターとトリオスはしばらく固まっていたが、力を抜くように相好を崩した。

「なんだもう、隊長にぶっ殺されるのかと思いましたよ」

「解りにくいんですよ、隊長の話」

「なんだと、どこがだよ」

「あ、でも」

と、トリオスが話を遮る。

「隊長、近々退職する、っていう話だったじゃないですか」

「あ、そういえば!冒険者になるって」

ああアレな、とジュードは頭をかく。

「やめだ、やめ。若様のあんな言葉を聞かされちゃあな。一刻も早くお前ら新前を、若様の専門警護に任せられるように仕上げないといかんだろう」

気ままに冒険者に転身してる場合じゃない。

「ですよね!」

「ですよね、じゃねーよ。お前ら、気安いんだよ!」

「左様でございますね!隊長様!」

「あー、解った解った、お前らもしっかり励めよ。いつ若様からお呼びがかかっても良いように、上を目指せ」

「はい!」

「解りました!」

「解ったら明日に備えて寝ろ!明日は本祭りだ、今日よりずっと人も多く同線は複雑だぞ」

「お任せください!」

「俺ら隊長に大抜擢される優秀な人材なんで!」

まったく調子のいい奴らだ。

多少心配なところはあるが、まあ、初めての新人教育にしてはよく話を聞いてくれる方か、とジュードは一人苦笑し。

窓の外に見える月に、目をやる。

明日は観月の本祭だ。

一年で最も美しい月が天に上るといわれている。

きっと明日は、これまでのどの月よりも輝きを増すだろう。

「若様の晴れ舞台だ」

 

 

 

 

* * *

「うっげぇっ、なんだコレすンげえ渋いな!」

ヒロは、月見の宵祭を切り上げてきたミカが「酔い覚ましだ」と言って飲んでいる茶を、興味本位で口にして後悔する。

口の中がバシバシする、とミカを見れば、冷やしたおしぼりを両の瞼に当ててソファーにのけ反っていた。

「そんな飲まされてきたのか、適当に断ればいいのに」

「おいてめぇ若輩者がずうずうしくも我々と同列に立って調子こいてんじゃねーぞという、実質、つまらん洗礼だ、ぜってえ受けて立つ」

「おおう、この若様、口が悪いぞ…」

夜会とはいつもそんな感じで飲まされるのかと問えば、普段はお爺様の隣に控えているから無いな、と返って来る。

「今日はあいさつ回りでこちらから出向いていったから、向こうもそうとう面食らってたんだろ」

侯爵の庇護から離れた年少者に度を越した無茶ぶりをしてみたという所だろうな、と言って、ミカは低く笑った。

「俺が泣きを入れた所で大上段に説教でもすればいいかと軽く構えてたんだろうが、そうはさせるか!…っていう」

「熾烈な戦いだったわけな」

「うん」

「ミカは酔うと口が軽くなるよなあ」

「お前に言われたくないな」

「いや、俺はミカが色々喋ってくれるのは全然いいんだけど」

むしろそれを楽しんではいるけれど。

「何かやらかしてないかなあ、と思ってさ」

と、夜会での失態を心配してみたが。

ミカからの反応がないことに椅子から立ち上がり、ミカが目の上に乗せているおしぼりを持ち上げる。

そのまましばらく見ていると、ミカは寝入ってしまったようだった。

「あーあ…」

思わずため息。服も着替えず、ソファーに横になって、これは朝まで起きないんだろうな、と思う。

チビなら服を脱がせてベッドまで運んでやれるのだが、さすがに同体格のミカは無理だ。

壊れそうな装飾品だけはずしておいてやるか、とそれらに手を伸ばす。

…服は良い生地なんだろうけど、しわっしわになるだろうけど…まあ、いっぱいあるみたいだし、別にいいか、なんて思いながら

ミカがやらかした可能性を考えてみる。

この部屋に戻ってくるまで素面を装って耐えたというのだから、多分、致命的な失態という失態は犯していないだろうけれど。

(まあ、やらかしたっていうんなら、それはそれで)

間違いがあったなら正せばいい。

手を貸してくれと言われれば、手を貸すだけの事。

(だな)

ミカはこの夜会で初めて、祖父の庇護を出たのだ。

それは自分たちのためでもあり、自分たちの未来の為でもある。ミカと、それを取り囲むすべての環境が待つ未来。

それらを視野にいれて、自分たちは進んでいく。

何が間違いで、何を正せばいいかを学びなら。確実に進んでいくのだから。

今夜は。

「お疲れ」

言って、ベッドから上掛けを持ってきてかけてやる。

夜中にソファーから落ちてもいいように床にはクッションを大量に並べておいて。

ヒロは、部屋の灯りを消した。

 

 

 

 

 

 

 

sweet dreams

にほんブログ村 イラストブログ ゲームファンアートへ


宴灯

2016年11月11日 | ツアーズ SS

今夜はレネーゼ侯爵家の庭を中心として開かれる、月見の夜会だ。

月の趣と灯りの華やかさが、絶妙の雅で催されている宴の華やかさの裏で、ジュードは、己の任務を軽く考えていた事を後悔していた。

(一体なにがどうしてこうなった?!)

侯爵家の定例夜会で、次期後継者の護衛筆頭を任されたのは初めての事ではない。

ジュード・フォルダー。

齢四十を前にして、そろそろ昇格の話も耳打ちされる中間管理職。

侯爵家の護衛任務も10年目を迎え、実績と経験も十分、人生半ばにして安泰を手に入れた上々の歩みだ。

そんな中で任される、後継者の護衛筆頭。

過去に3度、この役目を果たしてきたジュードは、残り二名を未経験の新前から選んだ。

そろそろ自分たちの下の世代にも、定例夜会ほどの規模の大きな場での要人警護を経験させておきたかったからだ。

そういう意味では、侯爵家若君の護衛が初任務として適度だと判断した。

決して若君の立場を軽んじているわけではないが、彼はまだ候主の従属の域から出てはいないし、自由意志で行動するわけでもない。

夜会では迎える側として来賓者に挨拶をするのが主だから、常に中央に構えている。護衛する側としても難易度は高くない。

「まあそう緊張するな、俺に任せてお前らは夜会の華々しさでも楽しんでおけよ」

当日までは、この大役に抜擢されて緊張している二名に、軽く笑って見せる余裕もあったのだが。

この夜会での若君は、別人のように活発だった。

若君が候主の元にいたのは、ほんの小一時間だろうか。

「皆様方にご挨拶をしてまいります」

と、その姿がその場を離れた事にジュードは残り二名に、大広間を双方で掩護できる範囲に留まるよう指示を出す。

それをあざ笑うかのように、若君の姿は広間から消え失せた。

(どういうことだ)

広間の賓客へのご機嫌伺いではないのか。

勿論、護衛筆頭を任されるこの自分が護衛対象の若君を見失うことはないが、新前の二名は予想外の事態についてこれていない。

二人を呼び、若君を追わせるだけでも一苦労だ。

自分たち護衛は華やかな席で目立つわけにはいかない。若君は自由自在に移動しても、自分たちには制限がある。

人のいない廊下を選び、立ち入れない部屋を迂回し、庭から庭へ、館から館へ、人目につかない様、宴を妨げない様行動する。

それを難なくやってのける二名を選んだとはいえ、ここまで若君に振り回されるとは思いもしなかった。

後を追う事は二名に任せ、ジュードは他の護衛との連携にも神経を向けなくてはならない。

若君の移動する先、挨拶をする相手の把握、その方々についている護衛との接触、先々でありとあらゆる連絡を取り合い、移動を明確にしておく。

これだけ派手に動かれると、その連絡網も混乱しているかもしれないな、と思ったがどうしようもない。

事前にこれを把握しておかなかった自分の手落ちだ。

そこに、別の要人警護を担当する同僚が足早に近づいてきた。

「アルセス様はもうリフォルゼ侯爵の部屋に戻られたのだったかな」

「いや、アルセス様ならついさっき、若君と池の東屋に向かわれた。至急か?」

「リフォルゼ侯爵に挨拶をしたいと公の方が来られたようだ。アルセス様もお顔を出した方がいいと思うが」

「解った、お話が済み次第、お伝えしてみよう」

上の方が一人動くだけで、数十人の人間が動く。それらすべての動機を把握し、混乱が生じない様前もって配置図も頭に入れておく。

そういう煩雑さがないのが若君の警護の良い所だと思っていたのだが、見事にその大渦に巻き込まれている。

あの二人には厳しいな、と判断し、ジュードは自分でそれを請け負った。

若君が向かったという池の東屋、そこへ続く庭へ降りる寸前、ジュードの肩を同僚が叩いてくる。

「なんだ、至急か?」

「いや、お前大変な時に筆頭を受けたな」

「何」

「若様は化けるぞ」

「はあ?」

「という見方だ。対応を間違えるなよ。ああ、アルセス様には迎えを出す」

頼んだぞ、と言って廊下の向こうへと去っていく。

化ける。うんそうだな、確かにもう化けてるな。と思いながら、ジュードも池の上に張り出した東屋へと向かった。

こんなに積極的に諸侯の方々に働きかけている若君の姿は想像だにしなかった。

華やかな場に埋没することなく注目を集め、堂々と上の方々と渡り合っている。そういう教育を受けているのだろうが、

自分ならあの歳で、ここまで臆することなく、一挙一動で周囲を圧倒することはできないだろうな、と思う。

旅から戻ってきた若君、あれは魔物か何かが化けているのかもな、などとつまらないことを考えながら、庭を回り池へ着く。

東屋から少し離れた場所で待機している二名に様子を訊ねて、機会をうかがっている間に別の護衛が到着した。

リフォルゼ侯爵家の護衛だ。

互いに確認しあい、リフォルゼ家の護衛は自身の主に用件を伝えるため東屋へ入る。

池から月を鑑賞し、対岸の園遊の様子を眺める東屋だ。四方に壁はないので会話はそれとなく聞こえてくる。

「ではなミカヅキ、次はわが夜会に招待しよう。うちの娘たちも喜ぶだろう」

「あまり姫君の期待を高めないでいてください。お会いした時に失望されるのは痛ましいので」

「何を言うか、そろそろお前も2,3の姫君を手玉に取るくらいの器量を身に付けんか」

ああ、見合いか。そうだな、そろそろ年頃でもあるし、そんな話も増えるだろうな、と考えているうちに東屋から護衛が離れた。

後に、リフォルゼ家の次期後継者であるアルセスが出てくるのに最敬礼をし、目の前を行き過ぎるのを待つ。

「少し下りになっております、お足元にご注意ください」

小径の先に控えさせていた一人が、アルセスを先導する護衛に角灯を差し出したが、この径は慣れているので、と断られている。

彼が指した先を見ればもう一人、灯りを持っているのが見えた。そこまでは大丈夫か、とジュードも二人に控えるよう合図を送る。

護衛とアルセスの無事をそれぞれに見送りながら、池の向こうへと灯りが遠くなるまで待ったが。

東屋から、自分たちの主が出てこないことに顔を見合わせた。

ここは筆頭である自分が行かねばならない。

ジュードは、先ほどの護衛がとった行動と同じに、東屋の入口まで進み、膝をつく。

「若様、どうかされましたか」

東屋にかかる四隅の灯篭の灯りでは、中で座っている人影は見えても様子までは詳細に知ることができない。

物陰から声をかけると、意外な言葉が返ってきた。

「大丈夫だ、少し寝る」

その返事には耳を疑う。

「寝る、とは」

「言葉通りだ、30…、いや20分で起こせ」

そう言われても承服できることではない。

「お体を冷やしてしまいます」

池の上に張り出した東屋だ。それにこの季節、上の方々は優雅さを競い合うので衣装も薄い。

傍まで近づいた方が良いか、迷う。自分の立場ではそう易々と声をかけていいものでもない。

一介の従者が、次期後継者ほどの方に語り掛けることはまずないので、自分の言葉遣いが正しいかどうかの不安もある。

(だが若君は、あきらかに様子がおかしい)

そう考えた時、冷やしたいんだ、という声が聞こえた。

その不穏な意味を考えようとした時、音もなく隣に寄ってきた一人が、小声で耳打ちをする。

「アルセス様の勧めで」

強いご酒を過ごされたようで、と続いた声はさらに小さく聞き取れないほどではあったが、十分に理解はできた。

ジュードにも覚えがある。年配の者が年下に強い酒を強要する事は、上流も下流も変わりはないのだな、と。

これを飲めるようになったらお前は一人前だ、などとは、もう酒宴の決まりごとのようなものだ。

だがそれで若君に何かあれば、と、二人が責を感じているのだと理解して、ジュードはその肩を叩く。

大丈夫だ。これはお前たちが口を出せる立場ではない。あとでそう言ってやらねばな、と、立ち上がる。

その気配に、かすかに吐息交じりの声。

「わかった、10分だ」

そう言われ、それ以上は譲る気はない、と言外に込められることで、自分の行為も若君を追い詰めているな、と気づいたジュードは

大人しく引き下がるしかなかった。

「かしこまりました」

彼ほどの格を持つ人間ならば、無様な姿を人前に晒すことを許されはしないのだろう。それが一介の従者なら尚更。

わずか10分で、周囲に醜態をさらす危うさを押し込め、毅然と振る舞えるように立て直せるものだろうか。

屋根の下を出て、他の仲間と共にその場で待つ。

やはり同じように若君を案じている二人に目くばせをし、それまで以上に神経が張り詰める中、10分。

10分で東屋の中に戻り、灯りを灯すかどうか迷ったが先に声をかける。

「若様」

宴の中心から離れた静かな東屋で、身じろぎする気配。それから間もなく若君が身を起こし、立ち上がる様子を見せた。

わずかながら安堵している自分がいる。

ジュードは足元の角灯に灯りを入れ、主を待つ。

ほどなくして、上着を羽織りながらミカヅキが出てきた。

「ご苦労」

その声は、何事もなかったかのように平静だった。

黙って礼を取り、後に従う。

先に行くミカヅキに外で待っていた二人が道を空ける。

「あ、若様、先導なら私が」

「いや、いい。自分で持つ」

外に控えていた一人から角灯を受け取る様子もしっかりしている。

従者にまかせず、自分の手間は自分で済ませる、いつも通りの彼に見えた。

灯りのない庭を、手元の角灯だけで行かせることに不安がなかったわけでない。これが別の人物ならあり得ないことだ。

だがこの主は身の回りのことに手を借りないでいる姿勢を貫いてきた。

それに慣れてしまっていたジュードは、当然のようにミカヅキのすぐ後ろに着いたが。

「危ない!」

闇の中、足元の地面が緩い場所があったのか、ふいにぐらつく主の体をとっさに支える。

「だ、大丈夫ですか!」

「若様!」

他の二名も慌てて駆け寄って自分を取り囲むのを見て、ミカヅキは困惑したようだった。

「過保護もすぎるぞ、お前たち」

こんなふうに、きやすくミカヅキから言葉をかけられることなど、これまでになかった事だ。

「え?過、保護…?過保護、とは…」

「言葉通りの意味だが」

今度は、ジュードたちが困惑する番だった。

「いえ、我らはそれが役目ですので…」

「ええ」

そのわずかな間。

そうか、そうだったな、と言ったミカヅキがまた先に立って歩き出す。

思わず三人で顔を見合わせたが、すぐに彼の後を追った。

なんだ、これは。どういうことだ。いったい何がどうしてこうなった。

もう今夜だけで何度胸のうちでつぶやいたか知れない言葉を、またこうして繰り返している。

今まで通りの主でありながら、今まで通りではありえない事が起こる。

(若様が旅から戻ってからだ)

そう考え、魔物が若君に化けているのではないか、などとふざけた事を考えていた自分を笑えなくなる。

(まさかな)

と思ったのは、この灯りのない道をゆらゆらと揺れる角灯だけを頼りにしているからだろう。

「若様はまだ気ままな旅の感覚が抜けておりませんか」

本来なら、護衛程度の立場で直接に話をしていい存在ではない。

だが、若様は化けるぞ、と言った同僚の、対応を間違うなという言葉が引っかかっていた。

何が正しく、何が間違いなのか、ミカヅキの反応でしか推し量れない。

無礼な、と一喝してくれるならそれで安心もできただろうから、それでも良かったのだが。

「…うん、そうだな」

と、言ったミカヅキが立ち止まり、ジュードを振り返る。

「そのせいでお前たちには余計な混乱を押し付けているよな」

そんなくだけた会話をするミカヅキは初めて見る。

このままだと、迷惑をかけてすまない、などと言い出しかねない。まだ子供だとは言え、主にそれをさせてはいけない。

「構いませんよ、たいていの事ならいい刺激になります」

わずかに灯りを持ちあげ、ことさら明るい声音になるよう、ジュードは笑って見せた。

「刺激…、か」

少し気が抜けたような反応に、ジュードは続ける。

「何事もなく、なだらかな平穏な中では多少の刺激も欲しくなる、というのが人間ですよ」

その

言葉にしばし沈黙し、そういうものか、と呟いたミカヅキに、まさか化けてませんよね、などと言えるはずもなく。

そんな心中を知るはずもない後ろの二人が、そうですよ、そんなもんですよ、と無責任に同調している。

(お前ら言葉遣いが軽いぞ)

だが彼らもまた、このあり得ない事態に、身の置き所がないのだろうなと思えば諫めることもできない。

それが功を奏したのか、自分を護衛している人間を一人ずつ確認するように見やったミカヅキが、そうか、と再びジュードを見た。

「じゃあ…、この近くに、衛兵の小屋はなかったか」

と尋ねられ。

それがどのような意味を持つのか考える間もなく、体が冷えた、と悪びれもせず言うミカヅキに思わず呆気にとられる。

 

まさか、だから言ったじゃないですか!と言うわけにもいかず、ええと、とジュードが口ごもれば、背後の一人が右手を示す。

「そこの脇を下ったところに、簡易の小屋がありますが」

今は誰も詰めていないかと、と言うのに、ミカヅキが、それでいい、と応じた。

「湯を沸かすくらいできるだろ」

つまり体が冷えたので衛兵小屋で温かい飲み物をご所望らしい。

もうこれだけでも十分な異常事態だが、それに続く会話も尋常じゃない。

「とんでもない!若様に白湯など出せませんよ!」

「そうですよ、私でも茶を淹れるくらいはできますので!」

と続ける二人に、ジュードは、おいおいお前ら若様を衛兵小屋に招待する気か、安い茶を出して良いと思ってんのか、と

これ以上は止めた方が良いのか、ここは敢えて見て見ぬふりをするのがいいのか、迷いに迷う。

対応を間違うなよ、という言葉の重さが、今更ながら抱えきれない荷となってきた。

それも数秒。

先に行って使えるかどうか様子を見てまいります、と一人が先に駆けだす。

「あ、おい、灯り…」

それを追って、ミカヅキが自分の角灯を手渡そうとすることに、もう主従関係の有無があいまいになっている。

「いやー平気ですよ、奴は暗闇専門なので」

同僚といるような錯覚に陥っているのか、主にそんな口をきいている部下には、さすがにジュードも声を荒げる。

「おい!」

「あっ、も、申し訳ございませんッ!!」

可哀想な事をした、と思うほど、我に返った部下は恐れおののき、その場で文字通り飛び上がり、足を踏み外して体制を崩した。

それに慌てて手を伸ばし体を支えてやったのは、ジュードとミカヅキと、同時。

その場で三人が固まり、この始末をどうしようかとそれぞれに窮地に追いやられている間に。

「そう怒るな、いい刺激なんだろ」

そう言ったミカヅキの声音が柔らかいことに救われた。暗闇では表情までは解らないが、おそらく、流してくれたのだろう。

先にミカヅキが手を離し、ジュードが強く引いて体制を立て直すのに手を貸せば、彼はミカヅキに最敬礼をとる。

「ご無礼をいたしました!」

「いや、今宵は観月。灯りの宴だ。月明かりの届かない場所での無礼を見咎めるのは無粋というもの」

と、まるで詩でも読んでいるかのような優雅な口調で空を指す。つられてそちらに目をやれば、月が雲に隠れている事に気が付いた。

だからこんなに暗い、と思っていると。

「と、いう事にしておけ」

と軽い口調で、それまでの切迫した空気を振り払ってしまった。

まだ16,7の身でも、生まれながらにして上に立つ者としての才覚は疑うべくもない。

ジュードたちの手落ちを問わないと同時に、自分の今の奔放も見逃せ、と場を和ませることも含め。

ジュードは無言で敬礼をすることで、この場を流してくれたことに謝意を表した。 

「では、参りましょうか」

様子を見に行った仲間を追うように、部下をミカヅキの前に立たせ、先に進むように促す。

「ここから下りなので、ご注意を。躓くと止まれませんよ」

 と、ミカヅキの後につき、ジュードが声をかければ、ミカヅキは笑ったようだった。

「躓いたら、お前にぶつかればいいんだろう?トリオス」

ああ、トリオスを先に立たせた理由をちゃんと理解している。

そのこともジュードの気を引いたが、何よりも、トリオス、と名前を読んだことに驚いた。

「どっ、どうして私の名を」

驚いたのは彼も同じ、いやそれ以上か。思わず背後を振り返り、ミカヅキとジュードを交互に見やる。

「…なぜ、そんなに驚くか」

勤めてくれている人間の名前くらい解っていて当然だ、とミカヅキは。

「先に行ったのがウォルター、お前がジュードだろう」

と何でもない事のように、背後のジュードを振り向いて言うが。

こんな末端の護衛まで見知っていてくれているのか、という思いに胸は熱くなる。

旅に出て屋敷を空けているばかりの主だが、確かに自分たちの主なのだ、という思い。

ご苦労、と言われるその言葉の意味。

飾りではなく、真に、主は自分たちをねぎらって言葉をくれているのだと信じられる。

「光栄です」

それ以上は言葉にならない。

このことがジュードたちにどれほどの衝撃を与えたのか、などと思いもよらないのだろうミカヅキが

「大袈裟だな、幾ら観月でも大手合いは控えるぞ」

と、夜会の言葉遊びを言いかけ。

いや、と、その場で硬直する。

「…今のは言ってはまずいことなのか、…ひょっとして」

護衛二人の反応が異常に熱っぽいこと、感極まっていることに、ようやく気が付いたようだった。

主がそれを口にすべきことでないのかどうかは、自分たちには解らない。ただ、このような経験は過去に一度もなかったと思う。

どう反応していいか解らず、思わず立ち止まっている護衛二人を見て、ミカヅキも動揺したようだった。

今のは聞かなかったことにしてくれ、と、つぶやくように言う。

それにもどう反応すべきか迷うジュードより早く。

「誰も聞いていませんよ、月明かりの届かない今だけの話ですからね」

と、トリオスが精いっぱい虚勢を張り、そう言ってのけた事に、救われた。内心で称賛する。今だけだ。

今だけは、きっと主と歳の近いトリオスの感覚が正しいのだろう。

先ほど自身が言った言葉で切り返されて、ミカヅキも失笑するしかない様だった。

「いや聞いてないならいいんだ」

「ええ、はい、急ぎましょう。せっかくのお茶が冷めてしまうやも」

き易く、そんな軽口を叩けるのも若気の至り様様だな、とジュードは選んだ二人の助力を痛感する。

周囲を難なく圧倒するほどの才覚を、常に維持していることは、やはりミカヅキであっても負担であるのだろう。

ここで軽口を叩ける相手がいることに、重要な意味があるのかもしれない。

「あいつは本当に茶を淹れられるのか」

「酔いを醒ますほど苦いですよ」

と、ジュードもこの戯れに乗れば、「…それは良いな」と、先を行くミカヅキが本音をこぼしたように思えた。

(ああ、そうか)

若様は化けるぞ、と言っていた同僚の言葉がようやく解った気がした。

かつて、正統後継者として屋敷中の人間に慕われている若君がいた。

まだ少年兵だったジュードも、彼が候主となる日の事を疑いもしなかった。

人柄も良く、誰からも慕われていた。諸侯らの覚えも良く、領地もこぞって彼の継承を待ち望んだほどの若君だった。

彼の人のためになら命を代えてでもお守りするのだと、人生のすべてを彼に捧げるつもりで鍛錬した。

そんな自分の若い時代を思い返し、新前たちにもミカヅキという主を唯一無二の主だと、お前たちだけの主なのだと、

命を賭して余りある方であると身をもって解らせるつもりで今夜の夜会に指名したのだ。

自分は主を喪ってしまったから。

もう二度と、あのような忠義はないのだと思っていたから。

せめて若い世代に託そうと、考えていた己の浅はかさを思う。 

ミカヅキという次なる正統後継者に、全てを捧げる人員を育てることが、自分の新たな忠誠の誓いだと思っていたけれど。

ミカヅキは、化ける。

まだ少年の域も出ない主は、成長し、後継者としての階を着実に上っていく。

(我らは今、それに立ち会っている)

初めから後継者として立つ若君に頭を垂れる自分は、過去にしかいない。

完成された後継者は、過去にしかいないのだ。

(対応を間違ってはならない)

一度主を喪った自分にできることは、今ある新しい主の正しい姿を見ることだ。

そして、確実に上り詰めていく姿を見上げる事になるだろう。

地へ向けていた視線が、天を向く未来は、輝かしい。

新しい主は、それをひとつひとつ見せてくれるのだ。

宴の度に、忠誠を誓う光が集まる僥倖を。
 
 
 

観月夜会は、集う貴族たちに次期後継者という月を捧げたのではない。

自分たち従者にも、正真正銘の主を下されたのだ。

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 観月の隅っこであった話

にほんブログ村 イラストブログ ゲームファンアートへ

にほんブログ村

 
 

 

陸 ジュード 4 フォルガー 

海 ウォルター 0 パゼロス

空 トリオス 2 トゥーナ 


夜会の後始末

2016年11月08日 | 2部 帰郷の章(ミカ)

 

 

 

入れ忘れの4コマです(観月の乱、終 の後に入れるハズの)

とはいえ、入れる必要あるかなってくらい状況が漫画では伝わらないかと思うので…

 

ヒロはモエとミカはお互いにこじらせてるだけで仲良くなれる要素は十分あるのにな

って思ってるので、そこそこ仲を取り持ってやりたいと働きかけてます

「ミカはモエのやり方に怒ってるけどモエの真意はそうじゃねーんだよ」」

っていう話を、ミカはつい昨夜の不愉快な状況を思い返して激昂しかけて

「そういや今夜もまだ夜会あるからあいつも来るんだな」

って勝手に脳内で建設的に切り替えて、一人で、作戦会議モードに突入してます

せっかくのヒロの心配りだから頭を冷やしてちゃんと聞こう、っていう所です

 

でこの流れでSS月にうさぎがの突入して、サリーちゃんと会っちゃうわけですネ

ヒロとのワンクッションがあったので、サリーちゃんともスムーズに(ミカにしては)話できてます

あ、4コマ派の皆様はSSは読まなくても大丈夫です

4コマの流れには全然影響ないです(ただキャラの心情をたらたらたらたら書いてるだけなのです)

 

ま、このあとヒロの話をちゃんと聞いた結果

「あいつの真意は解ったが不愉快なことに変わりはないな!!」

ってヒロの意を受け入れつつ自分の意もまげないミカでございます 

 

 

 

 

これも付き合いの長さのなせる業

にほんブログ村 イラストブログ ゲームファンアートへ

にほんブログ村


兄、迷走

2016年11月07日 | 2部 帰郷の章(ミカ)

ミカ 「お前、面白がってるんだな」

ウイ 「ばれたか」

 

 

 

 

 

 

             

ミカに、妹に対する心構え的なものを入れ知恵したのはお兄ちゃん師範のヒロです

馬車で送り届けるついでにお母さんにも会って、お兄ちゃんとして謝ってあげろ、って感じでね

SSで妹はこれを「お兄様優しい」って感激してますが

まあ誤解でこじれる関係もあれば、誤解からうまくいく関係もあるってことで

 

ミカの里帰り編はこれにて終了です

大変ながらくお付き合いくださいまして、いやもうほんとに描くまではこんなに長くかかるとは思いませんでしたが

お付き合いくださいましてありがとうございました(≧▽≦)

 

色々、描き足りないネタは残ってるんですが(ミカの幼少期とか)

これだけは描いておきたい!っていうのが4コマひとつ、SSがひとつ

この二つはしまった、描くの忘れてた!っていううっかりミスなので、しれっと本編に混ぜるとして

その後に

究極本命の、お爺ちゃんのSSをひとつ書いて締めです

これ(↑)が結構情報量が多いので2話になるかもしれない危険をはらみつつ

 

その後、どうするかまだ迷ってます

なに描こうかなあ…

 

 

 

 

 

 

 

 

あまりに長いミカ編で、ちょっと燃え尽き症候群

にほんブログ村 イラストブログ ゲームファンアートへ

にほんブログ村


2016年11月05日 | ツアーズ SS

レネーゼ侯爵家の月見会。

「今度の夜会は若君が何か仕掛けるという噂ですけれど、アステ様はそれをご存じ?」

そう尋ねてきたのは、学友の誰だったか。

そんな事を聞かされたアステは一瞬で頭に血が上ってしまったので、その場に誰がいたかも覚えていない。

「当然ですわ、兄上様の事ですもの!」

でもそれを口にしてはいけませんの、お解りになるでしょう?と後に続く会話をぶったぎり、立ち上がる。

「私もお手を貸さなくてはならないので、屋敷に戻る手筈ですわ」

あくまでも寝耳に水であることは秘しておかなくてはならない。

さも当然のように、屋敷に戻るそぶりを見せれば、そんなアステの粗を突くように背後からかかる声。

「え?でも、今から戻られても間に合わないのでは…」

なんと愚劣な!学友たちの前でこの自分に恥をかかそうとする輩はどこのどいつだ!成敗してくれる!!

と振り向いた先では、一様に全員がきょとんとした顔でアステを見ていた。

全く稚拙な学友ばかりで対処に困るわ、とアステは満面の笑みを浮かべる。

「兄上様は優秀な方ですのよ、夜会に私の手助けなど必要とするはずもないでしょう?」

その後ですわ!と、両腕を広げて力説する。

「夜会で皆様をもてなした後の心配りに私を必要としておられるのです!」

「はあ」

「まあ、お解りにならなくても仕方ありませんわね、レネーゼ家が如何に皆様に尽くしているかなど公にするものでもございませんもの」

そんな事、アステだって解りはしないがもう引き下がれない。

では御機嫌よう来週には戻りますわ、と言い置いて学舎を飛び出してきた。

大体なんだというのだ。

何でそんな重要な事を、それも兄に関する重要な事を学友の誰それが知っていて、自分は知らないのか。

不愉快極まりない。

ないがしろにされている、とアステは思う。祖父にも、兄にも、…これは家を継承する男性陣営の壁の高さではあるが、

それにしても同じ女性陣営の母でさえも、この自分をないがしろにしている。

唯一の味方からのこの仕打ちはどうだ!

こんな大事な時に、学び舎などというぼんやりした場所で、ずんぐりした顔の教師とのっぺりした顔の学友に囲まれて

だらだらとした授業など受けていられるとお思いなのか、わが神よ!!

 …という一大決心で休学届を出し、その足で馬車に乗り込み着の身着のまま駆けつけた。

「帰りますわ!」という一言に何の異も唱えず素直に着いてきた傍仕えのマリスも一緒だ。

一緒に、兄に説教されている。

「一週間も休学届を出す奴があるか!三日で帰れ!」

「帰れませんわ!来週戻ると言ってしまったんですもの!三日で帰ったらまるで私が役立たずのようではありませんの!」

「それはお前が発言した事だ、最後まで自分で責任をとるのが筋だ、帰れ」

「責任をとって一週間休学しますわ!」

「責任の取り方がおかしいだろ!お前が休学して困るのは学舎側だ、どれだけ迷惑がかかるか考えてみろ」

「迷惑などかけませんわ、一週間程度の授業の遅れなどこの私には取るに足らない内容です!」

「お前は良いかもしれんがマリスはどうする、マリスだってお前のお遊びで授業を放棄させられているんだぞ」

「ヒドイ兄上様!私の侯爵家に掛ける意気込みをお遊びというなら授業なんて幼児のお遊戯ですわ!!」

「きゃーお名前をお呼び頂けるなんて身に余る光栄でございます!それだけで私の授業なんてお遊びで結構です!!」

「お前らなあ…」

屋敷に戻った以上、母に会わねばならない。

父の元に匿ってもらっても良いのだが、あの父は自分の身を挺してまでアステを庇ってはくれない。

とても優しい父だから「婿養子で母上様に頭が上がらないのですわね」と憎まれ口をたたくアステに、ただ笑うだけだ。

大門から母の住まう館まで、馬車はゆっくりと走らせたけれど。

久しぶりに会った兄と交わした会話は、アステの休学届の事についてだけであっという間に終わってしまった。

「先に母上に話があるから待っていろ」

と兄に言われて、隣の小部屋で待っていたアステと傍仕えのマリスだが。

それぞれ別室に呼ばれ、アステは母の厳しいお説教を半時間ほど聞かされた。

その時間でさえも、考えるのは兄の事だった。

馬車の中で、兄は良くアステに構ってくれた。そのほとんどが説教でしかなかったが、それでも、今までの兄とは別人のように、

アステの話を聞き、それに対する自分の考えを述べてくれ、傍仕えのマリスの事も気に掛けてくれたのだ。

アステの知っている、優雅で優美で、学友の誰と比べても圧倒的な品行方正、完璧で非の打ち所がない紳士像だった兄ではなかったが

その美しい紳士像を殴り捨てたとしても、ちゃんと向き合って話をしてくれたことが嬉しかった。

だから。

母の説教も、なるべく口答えせずに耐えた。つまらない小言の時間など早く終わらせて、兄の元に戻りたかったからだ。

なのに。

なのになのに!!

「若君様はもうお出になられましたが…」

と、部屋仕えの女中に告げられて、なんでなのよー!!!と喉も張り裂けんばかりに絶叫しているアステである。

昔と同じだ。

これでは、昔と同じだ。兄に構ってほしくて癇癪を起してばかりだったあの頃と。

大声で泣き叫んで手にしたあらゆるものを振り回して投げ飛ばして、床に大の字になって暴れたことだって数えきれないほどだ。

その度、兄は困ったようにただじっと傍に立ち尽くしていた。アステが周囲になだめられ落ち着くまで、そこにいてくれたのに。

今は、別れの一つもなく去ってしまうのか。

これでは昔の方がまだましだ。昔の方、が。

「兄上様は昔からそうですわっ、正しくてお美しくいらっしゃるけど冷たくて私に対する情けなどないのですわ!」

「まあまあ、アステ様、そう仰らないで」

騒ぎをきいて駆けつけたのは、母の侍女だ。

レアは怒りのやりどころのないアステの背を優しく撫で、落ち着かせてくれる。

「兄上様は、昔からアステ様に格別優しくていらっしゃいますよ」

「どこがよー!」

「アステ様をここまで送ってくださったのでしょう?」

「だって、兄上様は母上様に用事があったからだわ私なんてついでなのだわ」

自分で言って悲しくなる。こぼれた涙を、レアがハンカチで優しく押さえながら、あらあら、と言った。

「ミカヅキ様はミソカ様に、妹を叱ってやってくれるな、とお願いに来られたのですよ?」

先に母上に話があるから、とアステを部屋に残して出ていった兄。

その兄の話。

「え?」

顔を上げると、レアがにこり、と笑った。

「アステ様がこのように取り乱して戻ってきたのは、自分が突発的な行動を取ってしまった事が原因だから、と」

妹を驚かせてしまったのは少なからず自分にも非がある、まだ幼い彼女の心情を汲んでやってほしい、と言い。

「休学した事に関しては自分が馬車の中で叱ってしまったので母上様にはほどほどに、って仰られていましてよ」

「そんな事…、兄上様が?」

「ええ、私ちゃんとこの耳でお聞きしてましたもの」

「そんな事、そんな事言って、…母上様はしっかりお説教されたじゃないのー!」

「まあ、アステ様、半時間ほどで済んだじゃありませんか」

ミカヅキ様のとりなしがなかったら半日かかっていましたわよ、と大真面目にいうレアには笑えない。

母は本当に半日説教をするだろうことが解るだけに笑えない。

「だってだって、終わったら兄上様ともっとお話ししようと思っていたのよ」

「…まあ、そうでしたの」

「一緒にお庭に出て、習ったばかりだけどお茶を淹れて差し上げたかったわ」

「きっと褒めて下さったでしょうねえ」

「その後バイオリンを聴かせて下さってピアノも手ほどきを頂いて、ご本も読んでいただこうと思っていたのよー!」

「そ、そんな時間はありますかしら…」

ミカヅキ様はとてもお忙しくていらっしゃるから、とレアがいうことは解る。

ずっと兄を見てきたのだ。いつも大人たちに囲まれて、後継者としての教育ばかりで一日が終わっていた。

その忙しい合間を縫って兄妹として過ごしてもいても、兄は遊び相手ではなく、後継者だった。

「レア様、ちょっと」

と、女中に耳打ちされたレアが、「アステ様、急いでおいでになって」と、アステの手を引く。

レアに連れられて部屋を出、廊下を少し行った先で窓の外を見るように言われる。

窓の向こう、階下では今にも馬車に乗り込もうとしている兄の姿が見えた。

こっちを見上げている。まるでアステがここに立つまでそうしていたように。

「少し待っていて下さったんですわね」

と言ったレアが、下のミカヅキに手を振ると、それを見て兄は会釈を返した。

綺麗な礼だわ、と思う。教科書に載るような、規範の姿。アステのよく知る、兄の立ち居振る舞い。

ほらアステ様も、とレアに促されて、アステもぎこちなく手を振って見せた。兄の反応を知りたいような、知りたくないような。

そんな葛藤を知るはずもない兄は、軽やかに手をあげた。

その別れ一つが潔く。

兄はわずかな名残も見せず、馬車に乗り込む。従者が扉を閉め、その場から離れれば、兄を乗せた馬車は走り出した。

「姫様っ」

馬車が見えなくなるまで窓の外を見ていたアステに、マリスが駆け寄ってくる。

「マリス、駆けてはいけません」

傍にいたレアに注意され、マリスが慌てて背を正す。

「ゴメンナサイ、…あっ、いえ、申し訳ありません!」

「学校でのお転婆は私もよくやってしまいましたけど」

と言ったレアが、アステとマリス二人を交互に見て、

「こちらではちょっと背伸びして、優雅な貴婦人でいる自身を楽しんでいらしてね」

茶目っ気たっぷりにそんなことを言われて二人、その言葉を考えていると。

もう大丈夫ですわね、とレアがいう事にアステはうなずいた。

母のもとに戻るレアの姿を見送って、アステも自室へ戻る事にする。

「どこへ行っていたの」

「姫様と同じです、お説教されていました」

と、明るくふるまうマリスに、今更ながら申し訳ない気持ちになった。

兄に言われた事が、現実味を帯びる。

「ごめんね、マリス、すごく怒られた?」

「すごく怒られました、けど、姫様もすごく怒られたでしょう?同じですねっ」

同じかしら、とアステが困惑すると、マリスが、これ、と二つに折りたたんだ用紙を手渡してくる。

「姫様の兄上様からです」

「え?」

兄が自分に言葉を残してくれたのか。

慌ててそれを広げ、何が書いてあるかを確かめる。

そこには、城下町の住所と宿の名前が書いてあった。

「なにこれ」

「あの、これからは休学届を出す前にまず、ここに連絡しろ、って言われました」

「これ、兄上様の字かしら?」

「そうだと思いますけど」

「ふうん」

もう一度、住所と宿の名前を見る。

「知らない宿だわ、ここに泊まれって事なの?」

「いいえ、姫様が兄上様に会いたいって連絡したら、兄上様の方から会いに来て下さるって事です」

「えっ、兄上様が来て下さるの?!」

「あ、手が空いてたら行くから、っていうことでした」

「学舎まで来て下さるの?」

「そうでしょうねえ」

と言ったマリスが、にっこりと笑う。良かったですね姫様、と嬉しそうに。

怒られちゃったけど怒られた甲斐はありましたね、なんて不届きなことを言う。

不届きだけど。

そうか。もう、すごく怒られるような真似をしなくても、兄が会いに来てくれるのだ、という実感がわく。

あの学び舎に。

教師たちがこぞって絶賛する兄が、学友たちが先輩たちのうわさを拾って夢中になる兄が、実際に来る。

誰もが憧憬する幻想だった兄が、実在するアステの兄として、あの場所に来るのだ。

「あ、兄上様は、いつもはもっと物静かでお美しい方なのよ?」

と、マリスを見れば、マリスはにこにこと頷いた。

「はい、そうでしょうねえ」

「あのね、今日はちょっと怒っていらしたから、あれなんだけど」

「はい、怒られちゃいましたもんね」

「解ってる?いつもの兄上様はすごく素敵なのよ!」

「はい、今日もものすごく素敵でいらっしゃいましたよね」

「え?素敵、だった?」

「すごーく素敵でしたよ、私ずっとどきどきしちゃいまして…姫様は違うんですか?」 

 違うのか、と言われて言葉につまる。

それをマリスは、ああ、と解ったように頷く。

「姫様は小さい頃から兄上様をよくご存じですもんね、私なんて姉様たちがきゃーきゃー言ってる話でしか知らなくって」

「ええ、そう、そうね」

「実際お会いして、あんなに厳しく怒られちゃうと、姉様たちは怒られたこともないんだわ、って優越感で胸が満たされます」

「あ、ああ、そう、なの」

愛らしい顔をして、結構腹黒いことを口にする傍仕えの少女には、時々気後れすることがあるものの。

そう言われて、ずっと穏やかでなかった心中は、自然に和いだ。

学友に夜会の話を聞かされた時からずっと、心をざわつかせていたもの。

いや、それよりもずっと以前から、アステを翻弄し、惑わせ、苛立たせていたものは。

幻想の兄。

屋敷にいた間は兄ではなく後継者という幻想であり、そこから抜け出した先、学び舎では周囲が創り上げた理想という幻想だった。

誰よりも自分が知っているはずの兄は、その幻想の中にあってどうにも捕まえられず、虚勢を張ることでしか立てなかった自分。

その幻想を、今日の兄は、乱暴に蹴散らしていった。

粗野な振る舞いで、優雅さや気品などというものなど歯牙にもかけず、あっという間にアステの虚勢もろともをぶち壊した。

それは高く、潔く、アステのこれまでを無にしておきながら、最後には優しい。

兄上様は昔からアステ様に格別優しくていらっしゃいますよ、そういっていたレアの声が心に響く。

そうだ、兄は優しい。

「姫様」

「手紙を書くわ」

零れ落ちる涙を手の甲で拭いながら、アステは兄を思う。

「兄上様はお忙しいから、きっとすぐにはいらしてくれないでしょうけど」

「はい」

「できれば次の学園遊会にお招きしたいと思うわ」

「いいですねっ、絶対来ていただきましょう!だって普段でもあんなに素敵なんですもの」

園遊会での兄上様は壮絶に素敵なんでしょうね、というマリスが、その時は私も横にいさせてくださいね、と

ちゃっかり笑わせてくれることに、もちろんよ、とアステはその手を握りしめる。

存分にマリスの姉様たちを羨ましがらせるといいわ、と笑顔で約束をする。

何もいわずただついてきてくれた少女に、いつもそばに寄り添ってくれる少女に、粗野な兄を素敵だと言ってくれた少女に。

素直な感謝を込めて。

「この上ない優越感を味わわせてあげるわ!」

「はいっ、楽しみですっ」

幻想を抜け、広い世界に向けて吹きすさぶ感情は、もう誰からもないがしろにされることもない。

優しい嵐を呼ぶ。


アステ・レネーゼ

2016年11月01日 | ツアーズ小ネタ

 

話的にそんなに存在してる意義はないよなと思いつつもう設定はしちゃったし…、なミカの妹です

そんな投げやりな扱いを受けているわりに、私的には「なんて愛くるしい奴め」っていうくらい

ヒロの妹ズの誰よりもよっぽど可愛いと思える妹キャラなのですが…

そんないうほどキャラをかき分け出来てるわけでもないので、結局、ヒロの妹ズをぎゅっと一人に圧縮した感じなのでしょうか

ミオより2,3歳下を想定してます(まだ年表作ってねーのかよ!って…ええ、ハイ)

 

ビジュアルとしては、ぽっちゃりした赤毛のアン、ってイメージでしたが画力追いつかず撃沈

 

がっつり父親似であることがコンプレックス

美形の母と美形の兄を見て育つうち、「なんで私だけお父様似なの!!」って一人でキレる思春期に突入

際限なく甘やかしてくれる父の事は好きだけど、まあお父様によく似て…、って言われる度

父の事が嫌いになりそうだからそれは聞きたくないのほっといて!

って、せめてくせ毛を隠すために巻き髪の付け毛を普段から愛用

 

兄との思い出は、兄が寄宿舎学校に入るまでの、幼少期のみ

兄が学校を卒業して家に戻るのと入れ替えに、今度は妹が寄宿舎学校に入学、っていうイメージ

(年表…、ああうん、ほんといい加減ですみません多分あとから色々矛盾が出るでしょう)

長期休暇で帰ってきても兄は城勤めで家にはいないし、そうこうしてるうちに旅に出ちゃうし

友人たちのように兄にべったり甘えたいのに、たまに会うとなんだかものすごくよそよそしいし

 

という愛情不足から

 

学校できく噂話では侯爵家の後継者は正統派な跡継ぎルートをずんずん外れていく変わり種だと聞かされ

父や母に真相を聞いても噂話などはしたないと相手にされず、お爺様には大丈夫だ心配するなとはぐらかされ

自分なりに考えて出た結論が「兄上様は爵位を継ぎたくないのかも、ていうか絶対そう!」

 

という情報不足の、兄妹すれ違い

なので、別に彼女は侯爵家の将来を憂いているわけではなく、単純に、「お兄様の喜ぶことをしたら構ってくれるかも」っていう

お子様考えなので、どうすれば兄から爵位をはく奪できるか→お兄様が出奔しちゃえばいいじゃん♪な幼稚さです

ミカもあの会話の中でそれが解ったので「お前はもっとちゃんと勉強してから出直せ」的な説教を

馬車の中でするっていう4コマもいくつか作ってはみたのですが、4コマでオチをつける事を前提で作ると話が全然進まなくてですね(;'∀')

まあ割愛したわけですよ

きりがいいのであそこでぶった切ってますが、妹の従者の子の4コマもいくつか…

 

あの子はとある貴族の末っ子で、特に何に優れてるわけでもない末娘なので、まあ政略結婚の駒に一応置いておくか、くらいの

家族からはあまり目をかけられていない感じの子だったのですが

「どうせずっとそばにいるのなら可愛い子が良いわ」っていうミカ妹の一声で、従者に大抜擢された経緯があります

その関連で

 

ミカ 「…なあ、お前の侍女、ずっと俺を凝視してるんだが(監視ならやめさせろ)」

ミカ妹 「監視じゃありませんわ、憧れですわ!乙女心を理解しない兄上様にはがっかりですわ」

侍女 「も、申し訳ございません!若様の事は姉様や学校でお噂を耳にしていましたもので」

侍女 「そのような方が目の前にいらっしゃると思うだけで胸が高鳴ってしまいまして」

ミカ妹 「そこで、妹がいつも世話になっているな、と手を握るくらい気を効かせていただきたいですわ」

ミカ 「…お前いつも世話を焼かせているのか、さぞ厄介な事だろうな」

侍女 「とんでもございません!姫様はとてもお優しく気をつかってくださいます!」

ミカ妹 「ほらご覧になって!心遣いというもの、侍女にできて兄上様にできないはずもありませんわよね?」

ミカ 「あー、いつも妹が面倒をかけているようだがよろしく頼む」

しぶしぶ握手

侍女 「きゃー!なんという誉を!ありがとうございます、もう一生手を洗いません!!」

ミカ妹 「まあ大袈裟ですわ」

侍女 「この右手一枚で姉様たちをしこたま悔しがらせ、地に這いつくばらせることができるのなら一生洗いませんわ!!」

ミカ 「おい、お前の悪影響受けまくってるじゃないか」

ミカ妹 「いやですわ、この子は元々こういう子です!」

 


っていう馬車内ネタ(ミカはもう完全に開き直ってキラキラじゃなくてオラオラ路線なので会話がはずみまくり)

そんな感じな子なので、優秀な姉たちをすっとばして自分を選んでくれたミカ妹には一生ついていく!!って思ってます

名前は決めていないですが…

彼女がもう少しお年頃になって色々侍女としての才能を開花させていくと、彼女のプロデュースでミカ妹が見違えるほど綺麗になる

っていう未来がきます

女の子はお年頃になると綺麗になるのがお約束ですからね!中身はあのままですけどね!!

 

あ、そうそう

名前は父が命名

ミカと片方しか血が繋がっていないので、せめて名前でのつながりを補強した、っていう感じにしてあります

男子ではないので、ミカみたいに、公式ステラ・レネーゼ、非公式ミカヅキ・レネーゼ、って区別する必要もないため

アステ・レネーゼです

後継者以外は結婚とかで名前もまた変わっちゃいますしね…

その辺、煮詰めてないので、まあそんなもんにしてあります(;'∀')

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ミカの「女性嫌い」を形成するためだけに生み出されたキャラだけに未来の展望がないよ…

にほんブログ村 イラストブログ ゲームファンアートへ

にほんブログ村


天使御一行様

 

愁(ウレイ)
…愛称はウイ

天界から落っこちた、元ウォルロ村の守護天使。
旅の目的は、天界の救出でも女神の果実集めでもなく
ただひたすら!お師匠様探し!

魔法使い
得意技は
バックダンサー呼び

 

緋色(ヒイロ)
…愛称はヒロ

身一つで放浪する、善人の皮を2枚かぶった金の亡者。
究極に節約し、どんな小銭も見逃さない筋金入りの貧乏。
旅の目的は、腕試しでも名声上げでもなく、金稼ぎ。

武闘家
得意技は
ゴッドスマッシュ

 

三日月
(ミカヅキ)
…愛称はミカ

金持ちの道楽で、優雅に各地を放浪するおぼっちゃま。
各方面で人間関係を破綻させる俺様ぶりに半勘当状態。
旅の目的は、冒険でも宝の地図でもなく、人格修行。

戦士
得意技は
ギガスラッシュ

 

美桜(ミオウ)
…愛称はミオ

冒険者とは最も遠い生態でありながら、無謀に放浪。
臆病・内向・繊細、の3拍子揃った取扱注意物件。
旅の目的は、観光でも自分探しでもなく、まず世間慣れ。

僧侶
得意技は
オオカミアタック