ドラクエ9☆天使ツアーズ

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宴の後先

2016年11月15日 | ツアーズ SS

敷地のそこここで大がかりな宴が催されている最中に、その開催主の跡取りである若君がその中心を離れ、

人気のない庭の片隅にある護衛管理室で人目を忍んでいると発覚すれば、それを許している自分たちの処分は相当なものだろうな、と思う。

しかし、簡素なテーブルにつき、簡素な食器でためらいもなく出された茶を口にする、その姿を見ていれば、自分たちの処分がどれほどのものか、とも思うジュードだ。

「お口にあいますかどうか」

などと今更なセリフと共に差し出された熱い茶を口にして、「渋い、なんだこれは」と驚いている若君の傍についている若い護衛の二人がこちらを見る。

それを離れた所から(外の様子を警戒して入り口で)見守っていたジュードは、若君をどこにでもいる少年のように捉えていた。

「酔い覚ましですよ、我らは二日酔い防止に良く飲みますので」

と言った後に、ああ、と続ける。

「大丈夫、侯爵家の薬室から頂いているれっきとした薬湯です」

「そうか」

年配の御仁から宴のご酒に付き合い、酔いが回って自身を保てなくなっても、それを周囲に漏らすこともできない。

そんな教育を受け入れ実践するだけの人生はさぞや窮屈だろうな、と同情してしまっている自分がいるが、それも今夜の若君の変則な行動があってこそ。

強い酒に飲まれて、多少、自分を見失っているのだろうと考えれば、自分たち護衛が処分を受けるのと引き換えにしても、庇護してやらねば、と思う年齢だ。

まだ16,7の少年は、冷えた体を温めるために、酔いを醒ますために、顔をしかめて薬湯を飲む。

「苦行だ、お前らも付き合え」などと言っては、若い二人にも同様の茶を飲ませている様は、お坊ちゃまらしい傲岸さだが、憎めない。

ここに来るまでの道でのやり取りの為か。

「今日は、かなりご酒を過ごされたんですね」

というジュードの言葉に、いや、と一向に減らない薬湯をにらみながら、ミカヅキは思い返すように少し黙り込み。

「量で言えばそうでもないな。大体どれくらいの量で、どんな風に体が変調するかは訓練されているから、普段なら管理できるんだが」

最後に口にしたあれがきつかったな、と独り言のようにつぶやく。

その言葉には黙り込むしかない。

訓練か。この方にとっては、宴の華やかな酒席も、自分たちのような享楽的な酒盛りとはわけが違うのだ。

それは、若い二人にも同じ思いを抱かせたのだろう。率先して薬湯を用意したウォルターが、同情的にミカヅキを見る。

「いやあ、若様の宴って、大変なんですねえ」

もうこの際だから言葉遣い云々は置いておこう。ジュードも、上の方々に対する言葉をしつけられたわけではないので、正しく注意できるわけでもないし。

だがその感想は余りにも阿呆すぎないか。

いや俺も似たような事は思ったがさすがに口にはしてないぞ、とジュードは頭を抱える。

若い二人は、普段は雲の上の人である若君が気さくに相手をしてくれるのが嬉しいようだが、本来これはあってはならない事なんだぞ、と言ってやらねばならないか。

しかしそれを若君の前で言うのは気が咎める。あってはならない事だが、自分たちに気を許してくれているような若君の前で。

そんな葛藤を知るはずもなく、だがミカヅキもジュードとほぼ同じような反応を見せた。

あのなあ、と呆れて見せる。

隣のトリオスも、咎めるように肘でウォルターの体を突く。

だが続くミカヅキの言葉は意外だった。

「他人事のように言ってるが、俺とお前たちと、やってる事はそんなに変わりはないんだぞ」

ただ立ち位置が違うだけだ、と言われて、「えっ」と若い二人は素直に声に出しているが。ジュードもミカヅキの言葉には驚かされた。

そう考えたことはなかったな、と思う。

「お前たちは俺を守るための護衛だ。脅威から警護し、脅威と対峙し、脅威を退ける。それが任務だろう」

俺はそれを家と家でやってるだけだ。侯爵家を守るために、他家から警護し、他家と対峙し、他家を退ける。

そう語るミカヅキの言葉は揺らぎない。

「お前たちが警護のために戦闘訓練を受けるように、侯爵家を守るために学び、国に仕え、爵位を頂くんだ」

それは個々に課せられたものであり、そこに同情など必要ないのだ、と言う。

「お前たちは同情するのではなく、真実の目で見なくてはならない」

侯爵家に仕える者として、自分たちの頂きが進む将来が正しく望まれたものであるかどうかを、厳しく見定める。

それが下の立場を与えられた人間の役目であり、上の立場を与えられた人間はそれによって生かされている事を忘れてはならない。

「お前たちがいることで俺は侯爵としてあることができるんだ」

「えっ、そんな」

「逆だと思ってますよ、だって侯爵様がいて領地を守ってくれるから、そこで暮らしていけるんだって」

「それは、政だ。権力者が領土を統治しているというだけだ。そうじゃなくて」

お前たちが侯爵家に仕えるという意味だ、とミカヅキは二人を見る。

この場が、最年少者の言葉に支配されている。

「俺がたった一人で見知らぬ土地に出向いてみろ。誰からも敬意を払われないし、見向きもされないだろ」

「えっ、そんなことありますか?!」

「ある。実際、そうだ。だがそこにお前たちを連れていく。お前たちが俺に頭を下げ、道を譲り、恭しく仕える様子を見て」

ようやく見知らぬ人間が、あの人物は貴人なのか、という認識を受ける。

人なんて周囲の扱い一つで、どうとでもなる。

「俺はそれに生かされている。侯爵家に仕えるということは、侯爵家を支えるという事だ。多くの支えがあって、俺はその頂きに立つ」

それが、先ほどの言葉「立ち位置が違うだけでやる事は同じだ」と言ったミカヅキの真意につながるのか、とジュードは彼を見た。

若い二人も黙ってミカヅキを見ている。

「お前たちが足場を固めているから立っていられるんだ。そう心配するな」

と言い。

「あ、年端も行かないのは大目に見ろよ。そのうち向こうが老いればこちらが有利になる、くらいに思っておけ」

と、軽口をたたいて見せるのは、ウォルターが「大変ですねえ」などと言った嘆き節への返答か。

思わず失笑したジュードに、三人が揃ってこちらを見る。

「あ、いや」

決して、若君の講釈を笑ったわけではなく。

と前置きして、ジュードは、ミカヅキを憐れに思っていた自分を改めた。

「若君があまり屋敷におられない事を寂しく思っている者は多いと思いますが」

寂しく、というのは誤魔化しだ。まだ幼く頼りない、という目で見られている事はミカヅキ自身も重々承知の事だろう。

「若様は、そういった多くの事をご自身の力で学んでこられたのが解って」

嬉しかったんですよ、と言えば、他の二人も同時に頷いた。

「他の者たちも、この夜会での若様を見て、きっと誇らしいと思っているでしょう」

若君は化ける、と言っていた同僚の顔を思い出す。

多くの貴族たちの中で自分たちの主を誇る。それは臣下として当然の情だ。その情さえも越えた高みに、ミカヅキの振る舞いがあった。

その振る舞いを決定付けさせるのは、ミカヅキの侯爵家に懸ける使命であり、その使命を支えるのはお前たちだと言われたことが、何よりも尊い。

そんなジュードの思いを受けて、ミカヅキが微笑を見せる。

「そうか。なら、張り切った甲斐はあったな」

「え?」

「主として臣を喜ばせるのは、この上ない本望」

そう言って、ミカヅキは飲み干した茶器をテーブルに置いて立ち上った。

「残す賓客への挨拶も、それを励みにこなすとするか」

二人も慌てて立ち上がる。

「宴にお戻りになられますか」

「ああ、明日の事も考えて、時間的にあと4件は済ませておきたいからな」

上着を羽織り直しながらそんなことを言うミカヅキに、鏡を要求され、姿見のある壁際まで案内する。

「リフォルゼ家は今どなたも広間におられないな?」

「はい、おそらくは」

「うん」

鏡の前で格好を整えながら、挨拶の段取りでも考えているのだろう。

ウォルターに小屋の片づけを、トリオスに道の先導を指示しながら、あと4件か、とジュードも警護の範囲を想定していると。

「西の広間と、中庭にもう用はない。外していい」

と、身支度を整えたミカヅキが小屋の外に出る。

「あ、はい」

角灯に火を入れ直しているのを待つ間に、ミカヅキがジュードを見る。

「そう構えるな。着いてきていない時には、待ってやってるだろ」

その言葉の意味を考えて。

「えっ」

ジュードとトリオスは同時に声を上げていた。

「あ、もしかして、我らの事を気に掛けて下さっていたのですか」

「いつもなら二人のところ、今日は3人もついてるからな。何かあるのかと思ったが」

ただの新人教育だったか、と言われて、恐縮してしまう。

「いやあの、まさか、若様にご負担をおかけしているとは思わず、…不遜な真似をいたしまして」

「別に負担でも不遜でもないけどな」

灯りの入った角灯をトリオスから受け取り、笑ってみせる。

「まあ、新人教育でもないと、こんな場所まで足を延ばせなかっただろうしな」

付き合ってくれて助かった、と言われてしまってはかしこまるしかない。

「それから」と、並んで敬礼をとるジュードたちにかけられる声。

「さっきの薬湯な、館に届けておいてくれ」

「は」

「明日に備える」

「かしこまりました」

その声は、もうただの少年のような身軽さはなく。

「では、これまでだ」

従者の返事を待たず毅然とした背中を見せたミカヅキは、再び、あの宴へと戻っていく。

その背に従い、目を向ける。

宴の華やかさに目を眩ませられない様。

主の姿を真実の目で見る事だ。

 

 

 

 

 

 

「いいか、今夜の事は、一切の他言を禁じる」

ジュードは、ウォルターとトリオスを自室に呼び、そう言った。

「あ、はい」

「解りました」

そう素直にうなずいた二人に、なお、念を押す。

「屋敷外でもだ。友人や家族にも漏らすな。口をつぐんだまま、墓場まで持っていくんだ」

いいな、と言う厳しさに、二人はたじろいだようだ。

「どうしたんですか」

何がそこまで、と解っていない様子に、ジュードは少し、口調をやわらげた。

「あれは若様の戯れで済ます事は許されないだろうと思うからだ」

「そんな、戯れだなんて思っていませんよ!」

「そうですよ、俺たちなんかにあんな有難い言葉をくれて、深い話をして、奇跡ですよ!」

その反応にはため息が出る。

人が過ちを犯すのは、何も悪意ばかりではない。

むしろ、正しく清らかな心で、美しい善意から犯す過ちの方が手に負えないのだ。

この二人はまだ若く、それを実感するのはむつかしいだろう。

「勿論だ。若様にとって、あれは真実だ。それは俺も疑いようがない。酔った勢いとは違うだろう」

それを聞いたのが俺たちだけだ、というのがまずいんだ、と言えば二人も黙り込む。

「今日の事は、偶然に偶然が重なったようなもんだよな?上の方々が俺たちに気安くお喋りなんてしないからな」

それは二人にも解っている。

ジュードはもう一度頷いた。

言葉は人から人に伝わる事で独り歩きする。

自分たち3人が聞いた心からの言葉は正しくても、自分たちが誰かにその言葉を正しく伝えられるわけではない。

「俺たちは若様じゃないからな、若様のお心は知り様がない。表面的な言葉だけが伝わって、それを受け取る側が勝手に解釈するだろう」

そこでもう言葉の本意はゆがむ。

ゆがんだ言葉は人から人にゆがめられ、別ものとなって、やがてミカヅキを攻撃する武器にもなるだろう。

「若様が心を許してくれたからこそ、俺たちがそれをやってしまってはいけないんだよ」

解るか?と問えば、俯いていた二人が顔を上げ、ウォルターの方が、でも、と口を開いた。

「若様は旅に出てばかりで家をないがしろにしているとか、継承を軽く見ているとか、影でそう言う奴もいるじゃないですか」

「そうだな」

「ただの暇つぶしとか軽口とかなんだってのは、解るけど、でも軽々しくそんなことを言ってるのを聞くと、腹立ちますよ」

「まあそう思うのは、俺たちが今日、偶然若様の話を聞いたからだよな」

「そりゃそうなんですけど」

「そんな事全然ないのに、理解されてないなんて、若様が可哀想ですよ」

ここが歳の差だな、とジュードは苦笑する。

ミカヅキと歳が近い二人には、今夜の出来事のせいで「雲の上の人」から一気に「同世代で頑張ってる人」になってしまっている。

ミカヅキの言った言葉に感銘を受けても、それを自分の事のように捉えてしまっている。

同情するな、とミカヅキは言っていたのだが。

こいつらにはまだそこまでは難しいか、と考え、ミカヅキとこの二人の差を見てしまった事で、さらにミカヅキ本人の問題も浮き彫りになる。

ミカヅキの、生まれつき後継者教育を受けている器と中身の成熟度が揃わない事も今回の事を引き起こしたのだろう。

それを思えば、我が子を育てるのにも似たもどかしさにらしくもなく苦悩し、現侯爵もこうして頭を悩ませてるんだろうな、と思ったジュードは。

思わず、失笑する。

「隊長?」

「え?どうしたんです?」

訳が分からず身を乗り出す二人に、いやすまん、と謝りながら笑いをこらえる。

ミカヅキに同情している二人を前にどうしたものか、と悩みながら、自分は現侯爵に同情している。

人ってのは、どうしたってそういうものか、と可笑しさにひとしきり笑ってから、ジュードは二人に向き合った。

「確かにな、若様は他の後継の方がたに比べたら、一回り、二回りも違うんだから仕方ない」

けど今夜の宴で多くの人間は、他の方々と堂々とやりあってる若様を見ただろう?あれを見て少しは考えも変わるだろう?

「そう思わないか」

ジュードは言っておきながら、二人の答えを待たずに、口を開く。

「そうやって、若様がご自身の力で下の人間を抑えつけていかなければならない事なんだ」

まだ幼い。経験も実力も伴わない。それでも後継者であるという事。そう生まれてきた事こそが。

「若様に課せられた使命なんだよ」

誰の手を借りることなく、なさねばならない事。

他の人間が手を貸すという事は、その実、課せられた使命の邪魔をすることにしかならないのではないか。

「言ってみれば、お前たちが昇格試験を受ける時に、俺が甘い評価を付けて合格させるようなものだ」

「あ」

「過大評価で、お前、明日にもお館様の護衛役にでもなってみろ。お城に上がったり、王の御前に出たりするんだぞ」

そう大袈裟にからかって見せて。

「まあ、お前らもいずれはそうなる可能性を秘めた優秀な奴だと思っているから今日の要人護衛に抜擢したんだがな」

ジュードは改めて二人を見据える。

「俺は若様も十分に優秀な方だと思っている。必ず、ご自身の力でそれを果たされるだろう」

だから。

「若様も、正しく自分を見ていろ、と言ったんじゃないのか」

そこまで話して聞かせ、ようやく、二人も納得したようだ。

ジュードの目をまっすぐ見返して、黙って頷く。

新人教育は思った以上に大変だな、とジュードは肩の力を抜いて、背もたれに寄りかかった。伸びを一つ。

「俺はな、他にもいると思ってる。俺たちみたいに若様の言葉を聞いて、一生口をつぐんでる、って奴らが」

「えっ」

「誰が」

「そりゃあれだ、口つぐんでるんだから解らないだろうが。これはもう忠義心の闘いだ。黙っていられない奴から脱落、だな」

顔を見合わせる二人にちらりと笑い。

「まあ、そうは言ってもだな、腹に据えかねることもあるだろう。あんな若様を悪くいわれてはな」

だから、と姿勢を戻し、

「ついぶちまけたくなったら、俺に言いに来い」

ここがお前らの墓場だ、と己の胸を指して言ってやれば、二人そろって大袈裟にのけぞって見せる。

「い、言いませんよ、そんな脅されなくてもっ」

「そうですよ、信じてくださいよ隊長!」

「はあ?」

ああ。

全く。これが世代格差か。

せっかく大見得を切って格好つけてるんだから、びしっと決めさせろよな。

「ばーか、墓場までもってけ、って言っても何十年も黙ってられんだろうが。たまに愚痴吐くくらいなら俺が聞いてやる、って言ってんだよ」

それくらいはいいだろう、と言ってやれば、ウォルターとトリオスはしばらく固まっていたが、力を抜くように相好を崩した。

「なんだもう、隊長にぶっ殺されるのかと思いましたよ」

「解りにくいんですよ、隊長の話」

「なんだと、どこがだよ」

「あ、でも」

と、トリオスが話を遮る。

「隊長、近々退職する、っていう話だったじゃないですか」

「あ、そういえば!冒険者になるって」

ああアレな、とジュードは頭をかく。

「やめだ、やめ。若様のあんな言葉を聞かされちゃあな。一刻も早くお前ら新前を、若様の専門警護に任せられるように仕上げないといかんだろう」

気ままに冒険者に転身してる場合じゃない。

「ですよね!」

「ですよね、じゃねーよ。お前ら、気安いんだよ!」

「左様でございますね!隊長様!」

「あー、解った解った、お前らもしっかり励めよ。いつ若様からお呼びがかかっても良いように、上を目指せ」

「はい!」

「解りました!」

「解ったら明日に備えて寝ろ!明日は本祭りだ、今日よりずっと人も多く同線は複雑だぞ」

「お任せください!」

「俺ら隊長に大抜擢される優秀な人材なんで!」

まったく調子のいい奴らだ。

多少心配なところはあるが、まあ、初めての新人教育にしてはよく話を聞いてくれる方か、とジュードは一人苦笑し。

窓の外に見える月に、目をやる。

明日は観月の本祭だ。

一年で最も美しい月が天に上るといわれている。

きっと明日は、これまでのどの月よりも輝きを増すだろう。

「若様の晴れ舞台だ」

 

 

 

 

* * *

「うっげぇっ、なんだコレすンげえ渋いな!」

ヒロは、月見の宵祭を切り上げてきたミカが「酔い覚ましだ」と言って飲んでいる茶を、興味本位で口にして後悔する。

口の中がバシバシする、とミカを見れば、冷やしたおしぼりを両の瞼に当ててソファーにのけ反っていた。

「そんな飲まされてきたのか、適当に断ればいいのに」

「おいてめぇ若輩者がずうずうしくも我々と同列に立って調子こいてんじゃねーぞという、実質、つまらん洗礼だ、ぜってえ受けて立つ」

「おおう、この若様、口が悪いぞ…」

夜会とはいつもそんな感じで飲まされるのかと問えば、普段はお爺様の隣に控えているから無いな、と返って来る。

「今日はあいさつ回りでこちらから出向いていったから、向こうもそうとう面食らってたんだろ」

侯爵の庇護から離れた年少者に度を越した無茶ぶりをしてみたという所だろうな、と言って、ミカは低く笑った。

「俺が泣きを入れた所で大上段に説教でもすればいいかと軽く構えてたんだろうが、そうはさせるか!…っていう」

「熾烈な戦いだったわけな」

「うん」

「ミカは酔うと口が軽くなるよなあ」

「お前に言われたくないな」

「いや、俺はミカが色々喋ってくれるのは全然いいんだけど」

むしろそれを楽しんではいるけれど。

「何かやらかしてないかなあ、と思ってさ」

と、夜会での失態を心配してみたが。

ミカからの反応がないことに椅子から立ち上がり、ミカが目の上に乗せているおしぼりを持ち上げる。

そのまましばらく見ていると、ミカは寝入ってしまったようだった。

「あーあ…」

思わずため息。服も着替えず、ソファーに横になって、これは朝まで起きないんだろうな、と思う。

チビなら服を脱がせてベッドまで運んでやれるのだが、さすがに同体格のミカは無理だ。

壊れそうな装飾品だけはずしておいてやるか、とそれらに手を伸ばす。

…服は良い生地なんだろうけど、しわっしわになるだろうけど…まあ、いっぱいあるみたいだし、別にいいか、なんて思いながら

ミカがやらかした可能性を考えてみる。

この部屋に戻ってくるまで素面を装って耐えたというのだから、多分、致命的な失態という失態は犯していないだろうけれど。

(まあ、やらかしたっていうんなら、それはそれで)

間違いがあったなら正せばいい。

手を貸してくれと言われれば、手を貸すだけの事。

(だな)

ミカはこの夜会で初めて、祖父の庇護を出たのだ。

それは自分たちのためでもあり、自分たちの未来の為でもある。ミカと、それを取り囲むすべての環境が待つ未来。

それらを視野にいれて、自分たちは進んでいく。

何が間違いで、何を正せばいいかを学びなら。確実に進んでいくのだから。

今夜は。

「お疲れ」

言って、ベッドから上掛けを持ってきてかけてやる。

夜中にソファーから落ちてもいいように床にはクッションを大量に並べておいて。

ヒロは、部屋の灯りを消した。

 

 

 

 

 

 

 

sweet dreams

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