ドラクエ9☆天使ツアーズ

■DQ9ファンブログ■
オリジナルストーリー4コマ漫画を中心に更新中
時々ドラクエ風味ほかゲームプレイ漫画とかとか

年齢抗争5

2014年12月31日 | 2部 帰郷の章(ヒロ)

ヒロ 「やべえ立つ瀬がねえ~」

ミカ 「年上がどうこう言ってるのが、こっ恥ずかしくなるな…」

 

 

 

 

 

 

   

てことで、わりとみみっちい小競り合いは、ぶっちぎりでお子様コズミの優勝です!

ヒロたちが時間をかけて旅をした中で学んだことを、改めて年下に説教されるっていうね

ちょっと「青い鳥」的な話

 

 

で、なんとかキリがいいところで年をまたぐことができました!!

(やったぜ自分!)

皆さま、こんなゆるゆる(話も画も進行も)なブログに今年も遊びに来てくださって

本当にありがとうございました

正月三が日は大荒れの天気、という予報がありますが

つつがなく新年をお迎えできますよう、お祈り申し上げます

 

どうぞ良いお年を

 

 

 

 

 

 

 

 

↓今年も一年間ぽちぽちして下さったアナタはとっても徳がたまっておられますネのぽちっと♪

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年齢抗争4

2014年12月30日 | 2部 帰郷の章(ヒロ)

ヒロ 「俺も都会の人になっちゃったってことなー」

ミカ 「いやっ、そういう事よりお前…」

 

 

 

 

   

古い方言って、いつも身近に接していないと

聞き取れなくなるよねー

幼児語とかもねー

 

 

 

 

 

 

 

↓とは言え、ばあちゃん語は今テキトーに作りました、はぁ~えがえが~、なぽちっと♪

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年齢抗争1

2014年12月26日 | 2部 帰郷の章(ヒロ)

ヒロ 「あッ、俺が自分の歳正確に解らないのってコレのせいじゃ…」

ミカ 「いや明らかに、自分の年齢に興味がないお前のせいだ」

 

 

 

 

 

 

  

ついに禁断の年齢ネタぶっこんできたー!!

年末の繁忙期でやけくそか?!

 

ってわけでもないんですが(いや、自棄じゃないかといえば自棄ですけど)

ヒロの故郷編が年をまたぐ、とわかった以上、どうつなげても中途半端になるし

じゃあこれ復活させるか(中途半端になっても問題あるまい)、とゴミ箱から拾ってきた

小ネタです

ハイ、葬り去られるはずだった話です

 

私が誕生日とか決めるの苦手なので敢えてやらなくてもいいネタなんですが(汗)

ヒロとミカはお互いに、「絶対おれの方が年上だ!」と思っていて譲りません

じゃあ家に帰った時に確かめようぜ!っていう、普段からのやりとりがあって(あったんです、ええ我が脳内で)

からの~、今、ここ↓

女性に年齢きいちゃいけないのはお約束です

 

 

 

 

 

 

 

↓っていうか過去の記事に二人の年齢ばらしてたような気がしてきたぜ☆のにわとり脳にぽちっと♪

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めりくり!!

2014年12月25日 | ■うのじごと■

クリスマスプレゼント!ということで、ドラクエのジグソーパズルを貰っちゃいました♪

何を隠そう、ジグソー大好き人間なのでチョー嬉しいやら、

年末のこのいっそがしい時期にお預け状態でチョーもどかしいやら、ですが…

イブの昨夜にローソンのケーキと黄金チキンを食べて我が家のクリスマスは終了です!

 

あと年賀状やっと描き終わりました!!(遅筆にもほどがある)

 

で、気がつけばあと5日で今年が終わってしまうーうっそーん(;'▽')

ヒロの話は間に合わないなこりゃ…(気弱)

年をまたいでしまうことを詫び申しあげまして…(諦観)

 

開けてるし!!

 

ハイ、我慢できませんでした(;-_-)

このパズル、普通の一枚絵のジグソーと違って、モザイクアートパズルです

ドラクエのゲーム画面をつなぎ合わせて、冒頭のあのスライムドラキーゴーレムの絵になっているので

1ピースのなかに大体4枚くらいちっちゃい絵がつめつめされてて見てるだけで楽しいです!

とはいえ…

 

私、一応、ドラクエのナンバリングは1~10までやったはずなんですが…

 

もう記憶が、前世?!ってくらいおぼろげなので

色々なシーンを見ても、9と8しかわかりませんでした!!!

ちょっとどころじゃないくらい見難いですが、リッカちゃん&カマエル

その下はダーマ神殿のボスと戦う所、かな?

キャラメイク画面とか、戦闘画面とか、シナリオムービー画面とかあります

執念で探し出したヤンガス!!

8で私の愛という愛を嵐のごとくかっさらっていった人、ヤンガス!!

てことで9のお師匠様も探そうと頑張りましたが見つかりませんでした…

世界地図とか…

見ても、どこの地図かわからないことにショック!!

(…3?3ですか?)

 

てな感じのピースを色ごとに見極めて、はめ込んでいくんですが

作ってるし!!!

 

ハイ、我慢できませんでした2

とりあえず周囲をがっつり作ったところで、のっぴきならないくらいの障害があることに気づく!

 

老 眼 ! !

 

老眼やばいわー!全然見えないわー!!こわいわー!!

 

…もともと近視の上に軽く乱視、という目玉持ちだったんですが

最近この乱視がちょっと進行してるんじゃない?と思わないでもなかったんですよね…

スマホにしてから(汗)

それがもう乱視どころか老眼!眼鏡はずさないとピースの絵が全然見えねえ…っていう

ショック状態が思いのほか大ダメージで、周囲を組んだだけでストップしてます

 

普通の1000ピースなら20時間くらいあればできちゃうんですが

(ピースの紛失とか嫌なので、作り始めたら一気に最後までやる派)

これはなかなか手ごわい予感です

 

一応、モザイクアートジグソーはこれで2作目

1作目は数年前にガンダムを作ったんですよね

しかし私はガンダムを知らないので、はっきり言ってピースの上下さえもわからない

(だってやたらロボットが空飛んでるし何かが爆発してるし人が舞ってるし)

という状況でも、難なく、というか、ものすごく楽しく、バリバリ作成できたので

次はナウシカかラピュタでやりたい!

(これなら全シーンのセリフまで言えるぜ!)

とか思って色々モザイクアート系を探してたので

(モンハンがあったので買うかどうか迷ってた時期もあった)←いまいち柄がクッキリしてなくて残念

今回、ドラクエ!何よりも燃えたぎるドラクエ!!のモザイクアートきたーーーー!

というここ数日の抑えきれない情熱の炎は、老眼の前に完全消火されました

 

とりあえず年明けて冷静になってから再開したいと思います

(…いい老眼鏡ゲットできることを願って?)

 

とかいうクリスマスでした

 

 あ、おまけ

 

ドラクエ10、イベントエリア

(最近やっとwiiUになったので、画像が綺麗すぎて泣ける)

ににゃの家(なか)

ににゃの家(そと)

普段、おごそか区域なので近隣の雰囲気ぶち壊しにならないように家具とか庭具とかには

派手派手にならないように細心の注意を払っていますが(近隣住民見たことないけど)

クリスマスだけは!祭りだ祭りだー!ってことで、鬱憤を晴らすかのようにド派手さ!

たのしーですね、めりーくりすまーす♪ 

 

 

 

 

 

 

 

 

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セイラン

2014年12月11日 | ツアーズ小ネタ

お兄ちゃん大好きッ子、12~11歳…、小学生6年くらい?

小学生でここまで兄ちゃん兄ちゃん言うのもどうかと思いましたが…

(もう年齢は全キャラ出た時点で作り直す!!ので、大体そんなもんか、と感覚的な感じで…

兄ちゃんは普段出稼ぎで、一人で家族を養って豊富に物資を送ってくれて、たまに帰ってきたら

これでもかっていうほど甘やかしてくれて…、という間柄だからこそ、という兄弟です

SSでミカが希薄な関係なのに、という疑問を持ってましたがむしろ希薄な関係だから、と言えます

ヒロもそれは解っていて、あまり家に帰らないようにしている感じです

(多分家にずっといたら弟妹に構いすぎて、兄貴うぜえ!!って言われるのが目に見えていて、不安)

 

そういう兄を持つ、弟セイラン

漢字で書くと青藍、色辞典ではインディゴと同じですね

先のSSにもあったように、最初はベニヒ(紅緋)って名前を付けてたんですが(私が)

(愛称はベニちゃん=母の愛称と一緒、だから誰かが呼ぶと二人が返事する、っていう小ネタもあった)

色々家族の設定を作り上げていると、ヒロがこの名前を良しとしないだろうな、という気になってきて、

再び、色辞典とにらめっこして、つけなおしました

(勿論そのエピソードは無駄なくSSのネタに使うぬかりのなさよ)

 

そういうセイランに関するSSを今回御披露するにあたって、ヒロとミカの視点にしたのは

テーマを「後人は先人をぶちのめすのが花、先人は後人に倒されてからが花」に、したかったからなんですが

ここでぶちまけたいことが一つ

 

いつもいつもタイトルを決めるのに苦悩しまくって最後の最後にヤケクソで付けるのですが

今回はセイランの名前、青藍で、そういえば「藍より青し」って言葉があったよな、とふと浮かび

それってなんだっけな、とネットで調べました(いやもう色々不勉強で恐れ入ります)

そうしたらばがに!いや、そうしたらば!たらば。

「青は藍より出でて、藍より青し」

という一文であることが判明(いやもう色々不勉強で2)

意味を簡単に記すと、弟子が師匠の技量を超えることのたとえ、ということでして

 

カ ミ キ タ コ レ ー !!!

 

状態になったのは言うまでもありませんがな!

なにげなーく付けた名前が、こんなところにつながってた!先見?!先見の明?

ヒロ(本編の名付け親)お前すげーな!ていうか、そもそもの名付け親は私だから、私すげえな?!

と感動して、そのまま勢いで今回のSSのタイトルになりました

(内容に分不相応な気がしないでもない焦り)

たまにこういう神のいたずら的な何かが起こるとハイテンショーン!で誰かに聞いてほしくなります

いやホント聞いてくれてありがとうございます(笑)

え?その故事を意図してセイランってつけたんじゃないの?という方にはすみません

(色々と不勉強で3)

 

えーと、だからセイランに関しては余り語ることがないんですが

(もうSSで出したまま、見たとおりの子なので)

この後、エルシオン学院に入学します

エルシオン関係では、ヒロ達の特待生編と、番外編みたいな感じでセイランの学生編がありますよ

ありますよ、なんですがとりあえず師走も半ば、ということでちょっと更新が鈍るかもしれません

鈍りつつも

年内にはヒロの故郷編を終わらせるぞ!(願望)

で、

年明けから新たにミオちゃん編を始めるぞ!というのが今のところの目論見です

そうですね、とりあえず今から年賀状描いてきます

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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青は藍より出でて2

2014年12月09日 | ツアーズ SS

目の前の子どもに、嫌いじゃないけど好きじゃないです、と告白された。

 

それはミカにとって、腹を割ってうちとけてくれたらしい、という認識でしかなかったが。

(別にまあ、大人げなく、俺は嫌いだな、とかいう感情が湧くでもなく)

「貴方はひい兄のことどう思っているんですか」

と、こちらにも「だからお前も腹を割りやがれ」と無遠慮に切り込んでこられては、それなりに身構える。

なんというか。

もう、その質問自体が子供だ。

そう問えば、相手から真実の答えが返ってくると思っているところとか。

返答次第じゃ、もっと嫌いになりそうだな、とあからさまに匂わせているところとか。

大人と対等に渡り合えていると信じて疑わないところとか。

(めんどくせえ)

と、宙を仰ぎ、苦い物を感じる。

かつての自分、子供であった自分が、セイランに重なるのはどうしてなのか。

考えれば考えるほど、あまり面白くない結果を導き出しそうで、それからは目をそらすことにする。

なにしろ、至近距離で凝視してくる子供から目をそらせそうもないので、まず片付ける問題はこちらだ。

セイランを見、その視界に映ったもの、ふと視線をそれにやる。

数式の書きこまれた紙。

使う前に一応、何が書いてあるのか、と確認したが、建築の図面のようだった。走り書きと、書き損じの様。

だからまあ本当にいらない紙なのだろうとふんで、セイランの勉強の書付につかったわけだが。

「それを、ヒロがお前にくれただろう」

と、セイランにも注意を促す。これ?とセイランが、広げた用紙を手にとる。

そういう手際の良さ。相手のことを思いやって、気を配ることができる細やかさ。

そういうところ、だ。

「ヒロには俺には到底、及ばない徳がある。それは無条件で尊敬している」

ミカがそう答えたものの、セイランには少し難しすぎたのか、何度か瞬きをして不可解そうにする。

ヒロから当たり前に受けている恩恵には気づきにくいのかもしれないな、と思いなおし、

裏を見ろ、と指示する。黙ってそれに従うセイランが、図面に気付く。

「それを理解して、物資を用立てて、実際に建築できるとか」

あいつは学校なんかに行くより、一人で何でもできるだろ、と言ってやれば。

その用紙をぎゅっと握りしめて、目を潤ませ、頬を紅潮させる。

「そーです!ひい兄はすごくすごくすごいんです!」

と、嬉しそうに笑う。

(単純すぎる…)

それまで、ミカに懐柔されまいと懸命に突っぱねていた子供が、たったこれだけでこのありさまだ。

その歓喜を見ているだけで、セイランの抱える問題は正にも負にも転がるのだと解った。

ならば。

「お前の兄は学校へ入る必要がないほどに、生きていく上で優秀だということだ」

そう言ってやれば、セイランは高揚したまま、力強くうなずいた。

まあこれでヒロの威厳も保たれるだろう、というミカなりの気遣いと、ヒロからの依頼を完成させるために。

「お前はそれに及ばないから、学校へ行くべきなんだ」

そのミカの言葉に、学校、とセイランがつぶやいた。

「確かにお前の学力は高い。だが、ヒロの手に負えない問題を100解けたとしても」

今のヒロを超えることはできない。

「たったそれだけで超えたと思っていることがおこがましい」

だからお前は子供なんだ、と仲間にはおなじみの辛辣なもの言いをとがめる者がここにはいない。

それでも、言われた内容はセイランにとって重みを持つのだろう。

じっと、ミカの言葉を頭の中で考え、自分なりに理解したようだ。

「だから、ひい兄も学校に行かせたがってるっていうこと?」

「そうだな」

「ひい兄を超える為に?」

「ああ」

「弟が兄を超えることが良いっていうことですか?」

そうだな、その感覚はまだセイランには難しいだろうな、と考え。

兄を超えてしまったこと、には異論を唱えて済んだこととして、自分が越えられない人、の話に移行する。

「俺のことを超えたいんじゃなかったのか」

「え?」

「ヒロの代わりに俺を倒すんだろ、お前は」

そう言ってやれば、俄然、就学することへの意欲をそそられたらしい。

身を乗り出して、くいついてくる。

「学校に行けば超えられるんですか」

貴方の事も?と言われ、ミカ自身が誘導したこととはいえ、それにはちょっと気分を害す。

「そう簡単に超えられるか」

との返答に今度はセイランが気分を害する。

これではまとまるものもまとまらない、と気づき。仕方がないので、大人である自分の方が譲るべきか。

「可能性はある」

セイランを説得する役目は自分には向かない、と、事前にヒロに言い置いていたというのに、

何故かここにきて、積極的に説得する流れになっているのはどういうことか。

そんなミカの困惑を知るはずもなく、セイランが俯く。

「じゃあ、行きます」

その不安そうな声で、つい今しがたまで、セイランに自分の幼き姿を重ねていた事を考える。

どうして、自分の幼少を思い出したのか。

そう考えれば、自分も学校へ入ったのは、このくらいの歳だった、と気づいた。

大人たちに囲まれ、正当な後継者としての教育を受け、世のしくみを叩きこまれてから入学したそこは

大人の介入がない子供たちだけの社会だった。

大人社会の構成を教えられた自分には、子供としてただ無邪気にそこに溶け込むことができなかったが、

セイランは違う。何もない、まっさらの素材としての強み。

この狭い世界から、家族という小さな囲みから抜け出し、純粋に子供社会へ解き放たれる。

セイランがそこに飛び込むことは、自分とはまた違う意味合いがあるのだろう。

それを知りたくもあり、その未来を生み出したくもある。

(ああ、これが)

ヒロの言っていた、「自分が選ばなかった将来への希望」ということか。

先に生まれた者が、後から追いかけてくる者に、「超えていけ」と願う真意。

後から来た者に倒されなければ、先を行くものは自分を超えることができない。

「不安か」

「え?」

理解した。人として、当然の渇望として、理解できたと思う。だからこそ。

「お前が望むなら、俺が後ろ盾になってやってもいい」

「後ろ盾?」

「エルシオンは世界の学部の権威だ。辺境から一人身で飛びこんで肩身が狭いこともあるだろう」

ミカの指摘する世界のありように、セイランは少し首をかしげた。

「田舎者だから、いじめられるってことですか」

なるほど、そういうことは想像できるらしい。

「あと、貧乏だから?お金ないから、お金持ちの貴方に頼れ、ってことですよね」

子供なりに出した幼稚さは否めないが、それなりに的を射て、どうしてなかなか、というところか。

そう感心してみせれば、本をいっぱい読みました、という。

本ばかりで実際の世界を知らない子供は、でも、とミカを見上げる。

「僕の後ろ盾になっても、貴方は得しないんじゃないですか?」

そういうのって、もっと武功とか手柄とか取れる人につくものじゃないですか?という疑問に、

ミカは知らず、苦笑する。

良くできたお子様だが、やはりお子様だ。口にすることすべてが。

「そうだな、だからお前は一刻も早く、就学しろ」

いいだろう、ここからは利権の話だ。

「俺がお前の後ろ盾に名乗りを上げるのは、お前がヒロの弟だからだ」

「ひい兄の」

「ヒロには一目置いている。俺が見込んだ男の弟なら、それなりに未来があるだろうと思う」

先行投資だ、と言いおいて。

「それが、ひとつ」

そうして、指を立てる。

「先にも言ったが、エルシオンは学部の権威だ。そこに、俺の家の名前を売り込む」

一国で名高い貴族の名を、学院の内部へと刻み込むことでそこに介入する機会を見出す。

外つ国と関係を持ち、つながりを強くするための伝手。

そうして国外に権力を置くことで、王室にも貢献するための地脈となる、それがひとつ。

「そうして外国の権威とつながりを持つことで、国内での侯爵家の基盤を強化する」

国内の貴族間の水面下での抗争は、一瞬でも気を抜けない日常だ。

均衡が崩れぬよう、どの家が力を増したとしてもそれらを圧し、抑え込まなくてはならない。

国内の安定、外からの目、それこそが繁栄の確約。

「それが、ひとつ」

三本立てられた指に呆気にとられ、何かを申し立てる気力もなさそうな様子に、ちらりと笑い。

「お前一人の入学で、一国を左右するほどの権力が後ろ盾になるんだ」

世界は。

そんな風に、複雑に絡み合い、うごめき、刻一刻と変動している生き物だ。

「そこに身一つで立ち向かう為に、お前には何がある?」

この3本の指に見合うだけものを、セイランは手にすることができる。

可能性という名の未来。

「僕に、あるもの?」

「ああ」

ミカにとって、この3本の柱は、本音をいえばどうでもいいことだ。

先行投資も、外国の権威の掌握も、国内での爵位の基盤も、複雑な世界なんてどうでもいい。

ただ、ヒロが助けてくれと言い、それに力を貸したいと思っただけだということを、

今のセイランに言って、心から理解を得られるとも思えないから言うつもりもない。

だから。

ミカを真実動かしたのは、ただ友人であるから、というそれだけのこと。

たったそれだけの単純な世界がある事を。

「お前の誇りはなんだ?」

その決意ひとつで、見てくればいい。

そうすれば、きっとセイランにも解ることがあるだろう。

ミカの示す三本の利権の柱を見据え、セイランは、用紙を握ったままの手を、さらにきつく握りこんだ。

「僕は、兄が誇りです!」

その答えに。

セイランは、あの場所で戦えることを確信するミカ。

「いいだろう、合格だ」

後ろ盾になってやるよ、と、一国の権力に言わしめた小さな子供の運命は。

今、動き始めた。

 

 

 

* * *

 

 

 

「ひい兄は、ミカさんの何が好きなの」

様子を見に来たヒロに、開口一番、「学校へ行く!」と宣言したセイランの、次なるは問いかけ。

何が好きなのと問われた本人を隣に座ったヒロが、ええ?とミカに視線をよこす。

何この流れ、という困惑に、知らねえよ、と目線を返すミカを見て、うん、とセイランに向き合う。

「けんかしてもすぐ仲直りするところかな」

 

な ん じ ゃ そ り ゃ ー !!

 

とは、ミカの脳内絶叫。

そんなとこかよ!!と二の句が継げない。

いや、別に何を期待していたわけでもないが。特に期待するような、自惚れがあるわけでもないが。

それにしたって、それかよ!という思いが拭い去れないまま、セイランを見やると。

「うわぁ、そーかー、へー、そーなんだー」

なんてはしゃいだ声を出しながら、何度もうなずいている。

え?いいのか、それで。そんなことで納得できる程度の話か。ていうか納得されたらこっちが納得できん!!

と、ミカが一人で葛藤していると、あ、とセイランがミカを見る。

「僕ミカさんのこと好きじゃないって言っても怒らなかった」

「おいおい、そんな事言うとか、…刺されるぞ」

すぐ仲直りするところ、といった口でそれを言うか。

思いっきり冷やかにヒロをにらみつければ、まあまあ、なんてあいまいになだめてくる。

何が、まあまあ、なのか。

そんな男二人の無言の応酬など子供に解るわけもなく、セイランはヒロにべったりだ。

何言ってんだ、セイがミカに懐いてるから兄ちゃんだって寂しかったんだぞ、と聞かされてからずっと。

「ひい兄は、この図面で家建てられるからスゴイって褒めてた」

「ああ、これな」

セイも学校行けばすぐできるようになるよ、と何でもないことのようにかわす。

人がせっかく持ち上げてやったというのに、この野郎。

「でもひい兄は学校行ってなくても出来るって」

「まあな、兄ちゃんは学校に行かない分野のことなら大体、そこそこやれる」

「なんで?」

「学校に行ってないからな」

「学校に行ってないから出来る?」

「うん、学校に行かないことはな、学校に行かなくてもできるもんだ」

「へええええ」

あほか。

あほの会話か。

と、脱力していると、だからな、とヒロの声が真剣味を帯びる。

「兄ちゃんそっちで手が一杯だから、セイの勉強見てやれねえんだよ」

その言葉に、セイランが出す答えを、ミカも人ごとでもなく見守る事になる。

この数日で、こんなにも関わりが深くなるとは思わなかった存在。

セイランはヒロの言葉を考え、少し黙りこんでから、いいよ、と言った。

「ひい兄は、手が一杯だから学校に行かないんでしょ」

「うん、そうだな」

「だから、僕が代わりに学校行って頑張るよ」

そうしたらひい兄の手助けになるでしょ、と胸を張って、答える。

「そーか、セイは兄ちゃんの手伝いをしてくれるかー」

「うん」

そう言った顔は誇らしげだ。

「いや、セイはセイの好きなことやってくれていいんだけどな」

そう言いかけるヒロに、別にいいんじゃないか、とミカが声をかける。

「お前のことが好きで、お前の役に立ちたいっていう、好きなことをやるわけだから」

「え?そうか?」

それが、近衛を反逆で飛び出した俺の見解だ、とミカが言えば、ヒロが得たり、というように黙る。

一人親元を離れ、遠い異国の地で勤勉に励むには、それを支える誇りがひとつあればいい。

「それが力になる」

だから安心して世界に出せばいい、そのミカの意見を、ヒロはしっかりと受け止める。

「うん、ミカがそういうならそうかな」

「今は何もないからそう言ってはいても、そのうち自分で自分の道を見つけるだろ」

セイランの今はヒロの存在だけで一杯だ。

自由を知らない子に自由にやれとも言えない、そう言っていたのはヒロ自身ではなかったか。

「まずは世界を知ってから、それからでも言ってやればいいんじゃないか」

セイランが自分の進むべき道を選択するときに、この村が、兄の存在が、足かせであると思うほど

自由を切望した時に。

初めて、自由と言う言葉が重要性を持つ。

「なるほど、ミカがいうと重みが違うな」

「お前なあ」

「いや、真剣、真剣。俺には自由しかなかったからさ」

と、ヒロがこれまでの道のりを振り返る。

村を離れることも商隊を出ることも、どこへいこうともそれを制限するものは何もなかった。

それに不安を覚える事もなく、当然のこととして世界をめぐり、正反対の道のりを歩んできたミカと出会った。

「ああ、そうか」

自由と束縛。反する世界に属するものとして、対立することなく同じ地点に立った。

そうしてきたからこそ、今がある。

「どうなるかなんてわかんねーもんだな」

「そうだな」

自分より年上の会話を頭上で聞いて、それにどう口をはさめばいいのか、と二人の顔を見比べている、小さな存在。

それを見て、ヒロが笑った。

「よし、じゃ、ちょっくら行って見てみるか、世界!」

そう言って、何かを言いかけたセイランを抱え立ち上がり、何、何、と驚くセイを家の外に出す。

「母ちゃんに言って来い、まずセイが母ちゃんを説得しないとだなー」

「今?」

「今、今。兄ちゃんがいる間にな」

今のうちなら兄ちゃんが援護してやれるだろ、と、水場の方を指さして、行けと身振りする。

「母ちゃん反対するかな」

「反対はしないだろうけど心配はするだろ。安心させてやらないとさ」

それが息子の勤めってもんだ、なんて説明するヒロの声に、セイランの声が重なる。

「ミカさんに後ろ盾になってやるって言われた」

だから大丈夫、と報告している。

「え、まじか!すげえ、そりゃ確かに最強だ、それも言ってこい」

やったな、と手を打ち合わせている兄弟の後に続いて、ミカも外に出る。

何もない村だ。

標高が高すぎて、木さえも生えない。

それでも、この場所に立ち、関わりあいになっていくことは素晴らしく貴重だと思えた。

行ってくる、とセイランが家の向こうへと駆けていくのを見送る背中に、声をかける。

「つまりこいつら全員、俺たちが選ばなかった未来の象徴ってことだろ」

母屋の周りに集う子供たち、その遊び声。

それらを見やりながら、ヒロが笑う。

「な?世話焼きたくなるだろ」

「まあ、お前のはどう考えても行きすぎだが」

「ミカの後ろ盾、ってのも結構な過干渉だと思うけどな」

「いや、あれは…」

と言いかけ、特に本人に言うべきことでもないか、と口を閉ざす。

「あれは?」

「あれは」

言い淀んだミカを珍しそうに眺めるヒロを見て、咳払いをひとつ。

「先行投資だ」

「おいー!だからなんでそう俺の貴重な人材を引き抜こう引き抜こうとするかな!」

「お前が、弟には好きにさせるって言ってただろ」

「だからって、今の内に根回しするとか汚ねえ…」

「汚いやり口が俺の十八番だ」

「うわっ、開き直ってるし」

いいよいいよ、俺は太陽のように温厚な仁徳でもって、ぬくもりを与える慈善事業に徹するよ、なんて言う背中に。

「…自分で言うな」

と、呆れた一声をかけておいた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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コメントにお返事のコーナー

■Unknownサン

初めましてですね、コメントアリガトウです

書いてる方としてもミカとヒロのSSは安定の軽快さなのでついやりすぎてしまうほどです(笑)

そして王様ヒロ&大臣ミカの将来像、ままごとで終わらせてしまわないためにも

何が何でもここまでは書いておかなくては!という、数年越しに果たせた執念のSSだったので

そんな風に反応してもらえると、嬉しくてベランダから羽ばたきそうです!!

ミカとヒロはおじいちゃんになっても、縁側で将棋指しつつ、こんなしょうもない言いあいばっかりしてると思います

そんな二人を楽しんでいただいて、ありがとうございました


青は藍より出でて1

2014年12月08日 | ツアーズ SS

「僕の名前は、兄がつけてくれたんです」

そう言った小さな子供は、それだけが持てるべき誇りのすべてであるかのように、

この自分に挑んできた。

だからこそ、手加減なしで相対することが礼儀だと思った。

まだ学校という社会も知らない小さな頭脳に、数学者たちの至高である研究機関で議題されるような難問を、

これでもかと繰り出してやった。

結果。

この数日をかけて、「数の学問」という手段で築かれた信頼関係は、あっさり崩壊した。

潤んだ大きな目がにっくき敵に最大限の恨みをこめるようになったのを見てようやく。

(しまった、やりすぎた)

と、自分の手違いに気付いたミカは、その兄に救いを求めた。

 

 

 

* * *

 

 

 

「え?別にいいだろ、それは」

「あほかあ!良くねえからお前がなんとかしろ、って話をしてんだよ!」

とても人に救いを求めているとは思えないほどの高圧的態度にも慣れたもので、ヒロは一向に気にしない。

ミカの態度にも、…その話の内容にも。

「書物にない数学に触れられて、良い機会じゃん?」

そう、この事態を真剣に理解しようとしてくれないヒロは、厠として建てられた建築物の手直しとやらをやっている。

相変わらず小さい子供たちがまとわりついて遊びの延長のようにもなっているが、何かしらの図面を広げていて本格的だ。

それにかかりきりで、ミカの訴えを真剣に取り合ってくれないことも腹が立つ一因。

「その段階をとっくに過ぎた、って言ってるだろ!」

そうだ、最初はまだ良かった。

「仲良くやってたじゃん」

「初めはな」

ヒロに、勉強を見てやってくれ、といわれた、件の弟とともに過ごした数日はと言えば。

最初、古い本を持ってくるので、一緒に問題を解いてやってあれこれ指導していれば、妙に尊敬された。

翌日からは、どうやら数学が一番得意分野らしいと解ったので、本の内容を一通り終えてしまってからは、

それらの応用を示してやった。

それにもきちんとついてくるので、さらに翌日からは高度な数式をいくつか教えてやり、専門的な分野に入り込んだ。

が。

一気に反発された。

「反発?」

「解らない、やりたくない、とかじゃなくて」

ひい兄だって学校に行けば貴方よりずっとずっと賢いです。

ヒロの弟、セイランは突然何の脈絡もなく、そう言って黙り込んだ。

それから夕飯、就寝で勉強はお開きになったが、翌朝になって、朝食後の今でもミカには近づいてこない。

ちょうどその反発を見ていたウイが、

「お兄ちゃんのこと大好きすぎて、ミカちゃんのすごさを認められないんだよ」

と、説明してくれた。

セイランの中では、ヒロの低学力、ミカの高学力、という図を嫌でも認識させられて、我慢できないのだろう、という。

「そもそも、初めにお前が、手に負えねえとかいうから」

兄の威厳が地に落ちたぞ、いいのか。

そう言えば、何の問題もない、と言わんばかりにヒロが笑う。

「そんなの、これから何度も経験していかないといけないことだよ」

弟にとって自慢の兄で、あこがれで、絶対的な崇拝の対象であるヒロは、それを仕方がないという。

「いつまでも理想ばっかりの姿を追ってて、俺の真の姿を知らない、っていうのもなあ」

村の外に出てしまえば無理がある、と続ける。

世界を股にかけ、膨大な情報と物資とを村にもたらし、幼少の英雄説が知られている兄の姿を、

セイランの勝手な虚構であるという風にヒロは語るけれど。

「またお決まりのの謙遜か?」

そんなに自分の価値を下に置かなくてもいいと思うが、と呆れかえってミカが縁台に腰掛けると、

その框を補強する作業を続けながら、ヒロが苦笑する。

「そういうんでもないけどさ、理想と現実が違うなんてことは、ごろごろしてるわけじゃん」

そんなことにいちいちへこたれて、逆切れしてたって、きりがない。

むしろそれをちゃんと自身で受け止めていけるようならなければ、強く生きることもできない。

「俺が、セイに出ていけ、っていうのはそういう世界だからさ」

俺の威厳が地に落ちるくらい、セイの為になるならどうってことはないよ。

そんなヒロの話を聞いていると、向こうにその当人の姿が見えた。

石版を抱えてうろうろしていたが、こちらに気づいて、小走りに近づいてくる。

「よ、セイ、どうした?」

今までの話がなかったように、くったくなくヒロが話しかければ、頬を紅潮させてセイが口を開く。

「解けた!解けたと思う、から、えっと、…見てください」

開口一番、興奮したようにヒロに報告して、それからミカを振り返って石版を構える。

えっと、とそこに書かれた文字から解を導こうとするように逡巡するセイランの様子に、ヒロが気づく。

「そっか、もう石版じゃおいつかないんだな」

その言葉の意味が、初め、ミカもセイランも解らなかったが。

ちょっと待ってろ、といったヒロが厠の中に入り、これ使え、と折りたたんだ大きな紙を持ってきた。

そうだ。数式は複雑になり、二つの石版を駆使しながら解をやりとりしていた。

もう、そこに書き込めないほどの情報量を脳で処理しながらの勉強であることが、ヒロには解ったらしい。

「それ、もういらない紙だから。ほら、裏面使えるだろ」

と言い、家の広いとこでやりな、と言う。

そのヒロの好意を受けてセイランは大きくうなずき、ミカに、家の中にいきます、と声をかける。

それに否応もなく、先に行くセイランに続いてミカもその場を離れると、しっかりな~、とヒロの声。

はたして、セイランへの激励か、ミカへの後援か。

 

 

* * *

 

 

午前中は大概人が出払って家の中には誰もいない。

その静かな空間に、数式の解を説明するセイランの声が延々と続き、それに聞き入る。

時々詰まりながらも、ここ数日でミカの指摘したことはすべて吸収し、理解しているのが解る。

それでも。

「どうですか?」

と、一気に何十列もある数式を説明しきって高揚したセイランには言いにくいことだったが。

「違うな」

そう、一言で終わらせる。

それを聞いて、高揚していたものは一瞬で冷え、そうですか、とセイランは俯いた。

酷く落胆しているようだが、ミカは逆に興起したと言ってもいい。

セイランが説明の為に書きつけた紙を幾度も見返し、そこに至った思考をなぞってみて解る。

「ここまでやれるとは思わなかった」

知らずそう口にすれば、セイランが顔を上げる。

「でも間違っているんでしょう?」

「そうだな」

「じゃあ、何の意味もないじゃないですか」

そう言って、再び俯く姿があまりにも小さい事に改めて気づく。

ここ数日をともに過ごした時間、数式以外でセイランの口から出てくることはヒロの事ばかりだった。

ヒロが自分にどれだけの恵みを与えてくれるか、どんな存在か、その功績、絆、思い出、羨望。

セイランの成長すべてにヒロが関わってあり、実際、ヒロが旅先から送ってくるという書物にも、

ヒロの明確な意思が見て取れた。

何がセイランにとって必要で、何が不要か、ちゃんとヒロ自身が内容を把握し、選別しているのだと解った。

そういう兄弟に、今、外側から関わっている自分の存在。

それらを見て、判断してくれといったヒロの頼みが、ようやく現実味を帯びる。

「この数式には、すでに最新の公式が出ている」

「え?」

「だが、お前にはそれを教えなかった」

敢えて、という言葉の意味を感じとって、セイランが恨めしそうに下からミカをにらんでくる。

「意地悪して楽しいですか」

その物言いは子供そのもので、普段、子供と関わる機会のないミカにはひどく新鮮だ。

頭脳で理知的に渡り合えるかと思えば、感情むきだしで対人面での未発達さを際立たせる。

その均衡の危うさが、ヒロには外に出すべきか否かの迷いとしてあるのだろう。

それでも。

いや、それだからこそ。

「世界に出るべきだ」

それが、ミカの判断だった。

 

 

* * *

 

 

何を言われたのか解らなくても当然だな、と、目の前の子どもの呆気にとられた顔を見て、反省する。

小さい子にはやさしく、と初日にウイが言っていた事をミカなりに守っていたつもりだが。

優しく、ではなく、易しく、とウイは言っていたのか。

子供には大人並みの頭脳がある。だが、大人並みの経験がない。

理系としてどんな高度な数式を解けても、それを超えるような文系の部分が追いつかない。

知恵とは経験を積んでこそ蓄えられていくものであるからこそ、セイランにはそれが必要に思える。

「ヒロに、お前が学院に入学してやっていけるかどうか、見てやってくれと頼まれたんだ」

自分もハッキリいって理系脳だ。事の始まりから順を追って説明する。

「だから来た」

と言えば、セイランも、ひい兄が?、と姿勢をただし、ミカと向き合う。

話を聞いてくれる気になったようだ、と判断し、その先を話して聞かせる。

「ヒロは、学力は問題ないと言っていた。俺もそう思う」

入学試験に通るかどうかなら、ミカの目という判断材料は不要だっただろう。

ヒロの頼みを意識していたかどうかは明確ではないが、この高度な問題に踏み込んだ真意は。

「お前なら、公式さえ理解すればそれなりに解に近付けただろうと思うが」

と、セイランの書きつけた用紙を指ししめす。

「公式を教えなかったのは、学力を見るためじゃない」

ミカの言葉を、真摯に聞くセイランの。

「思考する力があるかどうかを知るためだ」

難問に取り組む姿勢、その過程、そして結果。

一度、反発してそれでもミカの元に戻ってきた。動機はどうあれ、やり遂げようとした事は評価できる。

そして、自力で考えぬいた式を誇りに思っていい。

「数式がある。そして公式を説明する。その通りに解いて、解けたとして、それはただの作業だ」

「作業?」

「決められた手順どおりに答えを出す、という、作業だな」

それをさせず、セイランの自由に答えを求めさせた。

ヒロの教えと、書物から得た知識だけを武器に、高度な難問に挑んだ。

「答えは間違っているが、考え方としては悪くない」

いや。

「俺の想定していた水準を、はるかに超えていて驚かされた」

考える、ということ。

身の回りにあるすべて、取り巻く現象、起こりうる事態、それらに相対するとき、人は何故なのかと考える。

考えて、行動する。

物事には、原因と結果だけにとどまらず、そこに予測と、判断、そして選択という人としての営みが必要だ。

そのために、考える力がある。

考えることさえできれば、見知らぬ世界へ飛び込んだとしても、万事立ち向かえるだろう。

意味がない、とセイランはいったが、それも大きな間違いだ。

意味はあった。とても重要な意味が。

学力の高さではない、思考力の高さを持ち合わせることがどの社会においても生き抜く条件だ。

そう説明してやったが、セイランは今一つ解っていないようなので単純に言いそえる。

「だから、解は違っているが、試練には合格だ」

それでもまだミカの言いたいことをつかみきれなくて困惑している小さい子に。

「お前は、この俺の出した試験に勝った、ってことだ」

そう言ってやれば、かたくなにこわばっていたセイランの頬が緩んだ。

兄の事が大好きな、ただの子供の笑顔だった。

 

 

* * *

 

 

セイランとミカの二人きりの授業は、三日ほど。 

その間、兄の事ばかり話すので、何がそんなに好きなんだ、と思わず言ってしまったことがある。

ミカとしては純粋に、ただの疑問だっただけで

(何しろほぼ出稼ぎで家にいない、やりとりは手紙か物資、という希薄そうな兄弟関係であるわけで)

特にセイランの兄貴像をけなしたつもりはなかったが。

その時。

「僕の名前は、兄がつけてくれたんです」

と返ってきて、え?それが?と、ますますミカは怪訝になったものだ。

その反応を不満に思ったのか、セイランは字を書く手を止めて、話をはじめた。

「僕が生まれた時、ひい兄、行方不明になってて」

「ああ、知ってる」

「それに、僕もすごく病気がちで育たないんじゃないかって言われてたらしくて」

そう話し出すセイランは、確かに細身でよわよわしい印象を受ける。

(だが村全体が裕福に肥えているというわけでもないので、今のセイランが標準なのかそれ以下なのか、

ミカには判断しかねるが)

「だから、僕の名前、最初は、ベニヒってつけられてたって…」

「ベニヒ?」

「母親の名前を一字もらうとその生命力をもらえる、っていう俗信があって」

「へえ」

「あと、ひい兄がいなくなって皆悲しんだから、ひい兄の名前も一字もらって、…ベニヒ」

そうしてベニヒと名付けられていた赤ん坊の頃の事は覚えていないから、よく知らないけれど。

その後に、行方不明だったヒロが無事戻ってきた。

ヒロは、不在だった間に生まれた初めての弟の名前を聞いて、「可哀想だ」と言った。

「俺の身代わりみたいなのも、母ちゃんの生命力奪うような言掛りも、可哀想だ」

大きくなったら絶対傷つく、そういって、両親にかけあい、村長にかけあって、新しい名前をつけてくれた。

「夜明けの綺麗な色だよ、って、希望の色だよ、って、ひい兄が言ってくれたから」

だからこの名前が大事だし、ひい兄のことが大好きなのだ、という話をしたのが昨日か、一昨日か。

ミカは特にそのことについて、興味をひかれ感心はしたものの、それがセイランにとって

どういう感情の発露だったかという事までは気に止めてはいなかった。

だが、ここ数日の間、セイランの身の回りで起こったことといえば。

大好きな兄が戻ってきたのが嬉しくて、ただ褒めてもらいたくて、一人努力した成果を披露した。

それだけだったのに、兄に、「手に負えない」といわれるほど高度な問題を自力で解いてしまったと解った。

そのうえ、そんな高度な問題を歯牙にもかけず一瞬で解く人が現れた。

しかも、その人はさらに高度な問題を延々と出してはダメ出ししまくる始末。

まだ小さな子供には、受け止めきれないほどの衝撃が立て続けに起こっていたことを、

その口で説明されて、ようやく、ミカは理解した。

 

 

 

敢えて、公式を教えず難問に挑ませたことを「意地悪」と非難され、それの意図を説明し、

ようやくわだかまりが無くなって、もう一度同じ問題を公式を用いて説明してやった後に。

少し落ち着いたセイランが、白状してくれたのだ。

自分が兄を超えてしまったこと、それでも越えられないミカをどう思えばいいのかということ。

「だから貴方のこと、嫌いじゃないけど好きじゃないです」

と言われても、もっともだな、としか言えない。

そういえば、セイランが驚いたように身を乗り出す。

「怒らないんですか」

「まあ、当然だろう」

この流れで好かれても意味不明だしな、と思う。

これが、万人にもれなく好かれたい!と恥も外聞もなく豪語するヒロなら阿鼻叫喚なんだろうが

ミカ自身は、むしろセイランが意思を明確にしてくれた事の方がありがたい。

しかし。

「でもひい兄は、貴方のこと、大好きみたいです」

何でですかね?と真顔で問われ、これは自分がセイランにした質問の仕返しだな、と悩み。

「なんでだろうな」

と、返しておく。

良く考えれば、なんだか意味もなく懐いてくるな、と出会ったばかりの事は思っていたものだ。

まあそれが、万人にもれなく好かれたい、というアレだろうし。

…今は。今は、どうだろう。まさか、万人の中の一人として数えられるわけじゃない、と、…思うが。

「いいです、後でひい兄に聞きます」

「うん、そうだな」

それが早い、と思っていると、さらにセイランが突っ込んでくる。

「貴方はひい兄のことどう思っているんですか」

ああ、子供というものは。

 

抜き身の剣だな。

 

と、天を仰ぐように、宙を見据える。

自分も果たしてこうだったか?いや、自分の行動も、周りの大人にはこう映っていただろうか?

その愚かしさと、賢しさが、大人に何を考えさせるものか知りもしない。

 

今、セイランの姿に、過去の自分が重なる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

↓一話で行けると思ったけどやっぱり長引いた!!!の見通しの甘さで二話にわけるよ、ぽちっと♪

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家族について

2014年12月06日 | ツアーズ SS

「家に来てくれるんなら、ミカにひとつ頼みがあるんだけど」

と、数年ぶりに帰省するという友人に、出発前に言い寄られたことがある。

なんだまたつまらない後ろ向きな話をされるのか、と、正直げんなりしていたら、

弟のことだけど、と続けられ、余りにも想定外だったことに、ミカはその場で固まった。

だから、返答がシビアになったことは仕方がないと思う。

「入学できるかどうか、見てやってほしいんだよね」

「なんで俺が」

そんなもの、学院に直接送り込んで入学試験を受けさせれば済む話ではないか。

そう返せば、ヒロは、部屋を訪ねてきたまま戸口で、ムリにとは言わないけどさ、と弱腰になっているので

(面倒くさいことこの上ない)が、いいから座れ、と空いた椅子を指す。

それで、とりあえず話を聞く意思表示にはなるだろう。

慣れたもので、ヒロも完全拒絶されているわけではないと分かったらしく、向かいの椅子に座った。

「いや、学力は十分あると思ってんだけど」

と言い、前にエルシオン学院で入学要項の話を聞いた限りでは大丈夫そう、なんて話し出すので、

ミカは再び不可解な流れに固まる。

「費用も当面は俺の仕送りで問題なさそうな額だし、ミカの保障さえあればいつでも行けそうなんだよな」

そこまで一気に説明して、相手の無反応さに気づいたヒロが、おーい?と机を叩く。

前にエルシオン学院で入学要項の話を聞いた限りでは?

「いつの話だそれ」

「え?いつって、ミカも一緒に行ったじゃん?学長の幽霊、倒しただろ」

「はあ?あの時の話かよ!」

「それ以外にいつ行くんだよ?」

あんな騒動の中、弟の入学交渉までしてたのか。どういう神経してんだ。と思わずにはいられない。

「だって気軽に行けそうなとこじゃねーな、って思ったし」

どんなチャンスもがっちりモノにする!と、異様な自信で言い切られると、こちらが不当なのかという気にさせられ、

それ以上は不毛な応酬になると踏んで、ミカは話を元に戻すことにした。

随分と、この関係に慣らされた感はある。

「学力と金銭面に問題がなく、当の本人が行く気なら、別におれの保障はいらんだろう」

「そう、それそれ、その当の本人が一番問題っていう」

「…行く気がないのを説得しろ、とかいうのはやめろよ」

そんな役回りが出来る人間じゃないことくらい、お前にも了承済みだろう?という一線をひくミカに。

違う違う、とヒロが手を振る。

「俺さ、学校ってのに行ったことがないから、実際、なじめるのかどうか解んねえんだよな」

「そんなもの俺にだって解るか」

「だってミカは寮生活も学校も経験済みだろ」

経験者が言うのと、全く知らない俺が話すのとじゃ、違うと思うんだよ。

そう言うヒロの、めずらしく慎重な姿勢が、なんだか似つかわしくなくて、ミカは違和感を覚える。

いつも大体、なんだって率先してやりきってしまうのがいつものヒロであるのに。

「大体日頃家族としか触れ合わないし、村の外を知らないし、学校なんて解るわけがないんだよ」

だから、と、いつになく生彩を欠くヒロの様子をただ見やるしかない。

「俺が、学校に行け行け言ってるから、行く、って言う、それだけのような気がして」

本当に、家族と引き離して、遠く離れた場所に一人おいやってしまっていいのかどうか。

「悩んでるんだよな」

なあどう思う?と聞かれて、いつものように、くだらねえ!!と一蹴できる空気じゃないことに、

居心地の悪さを感じる。

これは一体、なんだろう?

「ていうのを、実際、弟の勉強ぶりみて、ミカなりに感じたこと言ってほしいんだけど」

そういう頼みです、と話をたたまれ、たたんだものを、ハイドウゾ、と手渡してくるヒロは、

そんなに普段と変わらないような気もするが。

…俺にそういう微妙なかけひきみたいなことは端からムリだな。と、諦める。

ウイならそれなりにヒロの態度がおかしいことをまず何とか解きほぐそうとするだろうけれど、

この自分にはどうあがいても、そんな芸当はできそうもない。

だとすれば、確実にあるものを確実に片付けていくだけだ。

「そうしろと言うなら、そうしてもいいが」

「が?」

「俺には、そこに何の問題があるのか、わからんな」

「そこ?」

「俺も祖父に学校に行けと命令されて、それに従っただけだが?」

兄であるヒロが弟の学力を見込んで学校に入れる、それではいけないのか?

「自分の意思ではなかったが、寮生活と学業をこなして、卒業しただけだ」

「うん、それで、王室の任命で近衛兵団に入ったわけじゃん」

「そうだな」

そこにもミカの意思などというものはない。

貴族の子息としてそうしなくてはならないので、それに従った。それ以外の選択肢はなかった。

「それに嫌気がさして近衛ぶん投げて冒険者の酒場にきたわけじゃん?」

そこの所どうよ、とヒロに突っ込まれて、三度、固まる。

しばし、ヒロの言葉を反芻して、思わず出た言葉。

「え?何だって?」

「え?何が?」

だから、エリート兵団から飛び出した反抗的な行為をミカはどう思ってんの?と問われ。

思ってもみなかった事象を突き付けられて、思わず立ち上がっていた。

「俺は反逆的精神で近衛を休職したのか?!」

「はあ?違うのかよ?」

違うのかと言われれば。

「違う…ような…」

「じゃあ何、どういうつもりで飛び出してきたわけ?」

「それは…、だから、民衆の立場に身を置きかえることで集団の役割とその構成力を学ぶために…」

「いやいや、それただの建前」

「た、建前、だ?」

「建前。何がしかに対する人の感情と態度との違い」

くっそコノヤロウ、それくらい解ってんだよ、とこぶしを握り締めてヒロを見返せば。

いつからかヒロはいつもの余裕を取り戻し、飄々とミカの視線を受け止めている。

そして。

「よく考えてみ?団長に休職届を書いていた時の気持ちになって、あの時何がどうしたのか」

「何がどうって…」

そういわれても別に。

「その当時に今のミカが戻ったとして、言いたいことがあるだろ色々」

「言いたい事って言われても、な…」

団長にくだらない嫌味を言われ、貴族にはくだらない追従をされ、平民にはくだらない中傷をされ。

そんなのはもう当たり前に慣れ切った事だ。

特に何を感じることもないただの日常で、ずっとそれが続いていく。死ぬまで、続くだけだ。

だから。それに異を唱えたり、憤懣を抱いたりすることこそが愚かで、意味もない無駄な行為。

ただ自分が自分であればいいだけのこと。

それだけのことが。

「だああああうっぜえええええ!!!」

ヒロの誘導にまんまとひっかかって、その当時の状況に自分を置いてみて、…思わず叫んでいるミカである。

それを、満足げに腕をくんで、うんうん、と頷いているヒロまでもが憎らしい。

「そう、それそれ。それがな、ミカを動かした動機だよ、動機」

もう、ものすごくくだらない事につきあわされた虚脱感で、何を言う気にもならず再び椅子に座りこむ。

「反抗期、ってやつ?」

と、くだらない事をしかけたヒロは、相変わらずしれっと話しかけてくる。

それを無視するにもできない一言で。

反抗期か。

「つまらないな」

そういう類のものかどうかは判断しかねる。

だが、当時を思い返して、一番心に引っかかった事は。

「自分をぶったおしてやりたくなる」

知らず、そう口にしていたことにミカ自身、胸を突かれたような気がしたが。

ああ解るなそれ、とヒロの声がして、反射的にそちらに振り向いていた。

「わかるか?あるか?そういうこと」

「俺はまあ大体、夜寝る前とかに今日一日の自分を思い出して、うおお消えてぇえ!とかやってたけどな」

昔、と何でもないことのように言われ、多くねえか?という思いと、今は違うのか、という思いが交差する。

だがそれ以上は何も考えられなくてヒロを見ていると、それを受けて、ヒロがにやりと笑った。

「ミカのそれをカッコ良く言うと、自分の殻を破るといいます」

「なんだそれ…」

何が格好いいんだ、それの。

「一皮むけた、とかな」

劣化してるぞ。

「んー、檻を壊す、とかかな」

「…檻」

そういえばウイに昔、小さな檻が窮屈になったんだよ、と言われたことがあった。

もっと大きな檻に入ったんだよとオチをつけられて、不毛すぎる、とただ聞き流していたが。

「な?決められたことに納得してるつもりでも、やっぱ、うっぜえ、ってなるじゃん」

「ちょっと待て」

「ん?」

「お前の弟の話だったよな、これ」

「そうだけど?」

なのに何故ミカ自身がこんな疲労感を感じなくてはならないのか、ということはこの際置いておいて。

「じゃあ、好きにしろ、って言えばいいんじゃないのか」

「自由を知らない子に、好きにしろ自由にやれ、っていうのも違う気がして」

「あのなあ…」

お前はどうしたいんだ、と問えば、そりゃ学校に入れてやりたいよ、と返ってくる。

そのくせ、本人の意思を尊重したいという。

「俺はさ、兄貴だから。バカなこと言ってるのは、まあ解るんだけど、あいつら可愛いんだよね」

そう言ったヒロはまた、先にミカが感じたような違和感を漂わせている。

「自分のことならさ、良いんだよ。苦境でも困難でも、自分で片がつけられるから」

でも弟妹の事になると、どうしても甘いんだよな、と白状されて、その違和感の正体を知る。

そうだ、この弱気な感じは、ヒロが自身の弱みを見せているのとは違う意味合い。

上手くいえないけれど、自分とヒロとの間に見えない壁があるような気がする、とミカは思っていた。

それは。

弟という存在が、そうさせる。

よく知っているヒロが、ミカの知らない一人の存在に手を焼いていることが、面白くない感じ。

そうか、これは面白くないな。

「…兄弟っていうのは、そういう弱みになるものか」

「ああ、ミカはいねーのか。兄弟っていうか、まあ家族全員に関わりたいっていうか」

「その関わりたい、っていうのが良く解らんな」

自分の家族は、とにかく一人一人が自律している。

侯爵家に関わることならともかく、個人の抱える問題を共有することなどあり得ない。

各々常に単独であり、つながりや支えもない。それこそが自立であり、個の存在意義だ。

そういえば、厳しいなあ、とヒロが頭を抱える。

「うちは、…ていうか、俺なんだけど」

俺はさ、と前置いて。

「なんでもかんでも手を出して世話やいて、もう一から百まで俺一人でお膳立てしてやりたいわけ」

「相当、過保護だぞ、それ」

「だよな」

わかってるんだよ?と言いつつ。

「それに弟たちが違う生き方をすれば、俺もそっちの道を選んでたらこうなってたのか~、っていう希望もある」

などという、さらに理解不能な兄の心境とやらを、披露するヒロ。

「いや、ぜんぜん解らねえ」

どうして他者にそこまで自分自身を投影させるのか。

それをヒロは、家族だから、という。家族とは、そんなに境界線があいまいな集団なのか。

今までにないヒロの一面を見て、その家族とやらを見てみたくなった。

他人の動向には意味がなく、自分が自分でありさえすればいいとかたくなに自律してきたミカにとって、

それは初めての興味だった。

だから、引き受けた。

「わかった」

と、言えば、「え?急だな」と、ヒロが驚いていた。

何がミカを動かしたのか、ヒロ自身は解っていない様だったが。

「とにかく、その弟とやらを見てから考える」

事にした。

 

 

それが、出発前のやりとり。

 

 

実際、ヒロの村に到着し、ヒロの家に足を踏み入れた瞬間から。

ミカは想像を絶するほどの、「家族」という集団の持つ破壊力に、それまでの価値観を粉砕された。

家族どころか、親戚だの隣近所だの、とにかく群れになった状態から、一切の境界がない。

自分のものは他人のもの、他人のものは自分のもの、と言っていたヒロの言葉にもうなずける。

個が群れであり、群れが個でもあった。

それに取り込まれまいとするだけで、圧倒的な、ストレス!!

何事にも気配りに長けているヒロがミカに気づいてたびたび集団から連れだしてくれるおかげで、

なんとかやり過ごしているものの。

(あのヒロができあがったのが理解できる)

と、心底思う。

いつも旅の間中見ていたヒロの働き、面倒ごとを見極めて、段取りと采配をして、仲間の世話を焼くことが生きがい!

という姿が、そっくりそのまま、ここにある。

旅の間では見せなかったヒロの、兄、という立場は、自分たちに対するそれと変わりない。

それを見ることで、ミカの中にあった、ヒロのあの違和感が完全に消失してしまったのだから、

聞いた百より見た一つ、という教えがいかなるものか、身をもって知る、というものだ。

そのヒロが気にかけている弟がいる。

女ばかりの中で男二人兄弟だから余計に可愛い、と言われ、そういうものかなと思う。

自分に弟がいれば、そういうこともわかっただろうか。

いない存在に思いをはせて、そこに答えを求めることは苦手だ。

だから、ただできることは、今目の前にいる存在に向き合うことだけ。

 

「兄が教えを乞えというので、きました」

 

と、利発そうなもの言いで、そのくせそれにはまだ全然足りていない幼さで、挑んでくる。

全く認めていないけれど兄に言われたので仕方なく、という響きをあからさまに含んだセリフは、

こちらを不快にさせようと意図したものか、否か。

今のミカには、それはどちらでもいいこと。

実際に見て判断してほしい、というヒロの頼みも、一事棚上げだ。

初めて、子供と向き合う。

その今までにない緊張感と、冒険心は、あの日、休職届をだした時の気分に似ていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

↓いよいよ青藍登場!あと、ミカの「面白くないな」ってのは、ただの嫉妬です本人気付いてないけども、にぽちっと♪

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通り道

2014年12月04日 | ツアーズ SS

 

金は、あればあるだけいい。というかありすぎて困る、ということがない。

そういうわけで、もうこれだけあればいい、という目標値が定まらなくて焦る。

どーすりゃいーんだろーなー、これ。

と、隣にいる友人にこぼしてみると。

「…つまり?」

何が言いたいのか、と聞き返され、小高い場所から自分の生まれ育った村を見降ろしていたヒロは。

「最低限、死ぬまでにここまではやっとけ、っていう提案をください、せんせー」

と、外部からの意見、を期待して今の自分の問題点を披露してみたのだが。

せんせー、こと友人であるミカは、あいた口がふさがらない、というそれそのものの呆れ方をしてみせた。

旅先で知り合って、共に世界中を見てきた仲間の内の一人だ。

相手の出自も自分の出自も、付き合いの中では理解し合ってはいたが、今回、こうして

ヒロの帰省に付き合わせた甲斐あって、ミカはヒロの現状を目の当たりにしたわけだから。

「なんかそれなりに思うことがあるかなー、と思って」

と、控え目に促してみれば。

まあ、とミカがようやく口を開く。

「ハッキリ言って、この場所を捨てて、新たに住みやすい場所に移動する方が早い」

「だよなー」

あまりにもハッキリ言ってくれるので、いっそすがすがしい。

村全体で移住なんて大がかり過ぎることは置いておいて、家族だけでも、と思ったことが、ヒロにもないわけでもない。

だが、両親はここを終の棲家にする、と決めているようだった。

子供たちにはどこへでも好きな場所へ行け、という代わりに、自分たちの決意は一徹そのものだ。

「だから少しでも楽になれば、って思ってんだけどな」

村は、ぎりぎり暮らしていけないこともない。だが一日のすべてが生きることだけに費やされている。

外の世界を知ってしまったヒロとしては、もっと娯楽や勉学、文化などを取り込んでいければいいと考えているのだが。

「そういうのは行政の仕事だって、言ってるだろ」

ヒロのとどまることを知らない野心の話にいつも付き合ってくれるミカにしても、それは何度も繰り返した話だ。

それを今また、こうして改めるのは。

実際、村で寝起きしてこそつかめる糸口もあると思っているからであるし、だからこそミカの方も

いつものように、そこで話を終わらせたリはしなかった。

「全くやる気のなさそうな行政だってのは解ったけどな…」

ここ数日、あちこち村を見て回ってのミカの感想がそれだ。

村長以下、村の中心部分が文化の発展、などという方向そのものに、興味がなさそうだ。

「それさー、蔓延だよ、蔓延」

「蔓延?」

水を汲むために下の川まで往復2時間、それだけ時間をとられても、勿体ないと思えないほど、他にやることがない。

特にやることもないから、のんびり水汲みに一日費やしたりしていて、ますます勉学や娯楽の時間がない。

そのおかげで日々の発展や進化もないから、とりあえずやれることを、…この場合、水汲みを、やるに尽きる。

水汲みの仕事ひとつは例えだが、一事が万事そういう調子だ、とヒロが言えばミカも渋い顔をする。

「なんかこう、さあ、出口のないところをぐるぐるぐるぐるやってる感じ」

「…そういう住人たちを焚きつけて先導するのも行政の意義なんだが」

「ムリだなー、水道施設にしたって建設には金かかるだろ。そんなことで税金が上がるのを、村の人が望まない」

「自分で汲みに行けば良い、っていうわけか」

「そりゃ金かかるくらいなら自分の足で汲みに行くよ」

とにかく何でも金のかかることは自力で解決、を信条にしているヒロが言うのだからミカには痛切に理解できるだろう。

「俺は外の世界を知ってるからさ、もっと便利になって、もっと豊かになる、ってわかるけど」

それを知らない、今の現状にさほど困っていない村人に言っても賛同は得られないから。

「まず、俺の周辺からやって見せればいいか、って思ったんだよな」

ヒロの野心、せめて上下水道の設備が整い、食料の地産を安定させて、最低限の医療と、就学。

そういう「楽」の部分を提供できる施設を自分の家から発信させていけば、おのずと理解と賛同を得られると考えた。

だから、「金がいくらあっても足りないぜ」状態だ。

「まあ…一個人ではムリだな…」

せめてお前が権力を持ってるならまだしも、とミカが続ける。

「あー権力、なあ…」

「仮に、俺が侯爵家の実権を握ったとして」

「おお」

「投資という名目で、この村を買い上げて資本を出して行政を操作するのはたやすいが」

「…容易いんだ…」

「それをしたとして、俺の代でそれらすべての出資を回収できるとも思えない」

そうなれば、さらに下の代、子や孫の代にまで関わらせることになる。それほどの事業と言えるかと言えば。

「まったく旨みがない」

「…そりゃそうだよな」

「あと、俺の子や孫がこの村を優遇するという保証はない」

他からの資本が入ってくるというのはそういう賭けだ、というミカの話には頷ける。

他の地域では国取りや領地争いなど、稀な話ではない。

この場所が余所からの干渉もなくただ安穏としていられるのは、まさに何の利もない地だからだ。

逆に、それだからこそ、利を追求しない、細々と生きるだけの人が集まり暮らしているということでもある。

「お前が村長に名乗りを上げるなら、まだ支援してやれないこともないが」

「うんまあそれも将来の展望として、一応、視野には入れてますが」

まだまだそこには到達してないな、と言えば、ミカも解っている、というように応じる。

「それまでの基盤か」

「そーそー、何の実績もないひよっこが名乗り出てもまあ無理っしょ」

「そうだな」

つまりそれまでに何をしておけばいいか、という話だとすれば。

「最低限、死ぬまでにやっとけ、っていうことなら」

「うん」

「お前にとって現実的なのは、奨学金制度を作るくらいか」

「奨、学、金」

「とりあえず、一人でやることの範囲を超えてるってのは?」

「理解してまっす」

「うん、だから今お前が村に投資しようとしてる金を、人材育成に使え」

まず学を高めるために、子供たちを外の学校へ通わせる支援をする。その資金。

そうして就学を希望する人数の金銭面の負担をするための制度をつくること。

話はそれからだ、とミカが方向性を定める。

施設ではなく、その施設を必要とする人を増やせば、おのずと必要性が高まり住人の理解も得られる。

そっちから攻めろ、と言われて、しかしそれも今一つこの村の気性には合わない気がする。

「外に出てきたい子は自分から行くんだよ。で、行っちまって帰ってこない」

出稼ぎにしろ、奉公にしろ、外の世界を知ってしまった人間は、もう村で生きることの意義を失う。

外で稼いだ限られた資金を村に送り、村はわずかな資金で限られた生活を営んでいく。

そうやって成り立っていることに大いなる不満を抱かない村だったからこそ。

「打開策としては、弱いだろうな」

と、ミカも同意する。

「だが、やるしかない」

本気の使いどころは、そこだと思う、というミカの考え。

「弟を、エルシオンに入学させるんだろ」

「ああ、うん、なんか無駄に頭いいみたいだから、無駄にするの勿体ないと思って」

「…その勿体ない、ってやつを一度、どこかに置いておけ」

え、どこに、と思ったものの、ミカは至って真面目だ。

「弟の費用は全部お前が都合するよな?」

「まあね」

「で、そうやって就学させた弟がどの方向に進むかだが」

お前に賛同して村の発展に尽力するか、独自の思想を得て村を出ていくかは解らない。

「そだな、それはあいつの自由にしていいと思ってるけど」

「それを、村の人間にも施す」

「俺が?」

「そう、お前が。どの分野でもいい、学ぶために掛る費用を全額負担する」

そのための条件が。

「学び終えた人間はこの村に戻って、得た知識で村の為に貢献すること」

こうすれば、人材の流出は少なからず防げる。

「そして、村に戻りたくないという意思がある奴らには費用の全額返還を強制する」

人材を失う代わりに、次の世代を育てるための資金を回収する。

「そうすれば、お前が一人で村を支えることもないし、その為に捻出する負担も減るだろ」

「…なるほど」

「これなら俺も出資しやすいしな」

次世代までもつれこませずとも危ないと思えばいつでも手を引ける、と言われて笑ってしまう。

容赦ない金銭面での線引きと、全く同じ重みで、ヒロを手助けしようとしてくれる心根が嬉しい。

それについては触れず、ミカは、そういう目標でどうか、と目線で問いかけてくる。

「どこまでやれるかは未知数だが」

「そだな、うん、基金として溜めこむ分には、けっこう目標値が解りやすいな」

俺の稼ぎによって、今年は2人、とか今年は5人、とか募集すればいいわけだろ?

それに返還額を足して、なんなら利息制度も考えて、収入面を安定させ継続すれば、話題にもなる。

各地域で活動を理解されて、出資者も募れる。てことじゃね?

「…お前、そういう勘定早いな…」

「まーな、やるべきことが定まってさえいれば後はやるだけだから楽じゃん」

「後はやるだけ、の、やるだけという部分が一番困難だと思うが」

「え?そっか?おれは構想練ってる時のほうがじれったくてもやもやするけどな」

「ふうん」

やるべきことがある。それらのどれもこれも、手を付けてやり始めるのは苦にならない。

ただ、終わりが見えない道を、いつまでも全力で走ることができない。それが歯がゆい。

そんなヒロの行き先に、ミカの一声が投げられるだけで萎えかけていた脚力に力が宿る。

それは、自分では成しえない奇跡だ。

「あー、早くやりてえ!ヒイロ基金!やりがいあるう!」

村の為の投資に迷いはない。それが必要な人への投資、となればなおさら。

ミカの助言は、人に関わりたくて人に感謝されたい自分にはもっともな方向だと思えた。

「ありがとな!やる気でた!」

いつから始めるかな、とミカを見れば、単純な奴だと笑われる。

「あ、ミカも出資してくれるなら、ヒロミカ基金、とかにしよーぜ、名前!」

「…いいけど…、それなら俺の領地で働けばそれも返還無用の条件でいいぞ」

「な?ちょっと待て、それって貴重な育成人材をミカに取られるってことじゃねえ?」

「俺も出資する以上、それなりの利はもらうに決まってるだろ」

「…ミカってお金持ちのくせにそういうとこきっちりしてるよな…」

「くせに、ってなんだよ。金なんかありすぎて困るってことがないんだろ」

俺だって同じだ、と、先にヒロが言っていたセリフでやり返されてはぐうの音も出ない。

ミカでも、あればあるだけいい、とにかく金がいくらあっても足りねえぜ!ってのは一緒なのか?

「その代わり、俺の領地からの人材もそっちに流してやるよ」

「え?いいのか、それ」

希望者がいればな、とミカの含み笑い。

「この不毛な土地を開発したい、とか、むしろ人身御供になりたいとかいう奇特な人材がいれば、だが」

「人身御供…って」

相変わらず容赦のない奴だ、と不平を主張すれば、気にする風もなくむしろ晴れやかに笑う。

「面白くなってきたな」

それは。

この村の現状を人ごとのようにからかう響きではなく。

生まれて初めて立ち向かう困難さに関わっていくことへの奮起そのものだった。

だから、ヒロも同じように笑った。

「ミカで良かった」

ただそれだけを返せば。

何を、とも問わず、ミカも言った。

「俺もだ」

そこには、同じ未来を見据えているものたちの共感がある。

生まれも育ちもまるで違う、あんなにも離れた土地にいて、それでもめぐりあう。

世界は果てしない。

人一人の心も同じくらい果てしない。

 

それでも、通じ合う。

 

生きることを通して、人は心を通わせる。

険しい道のりの途中で。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

↓次回もSSだよー、ミカとセイランのお話でっす、てことでぽちっと♪

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天使に弟子入り

2014年12月02日 | ツアーズ SS

シロちゃんは天使になるんでしょ、とマシロの「師匠」は笑顔をくれた。

 

* * *

 

ここ数日、マシロは、帰省した兄にくっついてきた友人たちの一人、ウイと行動をともにしていた。

彼女の口から語られる「守護天使」の話はとてもマシロの趣味に合っていたし、

話しても話しても尽きない程あふれてくる事柄すべてが面白すぎた。

母親以外にはうちとけないマシロが珍しい、と周りに驚かれることも、どうでも良く思えた。

「随分、気が合うのね?」

と、母に言われて、これは気が合ってるからなのか?と疑問に思ったが、それよりも

もっと解せないことがあったので、反対に問うてみる。

「あたしと、あの子と、何が違うのかな?」

マシロは、自分以外の世界が苦手だ。

家族はまだしも、村の人たちが苦手だから家の外には出来るだけいたくないし、それ以上に

村の外、もっと広い大陸、さらに広い広い世界なんて、一生関わることはないのだから興味もなかった。

ただ自分と、自分の中で遊んでいられる空想世界だけが無限に広がっていく。

それがマシロにとっての、一番の安心、安全、安泰というものだ。

だから、マシロは一人でも平気だったし、一人が好きなのね、と周りの理解もあった。

ところが。

朝から晩まで延々と「守護天使」の話を聞かせてくれるウイは、自分の中に閉じこもって空想の世界を創造するような、

「一人ぼっち」仲間ではなかった。

やたら誰とでも仲良くし、常に多人数と楽しそうで、それでいて周りも放っておかない。

荒唐無稽な話を周囲にばらまきまくるところは、少し前までのマシロと同じなのに、

その動機はまるで違うように思えた。

「そうねえ」

と、母が考えるポーズでマシロを見て、うん、と頷く。

「ウイの話は、空想小説じゃなくて、真実だからじゃないかしら?」

その母の答えは、マシロを驚愕させる。

「ええ?!母ちゃん、あの子の言うこと、真実だって思ってるの?!」

「あら?マシロは、嘘だって思ってるの?」

「嘘、っていうか…」

空想の中で作り上げた世界で、空想の友達がいて、空想の出来事が起こって…、という遊び。

マシロが何よりも得意とするものだから、それと同じことだと思っていた。

思っていた、と気づいて、ああそうか、とマシロは腑に落ちた。

ウイの話にわくわくして、もっと話が聞きたくて、彼女とずっと一緒にいたのは。

マシロ自身、そういう遊びを共有したかったからだ。

何よりも、自分が創り出す世界よりもっと緻密で、謎めいていて、刺激的だったからだ。

それらがすべて。

「真実なの?本当にあの空の上には世界があって、天使が住んでいて、神様がいるっていうの?」

「それを、母ちゃんに聞かれてもねえ…」

火を噴く山があって、塩辛い水が波立つ場所があって、砂が流れていく大地がある。

本を読んでも、旅をしてきた兄ちゃんの話を聞いても、実感なんてないでしょう?

それをどうすれば真実だと確信できるかと言えば、自分の目で確かめることだけよ、と母が言う。

「だから、母ちゃんは真実かどうか言えないけれど」

と言ってマシロをがっかりさせておいて、信じてるだけよ、と言う。

ただ信じる、何を根拠にそれができるというのか。

こともなげに母は言った。

「ヒイロに、嘘はつくな、って育てたんだもの。そのヒイロに初めてできた友達よ?」

あの子たちが嘘をついてるとは思ってないわ、と、明日も晴れそうね、という時と同じ顔で言った。

そういわれては、マシロには何も言い返す言葉がない。

「マシロは小さいおじいさんとか羽のある人とか見えてたんでしょ」

「…うん、そう、だけど」

「同じことじゃないかしら?アサギたちに見えないものが見えていたマシロと」

マシロに見えないものを見ているウイと。

そういわれて、初めて、姉や、妹たちの気持ちがわかった気がした。

そうか。あたし、今、アサ姉で、あの子がちょっと前までのあたしなんだ。

兄は今も不思議なものが見える、と言う。そして、一緒にきた仲間たちも見えている、と言った。

あたしも見えていたのに。

見えないものを信じるって、難しい。

それを軽々と成し遂げる母のことも、なんだかよくわからなくなってきた。

「あら、私は見えないものじゃなくてヒイロを見ているのよ。ヒイロを、信じているの」

マシロの信じているものはなあに?と尋ねられ、ややあって、マシロは母を見た。

これ言ったら怒られるかな?兄の旅の話も、母の信じる言葉も、いまいち信じられない。

でも、嘘は言えない。マシロの世界は、たった一つだ。

「あたしは、あたししか信じてない」

そう言いきると。

「そうね、マシロのそういうところ大好きよ」

と、母がマシロの頭をなでる。

あれ?なんだろう、褒められた。

「だったら、マシロが次にすることはただ一つ、よ」

そう言って、おでこを人差し指で軽く押された。いたずらっぽく笑む瞳にはマシロが映って見える。

「天使になるんでしょう?」

ああ。

そうだ。

ウイの話を聞いているうちに、知識として蓄えられ、マシロの中でどんどん広がっていく世界に、高揚した。

感化されやすい、とは兄が言ったことだったか。知らず、天使になる、と宣言していた。

それも母に聞かれていたのか。

「やるなら、とことん!」

と、母に背中を押されて、声もなくマシロは頷いた。

あたしはあたしを信じる。あたしが、天使になればいい。

 

 

* * *

 

 

「だからね、なんで子供のうちは不思議なものが見えるの?」

「あー、それ説明するのむつかしーなー」

色々な要因がいっぱいあるんだよね、と自称天使は人差し指を軽く顎にあてた。

考え事をしたりするときの、彼女の癖のようなものらしい、とマシロはそれを見る。

そんなことまでわかってしまうくらい、随分と密接になった。

そうして待つのはほんの数秒、そのわずかな間に生み出したとは思えないほど膨大な情報がウイから語られるのも

もう、すっかり解ってしまっている。

「一番の要因はやっぱり、なんにもないまっさらだ、ってところかな?」

怪しげな飾りをひとつひとつはずして、マシロが造り上げた城を片付けていく作業。それを二人で行っている。

長い間「ひきこもって」いた場所を明け渡すことに、さほど喪失感がないのは、それよりももっと心を占める、

ウイの話を取り込もうとしているからか。

「生まれてすぐの命って、住みわけがまだしっかりしてないんだよ」

「住み分け?家とかに住んでるのに?」

「家じゃなくて、世界だね。人の世界、天使の世界、妖精の世界、霊の世界、そういう、世界」

世界は全部一緒に存在しているけれど、住人たちはちゃんと住み分けている。

そして人は人の世界を識っていくことで、人としての魂が定まっていく。

「小さい子たちってまだ定まってないあやふやな状態だから、世界の境界を時々越えちゃうんだよ」

「でも、あたしより小さいセイとか、コズミとか、全然見えてなかったよ?」

それは何?と問えば、すぐさま、答えが返ってくる。

「興味かな。人の世界の方に興味が強いとそっちに意識がいっぱいいっぱいになるでしょ」

逆にシロちゃんが見えやすいのは、とウイが垂れ幕をはずしながら、首をかしげる。

「あんまり人の世界に興味がなかったからかな?」

それが全部じゃないけどねー、と言われたものの、その説明には納得してしまった。

コズミは友達や家族と関わることが最優先だし、セイは絶えず書物に没頭している。

それらを人の世界を識ることだと言えば、確かに、マシロにはそういう執着はない。

自分の内にとじこもっているのが一番だから、周囲はどうでもよかったのに。

「じゃあ何で、あたし、見えなくなったの?」

今でもそんなに人の世界に興味があるとはいえない。そう問えば。

「それは興味がないふりをしてるだけだね」

「ふり?!」

「あ、自覚とか、意識的にじゃなくてね」

もうずっと人の世界に住んでるんだもん、人として定まっちゃうよ、と言われてため息が出た。

なんだ、そんなの。…結構、つまらないな。

つい先日、自分で出した答えの方がずっと素敵だ。とマシロは思ったけれど。

それを、ウイに教えてあげるのはなんだかもったいない気がした。

だから、またウイに質問する。

「じゃあ何で兄ちゃんとかウイは、今でも見えるの?」

「そりゃー、ほら、いろんな世界に関わってるようなものだし」

ウイが天使だから、ずっと一緒にいるヒロたちにも影響しちゃうんだよね、と言い、そうだ、とマシロを見る。

「ミカちゃんとミオちゃんは見えなかったのに、見るようになったんだよ」

「なにそれ!」

それは聞き捨てならない。

「じゃあ、あたしも?あたしもウイといたら、また見えるようになる?!」

それは、マシロにとって何よりも重要な、誰にも譲れないほどの重要なことなのに。

「うん、そうだね」

と、いやにあっさりウイは頷いた。

「なにそれ」

と、さっきと全く同じセリフを、全然違う声音で吐き出していたことに、マシロ自身、びっくりする。

なんだろう。もう、浮き沈みが激しい。嬉しいのか嬉しくないのか、なんでそんなことを思うのか、自分でもわからない。

そんなマシロをしばらく見ていたウイが、

「見えるようになりたいの?」

と聞いてきて、その無頓着さに神経を逆なでされた気がした。

「当たり前じゃん!見えてたのに、見えなくなるって、どーいうことかわかんないでしょ?!」

だからそんな風に無神経に聞けるんでしょ?

そんな感情的な声音に、ウイがびっくりして動きを止め、マシロを見ていた。

しまった。またやってしまった。だから他人と会話するのは嫌だ。イライラするし、嫌な気持ちになるし。

…きっと、相手にもそんな気持ちに、させるし。

そんな重い思いに引きずられて、地面を見る。

そうすると、父や弟はそーっといなくなるし、姉や妹にはハイハイ落ち着いてー、とほっておかれるし。

いいんだ、もう慣れてるし。

そう俯いているマシロの頭を、よしよし、とウイの声と手が優しく撫でる。

驚いて顔を上げると、大丈夫だよ、とウイがマシロを見ていた。

「見えなくなるっていうことはね、シロちゃんが、ちゃんと強くなってることの証だよ」

「え?」

「悲しいことじゃないんだよ。人として生まれて、もう人として生きていけるってことなんだよ」

ウイたち守護天使は人を助けるためにずっと地上を守ってきたけれど。

もう人は大丈夫、って神様が決めたことだから。

「ちゃんと強くなれるんだって、ウイは安心してるよ」

そうして強くなって。人として強くなって、人にしかできない力を手に入れたら。

「そうしたら、他の世界の住人が、シロちゃんに力を貸して、ってお願いに来るよ」

だから悲しいなんて思わなくてもいいんだよ、と言い聞かせられて、涙が出た。

「…そんなんじゃ、ないもん…」

言ってほしかったのは、そんなことじゃない。けど。

言いたいことも、そんなことじゃない。

「…ごめんね、怒鳴って」

もうほとんど相手には届かないくらいの声だったが、ウイはまた頭をなでてくれた。

「いいよ、いいよ。怒鳴りたい時は思いっきり怒鳴ったらいいんだよ」

だって、とウイがたたんだ布を広げてマシロの涙をふく。

「ウイはシロちゃんのお師匠様だもん。シロちゃんのこと、どーんと受け止められるよ」

ちょっと、これ。

あたしにおしゃれ着作ってあげて、って言って兄ちゃんが特別に送ってくれた良い布なんだけど。

「弟子はお師匠様に迷惑かけるのがお仕事なんだよ、わかった?」

「…うん」

まあ、…いいか。鼻かんじゃえ。

 

 

* * *

 

 

「なんで神様は、人のこと助けてくれないの」

すっかり装飾品もかたづいて、マシロの城は、ただの厠の外側に戻った。

今、その軒先で、ウイと二人並んでおやつの干し芋を食べている。

「ええー、そりゃムリだよー」

マシロのゴメンネ、からの怒涛の質問攻めにも一切途切れることなく、ウイの「授業」は続いている。

そうか、これ授業なんだっけ、とマシロはウイを見た。

そう言えば、村の子たちがウイの「授業」を胡散臭がって寄りつかないのに同情してしまって、

つい、近づいてしまったのが、この、ウイとマシロの関係の始まりだった。

「神様は神様で、大変なんだから」

なんてお気楽そうな口調で言われても、全然授業でも大変そうでもないけれど。

「変なの。あたしが立派になったら他の世界の住人があたしに助けて、っていうようになるんでしょ」

「そうかもだけど」

「じゃああたしが神様に助けてって言ってもいいんじゃないの?」

あたしよりずっと立派なんでしょ、神様。

と、マシロが言えば、ウイが片手を振る。

「立派すぎて、シロちゃんの声なんか聞こえないよ」

「なにそれ」

心狭いな神様。と、思っていると、ウイが軒の隅っこを指さす。

「あそこ、蜘蛛の巣」

「うん。…え?恐いの?蜘蛛」

「ううん、蜘蛛は恐くないけど。あ、シロちゃんは恐いの?」

「恐いわけないじゃん」

あれを恐いっていうの、あの人がおかしいだけだし。そんなマシロの心の声が聞こえるはずもなく。

ウイは、それは良かった、とにこにこして、もう一度、蜘蛛の巣を指す。

「あの蜘蛛の巣、嵐がきたら壊れちゃうよね」

「嵐がきたら屋根飛んじゃうよ」

蜘蛛の巣どころじゃないよ、と言えば、はい!それ!!と、ウイが両手を叩く。

「な、なに」

「今のシロちゃんのそれが、まさしく神様のお言葉です」

「はあ?」

「シロちゃんは風に飛ばされた蜘蛛が助けてーって言っても聞こえないし」

「当たり前じゃん」

「万が一聞こえたとしても、蜘蛛の巣を作ってあげることもできないし」

「作れるわけないでしょ」

「神様も同じだよ。シロちゃんが、水汲み大変だからこっから水出して神様ー、って思っても」

思わないし、そんなこと。

「神様は、どうにもできないんだよ」

世界が違うの、と言われて、ウイの話が「どうして神様は助けてくれないの」というマシロの質問への

返答だと分かった。

「…ウイって教えるの下手だね」

「だってウイ初めて師匠になったんだもん、そこは広い心でどーんと受け入れてよー」

それも弟子のお仕事です、と言われて適当に頷く。あーはいはい、ってなもんだ。

あ、なんだろう。これ、アサ姉がよく言うな。あー、はいはい、って。あたしに。

「だからね、神様は神様のことしかできないの。人が人のことしかできないのと同じだよ」

わかった?と聞かれても、先に気付いたアサ姉のあーはいはい、の真意が頭から離れなくて、

素直に頷けない。つい、ひがむような声がでる。

「じゃあ、神様は何してるの?何が大変なの?」

が。

「世界を正しくしてるんだよ」

そう言われては、それはそれで聞き流せない。

「なにそれ」

そのマシロの合の手ももう慣れたのか、ウイがさらりと続ける。

「お日様が消えたり落ちたりしないように、とか」

「え?あれ落ちてくるの?!」

「この山がさかさまにならないように、とか」

「ちょっと!逆さまになるようなとこに住んでるの、あたしたち?!」

「水がからっからになって無くなっちゃわないようにとか」

「死んじゃうじゃん!困るじゃん!!」

「だから、世界が困らないように、日々頑張ってるんだよ、大忙しだよ?」

だから人の事は人が頑張ってください、と大真面目に言われては、余計胡散臭い。

「…頑張れる、って、神様が決めたから?」

「そうそう」

それってただ小事をめんどくさいから人に丸投げしてるんじゃないの?とうがっていると

ウイが黙って、地面を指さす。

そこに蟻の一列を見て、マシロは、ひとつため息。

「そうだね、蟻の巣が壊れても、あたし何にも手伝えないもんね」

でも干し芋の一粒くらいあげちゃうけど、と食べ残しを地面にまいてやる。

マシロの背後でそれを見ていたウイが、笑った。

「それが、天使だよね」

そう言われて、マシロはウイを振り返る。

「え?」

「人を助けてあげなさい、って、神様が天使を作ったでしょ」

マシロのこの気まぐれの一粒が、神の一声で生まれた天使か。…ちょっと、しょぼすぎない?たとえが。

いいの?芋にたとえられて、と当人を見れば、ウイはにこにこしている。

その笑顔が、さっき、マシロの涙を拭いてくれた優しさに重なる。

ウイは、天使だから。

「でも、もう人に助けはいらない、って神様が決めたんでしょ」

もう天使は助けてくれないんでしょ。

じゃあ、今目の前にいるウイは。それを信じようと、天使になると言いきったマシロは。

どうなるの?

マシロの問いかけにも、ウイは動じなかった。

まるで、それこそがマシロを納得させる最大の真実であるかのように。

「シロちゃんは、天使になるんでしょ」

それで、いいんだよ。

それこそが、天使の本当の役目だよ。

人が、天使になる。

「天使は、人を助けるために神様が送り出した真実だよ。天の使いは、その御心」

それは、ウイからウイにかかわったすべての人につながっていく真実。

誰かを助けたいと思い、強くなり、一人が一人を救い、人が世界を救う。

人の世界を、あるいは、妖精たちの、精霊の、目に見えないものたちの世界。

命たちを、守り、導く。

すべての命あるものたちを、存在している魂を、人が守れるのだと、気づく。

そのための力。

そのために、人としてある命。

「人間にしか、できないことだよ」

そんな壮大なこと。途方もない、まるであり得ない、そんな力が自分にあるとは思えない。

「む、むりだよ。あたし、何もできないよ?」

「そりゃそうだよ、だってシロちゃんは今ウイに弟子入りしたばかりだもん」

今から、修行は始まるんだよ、と言われて、肩を叩かれる。

「ウイは世界中のどこにでも行くけど、シロちゃんはここで」

「ここで?」

「ここでしかできないこと、シロちゃんにしかできないことをやるんだよ」

身の回りで起こることすべて、出来事に動かされる感情のすべて、それらが全部、天使の修行。

そうして、たった一人の存在になっていくこと。

自分になっていくこと。

「それが、修行?」

「そう」

美しくも、劇的でもない。ただそこにある日々の暮らし、それを人として過ごしていくことこそが。

天使になるための大切な修行だ、とウイは笑った。

「だって、ウイはそうやって、もう一度天使になれたんだもん。シロちゃんにもできるよ」

お師匠様がいなくなった話をしたら、早く見つかると良いね、って言ってくれたでしょう?

さっきも怒鳴ってごめんね、って謝ってくれたでしょう?

「それが、どれだけウイを救ってくれたかシロちゃんはまだ分からないかもだけど」

確実に、シロちゃんはやれているよ、と笑顔をくれる。

「…そんなことで、いいの…」

見つかったらいいな、とか、悪いことしたな、とか、そんなちょっとしたことで?

ひどく単純なことを指摘されて不信を顔に出すと、そんなことじゃないよ、とすかさず返される。

「すごく難しいことだよ。言いたいけど言いにくかったり、伝えたいのに伝わらなかったり」

ああ。

そういえば、アサ姉やコズミたちにも謝ろうと思ってて、でも、改まって近づくのがなんだか後ろめたくて、

まだ謝ってない。

そういうこと?

「謝りたい人がいるの?」

「…うん」

「じゃあ、行こう。ウイが一緒にいってあげる」

「ええー?」

それもなんだか、と気後れしていると、修行だよ、とウイに手をひかれる。

「言ったでしょ。ウイは、お師匠様だから。ウイもね、一人でできない時、できるまでお師匠様に助けてもらってたよ」

だから、今度はウイがそうしなきゃね、とマシロを促す。

甘えていいんだよ、と言われて、納得する。

「そうか、あたし、弟子だから」

「そうそう、できないことがあっても当たり前、できるようになる為の修行だから」

大丈夫、それで大丈夫。

自分でいること、自分の好きなところも嫌いなところも、捨てたりあげたりできない。

悩みも苦しみも喜びも、そのすべてのことが自分を作っていくこと。それで間違ってないんだよ。

「ここが、シロちゃんの場所だよ」

ここ、と「自分」を指して、マシロの師匠は、最大限の保障をくれる。

「少しづつ、積み重ねていこうね」

「うん」

できることも、できないことも、まず自分を知ること。

そこから、はじまる。

皆が集まっている広場へと連れだって向いながら、そうだ、とウイが振り返る。

「ウイのお師匠様が見つかったら、シロちゃんに真っ先に会わせてあげたいな」

「あたし?」

「ウイのお師匠様はねえ、上級天使様だから。もう絶対、天使!ってシロちゃんにも解るよ」

「へえ…」

「それに、シロちゃんが弟子になったってお師匠様に言ったら、すごく喜んでくれると思うよ」

「ふうん」

そうか。もう、あたしの天使は始まってるんだ、と唐突に実感する。

目に見えないものを信じるのは難しい。けれど、目の前にいる人のことは信じられる。

母の言っていたことは、これだ。

それは、まだ、自分を信じると言い切れる少女の純真さ。無垢である強み。

それでも、この先、何があっても進むべき道はマシロの中に伸びている、とウイがいうから。

迷い、恐れ、不安に駆られても、ウイがくれた天使の指針はここにある。

 
 
 
「あたし、天使になれる」
 

 

マシロは今、それを信じる。

 

 

 

 

 

 

天の心は、ここにある。

 

 

 

 

地上にひとつ。

 

また、ひとつ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 


天使御一行様

 

愁(ウレイ)
…愛称はウイ

天界から落っこちた、元ウォルロ村の守護天使。
旅の目的は、天界の救出でも女神の果実集めでもなく
ただひたすら!お師匠様探し!

魔法使い
得意技は
バックダンサー呼び

 

緋色(ヒイロ)
…愛称はヒロ

身一つで放浪する、善人の皮を2枚かぶった金の亡者。
究極に節約し、どんな小銭も見逃さない筋金入りの貧乏。
旅の目的は、腕試しでも名声上げでもなく、金稼ぎ。

武闘家
得意技は
ゴッドスマッシュ

 

三日月
(ミカヅキ)
…愛称はミカ

金持ちの道楽で、優雅に各地を放浪するおぼっちゃま。
各方面で人間関係を破綻させる俺様ぶりに半勘当状態。
旅の目的は、冒険でも宝の地図でもなく、人格修行。

戦士
得意技は
ギガスラッシュ

 

美桜(ミオウ)
…愛称はミオ

冒険者とは最も遠い生態でありながら、無謀に放浪。
臆病・内向・繊細、の3拍子揃った取扱注意物件。
旅の目的は、観光でも自分探しでもなく、まず世間慣れ。

僧侶
得意技は
オオカミアタック