ドラクエ9☆天使ツアーズ

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光のほうへ

2012年11月20日 | ツアーズ SS

この数日間眠りについていたウイが、目を覚ました途端、騒々しくなった。

 

部屋の中で窓が開く音がしたので、ミオを先に中へ入れた。

多分、彼女が一番ウイのことで心を痛めていただろうし、その健気な様は、

一人で全てを背負っているかのようだったから、まず肩の荷を降ろすためには

ウイにあわせることが、効果的だろうと思ったからだが。

なんと。

扉が閉まってからわずかのうちにミオの悲鳴が聞こえ、慌てて自分達も後に続いた。

 

扉の向こうでは、ウイとミオが窓から落ちるの落ちないのと、大騒ぎをしていた。

 

なぜそうなるか、はともかく。

それを寸前で救出して、なんとか宥め落ち着かせたあと。

ウイがミオをつれて外へ出て行ってしまった。

 

何気なくあたりをつけて窓の外を見ていると、案の定、ウイの姿が見え、

こちらに向かって手を振ってくるので、了解のしるしに手を振り返す。

「うん、今度は大丈夫そうだ」

ヒロが、二人の中庭にいる様子を窓際から確かめて、ミカのほうを振り返ると。

 

「みろ、やっぱり何でもないんじゃねーか」

 

と、ミカが、一連の騒動に虚脱したように、ベッドへと上体を倒したところだった。

いつもきちんとしている彼には珍しい。

(身奇麗にして寝支度を整えてからでないと、“聖域”には踏み込まないミカが)

などと考え、やはりミカも、ミオと同じくらいには張り詰めていたのだろうと思える。

ただそれを、ミカは表に出さないだけだ。

いや、案外自分でも気づいていないのかもしれない、とも思う。

 

ウイは大丈夫だ、と口にした以上、ミカはそれを確信しているということだ。

ただし、感情ではなく、理詰めで。

大丈夫だと判っているのに不安になる必要はない。だから自分に不安はない、と

(ヒロから見れば、それは妄信じゃないのか、と思えるほど)自律しているのだろう。

何に対しても真っ直ぐすぎるところが、ミカの扱いにくいところだと思う。

 

だが、先刻はそのミカの言葉に救われたのだ。

それに思い至って、まだ伝えていなかったことを、口にした。

「ありがとうな」

言えば、ミカは上体を投げ出したまま、天井に目を向けてこちらを見ようともしない。

「なにが」

ただ短い、先を促すための一言が返ってくる。

「さっき、ミオちゃんがガナンに行くって言ってたのを、止めてくれて」

 

ヒロには止められなかった。

ミオの熱い感情に引きずられて。己の中にある、わずかな罪悪感に眩まされて。

感傷的になっている、といわれれば、確かに正しい。

冷静に考えれば、ミオがそれを叶えるかどうかはともかく、

何百年も眠るようにしてこの世界にとどまることを、ウイが許すはずもないのだ。

今なら判る。ヒロにしても、それは望ましいことではなかった。

 

そう言うヒロの、懺悔にも似た告白を黙って聞いていたミカが、ずいぶんな間を置いて

だから、と身体を起こした。

 

「お前にはできない、って、言っただろう」

 

そう言って、まっすぐヒロを見る。

そのことが、何を指しているのかも判らず、ヒロはただ黙ってミカの言葉を待つ。

ヒロからの否応がないことに、ミカが再び、口を開いた。

「お前には出来ない役割だった。だから俺がそうした。それだけだ」

だから礼はいらない、と言う。

ミカはいつもそうだ。

人間味にかける、と言ってもいい。だからミカは、人付き合いができない。

人と人との交流は、そんな理論だけでは成り立たないのではないか?

 

「じゃあ最初からミオちゃんがミカに打ち明けてたらどうした?」

 

ミカにも少しはミオの心情を汲んでやる、ということができたのでは?、とヒロが提案しても。

「それはない」

と、即座に否定する。

あーもー、とヒロが頭を抱えたくなったほどに、真っ直ぐで扱いづらいことこの上ない。

だが、

「あいつは俺には絶対頼ってこない」

と言い切るミカに、驚く。

 

ミカが仲間の中で、自分自身をそんな風に位置づけているのは、寂しすぎる。

「いや…そんなことは、ないんじゃ、ない、かな」

今ではあの人見知りのミオだって、ミカを理解して心を許しているだろう。

見ていれば判る。

ミカは人を寄せ付けないようでいて、その内実は、誰よりも情が深い。

ウイに、そう言われて見方を変えてみれば、ミカとの距離はずっと近くなった。

そして。

近くなったからこそ、ともすれば、ミカは当人よりも深く相手を理解して、

それ相応の付き合い方をしているのだ、とヒロには思える。

それが理解されていないだけで、真に相互理解が生まれれば、ミカの周囲は必ず、

激変する。

そのことをどうにかしてミカに教えたいと思ったヒロは。

逆に、ミカから告げられる言葉に、思考を止めた。

 

「お前は王になるんだろう」

 

その話の切り出し方が、あまりにも突拍子なく、ヒロの頭から今までの考えが吹っ飛んだ。

「…ええーと、何の話だっけ?」

「お前の話しだろ」

「あれ?ミオちゃんの話してなかったっけ?」

俺はミカの話をしてるつもりだったんだけど、といえば、はあ?と返される。

「何で混乱してるんだよ」

お 前 の 話 だ 、と、わざわざ一言ずつ強い調子で言われて、恐縮する。

なぜそうなったのかは判らないまま、昔、冗談で言い合った話を思い出す。

「あ、あー、あの、俺が王様で、ミカが大臣やってくれる話な」

それがどうして今、話題に出てきたのか判らなかったが。

ミカは先に話を進めた。

「それに加えて、ミオを民衆とする」

これで、簡単な縮図の出来上がりだ、とミカが3本の指を立てて、示した。

「民衆は全ての不安を王に訴える。王は、何よりも慈悲深く、民に同情する」

「民と王の関係はそれでいい。だがそれでは国は立ち行かない」

だから、大臣が冷静に徹する、と3つの役割を単純化させて、ヒロを理解に導く。

「ミオは、俺たちの中で、お前が一番自分の感情を受け止めてくれると判ってる」

だから、何かあったときにあいつが頼るのはお前なんだ、とミカが言う。

今までもずっとそうだった。それに気づいているか?と指摘されて、困惑する。

「いや、だって、今まではウイが」

 

「あいつは違う。あいつに、お前の代わりは出来ない」

 

きっぱりと。

ウイとヒロの立ち位置は、似ている様でまるで違うのだ、と説くミカが、ヒロの心を、

大きく揺さぶりかけてくる。

「お前は、どんな状況にあっても、相手と同じところに並ぶことができる」

だが、ウイはそこにはいないのだ、と言う。ウイは、いつも一段上の場所から手を差し伸べる。

わかるか?と、ヒロの頑迷な心を開くように言い聞かせるミカの言葉は、強い。

「お前は寄り添う。あいつは、引っ張り上げる」

いくらウイが手を差し伸べても、差し伸べる先にいるミオがうずくまっていては、

何にもならない。

ミオがうずくまるその場所に、いつも心情を理解してくれるヒロがいるからこそ、

ミオはウイに手を伸ばす。

 

「それこそが、民衆にとって慈愛の王、そのものじゃないのか」

 

ミカが将来への嫌悪を口にしたとき、ヒロは、彼の気が晴れるように、王になれ、と言った。

自由になればいい。自分はその下で、いくらでもミカを支えてやれるのだから、と、そう思った。

だが、ミカはお前にはできない、と言ったのだ。

その部分は俺が引き受けるから、と言い、だから、今のお前を失くすな、とも。

あれは、こういうことだった。

あの時からずっと、このパーティでこなしてきたそれぞれの役割。

慈悲と同情と脆弱さで成り立つヒロを支えてきたからこその、ミカの言葉だ。

それを素直に聞き入れれば、ミオは自分には頼らない、とミカがいった意味も

正しく理解できる。

ヒロがミオの感傷を受け止めて、それを同じように抱えてあげられたからこそ。

 

「俺が、止めておけ、と言ったことにも、あいつは素直に従ったんだ」

 

これが、お前と俺の順番が逆だったとしてみろ、と続ける。

「俺が、アホか、って言った時点であいつは一人で飛び出してるぞ」

頭ごなしに否定されて、もうヒロを頼ろうという考えはどこにもなく。

ミオは、一人で、ただ感情に突き動かされてガナンへ走る、と言われては

ただ納得するしかない。

「…ああ」

実際にその短絡な結論しかないかといわれれば、それはまた別の話で、

ただ、ミオが追い込まれることだけは、確かなように思えた。

「うん」

「それに対して、『俺の代わりにあいつに同情してくれてありがとう』、とか」

俺がお前に言ったらおかしいだろうがよ、とミカが同意を求めてくる。

 

結 局 、 そ こ に 戻 る の か !!

 

「…はい、そうですね」

確かにそれは珍妙な構図だが、だから<礼は不要>という思考に結びつく、

そこに問題があるんじゃないかな、とヒロがまだわずかにわだかまっていることを、

ミカに見抜かれた。

「不満か」

「いや、不満というか」

ミカに不満はない。

仲間内での個々の役割を冷静に見極め、それに倣い、淡々とこなしている様は、

時に感情に流され、やるべきことを見失うヒロにとっては見習いたいくらいだ。

だが。

「…なんだろうな」

すっきりと心が晴れない自分は、何かに納得できていないのだろう。

多分、こういう曖昧な返答がミカを苛立たせるのだろうこともわかっている。

ミカは単純明快でないと、何事も立ち行かない性質なのだ。

今まで散々衝突してきたので身にしみている。

…そういえば、散々衝突してきた相手とこんなに長く一緒にいるのは、初めてだな

とヒロが、ふと思ったとき。

ミカが、口を開いた。

 

「俺は感受性に乏しいらしい」

 

「はっ?!」

突然、彼らしくもない告白に、ものすごく驚かされていると。

「最初にそれを言ったのは実の母親なんだが」

と、さらに返答に困る(ここはミカに同情すべきか?母親にか?という)ことを続けて、

「しかしその母も俺から見れば、十分感受性に乏しいと思える」

というさらなる追撃を投げて、

(いやいやいや!何で親子で牽制しあってんの!!)と内心でヒロに突っ込ませ、

「それでも俺は生きていくうえで困窮したことはない」

などと締めくくる爆弾発言の当人は、いつもどおりどこ吹く風だ。

いや!周りが!それ絶対周りが困窮してますよミカ様…、と、いつもどおり、

ミカの唯我独尊っぷりに対応をもてあます状況へと追い込まれたヒロだったが。

「だが、お前やミオを見てると、生き難いんじゃねえか、と思うことがある」

と放言されては、思わず目も据わる。

 

「…俺の話かい」

 

うるせーほっとけー、と、苦いものを噛んでいるヒロを、ミカが平然と見ている。

ベッドの上で、両脚を組んで。膝の上で頬杖をついて。お前は、と感心した声音で。

「たったこれだけのことで、俺に同情して、俺の親に同情して、俺の周囲に同情するわけだ」

「なっにーぃ、謀ったな、ミカ!」

「いや、俺は俺の主張のために、既存の事実を言っただけだ」

ただお前が勝手にうろたえてたようだから、と何でもないことのように告げる。

…そうだな、ミカは裏をかいたり、人を試したり、謀ったりする必要のない人間だよな、と

改めて納得できるようなことを続けざまに。

「お前らを見てると、俺は感受性がなくて良かった、と思える」

そういわれては、<生き難い>と評された代表のヒロは、ただうなずいて置くしかない。

「あー、そうでしょうとも」

「だからこそ、俺にはお前たちが必要らしい」

「はい?」

先刻から振り回されているようなヒロはともかく、ミカは大真面目だ。

大真面目だ、と判ったので、ともかくミカの言いたいことを真剣に吟味してみる。

…吟味してみた。

「…すっげー思考回路だな」

「そうか?」

「ミカは要らないけど、持ってないから俺ので埋め合わせる、ってことだろ?」

「いや、埋め合わせたくはない。お前のそういうの、鬱陶しいから。いらねえぞ」

「おいい」

まったく、本人を前になんて容赦のない奴だ。

 

「ただお前ら個人のことは好ましいと思える」

 

「…ぬがっ」

「という、<必要性>の話だ。…『ぬが』?」

「いや、なんでもない、変な声出た」

「何だ、ぬがって」

「いやもうそりゃいきなり好きだとか言われたらびっくりするでしょーよ!」

「いきなりじゃねーだろ」

はじめからずっと何を聞いていたんだ、と言われて、ただただ呆然とするしかない。

「え?そんな話してた?」

「お 前 の そ の 耳 は 飾 り か 」

「だってさ」

「お前が、自分の弱さをいちいちいちいち自己嫌悪してぐだぐだ言うから!」

「判ってるよ鬱陶しいってことは!」

「俺が好きでいてやるから安心しろ、って言ってやってんじゃねえか!」

 

最 初 か ら ず っ と !

 

ひゃー!!と、今度は心の中で絶叫する。

なんてやつだ。辛口とは逆方向にも、手加減なしで容赦がなかった。

「わかったか」

「はいっわかりましたっ」

ウイー聞いてー俺ミカに好きだとか言われちゃったよー!!!

と窓から叫ぼうとして、そこにはもう二人の姿がないのを知る。惜しい!!

やり場のないこれを、思いっきり叫びたかった。愛ってなんだ。

と、ヒロの最大級の動揺を前に、ミカが最大級のため息を吐く。

「…お前といい、ミオといい、何で判らねえのか、こっちが判んねえよ」

「だって誰かにそんな直で好きとか言われたことないんだもんよ…」

ミオも、言われたのか。ミカに、これを。すげえ!

だったらぜひ、この、なんともいえない衝動を、ミオと分かち合いたいと思った。

ミオなら判ってくれそうな気がする、と思うことでやや立ち直りかけたとき。

「お前がそうやって自己否定に走る事が、過去の奴らに原因があるんなら」

と、ミカが静かに切り出す。

「そいつらには、お前が必要なかった、ってだけだろう」

俺には必要だと思った。そしてミオも、お前を必要としている。

ウイはありのままのヒロを否定しない。

その輪の中にいて、なぜ後ろを振り返る?

「お前が向くべき方向は、こっちだ」

だからもう引きずるな、そういわれて、不覚にも泣きそうになる。

ミカには、きっとヒロの過去はわからない。

なぜなら、ミカは要・不要で人間関係を割り切れるから。

そんなに単純に感情は切り貼りできるものではない。

それでも。

俺にはお前が必要だ、と、いわれることの心強さは、過去を振り返る余裕もないほどに

強く、これから先の未来へとヒロを連れ出していくようだった。

 

そこに光を投げる。

 

ヒロ自身は何も変わらなくていい。ただ前を向け、とミカが言う。

こんな自分を強い力で必要としてくれて、ありがとう、と、ただ伝えたい。

それは、別れてきた過去があるからこそ、仲間の心に触れるたびに湧き上がる思い。

だが、ミカは言うのだ。

礼はいらない、と。

「あ!そうか、わかった!」

「…やっと判ったか」

「判った!ミカが礼はいらない、っていう、そのそれが」

「はあ?!」

話の内容を理解してるのか、と再び怒られる前に、ともかくミカの前まで移動する。

そして、その両肩を掴んで。

「俺もミカのことが大好きだ!」

そうだ。

伝えたい心は、アリガトウという言葉よりも、きっとこっちの方が正しい。

俺たちの関係に礼はいらない、というミカに、それでも自分の気持ちを言いたくて

何かわだかまっていたことは、きっとこれだった。

 

初めて、支えあって傍に寄り添っていた仲間に、好意を抱いた。

感謝を判ってもらいたい気持ちの根源には、何よりも、好意があった。

自分は、それを伝えることを、どこか恐れていたような気がする。

自分というものに、自信がなかったから。

だから、まずは自信をくれたミカに全力で返す。

これなら「いらない」とは言えまい。愛はいつでも、言ったもの勝ちだ。

先ほどの、宣戦布告のようなミカのそれに返しただけなのだから。

 

「よし」

 

と勝手に満足すれば、ヒロの勢いにやや気おされていたようなミカが。

 

「…知ってる」

 

と、ただそれだけをいう。

ミカらしくて笑ってしまう。と同時に、何かがとても誇らしい。

仲間に、胸を張って好きだといえることが。

こんなにも自分を奮い立たせることができるなんて、知らなかった。

「じゃあ、ウイとミオちゃんにも言いに行くぞ!」

「はあ?あいつら勝手に戻ってくるだろ」

「待ってるだけじゃだめだろ!攻めて行かないと!」

そういってミカの手を引っ張って立ち上がらせると、強引に部屋の外へ連れ出す。

「何に対しての攻めだ」

「わかんねーけど」

「それは単に今、お前が感情的に昂ぶってるだけだろうが」

「それでイイってミカが言ったんだろ」

「…言ったけどな」

しぶしぶ足を運ぶミカの体重を片手に引きながら、扉を開ける。

 

いつも開かれるのをただ待っているだけだった扉を、今、開ける。

 

 

 

 

■ ■ ■

 

好きだから許せるんだよ。

 

ずっと前に、ウイに言われたことの意味が、やっとわかった気がする。

好きだから。

相手のことも、そして自分のことも許せる。許しあえる。

そうして生まれるのは、光だ。

許しの光、ミカが必要としているのは、実はそれなのではないかと思う。

そうして、それを与えることのできるヒロや、ウイやミオを必要だと言うのだ。

だから、ミカに必要とされる自分を、許すことが出来る。

ウイが言ってくれたことは、これだったのかもしれない。

 

それを考えたとき、不意にひらめく。

「なあ、俺が王様でミカが大臣で、ミオちゃんが民衆だとしたら」

ウイはなんだと思う?と、後ろについてくるミカを振り返る。

ヒロにとって、ウイは導く者だ。或いは、光そのもの。

ミカは、ウイの役割を、「引っ張り上げる」と、言った。その真意は。

 

「あいつは守護天使なんだろう」

 

今までも、これからも。

この世界から人間を守るために生まれ、役目を終え消え行く天使。

その天使の一翼に遭遇し、旅を共にした自分達。

関わりあうはずのない運命が交差し、天空で終焉を見届けた今でも。

ウイは、守護天使だ。

だからこそ。

 

「神の不在に、面倒ごとをもちこんでくるものだ」

 

ミカの辛辣さは、変わらず。

不謹慎だと思いつつ、笑ってしまった。

「確かに」

と同意すれば、ミカも人の悪い笑みを見せる。

「仕方がないから、頼まれればまた手を貸してやってもいいが」

神が人に借りを作るとは思うまい。これは高くつくよな、とヒロも同意する。

「俺たち、神様に貸しをつくってやった、ってわけだ」

な?とミカに調子を合わせれば、それにも乗ってくれる。

「なるほど。神復活の暁には、せいぜい大きく返してもらえよ」

「まかせとけ」

そういうのは得意だ。

知ってる。

 

そんな戯言を交わしている間に、廊下の先から階段へと差し掛かる。

そこの踊り場から、1階のアプローチが見え、駆け込んできたウイが見える。

「おーい、ウイ!こっち!」

声をかければ、その後からかけてくるミオも、同時に立ち止まり、こちらを見上げた。

きらきらと、外の光を受けて。

はじけるように笑顔を見せる二人の存在は、とても愛おしい。

そして。

 

「ヒロー!ミカちゃーん!ウイねえー」

 

旅の始まりは、いつも天使が号令をかける。

 

「お師匠様を探しに行くからー!手伝ってー!!」

 

 

 

 

 

一つの終わりと、次の始まりは、いつもこうして手をつないでいる。

 

 

 

 

 

 

 

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星空の守り人

2012年11月19日 | ツアーズ SS

その天使は、人間たちの世界を滅亡から救うために、

自ら天使であることをやめ、人間として地上に舞い降りた。

 

それがどういうことなのか、ミオには良くわからない。

 

自分の場合、人間をやめて、何か他のものになれるか?と考えてみても

人である自分を失くす、というそのことが、恐怖そのものでしかない。

 

ウイも同じだっただろうか。

 

天使としての何かを失くし、その虚無や恐怖のようなものに取り付かれて

目を覚まさないのではないだろうか。

ウイが眠り続けている間中、そんなことを考えていた。

だから。

 

絶対に、一人にはさせない。

 

自分をここまで導いてくれた人を、どんなことがあっても守りたい。

そのために力を欲した。

ウイが失ったものを埋めるために、自分が人ではない何かの力を得られるように、

強大な力が、どうしても欲しかった。

 

それほどまでに願った「奇跡」は、分不相応だったのだろうか。

 

ウイが目を覚ました。

一番に傍へ駆けつけて、一番に気持ちを伝える権利を譲ってくれたヒロとミカの二人は、

この事態を知らない。

 

部屋の中に入ったミオが見たものは、窓から身を投げようとしているウイの後姿だった。

 

 

 

 

■ ■ ■

 

「だめー!!!」 

「あ、ミオちゃ」

「やめてください!やめてください!だめです!そんなことしないで!!」

半ば恐慌状態に陥りながらも、ミオはウイの体に全力でしがみついた。

ほとんど、二人、窓から飛び出しそうな勢いだったけれど、他にどうしようもなかった。

それを。

「ふぎゃあーっ、いやーっ、ミオちゃん怖いー!落ちるー!!たーすけてー!!」

ウイの大絶叫に驚いたときには、もう二人の体は、窓の外へ大きく傾いていた。

 

落ちる。

 

ミオがそう思ったとき、強い力で、体は重力とは反対の方向に引き戻された。

一瞬何が起こったのかわからないまま、ミオはヒロの腕の中にいた。

「あっぶねー」

「何やってんだ、お前ら」

転落寸前の自分達を助けてくれたのだろう、ヒロを見て、同じようにウイを抱きとめているミカを見た。

…ミカに、しがみついているウイを見た。

「おー、怖かったよーう、ミオちゃんに突き落とされるのかと思っちゃったよー」

ああびっくりしたー、と、その口調はいつものウイと変わらない。

屈託なく、自由で伸びやかで、いつもどおりの軽快なウイだった。

窓の外を見てたんだよ、とミカに説明している様子をただ呆然と見ていて、ミオは、

自分がとんでもない勘違いをしていたのだと、やっと判る。

 

「ご、ごめんなさいっ、私、ウイちゃんが飛び降りるのかと思って…」

 

あまりの勘違いが恥ずかしくて、その場から逃げ出したくなる。

どうして今、そんなことを考えてしまったのか。

その失態を、ミカは呆れ、ヒロが慰めるように笑ってくれた。

「それだけミオちゃんが心配してたってことだよ」

と、ミオのとっさの行動をウイに説明してくれるヒロに助けられて、それがいつもと変わらなくて、

…安心した。

 

安心したら、涙が堰を切ったようにあふれて止まらなくなった。

 

「ミオちゃん、大丈夫、大丈夫だよ、心配しなくていいよ、大丈夫なんだよ」

驚いたウイが、あわてて傍へきて、気遣ってくれる。

優しく背中をなでられては、それがもう逆効果でしかなく、我慢できずに号泣した。

「わー、どうしようどうしよう!」

「ほらー、またウイが泣かせるー」

「ミオちゃん、大丈夫だよ、もう全然突き落とされるとか思ってないよ?」

「…いや、そこじゃねえだろ」

まあ好きなだけ泣いたらすっきりするよ、とヒロに手ぬぐいを渡されて、とめどなく泣いた。

その間、ウイはずっと抱きしめてくれていた。

おかげで、気持ちが落ち着いて嗚咽が収まりかけてくると、また恥ずかしくなる。

小さな子供みたいだ、とミオが自分でも呆れたとき、そうだ!とウイが声をあげる。

「大丈夫だよって、言ってあげられる所があるから、ちょっとウイに付き合って?」

と、ミオの手を取る。

え?と思うまもなく、ウイに手を引かれ、そのまま強引に部屋の外へ連れ出された。

部屋に残る二人が気になって背後を振り返ると、ヒロが手を振ってくれた。

 

 

 

■ ■ ■

 

「ウイねー、寝てた間のこととか全然覚えてないんだけど」

心配させてゴメンね、と何度も謝ってくれるウイと手をつないで、歩いた。

大きな建物をゆっくりと移動して、外へと向かっている。

「何かに呼ばれているような気がして、さっき、目が覚めたんだよね」

何に呼ばれているのかが気になって、まず窓を開けて外を見たのだ、と言う。

「それってこれだったんだなあって思って」

と、裏口から外へ、広い中庭へと出たウイは、そこで手を放して駆け出した。

あ、と思うまもなく、木々が茂り草花が生えている庭の中まで走っていって、立ち止まる。

そうして、ね?と、両手を広げて笑顔でミオを振り返った。

それが、ウイのいう「大丈夫」な意味であることが判らなくて、ミオは困惑する。

ウイにそれをたずねるために、ミオも中庭へ踏み出し、ウイのいる場所まで歩いていく。

その間に、ウイが建物を見上げて、手を振った。

つられて上を見れば、先ほどまで居た部屋の窓から、ミカとヒロが見えた。

 

それで、思い出す。

 

ウイは、窓から落ちそうになった状態で、「怖い」と言った。

どんな高所でも、そこから落ちることにためらわないウイが。

船のマストでも、3階のベランダの手すりでも、平気で駆けて跳ねる、身軽なウイが。

そのことに気づいたミオを知ってか知らずか、ウイが上を見たまま話し出す。

「ウイね、今までは、ずっとあっちに呼ばれてたの」

その視線は、部屋の窓から、上空へと移っている。

あっち、とは、天空のことなのだろう。

「天使界から落ちて、翼を失くしたあとも、上に上に身体が呼ばれてるみたいだった」

そこがウイの居場所だった、と言われて、胸が痛くなる。

居場所を失ってしまったウイを思えば、切ない。だが、ウイはミオを見て笑う。

「でもね、今はほら、こっちに呼ばれてるの」

こっち、と軽く飛び上がって、しっかりと地面に着地する。

両脚が大地を踏みしめる。

身体は、地上に引き寄せられる。

ミオにとっては当たり前のことを、ウイは、「呼ばれてる」と言った。

 

人間に、なったから。

 

「ここにいていいよ、って言ってもらえるのは、とても安心するでしょ?」

だから。

「大丈夫なんだよ」

心配しないで、とミオの手を取る。しっかりと握ってくれる。

「ウイは、どこにもいかないよ」

ここにウイの居場所があるんだよ、と言われて、泣きたくなった。

それが、嬉しいからなのか、悲しいからなのか、ミオにもわからない。

「ウイちゃんは、人、間に、なったから…」

「うん」

「私たち人間を助けるために、守護天使でいられなくなったんでしょう?」

それはウイにとって、どれほどの喪失なのか、わからない。

居場所があるといわれても、その喪失を、自分たちが埋めて上げられるのかさえも、

判らない。

とても、無力だ。無力な、人間の一人だ。

自分の力のなさが、今、とても悲しいのだと思った。

その告白を、ただじっと黙って聞いていてくれたウイが、「んー」、と、いつものように、

考える時の声を出す。

そうして。

「それは、ちょっと違うんだなあ」

と、ミオの手を軽く振って、沈み込むミオの意識を自分の方へと向けさせる。

「人間のためにウイ一人が犠牲になればいいや、って思ったんじゃないよ」

その言葉は、ミオを慰めようとしているのではなく。

ウイの、真実。

「そんな風に言われると、ウイのしたことは悲劇の英雄っぽく聞こえるけれど」

 

ウイは、守護天使なんだよ

 

そう力強く宣言したウイは、ミオの不安とはまるで違うところにいるのだ。

「ウイはね、天使界のみんなのために人間になることにしたんだよ」

「…天使、界の?」

「そう。いっぱいいろんなことを考えたけど、最後に思ったのは天使でいることだったの」

守護天使である仲間が一番に望むことを、思った。

その願いを叶えるために出来ることは、人間になることだった。

「ウイが全知全能の神様だったら、そりゃあ人間も天使も一度に助けちゃうけどね?」

と、軽く冗談めかして笑う。

今、ここでちゃんと笑えるウイは、ミオが考えるより、ずっと強い意志でその選択をした。

「守護天使はね、人間を導いて守るために生まれてきたの」

長い長い時間をかけて、人間のために良かれと働いてきた守護天使たちの中で。

人間の世界に光あれ、と、ただそのことを願って、守り抜いてきた天使たちのために、

人間の「今」を守った。

そして。

人間を守り導くことは、本当に正しいことなのか、と迷いながら答えを見つけられず、

それでも身を粉にして働いてきた天使たちのために、

人間の「未来」と、それによってもたらされるはずの、「回答」を守った。

 

あなたたちの任務は、人間に光を与えることは、とても正しい。

そう、仲間の天使たちに証明するために。

 

ウイが選んだ道は、そういうことだった。

 

「ウイは、ウイに出来る唯一の方法で、自分の願いを叶えただけなんだよ」

そうして、それができたのは。

「人間になっても、ウイが天使でいられることを、もうちゃんと知ってたからなの」

「人間になっても?」

「そう、だからね、人間になることは何も失うことじゃないんだよ」

ウイは、ここにいる。

守護天使として、この大地に居場所がある。

「ミオちゃんが、言ってくれたでしょ?」

 

私たちが、ウイちゃんの、光の輪に、翼の代わりになります

 

「あのときから、ウイは光の輪と翼をもつ守護天使のまま、地上にいるよ」

まだ、旅の始まりの頃。

無力に嘆くウイを励ましたいと思った言葉だった。

あの頃はまだ、ウイが<守護天使>であるという実感はなかったけれど。

その言葉が、ずっとウイを支えてきた。

だから。

「これから先も、ずうっと、守護天使のままでいられるんだよ」

 

だから大丈夫。何も心配しないで。

 

そうウイが言っていたことは、全て、ここにあった。

大地に足をつけて、自分の力で進んでいく。仲間の支えで立っている。

そうすることの願いは、ただ一つ。

 

天使の導きのままに、人間たちに、幸いあれ

 

「ミオちゃんが賢者になりたいなら、ウイは応援するし、手助けもできるけど」

その後の選択は、これからのミオちゃん次第だからね、とウイが言う。

「私、が?」

「ミオちゃんが、自分でちゃんと幸せになること」

どんな未来が待っていても、必ずミオ自身が幸せでいること。

「ミオちゃんが辛かったり、悲しんでたりしてたら、ウイは助けてって言えないよ」

逆にミオちゃんのことが心配で、お師匠様探しどころじゃなくなるよ。

と、なんでもないことのように告げる。

ウイのために出来ることを、とミオが悩みぬいたこの数日間に、答えをくれる。

「悲しみに逃げちゃだめだよ」

あの時、ヒロがこちらの世界へと引き戻してくれたから、それが言える。

ヒロにそうしてもらったから、今、ウイはここにいる。

だから、何かを選ばなくてはならないときは、必ず、幸せでいられる方を

選んで。

「もちろん、ミカちゃんも、ヒロにも同じことが言えるわけでー」

あの二人も、ウイの力になりたいと願い、そのために出来ることは一つ。

「そして、ウイの方もそれは一緒だと思うんだよね」

幸せでいること。

「天使の願いを叶えられて、人間を守ることができて、ミオちゃんたちが傍にいてくれる」

ずっと、先の未来まで。

「ほらね、ウイは今、こんなに幸せだよ?」

だから皆を助けてあげられるんだよ、と言い聞かせられて、素直にうなずいた。

 

「人は幸せになるために生まれてくるの」

 

それは、幸せの確約ではない。

幸せを掴むための、命の叫びだ。

 

「ウイは、そう信じてるから」

 

守護天使になると決めた日がある。

 

「ミオちゃんは、奇跡って、なんだと思う?」

そう問いかけられて、ミオは、とても大事なものを受け取った気がした。

「自分の力では、叶わないこと、…でしょうか」

「うん、そう、それってね、人間の持つ力だと思うんだよね」

初めて地上に落ちた時、ウイは奇跡を見たよ、と守護天使が語る事実。

「小さな子たちが集まって、皆で力を合わせて花を咲かせていたの」

一人ではできないことを、多くの手が集まって成し遂げていく奇跡。

無力であることを嘆くだけに留まらず、そこから踏み出していく奇跡。

 

「いつかきっと人間は、翼がなくても空を飛べるようになるよ」

 

あの星にだって行けちゃうかもしれない、と昼日中に隠れている天空の星を指す。

人間が、天使に会いに行く。

人の奇跡を目の当たりにして、星になった天使たちは何を思うのか。

 

「無数にある星の中には、この世界のように人間たちが暮らす世界があるかもしれない」

その世界に住む人間たちを、星々が愛せるように願う。

滅ぼしたり、滅ばされたりしなくてもいいように、星と人間とが愛を知る。

 

「だからウイは、人間が正しく幸せになれるように守護天使になった」

 

光のほうへ。

明るく、輝ける光のあるほうへ、人間が進んでいくために。

 

「そして今は、その人間にもなることができた」

 

ここで生きていく。

仲間と、力を合わせて幸せになるために。

奇跡を、起こすために。

 

「ウイちゃんは、本当に守護天使なんですね」

ウイは悲劇を抱えない。それはミオが抱えていた悲劇でしかなかった。

世界は、一つでありながら、人が思う数だけ無数に存在している。

どんな風にも変わっていく。

その無数の世界が光のほうへと進むために、一人ひとりが幸せにならなくてはいけない。

人間の持つ、「奇跡」の力で。

 

今度は、天使に代わって、人間が全てのものを守るために。

 

今、ウイから受け取った大事なものは、しっかりとミオの手の中にある。

それを大切に受け継いでいく。

ずっと、先の未来まで。

 

人と、星を繋ぐ絆を、守っていくために。

 

 

 

 

 

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一人じゃない証に

2012年11月15日 | ツアーズ SS

世界が救われた、と言って、いったいどれだけの人がそれを信じられるだろう。

人の知りえないはるか高みで、滅びと、存続の危機とがこの世界を覆っていたのだ、と言って

誰が、それを我が事のことのように受け止められるだろう。

 

世界は、そんな風にできている

 

天使としてこの世界のために生まれ、天使としてこの世界のために消える運命、

それを自らの存在の理由として戦いに挑んだ一つの魂は、望む世界と引き換えに

追いかけた師も、翼をもつ仲間も、生来の場所さえも失って、この地に落ちた。

 

神の喪失さえも受け入れて、世界はまだ、在り続ける

 

 

 

■ ■ ■

 

あの日から、ウイはまだ起き上がれない。

時々目を覚ますけれど、何にも反応せず、すぐに深い眠りに落ちてしまう。

だから、こうしてそばで見守っていることしかできない。

 

そうしてウイのそばについていたヒロは、様子を見に来たミカと交代して、

宿の部屋を出た。

ウイのことも心配だが、それ以上に、思いつめているようなミオのことも心配だ。

心配のしすぎでミオの方も倒れてしまうんじゃないか、と、ここ数日気をつけていたが。

前方にいるミオの横顔を見て、足を止めた。

バルコニーのてすりにすがりつくように身をあずけて、何かを考え込んでいるようだ。

声をかけていいものかどうかためらったものの、ヒロの近づく気配を感じて、

ミオが振り向いた。

 

「あ、ヒロくん」

 

傍へ行くと、ウイちゃんは目を覚ましましたか?とたずねてくる。

それに首をふれば、そうですか、とうつむいて、すぐにまた顔を上げた。

 

「ヒロくんに、お願いしたいことがあるんです」

 

その様子は、不安そうだったここ最近のミオとはまた違っていて、

何かしらの覚悟を決めたようにも見える。だから。

「うん、何?」

ヒロは、慎重に先を促す。

 

「ガナン帝国のお城に、付いてきて欲しいんです」

 

それは、確実にヒロの意表をついた。

ガナン帝国は、今回の事件の発端となった、悪意の巣窟のような場所だ。

「え?何で?ガナン帝国に行きたいの?今?」

「はい、どうしても、行きたいんです」

でもまだ敵の残党がいたら一人で突っ切る自信がなくて、と弱気に続ける。

「行って帰るだけなら、ヒロくんがいてくれれば出来るかな、って思って」

「…うん、そりゃ、まあ二人なら行けないこともないだろうけど」

ガナン帝国城を覆っていた闇の核心部分は消滅した。

あとは時の流れとともにこの地の昇華を待つだけの地だ。

その様子を確認したいのかと問えば、ミオは首を振った。

 

「本棚にいた大賢者様に、会いに行きたいんです」

 

そういわれて、ヒロも、本棚に潜むように存在してた賢者のことを思い出した。

怪しげというか、胡散臭げというか、…と、ヒロはあまり気にも留めていなかったのだが

ミオは違ったらしい。かなり真剣に告白された。

 

「私、大賢者様みたいになりたいんです」

 

それもまた驚きだ。

「ええー?あれ?ミオちゃん、あれ信じてるの?!」

「はい、だって、あの状態で何百年も生きてこられたんでしょう?」

「う、うーん…、まあ…、そう、らしいけど」

本棚の中で眠ってるあの状態を、<生きてる>というかどうかは、悩むところだが。

 

「私、ウイちゃんを助けたい」

 

はっきりとそう言い切ったミオの覚悟に、ヒロは息を呑む。

「だってウイちゃんは、この先ずっとずっと、お師匠様を探すんでしょう?」

それは、絶望と憎悪の魔宮で、ヒロが放った言葉のせいだった。

 

自分の師匠を目の前で失い、その彼を救う最後の望みをかけて魔宮へ挑んだウイは

もう、どうあっても師匠を取り戻すことはできないことを知って

その場へ、残ると言った。

ここで自分も使命を終えると言って、動かなかった。

それを許さなかったのが、ヒロだ。

 

『エルギオスはイザヤールに、許せと伝えてくれ、って言ったんだぞ?!』

 

その言葉だけが、ウイを動かしたのだと思えば、身がすくむ思いがする。

なぜなら、ウイと、そのウイを慕うミオの運命までをも、自分が決してしまった。

 

『エルギオスが言った以上、ウイの師匠はいるんだ、絶対、あの世界のどこかに!』

『ラテーナさんだって何百年かけてエルギオスを探し出したのに』

『ウイはその可能性を捨てて、ここであきらめていいのか?!』

 

ウイを失いたくないと思った、ヒロのその一心で。

 

「ウイちゃんはラテーナさんみたいに魂だけになってもずっと探すんでしょう?」

 

ミオが、決断してしまう。

 

「それなのに、私達が傍にいてあげられないなんて、悲しすぎます」

この広い世界で時が流れて。

ヒロや、ミオやミカと死に別れて、取り残されて。

イザヤールという天使の存在を誰一人知らない世界で、ウイの魂は、彼を探し続ける。

たった一人で。

「そのときに、一緒にいてあげたいんです。本の中ででもいいから、傍にいたいんです」

ラテーナのように気が遠くなるような時間をかけてこの世界にとどまる魂に、

どうにかして寄り添う方法を、ミオは、必死で考えていたのだろう。

そのために、あの大賢者に教えを請うために、ガナン帝国へ向かうという。

 

止められない、と思った。

 

ウイを地上につれて戻ることだけを考えていたヒロには、それを止められない。

自分の甘さを、思い知らされる。

そして同時に、残酷なことをしてしまったのだ、という気がした。

 

「…いいよ、俺でよかったら、どこでもついていってあげるよ」

「本当ですか?」

「うん、でも、まずミカに相談しないと。二人で出て行ったら、ウイのことが」

「あ、はい、そう、…そうですね」

 

まだ、ウイは目覚めない。

ここまで、自分たちを導いてきた天使はいない。

決めるのは、自分の心ひとつ。

 

 

 

■ ■ ■

 

「はあ?」

と、事の次第を説明されて、ミカが思い切り、<不可解>という表情をした。

ウイはまだ変わらず眠り込んでいるようなので、部屋の前で3人、立ち話をしている。

「お前が、何しに行くんだって?」

「け、賢者になれる方法を聞きにいきます」

「お前は?」

「護衛」

一度聞いた話を理解できていないはずはないのに、わざわざ確認する。

ミカがこういう態度に出るとき、それは必ず、何らかの攻撃態勢に入っている時だ。

「で?それが今でないと行けない理由でもあるのか?」

と、淡々と問い詰めてくる態度に、思わずヒロはたじろいでしまっている。

「え?えーと」

それを言われると、確かに、明確な理由がないな、ということに気づいたので、

「…ミオちゃんが行きたいって言う、から?」

と、安易にミオに振ってしまった。

それを判っていて、ヒロをとがめるでもなく、ミカの攻撃目標はミオに移る。

「お前は?俺を納得させられるだけの理由があるんだろうな?」

「…あっ、あの、それは、ウイちゃんが」

眠っているので、と続ける声が、ミカの一瞥の前に消え入りそうになる。

が、真っ赤になったミオが両足を踏ん張って声を張り上げた。

 

「一人じゃないですよって言ってあげたら起きるかもって思いましたッ!」

 

その慣れない大声に本人が一番驚いたのか、ヒロとミカの反応を見て

しおれるようにうつむいて、すみません、とこれまた消え入りそうにつぶやく。

それを見て、ヒロと同様に驚いていたミカだったが、じゃあ言ってこいよ、と

背後の扉を指し示す。

「え?」

「言って起きるんなら、お前のその覚悟だけで十分、起きるだろ」

「だって、それは…」

と、ミカのそのそっけない反応に泣き出しそうになるミオを見て、ヒロがあわてて庇う。

「ミオちゃんは、言うだけじゃなくて、ちゃんとウイの前で証明したいんだよ」

賢者になって。

その力を持って、決して一人にはしないのだと、永久の誓いを形にしたいのだ。

その誓いの形で、ウイを安心してこちらの世界へと呼び戻したいのだと、判った。

多分、ミカにも伝わった。

だからこそ。

「そんな証明なんか、必要ないだろう」

と、呆れたように、小さく息を吐き出す。

「あいつが一番、それを判ってるんだから」

そういったミカの声は低く、不安に揺れていた心に染み入るように、こぼれた。

なぜか、その言葉で、その場の不安定な空気が落ち着きを取り戻したようだった。

ウイは、判っている。

何もかも。

それを信じて疑わない強さが、ミカの口調を普段どおりに引き戻す。

「大体、そんなことと、あいつが寝てることと、何の関係もないだろーがよ」

そう言って、「お前らは」、と出来の悪い子供を叱りつけるように。

 

「感傷的になってるだけだ」

 

と、上から目線で決め付ける。

「ええ?ミカは感傷的になってないとでも?」

ここ数日、様子がおかしかったのはミカだって同じだ、という意味を込めて

ヒロがやり返すと。

「なってたけど、今のお前ら見てたらアホらしくなってやめた」

などと言っては、心底呆れ果てた、というような、これ見よがしのため息ひとつ。

 

「自分が軽はずみに言ったせいで、あいつが師匠を探し続けないといけないとか」

と、ヒロを軽くにらみ付けて

 

「自分が死んでしまうから、あいつを一人にするなんてかわいそうだとか」

と、ミオを射すくめておいて

 

「アホか、お前ら!」

 

と、これ以上はないほど、<傷口に塩をすりこむ行為>を繰り出すミカが。

「勝手に自分を犠牲にして話進めてんじゃねえよ」

あいつがそう言ったんならともかくッ、そう言い切って、苛苛と両腕を組む。

「けどさ」

それは、感傷的に聞こえるかもしれなくてもある意味事実で、と続けようとするヒロを

ミカがさえぎる。

少し、口調を緩めて。

 

「あいつが、あの魔宮から戻ってきたのは」

不安にすがりつく二人を、諭すように、ゆっくりと。

 

「自分が、一人じゃないことを、思い出したからだ」

 

その言葉に、ヒロも、そしてミオも、胸を突かれる思いがした。

「師匠を探すのは口実だってことくらい、俺にだってわかる」

エルギオスの言葉を伝えるために、魔宮を出たのではなく。

「それを口実にしないといけないくらい、自分が必要とされてることを」

思い出した。

ヒロの、言葉で。

一人じゃない。自分がここで消えれば、悲しむ人たちがいる。

何よりも、仲間にそれをさせてしまう。

自分ひとりの悲しみを、抱えきれない悲しみを、一緒に抱いている仲間がいる。

だから。

「お前が言わなかったら」

と、ミカがまっすぐヒロを見、俺が言っていた、と告げて、ミオを見る。

「ヒロも俺も言わなかったら、お前が言ってたんだろう、ミオ」

その言葉に、涙を落としたミオが、はい、と小さく頷いた。

 

「師匠じゃない。俺たちがあいつを必要としてるから、戻ってきたんだ」

 

俺はそう思っている、と、もう一度視線をくれたミカに、ヒロもしっかりと頷いた。

「うん」

だから、勝手に先走って話しをややこしくするなよ、と、呆れ顔で。

「大体、自分が寝てる間に、そんな大事な計画が進んでたと知ったら、あいつは」

「…拗ねるな」

「そう、ですね、…怒られちゃいますね」

ずーるーいー!!と、両手を振り回して抗議するウイの姿が思い浮かんで、

3人で、ちょっと笑った。

もう、どんな姿も想像できるくらい、ずっと一緒に旅をしてきたのだ。

自分たちがウイを必要としているように、きっとウイも必要としてくれるのだろう。

それを。

ウイの言葉で、正しく聞くのだ。

それが大事なのだと気づかされる。

どんなことだって、応えてみせる。

それが、ウイを必要とした自分達の思いだから。

 

「あ、窓が」

 

ウイの寝ているはずの部屋から、窓が開く音がした。

それを三人同時に聞きつけて、そちらを見る。

「ウイちゃん」

「起きたかな」

ヒロの言葉に後押しされるように、ミオが動いた。

扉の取っ手に手をかけ、中に入ろうとして、動かない二人を振り返る。

「あの?」

行かないんですか?と問いたげな様子に、ヒロが笑った。

「言っておいでよ」

先ほど、ミカが言ったセリフを、今度は本当の意味で告げる。

ミカも同じ思いなのだろう、その場を動かずに頷いてみせた。

 

「ミオちゃんが今ウイに一番言いたいこと、言ってきたらいいよ」

 

その言葉を自分の中で反芻するかのように、しばらく動かなかったミオが、

明るい笑顔を見せた。

「はいっ」

涙をぬぐったけれど、もう手を差し伸べていたわらなくても大丈夫だ。

天使が目を覚ました。

 

 

ミオが扉の向こうへ姿を消したあとも、二人、その場でただ待っていた。

もう一度、あの扉が開けば。

 

きっと、思ったとおりの展開が待ち受けているのだから。

 

 

 

 

 

 

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天使の不在

2012年11月05日 | ツアーズ SS

ウイが消息を絶って、数日が経つ。

 

あの伝説の生き物、ドラゴンに会いに行ったまま、行方が知れない。

…そう、伝説の生き物だと思っていた。

火山に棲んで、火を吐く。威厳と畏怖とを体現した巨躯をもちながら、お酒が好きで、気難しい。

「困ったおじいちゃんだよ」

なんていつもの調子で言って、じゃあちょっと行ってくるね、と別れた姿を

今もまだ、はっきりと思い出せる。

ドラゴンがいるのだから、ウイが守護天使であっても何もおかしくはないのだろう。

 

正直、まだそれは信じられないけれど。

 

自分にとっては、ウイが守護天使で、あの高い場所にある天空から来たのだと教えられても

まったく信憑性はない。そんなことはどうでもいい。

ただ、天使だから、人間ではないから、いずれ自分達の目の前から消えてしまうのだ、と

考えることのほうが、怖い。

 

そんな、虚無が巣くうほどに、ウイの消息不明の時は長かった。

 

 

 

■ ■ ■

 

 

 

ヒロは、セントシュタインの城下町をあてどもなく歩き、気がつけばまたここまで来ていた。

ウイがいつも、ルーラという魔法で帰還する場所。

 

竜に助力を請い願うために出された条件は、「ウイが一人で対面すること」だった。

そのために、麓で待つことさえも許されず、自分達3人は、ここセントシュタインの酒場で

待機することを余儀なくされた。

それからだ。

 

ウイから一切の連絡がない。

 

交渉がもつれているにしても長すぎる。

竜の意思には背くが、何の情報もないままただ待機していられるだけの時間は

とうに過ぎた。

3人で話し合った結果、ヒロが単独で竜の村まで飛んだ。

 

そこで得られた事実は、竜の存在の消滅だった。

 

長い時を竜と共に生きた村だ。その悲壮感は計り知れない。

それでも自分にとっては、それをはるかに上回る大切な存在であるウイの消息を

どうあっても掴まなくてはならなかった。

 

だがしかし、結果的にヒロは、ウイが消えた、という事実以外の何事も、

仲間に持ち帰ることができなかった。

 

「ヒロくん!ここにいたんですか」

 

街を守る外壁にもたれ、日が沈む西の空を、ただぼんやりと見ていたヒロに、

少女の影が駆け寄ってくるのが判った。

 

「大丈夫ですか?」と、そばまで来たミオが、心配そうにそう問いかける。

 

本来なら何十日もかけて旅をする行程を、キメラの翼は一瞬で飛んでしまう。

それは少なくとも、それだけかかる疲労を体に蓄積する。

短時間で竜の村までの行きと帰りとの代償を受けて、ヒロはしばらく調子を崩していたのだ。

「うん、大丈夫」

「…で、でも、顔色が悪いみたいです」

パーティの中では、仲間の誰よりも弱く、頼りなく、いつも消極的に控えているミオにとって、

心の支えであるはずのウイの不在は辛いだろう。

自分よりも、ずっと。

そう思って、ヒロはなんとか笑ってみせた。

「西日のせいじゃないかな」

もう疲労はほとんどない、ということを伝えて安心させるために、軽く体を動かして見せる。

いつもどおり、軽快に、俊敏に、体は動く。

それを見て、ミオも判ってくれたのだろう。小さく頷いた。そして。

 

「こんなところで、どうしたんですか?」

 

それを聞かれると、言葉に詰まる。

ウイのいない輪の中で、うまく自分を保つ自信がないのだ、とは言えないだろう。

 

「…うー、んと、ウイが戻ってくるなら、ここかな、と思って…」

 

心の弱さを、何よりもミオに心配させないためにうまく隠せただろうか。

それとも、逆効果だっただろうか。

 

「あ、そういえば、ルーラで帰るところは、ここでしたね」

「うん」

 

ヒロとしては、ウイが天使だという事実は、まったく信じていない反面、

だからなのか、という思いがある。

ウイが天使だから、普通なら他人に萎縮してしまうミオも、自然にウイを慕う。

ウイが天使だから、他人に警戒心しか抱かないミカでさえ、ウイには心を許している。

そして。

ウイが天使だから、自分は、そんな二人とここまでやってこれたのだと、思う。

 

ウイの存在がない今、自分は、どんな風に振舞えば、

この二人をつなぎとめることができるのだろう?

 

そんな不安が、抑えきれない。

 

長い旅の果てに、やっと得た、自分の居場所だと思っていた。

だがそれは、失って判る、ウイの存在があったからこその居場所だった。

ウイが戻るまで、自分はこの二人をつなぎとめなければならない。

二人がいなくなれば、ウイは戻る場所を失う。

そして自分は、ウイを失うのだ。

 

「あ、あの」

 

気がつけばつい、暗いほうへと流れていく思考を断ち切ったのは、ミオの声。

あわてて、隣にミオがいたことを思い出す。

いけない。また自分ひとりをもてあまし、仲間に気を配ることを疎かにしてしまった。

今、ウイはいない。自分がそれをやらなくてはいけない。

 

「はい、なんでしょう」

調子を取り戻すように、わざとそう茶目っ気をきかせてミオに向き直ると、

ミオが、数枚の紙の束を差し出していた。

「え?なに?」

「こ、これ、あの、ルイーダさんにお願いして、手伝ってもらったんですけど」

それが何かわからなかったために、思わず手を出すのが遅れた時。

ミオの言葉が、紙束を受け取ろうとするヒロの手を止めた。

 

「ウイちゃんに関する情報です」

 

それは。

吉報か、凶報か。

本来なら、何よりも欲しい情報のはずが、ヒロの心を戸惑わせる。

ミオがそれを持ってきた、というのも意外だった。

それをどう考えればいいのか、わずかにためらった時。

 

「酒場の奴らに聞いたのか」

 

別の声がして、ヒロの背後から伸びた手が、その紙の束を受け取った。

今ここで、自分たち以外の存在を失念していたばかりに、ヒロは飛び退るほどの勢いで

背後を振り向いた。

「うわ、びっくりした」

「なんでだよ」

ヒロの反応にいやそうに顔をしかめながら、ミカがそこに立っていた。

いつ来たんだ、なんて無意味な質問を嫌がるミカには聞かないけれど。

いつ、自分達のもとにあらわれたのか、まったく気がつかなかった。

しかし驚いたヒロとは違って、ミオは判っていたのだろう、冷静に対応している。

「ハイ、あの、ここ数日、何か変わったトコはないか聞いてみたんですけど」

そのやりとりを見守っていたヒロに、ミカが自分の手にしていた封書を差し出す。

 

「城の衛兵室と、うちの守衛に集まった情報だ」

 

ミカは、ミオのようにヒロの反応を待ったりはしない。

無理やりヒロの手に封書を押し込むと、もう、ミオから奪った紙の束を広げて、

内容を検分し始めている。

「…お前…」

「あ、あの、すみません、あまり、たいしたことは聞けなくて、あの」

「それより、お前のこの字!読み難いにもほどがある」

「あ、ああっ、ごめんなさいっ、もっと丁寧に書くべきでしたっ」

「違うだろ!これ以上丁寧に緻密に書いてどうすんだよ、もっと大きい字を書け!」

「は、はいっ、ごめんなさい!」

「紙にまで遠慮して字書くのかよ、どんだけ萎縮してんだよ」

「気、気を、つけ、ます」

目の前で起こるそんなやりとりを、ヒロはただ、ぼんやりと見ていた。

 

ミカが手にしているのは、ミオが得た情報だ。

人と関わることが苦手な彼女が、ルイーダに協力を仰いだとはいえ(それも驚きだが)

酒場に集まる冒険者達に聞き込みをしたということが、信じられない思いだ。

それに。

自分が手にしているのは、ミカが集めた情報だ。

普段、この街に戻っても城のほうへは絶対に足を向けようとはしない彼が、

ましてや実家に戻る様子もさえも見せない彼が、自ら城へ赴き、行動したのか。

 

「ほんっとどうっでもいい情報ばかりだが…」

「はい」

「ハイじゃねえよ、ある程度、お前が取捨選択してまとめろよ、報告書は」

「あ、そ、そうか、そうしないとだめなんですね」

「空が光った、ってのと、北の空が暗い、ってのは俺の情報と共通している」

「あ、はい」

「光ったのは、あれだろ、竜が消えた日だ」

「あ、影が、北に飛んだのを見た人もいます、あ、あの、2枚目の、ここです」

「…ああ、城の見張り台からもそれが見えたという話しもある」

 

二人が、何事もないように、会話をしている。

当然のように、対等に。

ウイがいなくても、ヒロを介さなくても、それが出来る。当たり前のように。

 

では、自分は?

 

「というわけで、北だ。北の情報を集める。今のところ、突破口がそこしかない」

わかったか?と言われて、頷くこともできない。

「ヒロくん?」

「どうした」

二人の様子に、ヒロを責める響きはない。

けれど、どんな風に、彼らの中に入っていけばいいのか、判らない。

なぜ、今までどうやって接していたのかが、判らなくなったのだろう?

 

二人が、ヒロの知ってる二人でなくなったようだ。

 

「なんだよ、まだ調子悪いのか?」

らしくもなく、ミカにそんな風に心配されると調子が狂う。

思わず、自覚していない弱音が出た。

「ごめん、なんか俺、なんの役にもたってないなー、と思って」

その言葉に、驚いたように二人がヒロを見る。

だがヒロ自身も、自分の言葉に驚いたくらいだ。どうしてそんなことを言ってしまったのだろう。

「あ、いやー、えっと、二人が一生懸命やってんのに、俺、朝からここで立ってただけだし」

あわてて言いつくろった上辺の言葉に、ミカの、呆れたような返し。

「…朝からずっと立ってたのかよ」

これは、軽蔑されたか?と、一瞬、ひやりとしたものがヒロを襲う。

しかしミカは、ヒロの手から封書をとって、自分の手にしていた紙と一緒にミオに渡す。

「調子悪いならおとなしく寝てろよ」

「そ、そうですよ、ヒロくん、やっぱり、元気ないみたいですよ」

何よりもヒロの身を案じる二人、ミオに「戻りましょう」と言われて、情けなくなる。

自分は、今まで、仲間の何を見て、何をわかっているつもりだったのだろう。

「ごめん」

二人の心遣いに対して、それを信じきれずにいることを、明確に言葉にして謝罪する勇気がない。

だから、わざとおどけてみる。

 

「俺、ウイがいないと、だめみたい」

 

そうだ。まだ、だめだ。

二人のように、強く在れない。強く、変わっていく二人に追いつけない。

それを、置いていかれるかのように感じて、怯えている。子供のように。

…きっと、村を出た日から、なんにも成長していない自分を。

 

「いいんじゃねえか?」

 

と、ミカがあっさり肯定する。

「え?」

「仮に、これがいなくなったのがお前だとする」

ヒロは、一瞬ミオと目を見合わせて、そして二人でミカを見る。

「その場合、俺は動かねえ」

宿屋で寝てる、と平然といわれて、ヒロは思わず、ひでえ、とつぶやいている。

「ウイはセントシュタイン王に面識があるから、俺が出て行く理由がねえ」

「あ」

「けど、今ここに残ってる面子でいえば、城の最深部に入れるのが俺だけだから」

俺が行ってきただけだ、と、なんでもないことのように言い切るミカが。

「こいつにしたって」

と、ミオの持っている紙の束を指差す。

「自分に出来ることはこれしかない、って思ってやってるだけだろ」

成果はともかく、と付け加えることも忘れない。

「竜の所まで飛んで帰ってきて、寝込んでるお前を休ませるためだ」

それぞれが、自分のやるべきことをやっている。何か問題があるか?と。

「それはー…」

なんと返せばいいのか、ヒロが自分の中にある弱さに躊躇していると。

「あのっ」

と、ミオが必死の面持ちで、ヒロの手を引く。

「ヒロくんが、今やるべきことは」

それは、か弱い彼女の、精一杯の心だ。

 

「私達に、甘えることだと思います」

 

えっ?というのは、男二人の思わずもれ出た声。

ただし、その意味合いはまったく違っていたが。

 

「だ、だって、ヒロくんは今、ウイちゃんがいないから、元気がないんでしょう?」

「う、うん」

ウイがいないから。

ウイの心の導きがないから、こうして動けずにいるヒロを、ミオが庇う。

「だったら、ウイちゃんが戻るまで、私たちがウイちゃんの代わりをしますから」

私達に甘えてください、と言われて、ミカとふたり、ただただ唖然とするのを見て、

ミオがあわてて言い添える。

「そ、それはもちろん、ウイちゃんほどにはできないかもしれないですけど」

と、遠慮気味に口にするミオに、ヒロよりも一足早く我に返ったらしいミカが突っ込む。

「違う」

「え?」

「私たち、ってのは何だよ、私・た・ち、ってのは」

「え?ええ?それは、もちろん、私と、ミカさんですっ」

「…そんなことは判ってる…」

「あ、じゃ、じゃあ、ヒロくんが判らなかったですか?」

「いえ、判ってます」

「ハイ、じゃあ私たちに甘えてください」

それが今、ヒロくんがしなくちゃいけないことです、とミオが言い切る。

「ヒロくんはいつも一人で頑張りすぎです。もっと私たちを頼ってください」

「う、うん」

「あ、もちろん私達が頼りないのはわかってますから」

「おい待て」

「は、はい?」

「その、私たち、ってのは何だ」

「だから、私とミカさんですよ?」

「…お前、俺まで頼りないと思ってんのか」

「ええ?あ!…えっと、…えーっと、…えーっと、ですね」

「…なんで違うって言わねえ…」

ヒロは、そんなやり取りの間中、この二人、見てると面白いな、なんて、不届きなことを考えていた。

甘えろ、といわれたことも、もっと頼れ、と言われたこともなかった。

自分のことは自分で、…そして長男気質もあってか、他人のことにまで手を出してきた。

だから、どうやって甘えていいのかも、実はよくわからない。

 

ウイと一緒にいて、ウイを必要としている状態が、甘えているということなら、判る。

 

その居場所を、この二人がくれるという。

ヒロの心の中にウイがいなくても、この二人の中に、ウイがいる。

今、それを教えられたのだと思う。

 

「うん、ありがとう、お言葉に甘えます」

 

わざと、他人行儀にそんなことを言ってみる。

まだ何か不毛なたどたどしい会話をしていた二人が、驚いたようにヒロを見る。

多分、初めて自分の意思を口に出して甘えるなら、これくらいがいい。

そうでないと、なんだか幸せすぎて、泣いてしまいそうだ。

 

「はい、いっぱい甘えてくださいね」

ミオが、安心したように笑う。

「知らんぞ、俺は。大体、いいのかよ、そんな安請け合いして」

ミカが、それを牽制する。

「ヒロくん、大丈夫、安請け合いじゃないですよ、私、頑張ります!頑張りますから!」

「だから。こいつはなあ、俺に、50歳になっても面倒見ろ、とか言う奴だぞ」

「えっ、50歳?!」

街に戻る途中、そんな会話の流れになって、ただ二人の後をついていくヒロは

顔をあげた。

 

そうだ。

昔、ミカとそんな話をした。

あまりにこの旅が楽しくて、この仲間とある時が満ち足りていて、終わることが考えられなかったあの日。

決して、終わりなどないと、願うように信じていた。

 

その言葉を、ミカは、大事に、大事にとっておいてくれたのか。

 

「すごい!私、そんな先のこと、考えたことなかったです」

「だろ?だから今軽々しくそういうこと言うとあとが怖い、って話を」

「50歳になっても皆一緒って、ステキですね!」

「…おい」

 

だから絶対ウイちゃんも帰ってきますね、とミオがヒロを振り返って言う。

ミカも、ヒロの返事を待っている。

 

ヒロだけでなく、この二人にもきっと、ウイの不在が重くのしかかっている。

けれど、それをそうと思わせず、ヒロを支えることで彼らが強くなれるというなら

自分たちは、互いに手をとりあって、天使の不在を埋めるのだろう。

 

ウイが戻ってくるそのときまで。

 

これで終わりにはならない。

まだ何も始まっていない。

 

「もちろん、絶対、探し出して見せるよ」

 

…とても、聞いて欲しいことがあるから。

 

 

 

 

そうして西日に長く伸びた3つの影が自然に寄り添い、一つに重なりあうとき、

彼らが待ち望む、ルーラの光が帰還する。

 

 

 

 

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旅の目的は、天界の救出でも女神の果実集めでもなく
ただひたすら!お師匠様探し!

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旅の目的は、腕試しでも名声上げでもなく、金稼ぎ。

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三日月
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…愛称はミカ

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各方面で人間関係を破綻させる俺様ぶりに半勘当状態。
旅の目的は、冒険でも宝の地図でもなく、人格修行。

戦士
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旅の目的は、観光でも自分探しでもなく、まず世間慣れ。

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