ドラクエ9☆天使ツアーズ

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ケジメ8

2022年10月09日 | 天使ツアーズの章(家族事情)
女と男の見栄も外聞も役立たず、自然にこぼれた言葉に返るのは平熱。
ユールは淡々と遠い日の話をする。
「俺は初めてシオにあった時のことを今でもよく思い出す」
初めてこの村を紹介されて、行商に訪れたのはちょうど今頃の季節。
まずは下の村での商いを許されて、細々とした日用品を広げていた。村の男たちが賑やかしに集まる中、女の姿もちらほらと散見されるものの売上は芳しくなく。
まあ初めての土地での商いならこんなものか、と午後の昼下がりに手持ち無沙汰になって売上の計上を確認がてら帳簿をつけていて金額が合わないことに気がついた。やや多い。
10名にも満たない客足だったが、一時、やりとりが集中したことがあった。あの時に誰かに釣り銭を渡し損ねている。
そう気がついたユールは思い当たる客数名を探して村を歩き回った。確認の最後の一人は上の村の女性。なれない山道を登っていけば、ちょうどそこで行き合ったのがシオだった。幼い妹が使いやすいような小ぶりの鍋はないか、と言っていたのを覚えている。
釣り銭を渡し間違えた、と言えば、すぐに財布の中身をあらためて、そうみたいね、と古くなって色の悪い銅貨を出した。それで5ゴールド銅貨と50ゴールド銅貨を間違えて渡してしまっていたことが確認できた。上の女性は気性が荒いから気をつけなよ、と下の村を走り回っていた時に散々言われていたことを思い出し、その場で土下座を仕掛けた時。
「私の方も気が付かなかったんだもの、気にしないで」
とシオは言った。
てっきり怒声の一つでも飛んでくるもの、と覚悟していたユールは呆気に取られた。そこに重なるのは労いの言葉。
「かえって手間をかけさせて悪かったわ」
渡し間違えた人間を探し回った事、こんな村の上の方まで来させてしまった事、それを労った上で、手間賃としてそれは取っておいて、なんてことを言う。
そんな昔の話。
それを聞かされて、シオは瞬く。
「それが何か?当たり前のことだと思うけど」
「確かに、シオには当たり前のことかもしれない。でもその当たり前のことが敵わないことだって多い。特に、こんな外回りばかりで商売をしている身の上では」
店舗を構えていない流しの商人たちの世界は、荒れ者も多い。買い付けはもちろん、売りでも荒っぽいやり取りは日常茶飯事だ。だから見た目だけでも肝が据わっているように見える自分がそれを担当しているくらい。
「でも、あなたも頑としてそれを受け取らなかったわ」
手間賃だなんてとんでもない、それは受け取れない、と言うのに重ねて、ご祝儀も兼ねて受け取ってくれると嬉しいんだけど、と言ってもだ。
「そうだった。シオは特に必要でもない小鍋を買ったんだったな」
「必要、っていうか、まあそうね、緊急には必要としていなかったけれど」
初めて村に来てくれたのだから何か買っていくわ、と言った。
「だって、やっぱり次も商売したい、と思ってもらいたいでしょう?その方が村だって助かるんだもの」
「それもシオには当たり前なんだな」
そうよ、と困惑するシオにユールが笑みを見せる。
どうしても受け取れない、と言う態度に、譲ってみせたのはシオだった。わかったわ、と言って互いの手の中にある銅貨を交換して。呆れたような声音だったから、顔を見るのも躊躇われたが、シオはもう一度、手間をかけたわね、と言った。やわらかい声に顔を上げれば、笑ってくれた。
「そういう真っ正直な商売人はいつでも歓迎するわ。村で何かあれば、私の名前を出すといいわ」
と言って名前を教えてくれては。
「私の父が下の村で裁縫職人をしているの。入り用の物ならいくらでもあると思うわ。あなたのことは話しておくから、ぜひ懇意にしてちょうだい」
それは、この村を訪れるからには必ず売上がある、と言うことの確約でもあった。
あれからユールの商売は少しづつ回り始めたのだ。少しづつ、でも確実に。
仕入れも卸も、シオの父オレガノを中心として、村の商売人からさまざまな手解きを受けた。この村との強力な繋がりが近隣への信頼を得てからは、ならず者やヤクザ者を遠ざけていった。
「この辺りでは、私より娘の名の方が力を持っているんですよ」
と彼は言った。自分もそれにあやかっているのだ、と照れくさそうに言うそれは、付き合いを深めていけば自ずと考えさせられることでもあった。
「シオは強い。冒険者としても、村の権力者としても、一目置かれてる。強い人間が多くの人間を従えているのは良くわかる」
だがユールの目から見えるシオの強さは。
「腕っ節なんかじゃない。普通に、当たり前のことができる、その芯があってこその強さだ」
誰もが知る『真っ当』がぶれない人間が力を振るうから、多くの人間が従うのだ。暴力でも金でも闇でもない、ごく当たり前にある普通。誰もが見過ごして気にもかけない、当たり前の日常にある力。
「それが美しいと思った」
これまで自分が生きてきた小さな世界、人間を支配する様々な力があることを知った。暴力であったり、財力であったり、権力であったり。人の集まるところにある「力」の持つ意味はさまざまであり、人や地域によって価値もそれぞれに違う。
だからこそそれらに頼らない、『普通』を維持できる人の営みは尊い、と気付かされて。
そうして当たり前に生きる力が自分にもあることを知った。
「俺が夫婦に成りたいと思ったのは、そんな人だ。」
結婚とは。
その人が不在でもその人を傍らに感じとれることだと思う。遠く離れた場所にいてもすぐそこに感じられる。それが結婚することの意味だと思う。だからこそ、その相手は、シオが良い。
そう口説く男と結婚する。
夫婦となり家族を作る。そこにある多くの制約が、互いを縛る。生き方が違う、自分とは全くの別人とこれからを共に生きていく。気が遠くなるほどの時間は、想像もつかない生き方を己に課すだろう。
「わかったわ」
自分がなぜ彼を選んだのか。
近隣に名を馳せ、世界の果てまでも冒険者として通用するほどの人間を前にして、普通だから良い、と言う男にはお目にかかったことがない。
この男の目に映る自分は、きっとシオ自身も知らない。知らない自分を知っている人間と歩む道行は、険しくとも頼もしい。そうありたい。シオも彼に対して、そうありたいと願う。それを枷と言うか誇りと言うかは、心次第。そうしてユールなら、どのどちらであっても普通に生きる姿として美しい、と言うだろう。
「私もそれを聞かせてくれるあなただから、あなたがいいんだわ」
普通を当たり前のこととしておざなりにしない。日々の他愛無いことや些細なことへの向き合い方が丁寧な人だからこそ。
惹かれたのだとわかった。
そうか、と、いつになく必死にシオを口説いていたユールが、やっと肩の荷が降りた、とでも言うように大きく息を吐き出して姿勢を崩した。そして。
「夫婦になったら、シオはもう少し子供の部分を大事にしたほうが良いと思う」
と、またもや思いもよらないことを言い出す。
「子供の部分?子供、のことじゃなくて?私のこと?」
「そうだ。さっきの、ドラゴンの」
まだそれを言うか。次それを言ったら殴るわよ、と言いかけたシオを慌てて片手で制す。
「いや、咄嗟にそれが出てきたんだろう?シオは子供の童話だ、って言うけど、それを勢いで口にしてしまうのは、子供の頃からの憧れか思い入れがあるからじゃないのか」
どうでも良いことなら、子供時代の童話の一つなんて思い出しもしない。と言われて考えさせられる。
「あなたはどうしても私を子供っぽくしたいのね?」
無邪気に童話を夢見て、今も結婚相手にはドラゴンの牙を渡したいと胸に秘めているような少女趣味があるように見えるとでも?
別におかしなことじゃないと思うが、と言ったユールが恥ずかしそうに顔を背ける。
「俺は今でも縄を扱う時、今なら跳べるんじゃないかとやってみることがある」
縄を。
子供の頃に一度もできなかった縄跳びを、両親に何度も手解きされたそれを、今なら。
「……跳べたの?」
「いや。一度も成功したことはない」
大の大人が。荷造りの拍子にふと思い立って両手に縄を構えて、大真面目にそれを回しては躓く、そんなユールの姿は容易に想像できて。
シオは笑ってしまった。
子供時代の苦さと、それを振り返る切なさが相まって。
愛おしいという感情に包まれる。
「いいわ、今度一緒に跳んであげるわ」
「え、シオが」
「二人なら案外、簡単に跳べるわ」
くすくすと笑いながら、シオのためにそれを告白してくれたユールに応える。
「ドラゴン退治のことも、今夜考えてみるわ」
と約束する。
それは、結婚の約束。
夫婦になるための、シオとユールだけの特別な、でも奇特な。
愛の、交換だった。






ケジメ7

2022年10月07日 | 天使ツアーズの章(家族事情)
「悪かったわ、なんだかよく分からない事で気弱になってる自分が馬鹿らしくって」
思わず笑ってしまった、と目尻の涙を拭いながら謝るシオを見て、呆気に取られていたユールも気負っていた両肩を下げた。そしてこんな事を言う。
「シオでも子供みたいに笑うんだな」
初めて見た、と妙な関心の仕方をされ、子供みたいに、と言われバツが悪くなって前髪を直すフリをして誤魔化す。
「あなたが笑わせるからよ」
「俺のせいか」
「そうよ」
「それで気弱になっていたのが終わったのなら良かった」
役に立てたのなら何より、という響きには微笑む。本当にこの男は。普段は朴訥でありながら、不意にその心の内を広げる。本人も意識しない奥底からの真っ当な生き方は、飾り気のない人柄そのもの。
だから自分はこの人を選ぶ。
そのために。
「結婚について話をしようと思ってきたの。でもそれをどう話したら良いのか分からなくて、ちょっと悩んでいたら、あなたに先を越されたんだわ。あんまり簡単に言うんだもの。じゃあ私は?って思ったら腹が立って、つい、当たり散らしてしまって」
もう一度「悪かったわ」と頭を下げるシオの言葉を静かに受け入れながら、ユールがわずかに首を傾げる。
「何を悩むことが?」
「そうね、それも聞いて欲しいわ。夫婦になる前に、あなたの答えが欲しいのよ」
一人で悩むなんて馬鹿らしい。たった今、シオが成せなかった求婚をあっさりと成せてしまう人間を目の前にして、そう思う。自分のためらいなんて、彼にとっては砂粒ほどの重みもない。それが欲しい、と訴えるシオに向き合って、ユールは口を開いた。
「ええと、それは俺にわかることだろうか」
俺は頭が良くないから、と言う彼には首を振る。
「本当に頭が良くない人間は、村の喜び事を自分のことのように喜んだりしないし、他所の家族の消息を気にかけることもないし、気弱が終わって良かった、とか、悩みはなんだとか、そういう心遣いはしないわよ」
「ええと」
「それができるあなたを、頭が悪い人間だなんて思っていないわ。私はね。……もし他の人間がそれを言ってたとしたら、問答無用で重傷者にして病院から出られなくしてやるわ」
シオなら口だけでなく本当にそれをやってのける事はもうユールも理解している。少し演技がかった口ぶりにも困ったように眉を顰める。
「それは、あまり良くないんじゃないか。その、シオにとっても」
「そう言ってくれるあなただから、そういうあなたの考えが聞きたいのよ」
俺は鈍臭いから、と言うのも、頭が良くないから、と言うのも、自虐でも引け目でもなく。ただありのままの自分を受け入れ、それが自分だからと曝け出しているだけ。もうとっくにシオだって彼の生き様を受け入れているのだ。
「わかった」
「良かったわ。私の分からないことは二つ。いきなりあなたが夫婦になろうと言い出したことよ」
「いきなり、だったか?」
「まあ、この私がちょっと取り乱してしまったくらいにはね」
先ほどのやりとりを思い起こせば、有無もない。
「今までそんな話は一切しなかったでしょう」
「それは……、シオは多分、母親の消息がわかるまではそんな気にはならないだろうと思っていたから。言うつもりもなかった」
それは意外だ。
「私、そんなに母さんのことで必死だったかしら」
自覚はなくても傍目にはそう見えていたのだろうか。村ではそれよりも「妹が一人前になるまでは」の覚悟の方が知れ渡っていたわけだが。
「ああ、いや、俺がそう思っていただけだ」
つまり、とユールが俯いた。
「俺なら多分、お爺かお婆が消息不明になったとして、事件にしろ事故にしろ、それが解決するまではそのことが気がかりで、新しい家族を持とうとか、そういう気にはならないと思って」
「なるほどね。まあ分からないでもないわ」
ユールには帰る場所があって帰りを待つ人がいる。牧場で働く仲間の誰であれ、そのような状況になれば確かにそのことで頭が一杯にはなるだろう。
「それが解決したからもう言っても良いだろう、ってこと?」
だとしたらもうずっと前から、シオと夫婦になることを考えていたことになる。
結婚に現実味を持てなかった自分とは大分心構えが違うな、と思えばやはりもう一つの答えを聞きたくなる。小娘のような甘っちょろい問い。世間知らずのフリをして?あるいは手練手管の冷やかしのように?この歳になってもまだ欲しがるのは満たされていないのか、成熟が足りないのか。
そう迷ったシオにユールは、いや、と強めに否定の音を聞かせた。
そして顔を上げる。
「どうしても今日言いたかったのは、シオの母さんが帰ってきた、って村の人たちが喜んでいるのを見たからだ」
オレガノの嬉しそうな様子、それを取り囲む村の男たちの楽しげな雰囲気、村の女たちが代わる代わる豪快に物を買い占め、ご祝儀だと言って陽気に大枚を放り込んでいく。
「村全部が一人の帰還を喜んでいる中で、俺だけがよそ者だった」
「それは」
仕方がないんじゃないの、と言うシオに、わかってる、とユールは微笑んだ。
「除け者じゃなくて、よそ者、だ。わかってる。むしろ、よそ者の俺にも分け隔てなくそれを与えてくれたのも、すごく感動した。だから余計に考えた。この先もシオとは付き合っていくこともできる、何も変わらないんだろうって思う。今までならそれでいいと思っていたけど」
今までなら。
今までは。
今は。
「同じようにシオが長く村を開けて、何かの功績を持ち帰って、そうして村を上げての祝い事に招かれた俺は、やっぱりよそ者でしかないんだって」
気づいたら。
たまらない寂寥感に襲われた。空洞になった荷箱を抱え上げ、重さのないそれを荷台に積み上げる単純作業。ただただ荷台を埋めていく。今日の箱の中身を一つ一つ思い起こして片付けるだけの自分の目の前に、シオが現れて。
向かい合ったその姿を見てしまったらもう。
「言ってしまっていた」
そんな胸の内を告白されてシオは言葉に詰まった。
「確かに、いきなりだったかもしれない」
迷惑ならすまなかった、と大真面目に謝られては慌てる。
「別に迷惑なんて思ってないけど」
私だってその話のつもりだったんだし、と言うのには、そうだったか、と頷いて。
じゃあ手順か、ドラゴンを倒す話が先だったか、と言われて、もうそれは良いんだってば!と顔を赤くする。
「蒸し返すな、人の醜態を!」
「す、すまない」
「私はただ、結婚の意味がわからなくて」
言い出せなかったのは、動機があまりにも自分勝手にすぎる、との躊躇い。ケジメをつけるため。母の名と、妹の成長の証として宣言するそれにユールを巻き込むことに、大義名分を欲していた。
そんなシオの話を黙って聞いていたユールは、それの何がいけないんだ?と言った。
「俺だって結婚がしたいから夫婦になろうと言ったわけじゃない。シオが良いから結婚しようと思っただけだ」
シオもそうじゃないのか、と問う。結婚が前提じゃない。ユールが良いと思ったから結婚するのだ、と考えて納得する。
「そんなことで良いの」
「俺はむしろ、シオのケジメの付け方に俺を選んだくれたことが嬉しい」
多くの男の中から。これまでに求婚されてきた過去を過去にして、ケジメをつける。過去の男たちがシオのもとを去ったのは結婚がしたかったんだ、と言うユール。シオとは結婚できないから去った。それだけ。
「俺は結婚するならシオが良いと思った。たとえ一緒に暮らすとなっても、俺は行商で家を空ける。シオは冒険家として家を空けるだろう?お互いにそばにいられない事の方が多くても夫婦だってだけで、家の中にもう一人の存在がある。それを安心として暮らしていける。一人じゃない、家の中にいないいつ帰るかもわからないもう一人と一緒に暮らしているんだ。それが結婚することの意味だと思う」
「それだけ?」
「それだけだ」
その相手はシオが良い。シオでなければ、結婚なんて意味がない。
いつになく饒舌にシオを口説く男に、かまととぶるでもなく魔性の女を装うまでもなく、自然に口をついて出た問い。
「なぜ私なの?」




ケジメ6

2022年10月01日 | 天使ツアーズの章(家族事情)
夫婦に。
唐突なその一言には、一瞬理解が追いつかなかった。
異国の言葉か。フーフとかいう珍味だか地方だかの話でもしだしたのかと思ったくらいだ。それにしたって唐突だが。
「はっ?!」
驚いてその場で固まっているシオの反応を見て、いやあの、と口の中でモゴモゴと言葉を濁して、手にしていた皿とフォークを木箱に乗せる。そして、きちんと座り直してもう一度。
「夫婦になろう」
「誰が」
「誰が、って。俺と、シオが」
「俺とシオがなんですって?!」
「だから、夫婦に」
「どうしてそれをあなたが言うのよ!」
「えっ、いけなかったか」
「私が言うはずだったのよ、それを!」
「えっ、なら別にどっちが言っても良」
「良くないわよ!この村では力が証なの!ドラゴンを倒してその牙を根本からぶっこ抜いて生涯の伴侶となる者に受け取らせて婚姻の証とするの!」
「なん、だ、それ」
「童話よ!!!!」
気が動転するあまり子供じみた言いがかりをつけている自覚はある。初めてでもあるまいし、結婚の申し込み如きでこんな醜態を晒すなんて、という屈辱もあったが、それよりも当たり散らされて困惑しているユーズに対しての申し訳なさからの自己嫌悪。それがあっての村に古くからある童話を持ち出しての軌道修正はあまりにも稚拙だ。外れていく話の筋をここから戻すには、と動転に動転を重ねてその場で回転するしかないシオの内心には気づくはずもなく。
大真面目にユーズは言った。
「俺はドラゴンを倒す前に死んでしまう」
だからそれだと夫婦になれない。と言う彼の主張に、今一度キレる。
「ドラゴンを倒すのは私よ!あなたは受け取る方!」
この村では女が主体なのだ、との激昂だったが「なんだそうか」となぜか安心してしまうユーズ。そしてトドメには。
「そのドラゴンの牙は、ミルク缶幾つ分だろうか」
という一撃を繰り出して完全にシオの空回りを止めた。
「知らないわよ!!ミルク缶がどれほどの重さかなんて!」
いや3つ分くらいまでなら持てると思う。掲げろ、と言われればちょっときついかもしれない、などとのたまうのには、開いた口が塞がらない。怒りを通り越して呆れるしかない言動も、彼にとっては大真面目なのだとわかった。
どういうことなの。今あなたは私に理不尽に当たり散らされてるのよ。それに対して思うところがそれなの。少しは気分を害しなさいよ、そっちが怒ってくれないと謝れないじゃないの。
という現実的な思考と。
絵本のようにドラゴンを倒し牙を抜いたとして安全な場所からノコノコ出てきた彼が血みどろの牙を掲げて婚姻を承諾する場面を重ね合わせて。
ミルク缶3つの方が重い。これは大した牙じゃないな。なんて言われた日には。
「あははは!」
思わず笑ってしまうかもしれないな、と考えたと同時に笑い声を上げていた。
なんなの!この男と添い遂げるの?相手はドラゴンの牙がどんなものかも知らない。私はミルク缶を運んだこともない。こんなにも生きてきた道は違うっていうのに?
突然笑い出したシオに、今度はユールの方が呆気に取られる番だった。
ああそうか。生きてきた道が違っても、これから生きていく道が同じになるのか、と思った。自分は、生きていく道を選ぶのではなく、生きていく人を選ぶのだ。

天使御一行様

 

愁(ウレイ)
…愛称はウイ

天界から落っこちた、元ウォルロ村の守護天使。
旅の目的は、天界の救出でも女神の果実集めでもなく
ただひたすら!お師匠様探し!

魔法使い
得意技は
バックダンサー呼び

 

緋色(ヒイロ)
…愛称はヒロ

身一つで放浪する、善人の皮を2枚かぶった金の亡者。
究極に節約し、どんな小銭も見逃さない筋金入りの貧乏。
旅の目的は、腕試しでも名声上げでもなく、金稼ぎ。

武闘家
得意技は
ゴッドスマッシュ

 

三日月
(ミカヅキ)
…愛称はミカ

金持ちの道楽で、優雅に各地を放浪するおぼっちゃま。
各方面で人間関係を破綻させる俺様ぶりに半勘当状態。
旅の目的は、冒険でも宝の地図でもなく、人格修行。

戦士
得意技は
ギガスラッシュ

 

美桜(ミオウ)
…愛称はミオ

冒険者とは最も遠い生態でありながら、無謀に放浪。
臆病・内向・繊細、の3拍子揃った取扱注意物件。
旅の目的は、観光でも自分探しでもなく、まず世間慣れ。

僧侶
得意技は
オオカミアタック