痛かったら手を挙げろ

時々タイトルが変わります

研修医時代(初めての患者さん編)

2008年01月27日 02時23分07秒 | 今日の天使

研修医となって初めて配当された患者さんは60歳ぐらいの男性で、薬の副作用でかなり耳が遠く意思の疎通を図るのが大変な方だった。

筆談とまでは言わないが、左側から大きな声で話しかけないと聞こえなく、常に診療前に今日する事を細かく説明し、その日の診療が終了したら又左側に回って大きな声で今日の事と次回のことを説明した。

患者さんに本気で何かを伝えようとすると、訛りが出るらしく、後から衛生士さんに

「先生少し訛ってましたよ」

と笑われた。

当時も今も、患者さんの為に何か大切なことを伝えようとすると、訛ってくるが、当時は

「なーにいってんだ、テクニック、あくまで患者さんを安心させるテクニックの内の一つだっぺよ」

といい訳していた。

この患者さんには9年間で計3個の義歯を作製したのだが、最初の2つは全て自分でやらせてもらった。

学生時代に習った様に研究用模型を作製、口腔内診査をして、TBIから初めて歯周初期治療をした。

その後CRや何本かの根治をしてコアの印象、前もって削りだした模型を見ながらブリッジの形成、義歯の印象と全ての技工も自分でやった。

9年後の結果、9本の残存歯の内4本を抜く事になり、ブリッジの切断、義歯修理も経験した。

今となってみれば、歯周外科治療と総義歯以外の歯科治療のほとんど全てを経験させていただいた事になり、大変迷惑をかけたと思うし、9年間も通院していただいて感謝している。

ブリッジやクラスプのワックスアップ、鋳造、研磨、人工歯の選び方から配列、歯肉形成、義歯の重合、など一生やらないのではないかと思う事もやらせていただいた。

上手くいったこと、いかなかったこと全てが自分の中に残っています。

9年間ありがとうございました。


総義歯5(上顎咬座印象偏)

2008年01月24日 01時48分52秒 | 今日の天使

ボーダーロックトレーを使用しアルジネートで2重印象をするようになってからは限られた診療時間内に満足できる印象が採れる様になり、総義歯の難症例に対してそこそこの結果は出るようになっていった。

上顎はどんな症例でも対応出来る自信が付いてきたが、更なる吸着をめざし、村岡秀昭先生の書いた複製義歯を応用した咬座印象法による総義歯の臨床を購入して勉強した。

5年ほど前に技工士さんから進められて1度咬座印象をした事があるのだが、訳あって経過を診れていないので、今回がほぼ初めてとなる。

ある患者さんが上顎総義歯(下顎は全て天然歯)の正中破折で来院されたのだが、義歯の不適合が原因と判断し、初診時に義歯修理、リライニングを行った。吸着、咬合とも問題なく患者さんは満足して帰って行った。

3日で同部位が破折し急患で来院、割れた義歯の断面に旧義歯の断面は残っておらず、口蓋の骨隆起が著しい訳でもなく、割れた原因は口蓋部が少し薄いかな、と思うくらいだったので、口蓋部を厚くして再び修理した。

義歯の具合は修理する前より良く、特に堅い物を食べた訳ではないとのこと、患者さんと相談し、このまま旧義歯を使用しながら新製する事にした。

大きい顎堤だったので、樹脂トレーでアルジネート二重印象をした。

オストロンⅡ(GC)を使用して義歯の外形より一回り小さく咬合床を作製した、試適時に咬合調整とフィットチェッカー(GC)で内面と床縁の調整をした後、レギュラータイプのシリコーン印象材で咬座印象した。

装着時は今までの総義歯とは全く別次元の感覚であった。

PIPを塗布し少し抵抗がある所まで挿入したのだが、患者さんが痛がらないのでそのままゆっくり義歯を押していくと、空気が抜ける感じが今までの総義歯以上にあり、と同時に強い抵抗を感じた。外すときもすごい抵抗があり、スリーウェイシリンジでエアーを入れないと外れない位であった。咬合調整をしてその日は終了した。

翌日、旧義歯より具合は良く、全く問題ないとの事だったが、少し発赤していた臼歯部床縁を調整し終了した。

1週間後、正中の前歯部よりに破折線が入り来院した、離断はしていないのだが、今までと全くおなじ位置だった。完成した義歯を透かしてみた時に、口蓋部は破折した旧義歯と同じ位薄いなと思ってはいたのだが、破折するとは思っていなかった。とりあえず、修理した旧義歯を使用してもらい、新義歯は技工所に修理に出し、金属の補強線を入れて、口蓋部を厚く修理してもらった。

再装着後患者さんから連絡はない。

今までに正中で破折した義歯を何度か経験した事があるが、そういう義歯は適合が悪いか、著明な口蓋隆起がある場合か、あるいはその両方だと思っていたが、今回の様に口蓋隆起が著明で無く、適合も良い義歯が短期間で2度も破折するのは初めてであった。

原因としては

  • 対合の下顎が天然歯
  • 上顎顎堤と人工歯の位置
  • 咬合調整の問題
  • 粘膜の被圧変異量
  • 緩衝腔
  • 口蓋部の厚さ
  • レジンの強度
  • 患者さんの食生活の嗜好

などが思い付いたが、正直どれが原因か良く解らなかった。

適合が良すぎて患者さんが良く咬めて割れたと思いたいが(金属床でも割れることがあるらしいので)、今となっても原因は良く解らないです。

作業模型Photo_13 Photo_14

(作業模型は全体的に面が荒れている、特に前歯部は段差が見えるほどひどい、二回目のアルジネートが硬かったのかもしれない。印象時は気がつかなかった。咬座印象後の義歯修理時の模型は非常に滑らかである、全ての面が移行的につながっている。)


総義歯4(ボーダーロックトレー編)

2008年01月21日 02時03分15秒 | 今日の天使

Photo_10 を購入してみた、1次印象、2次印象とアルジネートを使用しそれなりに上手く印象が採れるようになっていった。

吸収した下顎の顎堤に対しては、5個のトレーの内1つは、ほぼ問題無く適合するのだが、吸収した上顎の顎堤には5個の内どれを選んでも合わない事があった。

上顎結節の幅に合わせると前歯部が余ってしまい、前歯部を合わせると上顎結節に入らなくなってしまい、2次印象するにしても上顎のトレーは全体的にもう少し横長の方が良いのではと思う。

今の勤め先で見つけた、埃をかぶっていた年代ものの無歯顎用のトレーも上下それぞれ10個ぐらいの大きさがあるのだが上顎用のトレーの問題点は変わらなかった。

と言うわけで上顎については上顎結節を合わせて前歯部の余ったところにユーティリティーワックスを入れて印象するか、場合によってはリムロックトレーで大きく採って各個トレーを作るか、浅いアルミトレーか樹脂性トレーを曲げてアルジネートで2次印象まで採るようになっていった。

Photo_11 (旧義歯の横幅を合わせると縦が長い気がする、実際の印象を見ると上顎結節頬側が当たっている、これより大きいトレーを使用すると前歯部が余りすぎて扱い難く感じる。)

Photo_12 (一回り大きいトレーを選択して、2次印象まで採った方が良いのか?)

つづく


総義歯3(義歯修理編)

2008年01月20日 23時39分14秒 | 今日の天使

下顎の最後の1歯を抜かなければならず無歯顎になってしまう時や、長いブリッジを除去し総義歯になってしまう時なんかは、どんな歯医者でも、今後のお互いの苦労を考えると少し気分が落ち込むと思う。

インプラントが利用出来る状況なら、抜歯前の状態にある程度戻すことも出来るが、そうでない場合治療の選択肢は旧義歯の修理か義歯の新製しかない。

抜歯即時に総義歯への修理の場合は、旧義歯や旧ブリッジを取り込み印象し模型上で増歯したり、増床する。

具体的には、旧補綴物を取り込んだ印象面に総義歯の外形を粘膜鉛筆などで書き込み石膏を注ぐ、出来た模型の石膏面に転写された線まで即時重合レジンを盛る、待機していただいていた患者さんに総義歯の形に修理した旧義歯を口腔内でソフトリベースかハードリベースし、咬合を再構築していく。

言葉にすると非常に短いが、実際は他の予約状況を確認しながら行程ごとに合間をみての作業となる。

さらに通常は1ヶ月かける義歯作製の手順を診療時間内でやらなければならず、部分床義歯のときには問題にならなっかった義歯の外形や人工歯の位置、咬合の修正が必要で、総義歯の最終的な外形と咬合がイメージ出来ていないと上手くいかない。

この後は義歯の具合を患者さんと相談しながら試行錯誤し修正していくのだが、早めに具合を良くしてあげないと信頼関係が出来ずその後の治療に支障をきたす。

2年前までは、この作業は年に1,2回しか無かったので昼休みを利用して作業していたのだが、現在は急患での日常的な作業となっている。

この作業の数をこなして短時間で上手く出来るようになり、翌日に患者さんに義歯を入れてきてもらえる様になると、総義歯に対して自信が付き、義歯の欠片さえ持ってきてもらえばなんとかなる様な気がしてきて、上手くいった時は、義歯の修理屋で食べていこうか、とさえ思う様になっていった。

Photo_9 (前歯部ブリッジを旧義歯に取り込んでチェアーサイドで修理、無口蓋のまま、前歯部床縁は短い、ちょっと冒険だがとりあえず開口しても義歯は落ちない。)

つづく


総義歯2(難症例編)

2008年01月19日 13時39分16秒 | 今日の天使

最終的にインプラント治療が主な仕事となった大学病院を退職後、環境が大きく変わり、総義歯の患者さんが多く来院する地域の歯科医院で働く事となった。

数年ぶりの総義歯の患者さんに最初は少しとまっどったが(年配の方の言葉が解らないほうが大変だった)、一度手と頭を使って覚えたことは忘れないもので、患者さんに触れているうちに、すぐに昔の感覚は戻っていった。

しかし、総義歯の患者さんが多いという事は、その比率も高く、さらに長年に渡って総義歯を使用されている方も多く、ひいては顎堤が吸収した方が多数いらっしゃるということで(何が原因で歯が無くなったかにもよるが、いずれにせよ歯が無くなった後の骨は経時的に吸収するのは間違いない)、今までの技術では上手くいかない、あまり経験したことのない高度に顎堤の吸収が進んだ方の総義歯を多数作製する事となった。

治療に関しては制約が多ければ多いほど燃えると言うか、難しいほど何とかしてあげたい、何とか良く咬める様に出来ないかと、今までのインプラントを利用した治療計画でなく、顎堤の吸収が進んだ難症例に対して純粋に総義歯だけの治療が始まった。

大学病院時代は主に外科的な仕事をしていて、その後はインプラント治療の主に外科的な所に携われたおかげで、数千症例のCTとパノラマを診る機会があり、その内の数百症例は実際に骨を直接触る事が出来、自然と口腔内とパノラマと模型を見比べると、骨の状態とインプラントの上部構造物が立体的に見えるようになっていた。

今日では、インプラント治療を行うときにCTを撮影し骨の立体的な形や骨質を精査する事は少しずつ普及してきているが、当時はまだ一般的な考え方ではなく、CTによる被爆のデメリットと、術前に骨の状態を確認できるメリットを秤にかけると、前者の方が重かったような気がする。ただし、この考え方はブローネマルク先生(現在のインプラント治療の始祖、下顎の無歯顎が最初のインプラント治療)が40年前から行っていたインプラント治療の延長ならまだ良かったが、その後の、部分欠損、臼歯部、上顎審美領域への適応症の拡大や、骨が少ない人への対応、被爆量の少ない歯科用CTの開発、最近では、より安全に、より早く、より侵襲を少なく、さらに綺麗に仕上げ、その状態が長く維持出来るような考え方の元にCTを撮影する事のメリットが多くなっているのは確かであると思う。

院内実習の時に、患者さんの口腔内へ義歯を挿入する流れる様な美しい後ろ姿を見て以来この人はものすごく上手なんだろうなと思っていた自称日本で2番目に補綴の上手い先生から、10年後に一緒に仕事をするようになったとき

「模型を診ると義歯の形態が浮かんでくる」

と冗談っぽく言われ

「いいなおまえは骨ばっかり相手にして、軟組織は大変だぞ」

と笑われた事があったがそれは冗談ではなく、そのうち本当だったんだと思えるようになっていった。

日本三を目指すには、高度に顎堤が吸収した骨の形を踏まえ、その軟組織に義歯を機能させた時の経験がまだまだ必要だった。

つづく