ボーダーロックトレーを使用しアルジネートで2重印象をするようになってからは限られた診療時間内に満足できる印象が採れる様になり、総義歯の難症例に対してそこそこの結果は出るようになっていった。
上顎はどんな症例でも対応出来る自信が付いてきたが、更なる吸着をめざし、村岡秀昭先生の書いた複製義歯を応用した咬座印象法による総義歯の臨床を購入して勉強した。
5年ほど前に技工士さんから進められて1度咬座印象をした事があるのだが、訳あって経過を診れていないので、今回がほぼ初めてとなる。
ある患者さんが上顎総義歯(下顎は全て天然歯)の正中破折で来院されたのだが、義歯の不適合が原因と判断し、初診時に義歯修理、リライニングを行った。吸着、咬合とも問題なく患者さんは満足して帰って行った。
3日で同部位が破折し急患で来院、割れた義歯の断面に旧義歯の断面は残っておらず、口蓋の骨隆起が著しい訳でもなく、割れた原因は口蓋部が少し薄いかな、と思うくらいだったので、口蓋部を厚くして再び修理した。
義歯の具合は修理する前より良く、特に堅い物を食べた訳ではないとのこと、患者さんと相談し、このまま旧義歯を使用しながら新製する事にした。
大きい顎堤だったので、樹脂トレーでアルジネート二重印象をした。
オストロンⅡ(GC)を使用して義歯の外形より一回り小さく咬合床を作製した、試適時に咬合調整とフィットチェッカー(GC)で内面と床縁の調整をした後、レギュラータイプのシリコーン印象材で咬座印象した。
装着時は今までの総義歯とは全く別次元の感覚であった。
PIPを塗布し少し抵抗がある所まで挿入したのだが、患者さんが痛がらないのでそのままゆっくり義歯を押していくと、空気が抜ける感じが今までの総義歯以上にあり、と同時に強い抵抗を感じた。外すときもすごい抵抗があり、スリーウェイシリンジでエアーを入れないと外れない位であった。咬合調整をしてその日は終了した。
翌日、旧義歯より具合は良く、全く問題ないとの事だったが、少し発赤していた臼歯部床縁を調整し終了した。
1週間後、正中の前歯部よりに破折線が入り来院した、離断はしていないのだが、今までと全くおなじ位置だった。完成した義歯を透かしてみた時に、口蓋部は破折した旧義歯と同じ位薄いなと思ってはいたのだが、破折するとは思っていなかった。とりあえず、修理した旧義歯を使用してもらい、新義歯は技工所に修理に出し、金属の補強線を入れて、口蓋部を厚く修理してもらった。
再装着後患者さんから連絡はない。
今までに正中で破折した義歯を何度か経験した事があるが、そういう義歯は適合が悪いか、著明な口蓋隆起がある場合か、あるいはその両方だと思っていたが、今回の様に口蓋隆起が著明で無く、適合も良い義歯が短期間で2度も破折するのは初めてであった。
原因としては
- 対合の下顎が天然歯
- 上顎顎堤と人工歯の位置
- 咬合調整の問題
- 粘膜の被圧変異量
- 緩衝腔
- 口蓋部の厚さ
- レジンの強度
- 患者さんの食生活の嗜好
などが思い付いたが、正直どれが原因か良く解らなかった。
適合が良すぎて患者さんが良く咬めて割れたと思いたいが(金属床でも割れることがあるらしいので)、今となっても原因は良く解らないです。
(作業模型は全体的に面が荒れている、特に前歯部は段差が見えるほどひどい、二回目のアルジネートが硬かったのかもしれない。印象時は気がつかなかった。咬座印象後の義歯修理時の模型は非常に滑らかである、全ての面が移行的につながっている。)
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