こころの声に耳をすませて

あの結婚生活は何だったのだろう?不可解な夫の言動はモラル・ハラスメントだった…と知ったウメの回想エッセー。

家出用カバン

2005-10-20 23:50:07 | モラル・ハラスメント
 結婚して4年目、夫のモラハラはどんどん酷くなっていった。絶えず不機嫌さをアピールし、些細なことですぐ大声を上げた。私は常にビクつき、毎日堪らない思いだった。
 私は結婚して以来、夫に気を遣い、殆ど実家には帰らなかった。お正月も、お盆休みも夫と過ごした。夫もそれが当然という感じだった。その年はお盆休みが近づくと、恐怖が高まり私のこころは悲鳴を上げていた。1週間あるお盆休みを、鬼のような夫と朝から晩まで過ごすのはあまりにも耐え難く、夫から文句を言われてもいいからとにかく実家で過ごそうと、「たまには実家に帰ろうと思う」と夫に伝えた。夫は「ふうん。じゃあ帰ったら?」と何気ない顔をして答えた。ここでしばらく実家に帰れば夫の不満がまた高まることも分かり切っていたが、とにかく夫から離れたかった。

 数年ぶりの実家で、ゆっくり心穏やかに過ごすことのできたお盆休みだったが、休み4日目には夫から電話がかかってきた。「いつ帰ってくるの」と聞く夫に、「明後日帰るから」と答えると「へぇー、そう。」と不気味な返事をする夫。それで電話は終わったのだが後から実家のパソコンに、夫からのメールが入っていた。親のメルアドに、私宛のメッセージを送ってきたのだ。まず母親がメールを開け、「ちょっと、なにこれ」と私を呼んだ。その内容は「君は妻の勤めを放棄するつもりですか。掃除洗濯もせずに、ずっとそこにいるつもりですか。これ以上僕を疲れさせないでくれ。いったい君は何を考えているんだ…」とあった。私の顔から血の気が引いた。親に見られたことも恥ずかしかった。

 そして、再び重苦しい気持ちを抱えて私は夫の元へ戻った。夫はメールのことは何も言わず、口も聞かなかった。ただただ眉間にしわを寄せ、不機嫌さを全面に出していた。
 私はいつ夫の怒りスィッチを押してしまうかと、恐怖におののいていた。神経過敏になり、居たたまれない日々。私は本当に酷い状況になったら、身の危険を感じたら、とにかく逃げだそうと、密かにその準備をしていたときがあった。

 まず家出用カバンを作った。カバンの中にはとりあえず着替え二日分、通帳、印鑑、現金を入れ、何かあったらすぐそれをひっつかんで飛び出せるようにした。カバンは自分専用の洋服ダンスに入れておいた。季節が変わったら、カバンの中の洋服も衣替えをした。そして、安価なビジネスホテル、ウィークリー及びマンスリーマンションを調べメモしておいた。また、その頃から新しい銀行通帳を作り、わずかな額でも少しずつ貯金をした。もう夫はあてにはできない。何かの時に役立つ資金を貯めなければと考えた。しかし通帳は家においていたら見つかる恐れがある。私は職場のロッカーに通帳を隠しておいた。

 結局家出用カバンを活用することはなかったが、何かの時に、と準備しておくだけでも少しは気持ちを奮い立たせることができたように思う。「いつまでも私がモラ夫の言うなりになると思うなよ。」ということを自分の何かで示したかったのかもしれない。一度だけ、夫が激怒して家を出て行った後しばらく呆然と佇み、「もう耐えられない!」と震えながらその家出カバンを取り出して家を出ようとしたことがあった。しかしカバンを洋服ダンスから取り出した途端、なぜか夫は家に帰ってきた。私は慌ててカバンをタンスの中に押し込んだ。

 本当はもういつ出て行ってもよかったのだ。しかしまだ行動には踏み切れなかった。私はまるで蛇に睨まれた蛙だった。そして夫のモラハラは続いた。
 

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