こころの声に耳をすませて

あの結婚生活は何だったのだろう?不可解な夫の言動はモラル・ハラスメントだった…と知ったウメの回想エッセー。

モラハラを行使するようになるまで

2006-07-18 22:59:39 | モラハラが生まれた背景とは
 優しくまめでユーモアのある夫、そして全く人が変わったように鬼のような面となり激しい罵倒や無視、恐るべき嫌がらせを繰り返す夫。これはいったい何なのか?私は夫に混乱しながらも、何か自分のするべきことがあるのではないか、少しでも夫を理解する手がかりを得る努力はすべきでないかと思った。なぜなら、こちらから相手を理解しようと努力すれば、かならず相手もそれをわかってくれる、と信じていたからだ。ましてや夫婦になった者同士、理解し合おうとするのは当然、とも思っていた。私は夫の話を聴きながら、関連すると思われる情報を得ようとした。

 夫は確かに子どもの頃、父親の暴力で苦しみ、心のどこかで悲痛な思いや絶望をぐっとこらえていたのだろう。またその影響を受け人格形成上にもなんらかの問題が生じたことだろう。その反面、母親からは甘やかされ溺愛されていたようなので(といっても母親も父親の言うなりではあったようだが)、そこからくるわがままさも多分にあったに違いない。このアンバランスな家族環境が今の夫を作ったのだろうか。

 森田ゆり著『子どもと暴力』には、以下のような記述がある。少し長いが引用する。
 「深刻なネグレクトや虐待を受けた子どもは恐怖、怒り、絶望感、屈辱、悲しみ、不信といったさまざまな情動が自分ではコントロールできないほどに過剰刺激され、かつその刺激が長時間続くと心的外傷体験となり心身にさまざまな障害をきたす。とりわけ感情能力には大きな歪みが生じる。…彼らの感情の混乱は、社会性、想像力、倫理観、価値観、行動の結果を考えるといった行動決定にかかわる脳の理性の健全な働きを阻んでしまうのである。暴力の被害者がその心的外傷から回復していないとき、彼らの行動選択は理性から出てきたのではないが故に、まわりの者には理解できない、説明のつかない行動となり、それは時には他者への残虐な暴力ともなりうる」
 「身体的虐待にとどまらず、子どもが親から過剰な期待をかけられたり、受け入れられなかったり、否定されたり、無視されたりする対応をされ続けると、帰属感、愛着といった基本的信頼感に関与する脳の発達を妨げられてしまう。その結果、人間関係を結ぶ能力が発達せず、他者と感情を交流させることが難しくなる。…故に外界からのストレスに過剰に反応してしまったり、時には自分を否定する要因を人間関係の中に見つけ出しては、衝動的攻撃性を発揮したりする」

 ただし、この本では、虐待を受けたすべての子どもが成長して大人になったら、子どもを虐待するようになる、とは言っていない。苛酷な環境で成長して大人になった人の中で、子どもに暴力を振るうようになる人は、全体の33%だそうだ。残りの67%の人は過去に虐待を受けていても、他者に暴力は振るわない。しかし他者に暴力を振るわない代わりに、自分を痛めつけるような行動を取る場合もあるそうだ。自傷行為や拒食、過食症、アルコールや薬物等の依存症に陥ってしまったり、暴力的な支配を受けるようなパートナーとの関係を選んでしまう、など。
 そして、苛酷な環境で子ども時代を送っていても、その子どもの理解者や、苦悩に共感してくれる誰か(家族の誰か、学校教師、保母、近所の人など)がいれば、その子どもは自分自身を回復させる力をもつことができるそうだ。

 だから、家族から暴力を受けていたからこうなった、ということではなく、期間や様々な環境要因、子どもを取り巻く人間関係などが影響するため、単純な図式化はできない。
 苛酷な家庭環境の中で成長しても、ごく普通の人間としての感覚を身につけ、非常に思いやりのある人はいくらでもいるだろう。逆境を力にしながら自分自身の経験を理解し、社会の中で能力を発揮している人も多いだろう。現に虐待を受けて育った67%の人は、他者に暴力を振るうこともなく、生活しているという調査研究があるのだから。

 ただ、私の夫は、残りの33%の中に入っている人間だ。確かに夫はある時期までは被害者だったのだろう。父親の突然の暴力や、スパルタ的な教育に怯え、恐怖を感じ、素直に自分の気持ちを伝えたり甘えたりということができなかったのかもしれない。父親の顔色を窺い、自分は親に受け入れてもらえないダメな子ども、と絶望していたのかもしれない。実際に夫は子どもの頃、自分は「勉強のできない落ちこぼれ」と思っていたそうだ。
 
 夫は成長するにつれ、その劣等感をバネに猛勉強をし、大学に進学する。そしてその後の仕事上でも専門知識を身につけ、それなりの力を得たのだ。社会の中で自分を守る鎧、腕力の代わりのアイテムとして、社会的地位や専門的な仕事をすることで自分を武装した。そしていつしか夫はかつての父親に成り代わり、家族の中で自分が一番になろうとしたのだろうか。

 モラハラを行使し始める夫について、もう少し考えてみたい。

モラ行為と性格特徴

2006-07-09 01:04:25 | モラハラが生まれた背景とは
 私が夫と出会ったのは、職場の研修で、ある講座を受けに行ったときだった。夫はその時の講師だった。それは3ヶ月通しての研修で、週1回行われ参加者は他社からも含め100名程だった。その時の夫の話しはユーモアも交え、受講生の興味を惹くように工夫された内容だった。私はその講座を非常に楽しみにしていた。また仕事上でも、夫と顔見知りになれば有利だろうと、ある日の講座の後に名刺を持ち、挨拶に行った。それがきっかけで、よく話すようになり、付き合うに至ったのだ。

 そのときの夫の印象は、知的だが気取らずユーモラがあり、にこやかで紳士的な人物だった。付き合っていた頃は、「?」と思うことや「短気だな~」と思うことはあっても基本的にはマメで優しく、楽しいことが多かった。仕事では夫自身の努力により専門分野で一流に近い技術をもち、その実績は関連会社で高く評価されていた。その点でも私にとっては尊敬に値する人物だった。
 ただ、私と付き合っていたとき夫は独り者だったが、過去2回の離婚歴があった。私は多少、そのことが気になったが、夫は「最初の結婚は、相手に迫られたんだ。2回目は、相手にしつこく追いかけられて仕方なく結婚した。だから、今度君との結婚が僕にとって本当の結婚なんだ」と行った。私はその一言で、過去の事を詮索することをやめた。私との結婚が、本当の結婚…きっと過去はいろいろ大変だったに違いない。人間誰しも間違いがある。でもいつでもやり直しはきくものだ。夫は心新たに私との生活を望んでいる。過去の出来事でその人を決めつけてはいけない。人は誰だって変わる可能性はある。
 私はそう思った。いや、思いこもうとした。

 しかしもっと詳しく聞けばよかったのだ。あるいは夫の親兄弟からもう少し詳しく聞けば多少疑問を感じたかもしれない。ま、でもそれを振り払って結婚したかな…(苦笑)。
 
 夫との結婚生活から数年がたち、モラハラがひどくなってきた頃、私は用事で義妹の家を訪ねた。ちなみに夫と義妹は非常に仲が悪く、日常には殆ど交流がない。
 義妹とおしゃべりしているうちに、夫の話になり義妹は夫(自分にとっての兄)の悪口を言い始めた。「兄は本当に酷い人なんよ。子どもの頃から乱暴だった。最初の結婚では子どもが生まれて夜泣きすると『うるさいっ!』って怒鳴ってね。妻は子どもをおぶってよく外を歩いていたもん。子どもには躾と称して暴力的な仕打ちをしていて、私なんてその場面を見て、可哀想でよく涙が出たわ~。口出すとよけい逆上するし」「それから、兄(夫)は不倫して、結婚生活をめちゃめちゃにして、別れると言いながらその不倫相手とでき婚したんよ。前の子どもとはたまに会っていたけど、子どもは思春期になったら荒れちゃって大変だったのよ。結局再婚相手ともうまくいかなくて離婚だもの。私の父親なんてそれで弱ってしまって…病気になってね」
 義妹は更に詳しくその時々の状況をしゃべりまくった。
 
 詳細を聞けば聞くほど、耳を覆いたくなるような夫の行為だった。夫の自己中心的な行為が自らの家族を壊していく…。そんな過去の出来事は予想以上に酷かった。私はそんな男を好きになったのか…。我ながら恐くなった。夫は私に対しては「以前の結婚は良くなかった、前の妻はこんなところが悪かった」としか言わなかった。

 しかし夫はそんな修羅場の中でも仕事には精を出し、それなりの実績を収めているのだ。家族は混乱状態だったが、職場では何事もなかったように業績を上げる。不思議だった。
 今思えば、納得できる。夫は生活上のことを全く意識から切り離して、仕事に没入することができていたから。それが私には「非情」と見えたところでもあった。酷いモラハラを行使しながら、それが夫自身の仕事上に影響を及ぼしてはいないのだ。というのも、例えば家庭に葛藤があったら、どうしてもそのことが気になり、仕事に差し支えがあったり、健康上の問題を生じたりするのではないだろうか。夫は家の中でいくら怒鳴っていても、仕事は淡々とこなしていた。あるいは没入していた。ただ夫は自分の言いたいことを言っているわけだから、負担ではないのかもしれないが。
 私はと言えば逆に日常的に夫のモラハラを受け、そのことによって生活仕事全般に渡って、精神的な重圧を感じ続けた。

 そして結婚してから特に気がついたことだが、夫はモラハラ以外にも、妙な特徴が多かった。
・まず気に入らない事が起こると非常に被害的に捉えたり歪んだ捉え方をすること。
・物事に対して過剰反応すること。
・非常に嫉妬深い、あるいは心配性過ぎること。
・人の感情に超鈍感か、あるいは敏感すぎること。
・自分の思い通りにいかないと、それが理不尽なことでも我を通そうとすること。
・都合の悪いことはすっかり忘れてしまうこと。
・言うことがコロコロ変わること。次の瞬間言っていることが180°変わっていたりする。
・自らの心身の痛みには過敏に反応すること。些細なことでも即医者にかかった。
・不眠、あるいは寝過ぎる等の極端さ。
・健康おたく。自分の都合のいい健康法をせっせと取り入れていた。
・食べ物への執着
・非現実場面(例えばテレビドラマ)などへの感情移入(テレビドラマを観てよく泣いていた)。
・外の人へは愛想良く朗らかで、身内には常に威嚇、けなし調。

そしてモラハラ。絶えず不機嫌、無視、激昂、詰る、蔑む、馬鹿にする、という連続の日々となる。

 私は夫のいい面と、モラハラで見せる冷酷な面とのギャップに苦しんだ。また奇妙と思える夫の行動が不思議だった。これは何なんだろう?どうして同じ人間がこうも変わるのだろうか?どんな理由があるのだろうか?夫の中でいったい何が起こっているのだろうか?
 
 夫は本当は、いったいどんな人間なのだろうか?



夫が生まれ育った環境

2006-07-01 22:22:12 | モラハラが生まれた背景とは
 夫は私と結婚する前によくしんみりと語ったものだ。自分がいかに親から虐待されていたかということを。夫は家族の中で逆境に耐えながらも、必死で生きてきたんだ…と私は夫の話に心を打たれた。そして、この結婚生活で少しでも安らぎをおぼえてくれれば…と願った。

 夫の父親は、幼い頃に父を亡くし、その母は女手ひとつで父を育てながらも、ある男性医師と親しい仲だったらしい。後に夫の父親は、非常な医者嫌いになったそうだ。戦争直後の大変な状況の中で苦労して成長し、後に夫の母親となる女性と結婚する。そして最初に生まれた長男は、わずか1才たらずの時、病気で死亡した。その後生まれたのが夫である。多分夫は死んだ長男の代わりとしても過剰に期待されたようだった。

 夫に言わせると、父親像を知らない父は、どうやって父親になればいいのかわからなかったのではないか、とのことだ。
 夫の父親は、3才になる夫のちょっとしたいたずらを見とがめ、激しく折檻したという。鼻血が出るまで殴られたそうだ。父親は夫が意のままにならないと、すぐ暴力を振るった。父親はなにかと非常に厳しく、野球を教えるときもスパルタ式に鍛えようとし、勉強をするときも徹底して指導したようだ。なので、夫は「自分は中学生の時、ノイローゼになりそうだった」と話している。また、絶えず精神的に不安定な状態が続き、「学校にモデルガンを持っていき、授業中によくいじっていた」とか、「理科の実験などの時に教室を移動するが、学校の中を把握することができず、どの教室に行けばいいのか随分長い間わからなかった」と言っている。ときには学校をさぼってぶらぶらしていた日もあり、現代で言う不登校気味の子だったようだ。家ではよく勉強するように、父親が見張っていたそうだが、隙をついて窓から抜け出し、遊んでいたこともあったらしい。ただそんなことをした後は父親からの折檻が待っていた。父親からの暴力的な躾は長い間続き、夫はたまに家出をしたこともあったそうだ。夫が大学卒業間近に、怒り狂った父親に立ち向かい自身も暴力によって抵抗したことで、父親の暴力は止まったという。また、夫には妹がいるが、父親は娘にはとても優しかったらしい。そこから夫は妹に嫉妬するようになり、妹嫌いになった。夫と妹は私から見ても、お互い仲が悪く、いつも互いの批判を言い合っていた。
 また父親はDV夫だったようで、夫の母親(父親の妻)が作った料理が気に入らなかったり、機嫌が悪いと、それこそちゃぶ台をひっくり返したそうだ。

 母親は、息子(夫)を溺愛したらしい。夫が死んだ子どもの次に生まれたことで、なおさら愛情を注いだようだ。夫が求めるまま、いろいろなものを与えていたらしい。

 夫の妹と会い、夫の話を聞くところによると、夫は妹に向かって突然殴りかかったり、攻撃的な行動をすることがよくあったそうだ。
 そして母親は夫(息子)を猫かわいがりし、何でも買い与え妹とは無意識に差をつけていたということだ。この母親は夫が結婚した後も、夫の住む家の頭金を出したり、車を購入してやったりしている。妹はそんな母親を見て「母親は私にはそんなことしたことないのに、兄には大人になっても、何かあればすぐ買い与えており、驚いた」と言っている。
 私も結婚前に、夫の実家にお邪魔したときに、母親が夫の布団を敷き、そして朝には敷きっぱなしの夫の布団を押入にしまっていたことに驚いた。夫は母親に布団を片付けさせることに全く疑問をもっていなかったようだった。私は夫に「年老いた母親に自分の寝た布団を押入にしまわせるとは…自分でしたらどう?」と思わず言ったことがある。夫は私の見ている前では、自分で布団を押入にしまうようになった。

 そして夫が何回か言っていたことがある。両親にとって夫は育てにくい子どもだったようで、夫が子どもの頃、親が夫を親戚に一時預けたそうだ。しばらく過ごした後に、また両親と一緒に生活するようになったが、夫は「あの時俺は親に捨てられそうになったんだ」と語っていた。そのことからも、夫は両親に対して憎しみと不信感、そして常に不安を伴う愛着を抱いていたようだった。

 暴力父と溺愛母。どうもこのセットは他の方々から聞いても、モラハラ行使する息子を育てるらしい。確かに夫を見ていると、父親の暴力による影響が見られるように感じた。不安定な精神状態、何かと被害的な受け取り方、そして他人に対して攻撃的な態度。不安な自分を抱えながらもそれを隠そうとし、他者に依存しながら支配しようとするやり方。
 そして、母親から溺愛されていたことからくる、何でも自分の思い通りになるという自己中心性。


 そして夫は大人へと成長した後も、問題行動を続出させていた…。