こころの声に耳をすませて

あの結婚生活は何だったのだろう?不可解な夫の言動はモラル・ハラスメントだった…と知ったウメの回想エッセー。

夫とモラハラの関係性

2006-06-18 14:29:21 | モラル・ハラスメント考
 夫という人間と暮らしていく中で、私は“人間”の新たな側面を発見し、それによって今までの思い込みや価値観を見事に覆された。例えば「誰でも、時間をかけて話し合えばいつか分かり合える」という考えはなくなった。どんなに言葉をつくしても、心をつくしても、決して理解し合えない人間関係があることを知った。赤の他人ならともかく、自分の結婚した相手とそのような関係になるとは思いもしなかった。
 しかし今なら思う。人間、赤の他人だからこそ理解し合おうと努力するが、身内になればなるほど「分かってくれることが当然」と思い込み、お互いに“相手から理解されること”を押しつけ合うのかもしれない。
 そして夫の心の奥底には、すべての生命を凍りつかせ粉々に破壊してしまうような闇の部分があることを見せつけられたとき、私は、夫は本当に“人”なのか?とぞっとするような問いを抱いたのだ。

 夫と出会ったとき、始めから夫が冷酷で他人を思いやりもせず、自分勝手に行動していたら、私は夫とは付き合わなかっただろう。始めから急に不機嫌になったり、相手の心を逆撫でするようなことがあったら、誰だって早々にモラ男から離れていったはずで結婚にまで至らなかっただろう。
 しかしモラ男はそうはしなかった。モラハラ被害に遭われた方々の多くは、「最初はすごく優しかった」「とてもマメな人だった」と後に結婚するモラ男についてそう言われている。私の夫ももれなくそうだった。ユーモアに富んだ会話。優しい思いやりと、私のためにいろいろと気遣いしてくれるまめさがあった。その合間に「?」と思うことはあったが、不愉快な出来事があっても、欠点は誰にでもある、たまたま感情的になってしまったのだろう、とすぐ考え直した。それほど楽しい思い出も多かったのだ。だからこそ結婚という選択をしたのだ。

 それが結婚してからは、夫は徐々に不機嫌、怒りを暴発させることが多くなった。なぜ?どうして?…私はその度に夫と話し合おうとしたり、夫の要求に添うべく努力もしたが、夫の希望は満たされず、結婚生活は冷酷さと恐怖で覆われていった。その内容は私の過去のブログを読んでいただいた通りで、私にとっては信じられないことばかりだった。
 私はよく考えた。なぜ夫はこのような行動をとるのだろうか…なぜ夫はこんなにも怒りに満ちているのだろうか、と。夫は自分でもこのような行為を止められないのかもしれない(以前夫は自らそんなことも言っていた)。人間は、生まれ育った環境によって様々な影響を受け、それが人格形成に反映されていく。夫を理解するために、いろいろな角度から調べてみよう。そう考え心理学関係の本も読んだ。
 調べながら、夫がなぜそのような行動をとるのか、何となく理解したような気持ちになってもいた。確かに夫の生まれ育った環境は、いろいろな問題があり、それらの要因が夫の心に影響を及ぼしているだろうことも想像がついた。夫が自分自身を理解できるように、こちらから働きかければ夫も変わるのではないだろうか。夫もきっと自分自身に苦しんでいる(夫はかつて「自分自身とつきあう俺が一番辛いんだ」と言ったことがあった)。少しずつでも夫について理解したことを伝えていけば、夫の怒りの根本原因もわかり、夫も楽になるのではないか。
 
 こうして夫を理解するため、夫の怒りを軽減させるため、夫から子ども時代の話しを聞いたり、夫に関連の本を紹介したり、何気なく夫の行動について解説してみたりもしたが、残念ながら功を奏さずに終わった。後にモラル・ハラスメントという言葉を知り、そんな理由もなるほどと腑に落ちたしだいだ。そして私は夫をいくら理解しても、夫が私を理解しようとすることもないし、夫とはコミュニケーションをとることも困難になっており、それはどちらかが死ぬまで続くであろうという状況を、はっきりと理解した。
 
 ただ私は、人間は生まれながらの犯罪者やモラはいないと思っている。生まれたての赤ちゃんの頃は、ミルクを飲み、泣き、排泄し、愛情を求め、ただ一生懸命生きようとしていたことだろう。それが成長していく過程の中で、何らかの苛酷な影響を受け続けた結果、人格形成上に歪みが生じていったのではないかと考えている。ただ、どんな苛酷な影響を受けたとしても、それを免罪符にするべきとは全く思わない。自分自身の人生として、責任をもつべきなのだ。自分自身がしんどい、生きづらい、すぐ怒りを爆発させてしまうと思ったら、そのまま放置したり否認したり他人のせいにせず、誰かに相談したり、専門家を訪ねたりして、自分自身のメンテナンスをしっかりすればいいのだと思う。そうすれば無用な犠牲者も減ることだろう。
 私は夫を何とか理解しようとした。理解しなければならないと思っていた。しかし夫自らが変わろうとしない限り、私が何をしてもどうしようもできないことを心の底から思い知らされた。ある程度努力して、それができなかったら、もう自分の手には負えないのだと、自分の限界を超えているのだと、私自身が手放していいのだと知った。私は私自身が健康で安心して生きていくために、私を守らなければならない。それには必要以上の苦痛からも恐怖からも、離れればいいことなのだ。
 そう、かつて私は私自身のメンテナンスを忘れていた。夫は夫は、と夫のことばかり理解しようとしていたが、私自身をも理解しなければならなかった。私は苦しいという自分のこころの声をかすかに聞きながらも、無視していた。もう自分の手に負えないことを追いかけるようなことは、したくないものだ。
 
 次回は夫がなぜモラハラを行使するようになったのか、夫の人生について少し考えてみたい。

ゴキブリ退治

2006-06-13 00:16:20 | モラ夫の特徴
 先日、職場にゴキブリが出た。お茶を入れようと、同僚と私が台所に向かったら、流しの真下の床にゴキブリがっっ(>_<)!!ゴキブリ走る!「ゴッ…ゴキブリッ」叫び逃げる私達!! 私達の叫びを聞いた男性社員が登場し、社内新聞を丸めながらゴキを窺う。「あそこの陰にいるよっ」涙目で訴える同僚。男性社員がそろ~っと近づき、社内新聞を振り下ろす。バチィィィッ!!…哀れゴキ…吹っ飛んでバラバラ死体に…。叩いた男性社員はそれを見て「うっ…」と呻き、他の男性社員がティッシュを何枚にも重ねてバラバラになった死骸を丁寧に拾っていった。
 はぁ~~、ゴキ退治終了。ありがとう男性社員たちよ…。

 そして連鎖反応のように、我が家にゴキブリが出た。トイレに入り、ふと壁を見たらなぜか巨大ゴキブリが……「…っ!!」声も出ずにトイレの外に吹っ飛んで出た。引越して以来ゴキなんて出なかったのに!きっと外から入ってきたんだ…。あぁ…こういうときにひとり暮らしは困る。これをどうやって退治したらいいのだろう…。黒光りする体、トゲトゲのある黒い足…。泣きたくなった。誰かに退治してもらいたい。でも誰に?今すぐゴキブリ退治に来てくれる人なんて誰もいない。滅多に会わないお隣さんだって呼ばれたら迷惑だろう。時間が経てば、ゴキブリはどこかに隠れてしまう…。

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 モラ夫と暮らしていたときにもゴキブリが出た。「ゴキブリがっ!」叫ぶ私のそばをのぞき込む夫。ゴキブリは冷蔵庫の後ろに逃げ込んでいった。「どうしよう…」と言った私に、夫は思いついたように「ちょっとコンビニに行ってくる」と言い、すぐ家を出て行った。私は夫がコンビニに行き、ゴキブリ用の殺虫剤あるいはゴキブリホイホイを買ってきてくれるものと思い、待っていた。
 夫が帰ってきた。私は駆け寄り「殺虫剤買ってきてくれたの?」と聞いた。夫は言った。「は?そんなもの買ってこないよ。俺の飲むビールを買ってきたんだよ。ははは」と笑った。私は頭をガツンッと殴られたような衝撃を感じた。夫の言葉を反芻し、呆然と立ちつくした。「ビールカッテキタ?」ゴキブリを目の前にし、ゴキブリ退治をするために必死でいる私を見ながら、奴はそれを全く無視してビールを買ってきたのだ。そして夫はテーブルに座りビールをひとりで飲み始めた。
 私は夫の行動に心底寒気がした。これは何だ?これが夫婦といえるのか?ゴキブリを見ながら、全くそれを無視してビールを買ってくる夫がこの世界のどこにいる?ここにしかいないっっ!!…私の心は氷のように凍てついていた。やっぱり、やっぱり、いつも何度も思っていたけれど、そのたびに思い直したけれど、やっぱり夫はもう言葉の通じない異生物だったんだ。こんな男とはもう暮らせない…。
 私は凍てついた心のまま、ミルクパンでお湯を沸かした。これは母親がよくやっていたゴキ対策だった。お湯をグラグラと沸騰させながら、そろそろと冷蔵庫を動かした。するといた。じっとしているゴキが。私はミルクパンを火からおろし、そろそろと近づいた。狙いを定め、ゴキに向かって熱湯を浴びせた!じたばたするゴキ。少しするとゴキは息絶えた。なんとか新聞紙でつまみ、処分する。そして熱湯をボロ布で拭き取った。青ざめながら処理している私を夫はのぞき込んだ。「あ~、熱湯でフローリングが変色してるよ。おい、それなんとか直してくれよ」不愉快そうに嫌味を言う夫を私は無視した。何が何とかしてくれだ!何もしなかったくせに。あの状況を無いことのように振る舞い、自分のことしか考えない夫なんて、もう何の役にも立たないし一緒に住む理由も無い。
 私の心は冷たい炎に覆われていた。ほんとに信じられない。こいつとはもうおしまいだ。言葉も全く通じない。すでにモラハラという言葉を知った後の出来事だった。

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 そうだ、私は夫と住んでいたときも、ゴキブリ退治をひとりでやってのけたのだ。私はひとりでできる。何とかやらなければ…!私はこの前男性社員がしたように、新聞紙を丸めてゴキブリに近づいた。ゴキはじっとしている。私はゴキを叩こうとした。そして会社で叩かれて飛び散ったゴキの死骸を思い出した。…だめだ…飛び散った死骸、ゴキの体液を拭き取るのは耐えられない…しかもはずしたらどうなるのだ?私に向かって飛んでくる可能性大!!ぎゃ~っ!私は心の中で叫んだ。
 そして必死で考えた結果、マジックリンをかけることを思いついた。そう、結構ゴキは洗剤類でも死ぬのだ。最近の住宅用洗剤は、泡がよく固まって噴射する。よし、それでいこう。私はマジックリンを片手に持ち、ゴキによ~く狙いを定めて思いっきり噴射した。狙い的中!私は何度もゴキに噴射した。ゴキは驚いて歩き出したが、泡にやられてモタモタとしている。更に泡まみれにしたらついに動かなくなった。そして死んだ。やった~~っゴキ退治完了!しかしその死骸をつまむのにも相当勇気がいったが、何とか処分した。はぁ~~、恐かった~~~っ(>_<)

 こうやって私は生きていくのだろう…ゴキを退治しながら…うぅ。しかし恐るべき住宅洗剤の殺傷力…皆さん、住宅用洗剤の取り扱いには注意してくださいね。なにせ殺虫剤替わりになりますからね。。。

奇襲、その意味とは

2006-06-11 15:17:35 | 離婚に向けて
 この前、久々に夫から突然の電話があった夜、私の心身は一瞬戦闘態勢になった。心臓がドクドクし、いろいろな思考が頭の中を駆けめぐって冴え冴えとし、一種の興奮状態に陥った。電話中、夫の言葉を聞き漏らすまい、何かのときの証拠にしなければと、とっさに何かの紙とボールペンをとり、夫と話しながらメモをとり続けた。そして夫の言葉に対して、どのような反応をしたらよいか一生懸命考えたが、有効な対応もできずに電話を置くこととなった。その後私は檻の中のクマのようにうろうろと歩き回った。これはどういうことだろう、私は何をすべきなのだろう、私は夫の話にどんな答をだしたらよかったのだろう、夫に対して最も効果的な対処法はいったいなんなのだろう…。

 私は夫の言葉を書き写した走り書きをじっと見つめた。そして夫の言ったことを考えた。

『電話したのはお礼とお詫びが言いたくて連絡したんだ。あなたを最後まで愛していけなくて悪かった。こんな電話をしたのも、今のうちに伝えておこうと思って。これは詳しくは言えないが…ある事情でもう君と会えなくなるかもしれないから。事が済んだらほんとうは直接君にあってそのことを言おうと思ったんだが…どうなるかわからないから電話した。今週いっぱい休暇を取っている。』

 どうも何らかの病気に罹り、入院あるいは手術かなんかをする、と言いたいらしい。それがうまくいくかわからないので、死ぬ前に私にひとことお礼を言おうといういい人ぶったポーズをとっているのだろう。言葉では何でもただで言えることだ。しかも、何気なく同情をひこうと大袈裟な言い方をしている。実際に夫は些細な体調の変化でも大袈裟に騒いで検査をし、いつも異常なしだった。今回もその可能性はある。

『それから今のマンションを売却しようと思っている。そのうち司法書士か弁護士から書類が届くので売却に関する委任状に判を押して欲しい』

 夫は私が別居する前、「別居するんだったら、マンションの名義変更しておけよ」と言っていた。それを無視して別居を決行したら、名義変更の要求の手紙を送ってきた。しかし書類は全部夫のもとにあり、そんな手続きの方法を私は全く知らなかったのでメールで「私はわからないので、書類を準備してくれたら印鑑を押す」と知らせていた。マンションを売却するのはお金が欲しいのだろう。私の共有名義分も要求したいが、そうすると残っているローンを私にも負担しろと言いそうだ。

『もしかしたら俺も年だし…長くないかもしれない。俺の手帳にも何にも君の電話番号は載っていない。でも、何かあったら警察から君に連絡が行くと思うマンションの合い鍵はいつでもポストの中に入れている。警察立ち会いのもとだったら、そのポストを壊してマンションの中に入れるだろう…』

 いかにも俺さまはもうすぐ死ぬとばかりの言い方。ひとり暮らしだから室内で孤独死するかもしれない、と脅している。しかも私の連絡先は外部にわからないようになっていると言いながら、ポストにはいつも合い鍵が入っている、と言う。心配だったらいつでも見に来いよ、とでも言いたいのか。こっちだってひとり暮らしでいつどうなるかわからない。甘えるな!と言いたかった。

『職場の休暇明けには辞表をだすつもり。もう仕事をやめようと思って。どうしても担当しているものは、他の人にお願いしなければならない。俺自身どうなるかわからないから』

 前も仕事を辞めたいと言っていたが、本当に辞めるのかはわからない。それほど重病だと言いたいのか。ただ夫には不動産収入があるから、仕事を辞めても贅沢三昧しなければ十分食べていける。その上マンションも売却するとなったら、退職金も合わせ十分すぎる収入が見込めるはずだ。世話してほしければ家政婦でも雇えばいいことだ。今更私が心配する必要はない。でも死ぬんだったら葬式とか面倒だ…しかし今すぐ離婚しようなんて言うのもタイミングが悪い。実際には夫の具合はどうなっているのだろう…。

 私は自分だけで考えてモラ夫の作戦に巻き込まれないようにと、モラハラ特別対策本部(←いったいどこでしょう!?)に通報した後、夫のことをよく知っている知人に連絡をし、「夫から意味不明の電話があったのですが」と夫の体調について尋ねてみた。すると、どうも内蔵系に腫瘍ができており、それを取り除く手術をする予定にはなっているようだった。それが良性か悪性かはわからないが、夫は悪性だと思いこんでいるようだった。夫は早々と自分の寿命は長くないと思い込み、仕事も辞めて療養生活を送ろうとしているのかもしれない。しかし…死ぬと思っていても長生きする可能性もあるだろう。あまり慌てて行動しないで静観していたほうがいいのかもしれない…。

 そしてモラハラ対策特別本部モラハラ特別情報部員の方々(笑)とも協議した結果、相手が何を意図しているのかがはっきりするまで静観しておこう、ということになった。もしかしたら、病気を理由に財産整理をしようとしているのかもしれない。でも相手から離婚を言い出さないところをみると、何か別に意図があるのかもしれない。とりあえずこちらに離婚を急ぐ理由(例えば彼氏ができたとか←あり得ない…)がないので、相手の出方を窺いながら、対策を考えていくことにした。
 頭では夫が病気であろうと寝たきりであろうと関係ないこと、と思っていても、法律上はまだ婚姻関係にあるので、入院したときなどは何かしたほうがいいのだろうか…なんて考えが一瞬頭をかすめたが、「こちらは散々嫌な目にあって苦しんできたのだから、そんなことする必要はまったくなし!」と力強い一言をいただき、私のしていることは非情でも何でもないんだと、ほっと安心した。
 この前コメントをいただいた皆様からも、同じようなことを言っていただき、心底ほっとした。モラハラ被害の事情を知るゆえに理解してくださっている皆様の暖かい共感とアドバイスはとても嬉しい。きっと何も知らない、ごく普通の夫婦生活を送っている人に言ったら「夫が重病だったら、行った方がいいんじゃないの?」「いくら嫌いで別れたって、最後は悔いのないようにお世話していたら?その方が心残りがないよ」なんて言われそうである。
 実際、お世話しちゃったら、もっと激しく自己嫌悪に陥るだけだと思う!

 ということで、とにかく静観することにした。
 それにしても夫が死ぬ前に、ぜひ言いたいことがたくさんある。私がどんなに苦しみどんなに辛かったか、黙って我慢していた私の気持ちをぶつけたい。しかしこちらが夫に気持ちを伝えてもわかってもらえるどころか、夫が揚げ足取りに利用して、私がいかに悪妻だったかを周囲にばらまくだけだということもわかりきっている。そう、理解し合うなんて今までもこれからもありえないのだ。夫は友人達には自分の入院を知らせ、お見舞いに来させ、「妻はきません」とでも言うのだろう。嫌な男だ。


 もう気にせず、ほっておこう。夫は夫の人生を歩み、私は私の人生を歩めばいいのだ。もう私が夫にできることはなにもない。もう何も…。


奇襲

2006-06-06 21:14:21 | 別居その後
 ある日、いつものように仕事から帰り、簡単な夕食を作ってビールを飲みながらぼーっとテレビを見ていた。食べ終えた後は食器を片付け、お風呂に入る。バスタオルで頭をゴシゴシと拭きながら部屋を歩いていたとき、電話が鳴った。時間を見ると夜11時過ぎ。こんな時間に…誰だろう、緊急だろうか、なんてちょっと用心しながら電話に出た。すると妙にハイテンションな声が聞こえた。

 「もしもし、俺、元気?」 誰?と思いつつ、もしかしたら学生時代に仲良かったノリオか?どうもそんな声のような気がする。そうなのかな?と思い、「ノリオ?」と言うと相手は「そうそう」と言う。「え~、久し振り~!元気?」「うん、元気だよ~。そっちは元気にしてるの?」「元気元気。まあ、何とかやってるよ~」と話した。「それにしてもノリオが電話くれるなんて、何かあったの?」と聞くと「うん、ちょっと話したくなってさ~」と言う。「そうなんだ~。急にどうしたのかと思ったよ~。人生に疲れたんじゃないの~(笑)?」「ああ。仕事が大変でさ~」なんてたわいのないことを話していた。私は久々にノリオと話ができ、ちょっと嬉しくなっていた。
 すると突然ノリオが言った。「ねえ、これからいいことしない?」「はぁ?」「ね、いいことしようよ」
 ノリオはおよそこんなことを言う男ではなかった。ごくさっぱり味の?あっけらか~んとした男友達だったのだ。私はふと疑いの目を向けた。そういえばこいつは自分が何者かはいっさい言っていない。「…あなた誰?誰なの?」私は受話器に向かって言ったとたん電話は切れた。

 げーっ!私みたいなおばさんに向かってイタ電か!?世も終わったモンだ…。それ以来そのイタ電はこなかった。後日、電話で弟にその話をしたら馬鹿にされた。「え~、ねえちゃん、ナンバーディスプレイつけてないの?」「つけてないよ~。だって月々300円かかるんだもん」「そんなのけちってどうするんだよ~!女のひとり暮らしは危ないんだから、それくらいつけろよ~!」「やっぱり危ないかな~。もう襲われる年齢でも無いけどねえ」「今は悪徳商法とか、妙なイタ電とかいっぱい来るんだよ。俺なんて非通知の電話は一切取らないぜ!つけるの当然だろ~!!ひとり暮らしなんだからさ~。知ってる電話番号しかでちゃだめだろ~?そんなのジョーシキじゃん!!」と説教された。
 しかしまだ付けていない…(爆!皆様はつけておられますか?)。

 そしてそのツケがやってきた。ついこの前、電話が鳴った。夜9時半くらいだった。ま、この時間の電話だったら、知り合いに違いない。私は何も考えずに電話を取った…モラ夫だった。実に1年半振りの電話だった。
「俺。お元気ですか。」…驚愕して固まる私…「はい、元気です」
「電話したのはお礼とお詫びが言いたくて連絡したんだ。」…私は頭が真っ白になった。
「あなたを最後まで愛していけなくて悪かった。こんな電話をしたのも、今のうちに伝えておこうと思って。」…今更なにを言っているんだこいつは!?と私は目を剥いた。
「これは詳しくは言えないが…ある事情でもう君と会えなくなるかもしれないから。」…一体何が言いたいんだ、と沈黙する私。
「事が済んだらほんとうは直接君にあってそのことを言おうと思ったんだが…どうなるかわからないから電話した。」…何を言いたいんだ?とたちまち疑心暗鬼な黒雲に覆われる。
「今週いっぱい休暇を取っている。この前子どもと会ってきた。あいつは俺のこと心配していたがな」…どうやら元妻の子どもには何かを伝えたらしい。ま、私にはどうでもいいことだ。
「それから今のマンションを売却しようと思っている。そのうち司法書士か弁護士から書類が届くので売却に関する委任状に判を押して欲しい」…「いいけど…」私との共有名義のマンションを売るらしい。
「もしかしたら俺も年だし…長くないかもしれない。俺の手帳にも何にも君の電話番号は載っていない。でも、何かあったら警察から君に連絡が行くと思う」…はぁ?まるで近々死ぬ予定のような話しっぷりじゃないの?
「マンションの合い鍵はいつでもポストの中に入れている。ポストの暗証番号わかる?」…「え?もう忘れちゃったよ」
「忘れたの。でも警察立ち会いのもとだったら、そのポストを壊してマンションの中に入れるだろう。まあ、憎まれっ子世にはばかるっていうから、しぶとく生きているかもしれないけどね、はは」…「どうしたの?どこか悪いの?」
「いや、まあそれはいいよ。」…「そう…」じゃあ言うんじゃね~よ!
「職場の休暇明けには辞表をだすつもり。もう仕事をやめようと思って。どうしても担当しているものは、他の人にお願いしなければならない。俺自身どうなるかわからないから」…沈黙する私。仕事辞めてどうするんだ?
「君は元気そうだね」…「まあ何とか生きているけどね」…私だって大変なんだ!と言いたかった。
「一緒に暮らしていたことのお礼と、お詫びを言おうと思って電話したんだ…」…「そう」と言い沈黙する私。
「じゃあおやすみ」…プツッ。

…電話を切った後、私は呆然とした。これなに?いったい夫は何が言いたいの?
私は頭を抱えた。どういうこと?今更なに?何かの病気なの?もうすぐ死ぬかもしれないの?私は何かしなくちゃいけないの?

え~~~~~っ! 夫は私に何を求めているの!?今どんな状態なの? 
この前ブログに書いたことが…何故か現実に!?…やっぱりこういう状態で離婚なんて切り出せないよ~~
やめてくれ~っ!と叫びたい私なのでした…。